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悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う  作者: 千秋 颯
第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
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第61話 目的の明確化

 オリヴィエが我に返り、落ち着きを取り戻したところで一行は移動を再開する。

 幸いにも落とし穴の先は下層の廊下であったようで、道に従って歩いた先はノアの把握している進路は繋がっていた。


「そうだ、転移結晶で指定する移動先だけど」


 前方をノアとエリアス、オリヴィエの三人、後方をクリスティーナとリオという並びで先へ進んでいるとノアが口を開いた。

 どうやら迷宮へ入る前に続きは後で、と告げられた話題に触れたいようである。一騒動あったことで先延ばしにされていた話題だが、彼はどうやら覚えていたようだ。


「フォルトゥナで一番安全なところと言ったらやっぱり魔法学院だ」

「は?」

「リヴィの言い分はわかる。ただ先に話しをさせてくれ」


 異を唱えようとしたオリヴィエをノアが片手で制す。

 それに対して眉根を寄せ、不服そうな顔をするオリヴィエだがそれ以上口を挟むようなことはしない。

 代わりに彼は先を促すように顎で示し、それに礼を述べてからノアは話しを再開した。


「あそこには未来の魔法のプロが多くいるだけでなく国で有数の実力者達が教員を担っている。いくら魔族と言えど真っ向から突っ込んでくることは出来ないはずだ」

「なるほど」


 確かに国が誇る戦力を凝縮させたような場所程信頼できる場所もない。彼の言う一番安全な場所という説明は納得できるものであった。

 しかし大きな問題が残っている。


「ノア様の意見はわかりました。しかし俺達が首都へ近づけない理由は膨大な魔力量によって魔導師の方々を刺激しない為……。この問題はまだ解決に至っていないかと」


 問題点についてリオが触れる。

 クリスティーナは魔力制御を習得できたものの、リオはまだ成し遂げられていない。

 学校へ転がり込んだ先、魔導師達を刺激して大騒ぎ……なんてことになるのはごめんであった。


 しかしその言葉は想定内だと言うようにノアは頷いた。


「ああ、勿論。覚えているよ」


 彼はリオの右手首を指し示す。

 目を丸くして指された手を持ち上げるリオ。その袖口から覗く金属が控えめな音を立てた。


 ブレスレット。

 フロンティエールでノアと分かれる直前、彼がリオへ投げて寄越したものだ。


「アレット先生にね、君達の魔力量を誤魔化せる道具を作って欲しいって事前に頼んでおいたんだ」

「……そんな魔導具があるのですか」

「造るの自体は不可能じゃない。ただ、君達のような膨大な魔力を外部の力で押さえ込もうとする場合、とてつもない負荷が掛かってしまうんだ。だからそれはあくまで試作品。先生曰く持つのは三日が限界だろうって話だ。けれど三日あれば魔族を撒き、転移先の学院から離れるまでの時間稼ぎには充分なるだろう。上手くいったら、君達は早急にフォルトゥナを離れてくれ」


 リオは説明に耳を傾けながらブレスレットを眺める。

 まさかただの贈り物ではないだろうとは話していたものの、想像以上に重要な効果を持つ代物には流石のリオも驚きを見せた。


「……ありがとうございます」

「はは、俺は頼んだだけだからね。アレット先生に伝えておくよ」


 彼らの話を聞きながら、クリスティーナは胸の内に何かが引っ掛かるような感覚を抱く。

 しかしそれが何であるのかを探り充てるより先にノアが手を打った。


「さて。クリスは魔力制御をきちんと継続出来ているし、リオは魔導具で誤魔化すことが出来る。これで君達側の異論はないね?」


 リオのブレスレットの効果が切れるまでならば魔法学院を訪れても騒ぎになることはない。

 安全を確保する上で最適な場所へリスクなしで訪れることが出来るというのならば、それに頷かない理由はない。


 クリスティーナ、リオ、エリアスがそれぞれ頷きを返したのを確認し、ノアは満足そうに頷いた。


「それと、ブレスレットに関連してもう一つ」

「何でしょう」

「先程の魔族……彼女はリオの魔力につられてやってきたようだった。ブレスレットを付けた君が撤退した後、魔力の気配が消えたことに反応していたから間違いないだろう」

「という事は俺が魔力を制御できない限り危険は付き纏うという事ですね」

「残念ながらそういうことだ。現時点で他に手立てはない」


 恐らくベルフェゴールはリオの膨大な魔力量をクリスティーナの物として誤認して接近してきたのだろう。

 魔族が反応する魔力がクリスティーナの物であろうとリオの物であろうと、行動を共にしている以上そこに大きな差はない。結果としてクリスティーナが見つかってしまえば同じことなのだ。


 しかし戦力不足という問題に直面している今、リオを手放すというわけにはもちろんいかない。アレットの魔導具の効果が切れた後も魔族の手から逃れる方法は考えていかなければならないだろう。

 そこまで思考を巡らせてからクリスティーナはそれ以上深く考えることをやめた。


 今は先のことよりも目下の問題――安全の確保を優先させるべきだ。


 そのことはリオもわかっているのだろう。暫し考え込む素振りを見せていたが、すぐに気持ちを切り替えたようだった。


「肝に銘じておきます。ありがとうございます」

「いいや、俺に出来ることは忠告程度だ。あまり役に立てない事が歯痒いよ」

「まさか。既に十分すぎるくらい力添えいただいてますよ」


 ならいいのだけれど、とノアははにかむ。

 そして視線をリオからオリヴィエへ向けた。


「さて。じゃあ次は君の番だ、リヴィ。君の事情は勿論把握している。その上で提案しているのには訳があるんだ」


 言ってみろとオリヴィエは無言で視線を投げかける。

 ノアはそれに甘んじる形で話を続ける。


「まず君は俺達を救出する過程で魔族と接触した……それも妨害という形でね。この時点で彼女からは敵対勢力と判定されていると考えていいだろう。君が単独で動いた時、彼女と遭遇したら間違いなく戦闘だ。君の能力は確かに優秀だが、分が悪いだろう」

「つまり僕があいつに負けると言いたいんだな」

「まあ、端的に言うならそうなる」


 眼鏡の奥で眉が寄せられ、黄緑の瞳は心外だと言いたげに細められた。


「やってみないとわからないだろう」

「わかったわかった。なら君が勝てるとしてもだ。怪我なんてしたらシャリーは悲しむだろう」


 友人が気を損ねたことを察したノアは話しを円滑に進める為に議論を避けた。代わりに出されたのは誰かの名。

 クリスティーナ達には聞き覚えのない名だったが、オリヴィエには効果的だったようだ。

 彼は苦い顔になり、明らかに狼狽える。


「彼女は関係ないだろう」

「そうかい」

「……けど、お前の案も一理あると思ったんだ」

「そういう事にしておこうか」


 客観的に見ても決定打は明らかだったが、苦し紛れの言い訳に触れることなくノアが笑顔で頷く。


「勿論、学院関係者に見つかる前に君が抜け出せる手立ては講じるよ」

「当たり前だ」


 相変わらず素っ気のない返事を返しながらオリヴィエは鼻を鳴らす。

 ノアの案に……というよりも魔法学院に対してだろうか。思うことはある様だったがそれを口にする様子はない。


「……さて、そういうことだ。これで晴れて満場一致だね。あとは行動に出るだけだ」


 異を唱える者がいなくなったことにより、全員の目的がより明確になる。

 場を取りまとめたノアの言葉を肯定するように一行は無言で視線を向けた。


 五人は最下層へ向かうべく先を急いだ。

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