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悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う  作者: 千秋 颯
第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

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第190話 静観の終わり

 リオやエリアスと合流を果たした後、五人が周囲の人々から話を聞いているとホールから外へとオリヴィエとヘマが姿を現す。

 七人が揃った頃には日も沈み切っており、視界も悪くなっていた。


 一行はそれぞれが軽く情報共有済ませるが、聞かされる結果はホール内外どちらもエドワードや失踪者に関する情報は得られなかったという物のみだ。

 ブランシュはその事に気落ちした様であったが、想定内ではあったのだろう。彼女は聞かされる情報に静かに耳を傾けていた。


「よしっ、そろそろ遅い時間帯だし、今日はこの辺りで解散にしよっか」


 そして短く済まされた情報共有の後、ヴィートが手を叩く。

 彼は普段と同様の明るい笑顔でその場を取り仕切る。


「報告はおれ達でしておくから――」


 しかし彼はその言葉の途中、口元に笑みを浮かべたまま鋭く目を細める。

 怪しく輝く眼光。それが一方へ向けられた次の瞬間。


 リオとヴィートの姿が消える。

 それに僅かに遅れる形でエリアスがクリスティーナの前に立ち、素早く抜いた剣を構え、ヘマが両腕を前に構えて臨戦態勢を取った。


 残った三名が何事かと状況の把握に時間を取られている内、七人が立っていた道の先で呻き声が二つ響いた。

 次いで聞こえるのは路上に人が倒れこむ音。


 クリスティーナ達が音の鳴る方へ視線を移した頃にはローブに身を包んだ男が二人、道端に倒れていた。

 そしてその傍には涼しい顔をしたリオとヴィートが立っている。


「もー、やめてよねぇ。殺さないようにするの面倒なんだから」

「静観をしているだけかと思いましたが、そうでもありませんでしたね」


 武器を持たずして相手へ一方的な制裁を食らわせた二人は動揺一つ見せる事無く倒れ込んだ男たちの更に先を見据える。

 そこには更に三人の男の姿があった。


 一人は剣士。もう二人は構える魔導師。

 ヴィートはそれを見据えながらも暢気に屈伸をし、横目でリオを見やった。


「んー、リオさんはそっちの伸びてる人達の拘束をお願いできる? あっちはおれがやるよ」

「……そうですね。下手に手を出すよりもお一人の方がやりやすいでしょう」

「ん!」


 暗殺者としての技術を磨いてきたヴィートの戦闘スタイルは手数と速度を重視した物。リオが最も得意とする戦術でもある。

 己の気配を消して相手の不意を衝く事を主軸にした戦い方は共闘よりも単独行動に向いている事をリオは知っていた。

 それに加えて、彼が相当な実力者であることは魔導師の意識を奪うまでの一連の流れで把握している。故にリオは頷きを返し、迎撃をヴィート一人に任せる事とした。


「……襲撃か」

「ああ」


 倒れた二人を縄で拘束するリオ、一行を睨みつける三人と対峙するヴィートの姿を見ながらオリヴィエが呟く。

 それに対しヘマが頷く。


「奇襲狙いの魔法を放とうとしたんだろう。幸い魔法が発現するより先に二人が仕留めた様だが」


 冷静に状況を説明しつつも、彼女は後ろを振り返る。そしてそれはエリアスも同じであった。

 刹那。エリアスが前に出る。


 彼は腰を深く落とし、構えていた剣を振り上げた。

 瞬間、何かを弾くような音が響く。

 剣に弾かれ、霧散したのは氷の矢だ。それは破片となって辺りへと舞った。


 エリアスとヘマの視線の先にはローブを身に纏う男が二人と剣を構える男が一人立っている。


「こちらも対応しなければな。――ニコラ」


 ヘマは道を塞ぐ様に立つ三人へ顔を向けたままオリヴィエを呼んだ。

 何故名を呼ばれたのかを理解しているのだろう。オリヴィエは深く息を吐くと小さく頷く。


「……わかっている。時間を作ってくれ」

「ああ」


 ヘマは短く返事を返すと、両手に拳を作りながら身構える。そして前方で相手を警戒しているエリアスへ声を掛ける。


「素手と魔法では流石に分が悪い。援護を頼んでもいいか」

「勿論」

「それと、ニコラに手を貸してやってくれ」

「んぁ? それってどういう――」


 二つ目の指示にエリアスが首を傾げるも、言葉は返されない。ヘマは地面を蹴り、彼の脇をすり抜けていった。


 ヘマは剣士の元へと距離を詰める。

 だが彼女が一歩先へと足を踏み出した時、その足先が突如盛り上がる。

 彼女の前進を阻止する様に持ち上がった地面はレンガを突き抜け、鋭く尖った土塊を形成する。


 しかしその存在にいち早く気付いたヘマは素早く横へ滑り込むと土塊を躱しながら三人との距離を的確に詰めた。

 そこへ数十もの氷の矢が彼女の頭上で形成される。


 その一つ一つの大きさは大した物でなく、命を奪おうとする規模の魔法ではない。だが、攻撃を受けてしまえば傷を負い、体の動きは鈍るだろう。

 だがそれでもヘマが怯むことはない。

 彼女は迷うことなく直進を選択した。


 同時に足止めをすべく落下する氷。だがそれがヘマへと向かったその瞬間。周囲の熱気が急激に上昇した。


「――フレイム・ヴェイル」


 ヘマの頭上を赤い刃が通過する。それは彼女へと迫る槍を瞬く間に溶かしていく。

 蒸気を放ちながら脅威が消えていく。


 ヘマの後方、己の武器に炎を宿したエリアスはその様を静かに睨みつけていた。

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