子供部屋
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かき氷を食べ終わった洸は、器とストローをゴミ箱に捨てて戻って来た。手を放してすぐに洸はこちらに振り返ったのでゴミがどうなったかは見ていない。
器とストローはゴミ箱とゴミ袋を貫通して下に落ちた後、蒸発するようにスーッと消えていった。陰キャゼミが死んだときのような感じだったから、物も成仏するのかなって俺は考えたよ。
視線を洸に移すと、洸は遊園地にあるアトラクションや歩く家族連れを見てた。しばらく洸はその場所から動かなかった。
「なぁ、洸。次はどのアトラクションに行く?」洸の目の前に飛んで俺は聞いた。
「帰りたい。」洸はそう言って唇をギュッと閉じた。
そりゃそうだよなって思った。遊園地で遊ぶ親子を見れば恋しくなるのは当たり前だ。まだ子供なのに両親と離れなくちゃいけなかった。幽霊になっても側にいたかっただろう。でも、悲しむ姿を見て辛くて外に出たのかなとか考えた。
「よし、それじゃあ帰ろう!」
俺はそう言うと、また洸に体をつまませて空に飛び上がった。
太陽は傾き出していて空はオレンジ色に変わっている。地球全体がオレンジに染まっているかのように思えるほど、街も雲も鳥も一色に染まっていた。
洸の家に着く頃には空はもうほぼ暗くなっていて、月やいくつかの星は見えるようになっていた。
塀の外から洸の家を見ると、窓から電気の光りが漏れていて家に両親はいるようだ。
地上に降りた洸が家に入っていき、俺も後を追った。リビングに洸の両親がいて、母親がテーブル横の椅子に座り、父親はソファーに座っていた。
30代くらいに見えたけど、顔は俯き加減だったからハッキリとはわからない。
2人に会話はなく、精神的な苦しみや疲れが滲み出ている。洸は母親の所へゆっくりと歩いていき手を伸ばし触れようとした。
「洸、待って。」俺は飛んで洸の目の前に行き、触れようとするのを制した。
「聞きたい事があるんだ。ちょっとこっち来て。」俺は洸を母親から離れた位置まで誘導し洸に尋ねた。「俺を捕まえた虫取り網と虫カゴはどこから持ってきた?」
何その質問。っていう顔をしながらも「僕の部屋」と言って洸は2階を指さした。
「見に行ってもいい?」
「うん」
洸は歩き出し階段をゆっくり登って行った。俺は後ろをついて行き扉をすり抜け部屋に入った。
広さは6畳くらい。勉強机やベッドがあって、犬のぬいぐるみとか車のおもちゃとかもあって綺麗な子供部屋だった。ここに洸が戻ってくると信じて綺麗に保たれてたんだ。
窓際を見ると、そこには虫取り網と虫カゴがあった。やっぱりその2つはボロボロに朽ちていて、何年も前に捨てられたような姿だった。
「洸。」俺はベッドの方にいた洸を呼んだ。「これ、見て。」
「え、なんで。」虫取り網と虫カゴを見た洸は驚いた顔で言った。
「実はな、洸が触った物はこうなってしまうみたいなんだ。かき氷の入れ物やストローも同じようにボロボロになっていて、プールの水も真っ黒になってた」
「僕が触ると・・・。」
「魂みたいなのが抜けるからかもしれない。物とか水にもそういうのがあるんだきっと。」
「ごめんなさい・・・。」洸の目にはみるみるうちに涙が溜まり、ポタポタと落ちた。
「違う、洸ごめん。責めてる訳じゃないんだ。でも、洸がお母さんに・・・。」と言いかけた所で思った。洸が触れて魂を抜き出せばいいんじゃないかって。
あんなに辛そうにして、悲しんでいて、疲れきった2人を見れば、洸がどれだけ愛されていたかわかった。また会えるなら魂が抜かれる事になっても嬉しいんじゃないかって思った。だから俺は、洸に提案してみる事にした。
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