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幽霊のセミと少年  作者: なおちか
9/9

夏の終わりと夏の始まり

最終話です!

ここまで読んで頂きありがとうございます。

楽しく読んで頂けたら幸いです。

俺は洸の家を出た。両親には話しかけられないし、洸はもういない。ちょっとの時間の付き合いだったけど、やっぱり寂しさは感じる。


セミの幽霊としてやれる事はやったと思うし、人ひとりを成仏させたんだから褒めてもらいたいくらいだ。


俺はどこに行こうか迷ったけど、別に行く当ても無いからセミらしく公園の木にでも行こうと思って空中をフラフラと飛んでいた。


そしたら、ドン!って大きな音が鳴った。なんだ?と思って高く飛ぼうとしたらまたドン!って鳴って、近くのマンションの壁が緑色に染まった。花火だ。


俺は花火が上がった方へ全力で飛んで行った。打ち上げ花火なんていつぶりだろう。ピュー、ドン!という音がいくつも聞こえてくる。川に映る花火も綺麗だ。


せっかくだし花火の中に入ってやろうと思って、花火職人のいる場所を探して、筒の真上の位置に止まった。


下を見ていると職人が導火線のスイッチを押して火をつけたのが見えた。


ボッ!という音と共に花火は上がり、ピューという音と共に近付いてくる。そして俺に重なった所で赤色がバーン!とはじけた。


おおー!って思わず声が出た。こんなにもピッタリな場所を見つけられるとはやるな俺。って自画自賛したよ。


それから何発か花火が上がったけど、やっぱり花火は少し離れた所から見るもんだなと気付いた。迫力はあるけど近すぎると綺麗じゃない。


河川敷の方に戻っていくと、多くの見物人でいっぱいになってた。屋台もいくつか出ている。花火の色に染まる人々を見てると、小学生の男の子を何人か見た。


花火が上がっている最中でも賑わっている屋台にはかき氷屋があった。なんか、全部思い出しちゃってさ、なんでこんなに寂しいんだろって思って。泣きたくなってきたから、俺はミンミン泣いたよ。


そしたら、俺の体は自分の意志とは関係なく浮き上がっていって、フワフワした物に包まれてるような感覚になった。驚いたけどすげー気持ちよかった。


俺は成仏するんだなって感じた時、思った。この世に留まってた理由って、もしかしてミンミン鳴けなかった事なのかって。


羽化できずに幼虫の体のまま死んだ。羽化できなかったのはそりゃちょっとは悲しかったし悔しい気持ちもあったけど、未練って程じゃなかった。


でも、俺はミンミン鳴いた事によってこの世を去ろうとしてる。セミの魂としての思いと人間の魂としての思いは違うみたいな事なのかな。


セミとしての思いは俺にはわからなかった。でもセミとして考えてみれば、ちゃんと成虫になって、木に登ってミンミン鳴くのはすごく大切な事なんだって理解できる気がする。


受け入れるよ。俺はセミとして生まれたんだから。洸の魂を成仏させるのが使命だったとかならカッコよかったんだけどな。


セミの幽霊は徐々に球体に変化していき、夜空に浮かび上がり消えていった。花火はフィナーレを迎えていて、連続する大きな花の光りと音に、人々は歓声を何度も上げた。


洸の魂は、セミがミンミン泣いたタイミングでまた人間に生まれる事が決まった。


それから夏が終わり、秋が去り、冬が訪れた。公園の木はほとんどが葉を落としていて、枯れた葉が土を覆っている。騒がしかった夏とは対照的に静かな時間が流れている。


今日は比較的暖かい日。


ランニングをしている若い女性や、1人ベンチに座るおじいさん、犬を散歩させている人もいる。そこに夫婦がやってきた。


その夫婦は空いているベンチにゆっくりと座った。そのベンチは黄色のペンキが所々はがれていて古い。2人はのんびりと、歩く人や飛ぶ小鳥を眺めたりした。


しばらくして、「はー」と女性は息を吐いた。息は白くならず、もう1度同じように息を吐いたが、結果は同じだった。


「妊娠したよ」息を吐く様子を眺めていた男性の方を見て女性は言った。


「え?」


「赤ちゃん、できたよ」女性の目には涙がみるみるうちに溜まっていく。


男性はその言葉を聞いて何も言わずに女性を抱きしめた。男性の目にも涙が溢れ、2人は言葉なく涙が止まるまで抱きしめ合った。


次の夏を迎える頃、セミがまたミンミンと騒がしく鳴いている頃に、その子は生まれる予定だという。


飛行機が公園の上を通り過ぎて行った。夫婦は一緒に見上げた。空には雲1つ無く、ただ青色が広がっていた。

読んで頂きありがとうございました!

短い連載ではありましたが、最後まで書けて良かったです。

もしよろしければ感想など頂けましたら嬉しいです。

また、次の作品を書きましたら読んでください!

ありがとうございました!

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