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幽霊のセミと少年  作者: なおちか
3/9

右肩に幽霊

これから始まるセミと少年のやり取りをお楽しみください。

カゴの中から見える景色はそんなに広くない庭で、芝生は生えてたけど所々めくれてた。


あまり使ってないような寂れた子供用の自転車があって、汚れたビニールシートとかもあって、普通の庭だった。


なんとなく上を見るとフタが見えた。この部分からなら出れるかもしれないと思って羽ばたいてみたけど結果は同じだった。


俺が脱出に失敗した時、少年は俺の方を見て話し出した。優しくて悲しい声だった。


「僕ね、ちょっと前に死んじゃったんだ。去年、病気になって入院して色々頑張ったけど死んじゃった。最後の方は辛いとか悲しいとかよくわかんなくなってたけど、今は寂しい。やりたい事いっぱいあったんだ。遊園地も動物園もプールも行きたかった。去年の夏休みはもう入院してたから何も出来なかったし。でも今年は、いっちゃんとゆうきとセミ取りできた。取られてくれてありがとう。」少年はカゴを目の前まで持ち上げて俺に礼を言った。


俺はこの子の話をびっくりして聞いていた。


この子も幽霊なのか。


他の子たちから離れてたのは声が届かないし気付いてもらえないから。あの状態で一緒にセミ取り出来たって言うのはたぶん本音じゃないだろう。


友達と一緒にじゃなくて側にいただけのセミ取り。そうだとしても、この子は夏休みの思い出を作りたかったんだ。


精一杯の納得をしようとしてるこの子の気持ちを考えると俺も寂しくなった。


死んでしまって悲しくて寂しいはずなのに、俺に「ありがとう」って言える少年の気持ちには答えたくて「どういたしまして」と心の中で俺は言った。


「え?誰かいるの?」少年は辺りを見回した。


「え?」俺も見回した。


「え?って?」と少年。


うーんこれは…。まさかと思ったけど、俺は声を出すつもりで喋ろうとしてみた。「俺の声聞こえてるの?」


「うん。聞こえてる。誰?」


まじかよ。人と話せるのかよ。何年も話相手がいなかったから俺も嬉しかった。「セミだよ。」俺は答えた。


「セミ?」そう言って少年はまた虫カゴを顔の前に持ち上げて俺を見た。俺は挨拶の意味を込めて右の前足を少し振った。


「本当に話せるの?どうして?」少年は驚きながらも目をキラキラさせた。


「いや、俺もわかんないんだわ。ただ、俺もセミになる前は人間だったんだよ。」


「人間がセミになったの?」


「おしいんだけどちょっと違うな。人間が死んで生まれ変わってセミになったの。生まれ変わりってわかる?」


「わかんない。」


「そうか。生き物には魂っていうのがあって、それは死んでも無くならないんだ。で、生き物が死ぬとその魂は次の生き物になってこの世界に生まれてくるんだ。」


「セミさんは、人間だったけど死んでセミさんになったってこと?」


「正解!賢くて助かるよ。」


「へへっ。」少年はいい顔で笑った。


「あのさ、お願いがあるんだけど、ここから出してくれない?逃げないから。」俺は少年にお願いした。


「あ、ごめんね。狭い所に入れちゃって。」少年はそう言うとフタの真ん中をパカッと開けてくれた。


俺はそこからゆっくりと飛び出して、永久に閉じ込められるかもしれない不安から解放された。


牢屋に入れられた経験はないけど、シャバは良いもんだなって思った。


俺はそのまま少年の右肩に降りてみた。すると、ちゃんと触れた感触があって、改めてこの子も死んでるんだなって思った。


「君、名前は?」俺は聞いた。


寺嶋てらしま こう。」と少年は答えた。


「洸か。カッコいい名前だな!」俺はそう言ってから考えた。


この子はなぜ成仏してないんだろうって。自分が残ってる事もよくわからなかったけど、それよりもこの子をどうにかしてあげたいって気持ちの方が断然強かった。


だから俺は言った。「なぁ洸。夏の思い出作らないか?」

今回も読んで頂きありがとうございました!

また次も宜しくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ちょっとウルっと来ました。 いいですね夏の思い出。 私もそんな物語が書きたくなりました。
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