キラキラ
今回も読んで頂きありがとうございます!
暑いのでプール行きたくなりますね!
洸は4歳の時に川に連れて行ってもらい浮き輪で浮いていた。
しかし、浮き輪についている紐に足を引っかけて遊んでいるとひっくり返り、紐が足に絡みついて浮き輪から抜けられず溺れそうになった。
近くに父親がいたのですぐに助けてもらえたが、その体験が水が怖い原因となっていた。
「なるほどね」俺は頷いた。つもりだけどセミは頷けない。「でも、プールに入れるようになるにはプールに入るしかないんだ」
「…うん。」洸は難しい顔をして返事をした。
「なに、ヤバそうになったら俺が引き上げてやるさ。俺もプールに入るから怖けりゃ掴まればいい」
「うん…そうだね。やってみるよ」洸はそう言ってプールサイドに立った。
見渡してみると家族連れが多く、子供のはしゃぐ高い声がたくさん聞こえた。
熱くなって水がすぐ蒸発していくコンクリートのプールサイド。少し高い位置にいる監視員のバイト。泳ぎ疲れてかき氷を食べている親子。
俺の記憶の中にあるプールはそのままここにあった。
俺は何も言わずに洸の斜め前にいた。洸はしゃがんでからゆっくりと右足をプールに運び、そのまま左足も同じようにした。洸は水の上に立っていた。
「おい、それじゃダメだろ。」俺は思わずツッコんだ。
「違うよ。まだ準備だよ!」洸は俺を見て言った。
「あ、ごめん。」洸には洸のやり方がある。手順があるのだろう。
親のひと言がうざい時があったけど、親目線だとたぶんこんな感じなんだろうなって思ったよ。
出来るって思ってる。信用もしてる。でも、言わずにはいられないんだ。俺はいい親にはたぶんなれない。そう考えてちょっと笑った。
洸はプールサイドに手をかけながらゆっくりと体を沈めていく。
胸のあたりまで沈んだ時、俺は洸の近くに行き、目で合図をしてからプールの中に入った。
洸は少し遅れてからまた沈み出し、顎のあたりまで入った所で1度止まり、気持ちを整えた。軽く体が浮きあげて、その反動を利用して洸は全身をプールに沈めた。
目をギュッと閉じたまま底の方まで沈んでいった。俺は洸の目の前まで移動した。
「洸、目を開けてみな!綺麗だから!」
洸は恐る恐るゆっくりと片目ずつ開けた。たぶん最初にキラキラと揺れる水色が見えただろ。
たくさんの人が歩き、泳ぎ、止まって、水も同じように動いて止まってぶつかってる。迷い込んだ光は困惑したように震えて見える。
少しの勇気で見える世界としては上出来だろ。洸は目も口も大きく開けてその光景を見てた。
「洸行くぞ、掴まれ!」俺の言葉に洸はすぐ反応して右手で俺の体をつまんだ。
俺はプールの中をスイスイと進んでいく。
人も浮き輪も水さえも邪魔は出来ない。何にも触れずに縦横無尽に動き回る。
水流と泡の声が聞こえるだろ。笑い声もたくさん聞こえるだろ。洸だって楽しんでいいんだ。笑って夏を過ごしていいんだ。
そう思ったら俺の体は勝手に勢いを止めて、無意識に洸を前に放り投げてた。
俺から手を放して洸は流れていく。俺はそれを後ろから見る。自転車の練習で親が手を離し、子供がフラフラしながらも進んでいくように。
洸はクロールで泳ぎ回った。必要ないのに息継ぎもした。
へったくそなクロール。監視員のバイトが飛び込んできそうなクロール。それでも洸は笑ってる。それなら何も言わなくていい。
自由形って事にしておこう。
読んで頂きありがとうございました!
次回も宜しくお願いします!