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悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う  作者: 千秋 颯
第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
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第127話 身分差のない茶会2

 使用人達の手によって茶と菓子が用意されれば茶会は本格的に始まる。

 シャルロットは従者を少し離れた場所に控えさせると他の使用人達にはそれぞれの持ち場へ戻るよう促す。

 周囲の視線を気にせず気ままに話したいからなのか、茶会に不慣れなエリアスを気遣ってなのかのどちらかだろうとクリスティーナは踏んでいたが、兎にも角にも、その場にはクリスティーナ達三人とシャルロットのみが残される。


 正確に言えばシャルロットの従者も立っている訳だが、主人との距離はやや離れており、クリスティーナ達が少し声を潜めればその会話の内容までは相手に届かなさそうであった。


「……そう言えば、一応手土産を持ってきたのだけれど」

「本当? しまった、折角だからお茶と一緒に出せばよかったね」

「その……菓子類ではないの」


 クリスティーナがリオに目配せをすれば彼が革袋から一冊の本を取り出し、シャルロットへと差し出した。

 訪問の際持ってくる土産と言えば大抵が菓子の類であることもあってか、意外な手土産に対し、シャルロットは目を丸くする。


「本?」

「本を欲しがっているという話は聞いていたから。既に持っているものであれば申し訳ないけれど」

「うん、本を読むのが好きで……。あ、これは初めて見るタイトルかも。ありがとう!」


 人に本を薦めるとなると、大前提として自分がその本を知っていることが必要となる。

 だが、いくら人より多くの本に触れてきたクリスティーナと言え、他国の地で自分の読んだことのある本を探すとなると難しい。

 本屋に並んだ本の中で、クリスティーナの見覚えのある題名は数えられる程しかなかった。


 また、国境を越えて名を轟かせるような有名な著書は読書好きであれば既に読んでいる可能性も高い。

 それらを考慮した上でクリスティーナの好みである一冊を選んできたのだが、どうやらシャルロットが初めて見る本であったようだ。


「でも、本を土産になんて珍しいね。クリスの国ではそれが主流なの?」

「いいえ、菓子や茶葉の類が普通だわ。ただ……」


 何と言ったものかとクリスティーナは目を泳がせる。

 しかし結局上手い言い訳が思いつかず、彼女は詳細を濁すことにした。


「……菓子を手土産にすることで少し嫌な経験をしたことがあるだけよ」

「ん゛っ……」


 クリスティーナとシャルロットの対話を静観し、カップに口を付けていたリオが突如喉を詰まらせて小さく咽る。

 失礼、と口元を隠す彼は肩を震わせて笑いを堪えているようであった。


 皇太子暗殺未遂を掛けられるに至った一連の流れを知っているリオは、その件を『少し嫌なこと』という一言で片付けた主人の発言を愉快に思ったらしかった。

 また、態度に出さないだけで相当根に持っている事実を匂わせたことも、彼の笑いのツボを刺激する要因になったのかもしれない。


 理由がどうあれ、冤罪を掛けられた件について不満を抱いている主人を笑う従者というのが不敬極まりないことは変わりない。

 クリスティーナはただでさえ冷たい印象を与えやすい目を吊り上げてリオを睨んだ。


「仲がいいんだね」

「本当にそう見えるのであれば貴女の視力を疑うわ」

「目は悪くないはずだよ!」


 二人のやり取りを微笑ましく眺めるシャルロットに対し、クリスティーナは冷たい返しをするがそれを受けても尚彼女は怯む様子もない。

 シャルロットはクリスティーナの皮肉にも笑顔で言葉を返しながらカップに口を付けた。

 そして茶で口を潤し、カップを戻してから彼女はリオとエリアスを交互に見た。


「これは単なる興味だけど、三人で一緒に旅をしてるんだよね?」

「そうね」

「ふーん、そっかそっか」

「……それが何か?」


 シャルロットが問いを投げながらにやにやと三人を見やる視線の意味が気になり、クリスティーナは怪訝そうな顔になる。

 だが彼女の笑みの理由を問うたクリスティーナはその返答を聞いてさらに顔を強張らせることになる。


「いや。ただ男の子二人に女の子一人だと恋仲に発展したり修羅場があったりするのかなぁって」


 彼女の声を聞いた途端、エリアスは口に含んでいた茶を思いきり噴き出した。

 人に掛からないという精一杯の配慮からか、大きく顔を背けた為に二次災害が発生することはなかったが、品性に欠ける行為であることには違いない。

 しかしクリスティーナもまた顔を強張らせたまま呆けていた為それを指摘する者はいなかった。


 リオだけはただの世間話と割り切っているからか一切の態度を変えることなく悠々とカップに口を付けて茶の味を楽しんでいる様であった。


 一人だけ余裕を保ち続ける従者を半ば八つ当たりの様に睨みつけてから、クリスティーナは目頭を押さえつつため息を吐いた。


「貴女、本に影響を受け過ぎだわ」

「リオとエリアスとはそういう事はないの?」

「当たり前よ」

「そっかぁ、残念」


 シャルロットは笑みを崩すことなく盛り付けられた菓子へ手を付ける。

 驚いた様子などが見られないことから、彼女も冗談半分で話題を振ったのだろうことは明らかだった。

 年頃の少女だからか、どうやらシャルロットは恋愛話に興味があるらしい。


 実際に興じたことはないが、恋愛に絡んだ話をする令嬢たちの様子をクリスティーナは幾度となく見たことがあった。

 故にその実態は良く理解している。


「貴女の方こそ、そういう話はないの?」


 意趣返しの意図半分、残りは恋愛に関する自己の話を聞いて欲しいのではないかという推測からクリスティーナはシャルロットに同じような話題を振った。

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