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悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う  作者: 千秋 颯
第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
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第164話 抗弁

 ジルベールに導かれ、広い庭の隅へとやってくる。


「もういいわ」


 建物と十分な距離を取り、後方から追いかけてくる物の気配も感じられないことを確認してからクリスティーナは告げる。

 それに従い、足を止めたジルベールは辺りを見回し、周囲に自分たち以外の人がいないことを確認してからクリスティーナを見やる。


「クリス様から指示を受けてから今に至るまで、私は何も感じられませんでしたが……。クリス様は何かにお気付きになられていたということですか?」

「何か確証があったわけではないわ。ただ漠然と、あの場に留まることが危険な様に思えただけよ」

「……そうですか」


 古代魔導具の脅威を目視できる力のことをジルベールは知らない。故に詳細を誤魔化した物言いになってしまい、そんなクリスティーナの言葉にジルベールは思うことがある様ではあったが、それでも彼が言及することはなかった。


「リオ様、体調の方はいかがですか」

「歩行に問題はありませんが、眩暈が酷いですね。落ち着くまで少々時間が掛かりそうです」


 歪み、大きく揺れる視界を抱えたままリオは顔を顰める。気を抜けば真っ直ぐ歩くことさえできなくなりそうな光景は酷い酔いと頭痛を彼へ齎していた。


「休まれますか?」

「いいえ。確かに不調ではありますが動けない程ではありません。それよりも出来るだけ早く探索を終わらせるべきです」


 ジョゼフが帰って来てしまえば探索は止む無く中断される。先程調べた部屋の他にも脅威が隠されていないか調べるのならばそれまでの間に済ませなければならない。

 リオの顔色は悪いが、時間が限られている事も事実。急ぎたいという気持ちを三人が共通して持っていることも確かなのだ。


「無理が祟って足を引っ張られるのはごめんよ」

「安心してください。そうならないと判断したが故の言葉です」


 仕事に支障を来たす事はない。そう断言したリオの声を聞いてクリスティーナは小さく息を吐く。


「急いで終わらせましょう」

「……畏まりました」


 ジルベールはリオの身を案じながらもクリスティーナの言葉に頷く。

 リオのことは付き合いの浅いジルベールよりもクリスティーナのがよくわかっている。その上での判断ならば自分が口を出すことではないと判断したのだ。


「では外へ出たついでに本館以外を先に見てしまいましょう。その後、本館へ戻り、先の部屋以外を確認という段取りでいかがでしょうか」

「異論ないわ」

「ご案内よろしくお願いします」


 ジルベールの提案にクリスティーナとリオが頷く。

 三人は他の使用人を避けながらオリオール邸の敷地内を歩いて回った。




「粗方見て回りましたが、特に気になるところはない……ということですね」

「ええ」


 庭や離れ等、敷地の隅々まで歩いて回ったがこれといった収穫は特になし。

 だが、今回に限って言えばそれは喜ばしいことだ。


「ではもう一か所だけ見てから本館へ戻りましょう」

「次はどこへ行くの?」

「倉庫です。元は庭師が庭の整備に使う道具等を保管しておりましたが、少々離れた場所にあり、使い勝手が悪かったことから現在は使われていません。だからこそ物を隠すには都合がいいとも考えられます」

「確かに一度見ておいた方がいいわね」


 外れにある、用途も失った倉庫へわざわざ近づく使用人はいないだろう。他者に見られたくない物を隠すにはうってつけの場所だ。

 ジルベールの提案に頷き、クリスティーナは彼の背を追って歩く。


 だが彼の言う倉庫が姿を見せるよりも先。木々の陰を利用して三人が移動をしている最中、クリスティーナは身の毛がよだつような悍ましさを感じる。

 突然の気配に怯み、思わず足を止めればそれに気付いたリオとジルベールが彼女へと振り向いた。


「……この先に貴方の言う倉庫があるのよね」

「その通りですが……クリス様、まさか」


 クリスティーナの青白い顔色に気付き、彼女の言わんことを悟るジルベール。

 それを肯定するように首を振り、クリスティーナは進行方向を見据えた。


「何かあるわ。先程のようなことが起きるかもしれないから、気を付けていきましょう」

「はい」

「畏まりました」


 一行を包む張り詰めた空気。何が起きても迅速に対応ができるようにと一人一人が気を引き締めたまま足を進めた。


 やがて三人の前へ現れたのは手入れを倉庫にしては大きい、小屋のような作りの建造物だ。

 だがその周辺は雑草や蔦が茂り、閂の金属部分も錆付いていて手入れが行き届いていないことが見て取れる。

 もう使われていないというジルベールの言葉は正しいようだ。


 しかしクリスティーナは自身を襲う背筋を凍り付かせるほどの悪寒と心臓を握られているかのような嫌悪感から、この先に何かがあるという確信を得る。

 それは本館で感じた気配に比べれば幾分も優しい類のもののように感じられたが、それでも気を抜いてはならない。


 ジルベールは懐から例の剣柄を取り出すと己の魔力を使って剣先を作り出す。


「私が行きましょう」

「よろしいのですか」

「リオ様は本調子ではありませんし、クリス様は最前で体を張るべきお方ではないはず。……先程のリオ様のおっしゃった、適材適所という言葉を借りるのであればこの役は私が引き受けるのが妥当……そうではありませんか?」


 ジルベールは冗談めかしに微笑む。

 リオはその返しに目を丸くした後、困ったように眉を下げて笑い返した。


「一本取られましたね」

「お二人にいつまでも甘えさせていただく訳にもいきませんから。少しは力添えさせてください」


 ジルベールは閂を外すとドアノブに手を掛け、クリスティーナとリオへ振り向く。

 開けても良いかと問う視線にクリスティーナが頷くと彼は再び倉庫へと向き直り、触れていた戸をゆっくりと開けた。

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