表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

転生したら名前がえっちしようだった。

ふむ……

わしにしね と いうんだな!




 とある世界の、とある田舎の村。



「ねえねえ。えっちしよう。えっちしよう」



 銀髪の少年が、栗毛の少女に誘惑されていた。



 ……わけでは無い。



「……あのさぁ。マロン」



 うんざりとした感じで、少年は口を開いた。



「名前じゃなくて、名字で呼んでくれって、何度も言ってるだろ?」



「ええーっ? 名字でなんて、よそよそしいよ。


 私たち、友だちじゃないの?」



「そりゃ友だちだけどさ……。


 だから、自分の名前が嫌いなんだって」



「どうして? 良い名前なのに。えっちしよう」



(音だけ聞いたら、ひょっとしたら、そうなのかもしれんがな……)



(けど……)



(俺が居た世界だと、いやらしい意味なんだよ。それは)



 少年は、異世界からの転生者だった。



 彼の名は、エッチシヨウ=スキデス。



 元の世界の言葉では、実に卑猥な意味になる。



 この名前を気にしているのは、本人だけだ。



 この世界の人々にとっては、そうおかしい響きでも無いらしい。



 当然だろう。



 よほど頭がおかしくなければ、子供に卑猥な名をつけたりはしない。



 だから、村の人たちは、平気でエッチシヨウの名前を呼ぶ。



 エッチシヨウには、それが嫌だった。



 だが、そんな彼の気持ちは、村の人たちには、まったく理解してはもらえなかった。



「俺さ、そのうち村を出るよ」



「ええっ!? どうしてなの!? えっちしよう!」



(馴れ馴れしく名前を呼ばれるのが、嫌だからだよ……)



 本音はそれだった。


 だが、素直に口に出すのは、格好悪いという気持ちが有った。



「ほら、冒険者とか、男の憧れだろ?」



 なので、そう答えた。



「危ないよ?」



「そんなこと言ってたら、夢は叶えられないぜ」



(誰にもファーストネームで呼ばれないという、ささやかな夢がな)



「むぅ……」




 ……。




 やがて、旅立ちの日が来た。



 村人たちは総出で、エッチシヨウを見送りに来た。



 村人たちの温かい言葉が、次々と、エッチシヨウにかけられた。



「がんばれよ! えっちしよう!」



「えっちしよう! 体に気をつけるんだぞ!」



「えっちしよう! 負けんじゃねえぞ!」



「偉くなって帰ってこいよ! えっちしよう!」



「これは餞別だ。受け取れ。えっちしよう」



「えっちしよう。お前は俺たち夫婦の誇りだ」



「えっちしようおにいちゃん。すぐに帰ってくるよね? 待ってるから」



(帰りたくねぇ~)



「……行ってきます。みんな」



 エッチシヨウは、村人たちに背を向けた。



 2度と帰らぬ。



 そう誓いながら。



 村から旅立ち、エッチシヨウは道路を歩いた。



 すると……。



「…………」



 無言でエッチシヨウのあとを、ついてくる者があった。



「何ついてきてんだよ」



 エッチシヨウは、その人物を睨みつけた。



「だって……」



 そこに立っていたのは、栗毛の少女だった。



 幼馴染みのマロンだ。



 いつもの普段着姿ではなく、旅装に身を固めていた。



「えっちしよう1人じゃ不安だから……」



「テメェが居たら、意味がねぇだろうがよ……!」



 怒気を全身から漏らしながら、エッチシヨウは呟いた。



「えっ?」



「いや……。


 お前が居たら心配で、全力で戦えねえよ。


 だから……」



「それなら大丈夫。


 私、こう見えて、レアスキル持ちだからね。


 あなたよりも戦えると思うよ。えっちしよう」



「ぐっ……」



「私の心配ならいらないから。えっちしよう」



(チクショウ……)



 こうしてエッチシヨウの夢は、儚くも敗れ去ったのだった。



 そして……。




 ……。




「くっ……! 参った。


 私の負けだ。えっちしよう。すきです」



 王都の、冒険者ギルド前の通り。



 女冒険者が、膝をついていた。



 その冒険者は、騎士のような格好をした、金髪の美少女だった。



「侮ってしまったことを、深く謝罪したい。


 すまなかった。えっちしよう。すきです」



「それは良いけどさ……。


 俺のこと、フルネームで呼ぶの、止めてもらえるか?」



「どうしてだ?


 認めた相手をフルネームで呼ぶのは、騎士の習いだ。


 ……まあ、今の私はまだ騎士では無いが……」



「俺は、俺の名前が嫌いなんだよ」



「そうなのか?


 良い名前だと思うがな。


 えっちしよう。すきです」



「人の価値観に、口を挟むな」



「分かった。


 だが、認めた相手をフルネームで呼ぶのが、私たちの価値観だ。


 口を挟んでくれるなよ? えっちしよう。すきです」



「ぐっ……」



「ところでだ、えっちしよう。すきです」



「何だよ?」



「もし良かったら、私のパーティに入らないか?」



「お前の?」



「私のパーティは、Aランクパーティだ。


 もし入ってくれたら、


 お前の実力に合ったクエストが、受けられるようになると思うぞ。


 それほどの実力が有って、


 ネズミ退治なんて、退屈だとは思わないか?


 えっちしよう。すきです」



「俺は……」




 ……。




 その日の夜。



 宿屋の寝室で、エッチシヨウはマロンと2人きりになっていた。



「ねえ、えっちしよう」



「何だ?」



「昼間の話、どうするつもりなの?」



「……良い話ではあるな」



(まあ、断るつもりだが。


 人をフルネームで呼ぶような女と、組むつもりはねーからな)



「綺麗な子だったね。あの冒険者さん」



「ん? そうだな」



「えっちしよう……」



 突然に、マロンの手が、エッチシヨウの手首を掴んだ。



「マロン……!?」



 エッチシヨウは、宿のベッドに押し倒された。



 仰向けに倒れた彼の瞳を、マロンはじっと見ていた。



「私が1番、あなたのことを好きなんだから。


 ……ねえ。エッチしよう」




 ……。




 その後……。



 2人は2人のまま冒険を続け、様々な偉業を成した。



 それからしばらくして、2人は冒険者を引退した。



 マロンに子供が産まれたからだ。



 2人は、20人ほどの子供たちに囲まれ、穏やかに暮らしたという。



 めでたしめでたし。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ