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悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う  作者: 千秋 颯
第六章―太古の砦・小国パーケム――エンフェスト山脈 『眠る氷城』

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第741話

 モーリスの気配が遠かったのを確認してからエリアスとクロードは改めて二人の容態を確認する。


「クリス……本当に酷い熱だ。これでは自力で動く事もままならないだろうね」

「クリス様は体調を崩してるからってのもあるかもしれないけど、リオがこうなってるのはいくら何でもおかしいだろ」

「そうだね。彼は僕達の中でも一番人の気配に敏感だし、警戒心も高いか――っ」


 クリスティーナの額に触れて状況を分析していたクロードが大きく咳き込む。

 喀血で汚す事がないようにクリスティーナから離れた彼はベッドの側にゆっくり腰を下ろした。


「ってか、お前も大丈夫かよ……!」

「少し、使いすぎたかもね……」

「あんだけ魔法使うなって話したのによ」

「使わないとは言ってないよ。使い道を考えるって言っただけだからね」

「た、確かに……!」


 自分が言いくるめられていた事に気づいたエリアスは悔しそうに顔を歪める。

 それに肩を揺らして笑いながらクロードは汚れた手をハンカチで拭った。


「でもおかげで、ある程度の事はわかったよ。エリアスもここが普通とは違う事はわかるよね?」

「それは流石に。モーリスとエマ様以外明らかに様子もやばかったしさ」

「ううん。確かに他の人達に比べたらエマさんも随分違うけど……これまで会った人たちの中に正常な人がいるとしたらモーリスさんだけだよ。……まあ、強いて言うとって話だけどね」

「どういう事だ?」

「その前にさ、エリアス。君は迷宮『エスケレイド』の最深部で大掛かりな魔術を見たはずだ」


 その場にいなかったはずのクロードがエスケレイドの事を知っているように話すのは、彼がヴィルパン家の騎士だからだ。

 迷宮を脱した後、リーゼは騎士達に自らの目で見た迷宮の姿を語り、また自身が領地を離れている間の調査が少しでも捗るようにとそれを文書に残していた。


 そして騎士達の多くは彼女が記した報告書を読んだり、内容を共有したのだ。

 クロードが出立するまでに出来上がっていた報告書はまだ簡易的な、正式なものではなかったが、それでも大まかな事は記されていた。


 それに目を通していたからこそ、彼は迷宮『エスケレイド』の最奥でエリアス達が見て来たものも把握していたのだ。


「魔術……あの魔導具の事か?」


 クロードの話からエリアスが真っ先に思い出したのは過去の幻影を映し出す台座だ。


「それもそうだね。でも、もう一つあったはずだよ」

「……あ」


 顎を撫でて考えを巡らせていたエリアスは今の似た状況に陥った時の事を思い出す。


「そうだ、確かクリス様とアベル以外が急に眠っちまって。……そっか、台座の印象が強かったけど確かにあれも魔術って話だったな」

「そう。そして問題なのはあそこにあった魔術の性質だ」

「性質?」

「そう」


 クロードは眠ったままのリオを気遣うように見つめたまま頷いた。

 汚れを拭き取ったハンカチがポケットにしまわれる。


「エスケレイドの最深部にあった魔術はどちらも人の為を思って使われたものだった。でもあれらの本質――最も多かったと言われる使い方は違う」

「本質……」


 再び頷きがある。

 クロードはエリアスが答えに辿り着けるように、話を一つ一つ、丁寧に紐解いていく。


「エスケレイドで使われていた魔術が闇魔法の類だって話は聞いた?」

「……あ!」


 ――人々から忌み嫌われ、恐れられるようになる闇魔法も使い方と目的さえ異なれば人を救う為の手段となり得た。

 エスケレイド最奥で話していたアレットの声がエリアスの中に蘇る。


「アレットが確かそんな事言ってたな。あと、オレ達が会った魔族も幻影の類の魔法が得意だって言ってたし」

「そう。幻影も、人の意識を操る術も、闇魔法なんだ。その本質は他者を支配下に置いたり、追い詰める為にある」


 仲間が眠っているのは闇魔法のせいだとクロードは言いたいらしい。

 そして話の流れを汲むに、闇魔法を使ったのはモーリスだと考えているのだろう。


「……じゃあ、あいつは魔族か闇魔法が絡んだ魔導具を持ってるって事か?」

「いや、魔導具を使っているパターンではないと思うよ」

「なら魔族って事か? でもあいつの目は赤じゃねーぞ」


 モーリスの瞳は髪の色によく似た、深い青色だ。

 赤色には程遠い。


「それもないんじゃないかな。もし彼が魔族ならクリスが聖女だと気付いてもおかしくないし、そうなれば彼女は僕達が合流するよりも先に死んでいたはずだ。……それに、紅月(あかつき)の帝を除けば魔族は皆排他的どころか同族同士ですら争うような連中だ。そんな存在がクリスやリオを眠らせるだけで放っておくとも思えないし、明らかに警戒している僕やエリアスに何も手を加えず立ち去るとも思えないかな」

「その言い方、他に心当たりがあるみてぇだな」

「あるよ。寧ろ君がピンと来てない方が意外かなぁ」

「ぐ……っ、頭の方あんま自信ねーの!」


 バツが悪そうにエリアスは顔を顰める。

 クロードは子供のような彼の反応にくすくすと笑ってから既に導かれた答えを差し出す。


「眷属だよ」

「……あ!」

「君、勘はいいタイプだと思うのに。残念だなぁ」

「本人の前で残念とかあんま言わねぇよな? 普通」


 やれやれとクロードがわざとらしく肩を竦め、エリアスは落胆されている姿を見て大きく肩を落とすのだった。

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