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悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う  作者: 千秋 颯
第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
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第123話 不器用な者達

 屋敷の外へ出たところでオリヴィエはクリスティーナ達を地面へと降ろす。

 そして自らも静かに着地してから一つ息を吐いた。


「付き合ってくれたこと、感謝する。ありがとう」


 ぶっきらぼうではあるがきちんとした礼を述べられ、それを受けながらもクリスティーナは腑に落ちない顔をする。


「感謝を示すのならば、少しくらい真意を述べてくれてもいいのではないかしら」


 何が言いたいのかと問うような視線。

 黄緑の目が珍しく自分へ向けられていることを感じながら、クリスティーナは続けた。


「私達をここへ連れて来たのは本選びの為ではない。そうでしょう」


 クリスティーナはシャルロットと過ごした時間を思い返す。

 彼女と他愛もない話を繰り広げる最中、本題を忘れてはいなかったクリスティーナが敢えて好みの本や物語について問うことはあれど、オリヴィエはそれに口を挟むことはしなかった。


 その上、自分からその話題を振るそぶりも見せず、殆どはクリスティーナとシャルロットの会話を静かに聞く立場に徹していたのだ。

 そこまであからさまな振る舞いをされれば、シャルロットの元へクリスティーナを連れて来た目的が別にあるのではないかという結論には用意に行きつくことが出来る。


「……そうだな」


 問い詰めに対し、オリヴィエはあっさりとその事実を肯定する。

 彼は視線をすぐ傍の塀――建物のある方角へと向けて眼鏡を押し上げた。


「本選びに手こずっていて手助けが欲しかったのは事実だ。だがここへ連れて来たのは別の思惑があったからというのが大きい」


 聳え立つ立派な壁。その先にいる人物を思ってか、彼は静かに眼を細めた。


「シャルロットは学園にいた頃からお喋りな奴だったからな。新しい話し相手を連れて来れば喜ぶんじゃないかと思ったんだ。あいつは……館の外へ出ることが出来ないから」


 重く静かな声音、どこか切なげに伏せられる睫毛。

 それらが彼にとってシャルロットという少女がどれだけ重要な存在であるのかを伝える。


「……彼女は何か病に?」

「病、か」


 クリスティーナの問いに、オリヴィエは肩を竦める。

 その口元は緩められているものの、どこか苦々しさを感じさせるような自嘲的な笑みだった。


「……医者を呼んで済む話であればよかったのにな」


 クリスティーナの問いに対して返された言葉は明確な解を濁すような物であった。

 否定のようにも、不治の病であると仄めかしている様にも取れるその言葉の真意。それはクリスティーナには量れない。


 しかしどちらにせよ、シャルロットの容態は良いとは言い難いものであることには変わりないだろう。


「シャルロットはああ言っていたが、お前達にも都合があるだろう。あまり気にしなくていい。その辺りはあいつも理解しているだろうから」

「……そう」


 館に再訪する必要はないという言葉にクリスティーナは頷きを返した。

 一方でオリヴィエは来た道を見やり、そちらへ足を向ける。恐らくは店の手伝いへ戻る為だろう。


「途中まで送った方がいいか? 連れて来たのは僕なのだから、流石にそのくらいの義理は果たすが」

「いいえ。結構よ」


 クリスティーナは暫し考えてから首を横に振った。

 魔導具店があまりないことから、ニュイの南側には立ち寄る機会がなかった。その為時間に余裕があるのであれば南側の街並みを見て回るのも良いかもしれないと考えたのだ。


(もしかしたら思わぬ収穫があるかもしれないし)


「そうか」


 断られたオリヴィエは小さく頷くと、そのまま来た道を歩き出す。

 その途中、彼は一度だけ振り返って小さく微笑んだ。


「今日のあいつはすごく楽しそうだった。ありがとう」


 クリスティーナ達の返事を聞くこともせず、彼はそのまま去っていく。

 その背を見送ったまま暫く呆けていると、リオが苦笑と共に呆れるようなため息を零した。


「何と言うか、不器用な方ですね」

「……そうね」

「まあ、それはお嬢様にも言える事ではありますが」

「どうしてそこで私の名が出るのかしら」


 白を切ろうとも、そんな魂胆さえお見通しであると言うようにリオは肩を竦める。


「心配していると言うだけで事足りるところで、あんなにも複雑且つ遠回しな言い訳を用意するところとか、まさしくそうでしょう。……俺が気付かないとでも思いました?」


 リオは本屋で告げたクリスティーナの忠告について触れているのであろう。

 オリヴィエのことを心配している訳ではなく自分の利益の為だと随分回りくどい主張を施したことについて、彼は思うことがあるようだった。


 何故いつも素直じゃない受け答えしかできないのかと困ったように笑う従者の視線から逃れるように、クリスティーナは顔を背ける。


「……あれは彼の性格を考慮してのものだもの。彼自身もそちらの方が聞き入れやすいと言っていたでしょう」

「はてさて、本当にそれだけでしょうか」


 全てお見通しであるというような含みのある言葉が返って来るが、クリスティーナはそれを聞き流すことにした。

 しかし彼から視線を逸らした先、今度は何やら込み上げる笑いを堪えるように口を引き結ぶ騎士と目が合ってしまう。

 隠しきれていない笑いの発生源が恐らくは自分とリオの会話によるものだと悟ったクリスティーナは鋭くエリアスを睨みつけた。


「不敬な騎士の首は飛ばすに限ると思うわ」

「え、急に何で!?」

「お嬢様、八つ当たりは良くありませんよ」


 物騒な言葉を吐き捨ててクリスティーナは移動を始める。

 その後ろでは情けなく悲鳴を上げてべそを掻く騎士と、笑いを堪えて声を震わせながら主人を宥める従者の声が聞こえてくる。

 しかしクリスティーナはそれに振り返ることもせず、速足でさっさと道を進んだのだった。

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