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悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う  作者: 千秋 颯
第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

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第187話 合流待ちの傍ら

 再び七人が合流を果たした頃には既に日が傾き始めていた。

 オリヴィエの余りにも浅はかな魂胆を事前に聞いてしまっていたクリスティーナとエリアスは彼の姿を視界に捉えるや否やその気まずさに目を逸らしてしまう。


「……何だ」

「い、いや? 何でも……ねぇ?」

「ええ」


 その動きの不自然さはオリヴィエが気付く程顕著であったらしく、怪訝そうな視線が二人へ注がれた。

 返答を曖昧に誤魔化しながらクリスティーナとエリアスは言及を逃れるべくヘマやヴィートを見やる。


「と、ところで! この後はどうするんだ?」


 話題を変えたエリアスの声にヘマが親指である方向を指し示す。

 一行がそちらへ視線を向ける中、彼女が次の目的地を告げた。


「大ホールだな。民間のオークションが良く開催されている会場だ」

「ニュイにやって来る人でアンティークが好きな人なら大体足を運んだこともあるだろうしね。エドワールさんの話も聞けるかも!」

「……確かに、私も何度か父に連れられて訪れたことがあります」


 ヘマに続いて意図を説明するヴィートの明るい声。指を鳴らして微笑む彼の表情が緊張を解したのか、ブランシュは小さく微笑みを返しながら頷いた。


「うんうん。勿論、収穫がない可能性もあるけどさ……」

「……いえ。父の行方を追うことが簡単な話ではないことは承知してます。こうしてご同行させて頂けているだけでありがたい事なのだという事も」

「あー! またそうやって畏まる! 別に困ってないんだからいいんだってば。……ほら、暗くなる前に済ませちゃお!」


 ヴィートはブランシュの背中を押して先に進む。

 そしてその後ろに続くようにオリヴィエが歩きだしたかと思えば、その気配に気付いたヴィートがすかさず彼へと声を掛ける。


 どうやらクリスティーナが与えたネックレスを自慢している様だ。ガラス玉を見せびらかし、初めてのプレゼントなんだと彼は明るく笑う。

 それを適当に聞き流しているオリヴィエであったが、彼の表情はどこか柔らかい物だ。


 てっきり鬱陶しがる物だと踏んでいたクリスティーナはそれを意外に思いながらもリオとエリアスへ視線を移し、移動を促した。


「贈り物をされたのですね」

「……相談なしに買い物をした事を怒る?」

「まさか。過度な贅沢でもありませんし、俺達の資金の全ては元から貴女の物ですよ。俺はあくまでその管理をお手伝いしているだけです」


 小遣いや有事の際にと持たされていた硬貨を、資金の管理を担ってくれているリオに一言も告げずに使った事に対し、気を悪くはされないかとクリスティーナは考えるが、彼は小さく笑いながらそれを否定した。

 彼はクリスティーナと共に歩き出しながら静かな笑みを湛えたまま目を伏せる。


「それに……誰かの為を思って動く貴女様を俺はお慕いしていますから」

「……そう」

「他所のお嬢様の頭にワインをひっくり返したり等しない限りは俺も何も言いません」

「その話はやめて頂戴」


 ここぞとばかりに掘り返される過去の行いにクリスティーナは顔を顰める。

 折角真面目な話をしていてもすぐに茶化す従者のせいでその空気が続かない事も最早見慣れた展開だ。


 二人のやり取りにエリアスだけが実話なのかと驚愕し、その場面を想起しては青ざめていたが、クリスティーナはそれに気付かないふりをした。


 そしてクリスティーナ、リオ、エリアス、ヘマの四人も他の三人を追う様に移動を始めた。



***



「今からホールへ向かうのは今夜行われるオークションの聴取の目的も兼ねているからだ」


 移動中、ブランシュに聞こえない様配慮した声音でヘマが囁く。

 今夜行われる民間オークション。ヘマが話しているのは二日前、ディオンと正式に協力関係を結んだ時にクリスティーナ達が聞かされた物だろう。


「ジョゼフ・ド・オリオールが出品するというオークションね」

「ああ。調査の結果、出品される物は古代魔導具の類で間違いないという結論が出た。よって今晩にでも回収することになるだろう」

「その事前調査が主な目的という事ですね」

「ああ。オークションの運営側に内通者と、スタッフに紛れている仲間がいる。彼らがスケジュールや当日の警備の動き等詳細な情報を事前に集めているはずだ。それの共有を行いたい」


 そこでヘマは口を閉ざす。目的地まで辿り着いた為だ。

 前方で足を止めた三人に続いて四人も歩みを止める。


「じゃ、こっからは外の聞き込みと中の聞き込みに別れよっか」

「中にも入ることが出来るんですか……!?」

「今日はオークションがあるみたいだし、開場前から準備してる人はいるだろうからね。突撃してみて駄目だったら追い出されるだけだよー」

「あ、伝手があるとかではないんですね……」


 話に食いついたブランシュの問いにヴィートが計画性のない思惑を披露する。

 彼の発言の中に、先程ヘマが話していたような事情は一切含まれていない。あまりにも自然と吐き出された言葉は、事前に話を聞かされていなければクリスティーナ達も簡単に信じてしまっていたかもしれない程巧妙だ。


 強かな一面にクリスティーナが舌を巻いていると、ヴィートと目が合う。

 彼はクリスティーナの視線に気が付くと、ブランシュに気付かない様片目を閉じて見せた。


「ならアタシとニコラが行こう。仕事柄、アタシ達は似たような場面での交渉の経験があるし、ヴィートだと悪戯をしに来た子供程度にしか思われない可能性があるからな」

「失礼な! 言う程子供って訳じゃないんだけど!?」

「中身の話だ、中身の」


 ブランシュが名乗りを上げたそうに口を開くも、それを遮る様にヘマが組み分けを決める。筋の通っている人選の理由を聞いてしまえば自身の希望を無理に押し通すことは出来ず、彼女は小さく俯いた。

 その傍らでは不満げに口を尖らせるヴィートをオリヴィエが軽くあしらっている。


「ニコラなんか、中身も見た目も子供じゃん」

「何だと」

「やめろ二人共、みっともない。ほら、さっさと行くぞ」


 やがて口喧嘩に発展しそうな空気にヘマが割って入り、オリヴィエの首根っこを掴んだ。

 そして半ば引きずるようにしてその場を離れていく。


 オリヴィエとヘマはホールの入口に立つ警備員に声を掛け、いくつか会話を交えた後、難なく会場の中へと招き入れられる。

 残された五人が見守る中、二人の姿は扉の奥へと消えていった。


 それを遠目に見送った後、ヴィートは手を打つ。


「さーてと。じゃあおれ達は二人を待ってる間に周りの人の話を聞こうか」


 その提案に頷きを返しつつ、クリスティーナ達は辺りを見回す。

 ホール周辺はまばらではあるが人の姿があり、中には掲示板を興味深げに観察する者や開場を心待ちにするように時間を潰している、オークション目当てらしい者達の姿もある。


 だが、その中でクリスティーナの目を惹いたのは意外な存在だ。


「……女の子?」


 辺りを見回していたクリスティーナが動きを止めた事を不思議に思ったブランシュが、同じ方角を見やって呟いた。

 更に他の三人も彼女達の視線を辿る。


 人通りが多いわけではない夕暮れの通り。そこに五歳程度の幼い少女が立っていた。

 傍には母親らしき女性が付いており、どうやら帰りを促している様だがそれを少女の方が拒絶している。


 少女は何かを両手で抱えたまま、探し物をするように頻りに辺りを見回している。


「珍しいね。開場待ちって訳ではなさそうだし……話でも聞きに行ってみよっか」

「私も行くわ」

「あ、私も……!」


 クリスティーナがヴィートに続き、そこへ更にブランシュも歩き出す。

 三人を追いかける様にリオとエリアスも一歩踏み出すが、それに気付いたクリスティーナがすかさずその場に残る様伝える。


 大人数で少女を囲めば威圧的に感じさせてしまうかもしれない。三人でも多すぎるくらいだろう。

 そこに更に長身の男と体格の良い男が加われば少女を警戒させてしまう要因になり得ると考えたのだ。


 その意図を察してかリオとエリアスは頷きを返し、少し離れた場所で見守りに徹することとなる。

 二人が足を止めた事を確認してからクリスティーナはヴィート、ブランシュと共に親子の元へと足を進めたのだった。

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