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悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う  作者: 千秋 颯
第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
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第126話 身分差のない茶会

 簡単な土産を見繕ってからクリスティーナ達はシャルロットのいる館の正門までやって来ていた。

 見張りとして立っていた衛兵にシャルロットに誘いを受けたことなどを伝えるとあっさりと中へ通される。

 話を通しておくと言う彼女の言葉は嘘ではなかったらしい。


 使用人に連れられて敷地へ足を踏み入れると中庭へと案内される。

 手入れの行き届いたテラス付きの庭。そこで暫く待っていると建物の方からがらがらと車輪の回る音が聞こえてくる。

 同時にやや強い風がクリスティーナ達の脇を吹き抜ける。


「お嬢様! シャルロットお嬢様、そんなに激しく動かれてはなりません!」


 焦るような使用人の声が聞こえる中、車輪の音はどんどんと近づき、何事かとクリスティーナはそちらを見やる。

 クリスティーナの視線の先、車椅子の車輪を自分で回してやって来るシャルロットがいた。


 彼女は満面の笑みを咲かせているが、彼女が動かしている車椅子の速度は凄まじく、思わず目を剥いてしまう程であった。


「クリス、リオ、エリアスー!」

「……待って頂戴、そのまま来たら――」

「あ、待って、止まらなくなっちゃった!!」

「うわ、待った待った!」


 クリスティーナ達へと真っ直ぐ突き進む車椅子。

 シャルロットと三人の距離は瞬く間に縮まるが、それ程の速度を出せば勿論すぐに止まることは出来ない。

 そうクリスティーナが忠告しようとするが、その時にはすでに遅かったようだ。

 シャルロットが車椅子上で慌て始め、事故の可能性を悟ったエリアスがクリスティーナと車椅子の前に出る。


 衝突することを覚悟の上で前に出た騎士は何とかシャルロットも助けられるようにと手を伸ばすが、結局彼が予測していた衝突は起こらなかった。


「……お怪我はありませんか?」


 エリアスの手前で止まる車椅子。それの握り手を片手で掴みながら、リオはもう片方の腕でシャルロットを抱き上げていた。


「大丈夫だよ。……貴方って思いの外力持ちなんだね」

「シャルロット様は恐らく……少々やんちゃが過ぎるのではと」

「これは少々で済まされるものではないわ」

「あはは、よく言われる!」


 クリスティーナとリオからの指摘にシャルロットは大きく笑う。

 リオがそれを聞きながら動きを止めた車椅子へシャルロットを下ろしたところで、彼女を追っていた使用人が追い付く。


「シャルロット様! あれほど無理はしない様にと……!」

「わーごめん! ごめんってば!」


 顔を顰めて窘める使用人は口調こそ厳しいものであるが、それが主人を心から思っての物であることがよくわかる程、心配そうな顔をしていた。

 怒りよりも心配からくる言葉であることを悟っているからか、シャルロットも気落ちした姿は見せず、明るく笑いかけていた。


 そして使用人による説教が終わるとシャルロットは改めてクリスティーナ達を見た。


「来てくれたらいいなぁって思ってた程度だったから、本当に来てくれたって聞いて嬉しくなっちゃって。……あ、折角だから向こうでお茶でもどう?」


 そう提案するや否や、シャルロットは使用人へ茶会の準備をするよう指示を出す。

 立ち去る使用人を見送ってから四人はテラスまで移動をした。


 使用人と入れ替わるようにやって来たシャルロットの従者が主人の座る場所を作る為に椅子を一つ移動させたり、彼女の車椅子を押してやったりと世話をしてやる姿をクリスティーナ達は見守る。

 するとシャルロットは微笑みながら三人へと手を招いた。


「そんなに畏まらないで。貴女達とお喋りがしたくて呼んだんだから」


 彼女の誘いに乗るようにクリスティーナはシャルロットの正面となる席へ座るが、リオとエリアスは日頃の仕事の癖からかクリスティーナの後ろに控えるように立った。

 傍に付いているのが公爵令嬢としてのクリスティーナであればそれは正しい振る舞いだろう。だが、シャルロットは話し相手としてクリスティーナだけではなく、リオとエリアスをも指名した。


 話し相手という対等な関係を求められており、尚且つ今のクリスティーナは部外者からすれば身分も定かではない旅人。であれば自分だけが談笑を楽しむ必要もないとクリスティーナは考えていた。


「彼らも座っていいかしら」

「勿論」

「ありがとうございます。ではお言葉に甘えさせていただきます」

「うぇっ!?」


 念の為にと確認をとれば、快く頷かれる。

 日頃から肝が据わっており、一通りのマナーを身に着けているリオはクリスティーナの意図を汲むとすぐに空いていた席へ腰を掛ける。

 だが、茶会という場に馴染みがないらしいエリアスは間抜けな声を漏らしながら躊躇いを見せた。


「オレ、流石に茶会のマナーとかは自信ないですよ……」

「気にしないってば。学院にいた頃もこうして友達と話す機会はあったけど、その時は貴族の生徒の方が珍しかったしね。今更だよ」

「な……なるほど?」

「食器は割らないでくださいね。弁償が大変ですから」

「そういう事言うなよ! 何も触れなくなるだろ!」


 シャルロットの説得あってか、エリアスは漸く腰を下ろす。

 だがそこへ揶揄うようなリオの忠告が挟まり、彼は肩を震わせながら抗議した。

 その賑やかさにシャルロットは愉快そうに声を上げて笑い、それを聞きながら感じる穏やかな空気に身を委ねるように、クリスティーナは目を伏せたのだった。

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