悪食狼の童話集(あくじきおおかみのどうわしゅう) ~これは嘘(うそ)をついた狼(おおかみ)から始まった...~
お久しぶりです。更新が遅れてしまい申し訳ございません。
梅花の桜兎です...。
物語が考えられず、筆を書き込んでない時期が多くなり、すみません。
不定期更新ではございますが、見ていただける皆さん、誠にありがとうございます。
これはお手すきに暇がある際に物語とつながっていない部分の話となっておりますので、気分を変えたいときにご覧ください...。
では、始まります...。
...夜明けが近い。私はふと目を覚ましてそう思った。どうにも野宿は巣で寝ることとは違い、眠ってもこうも早く目が覚めるらしい...。
...というか、おちおち眠っている暇などない。交代交代で寝ずの番をしながら、過ごさなければならない。自分やパーティーメンバー、家族、依頼人と共に野宿する際には、これが決まり事....、らしい...。
“...じいちゃんに感謝しないといけないな...”、私はそう思い、じいちゃんが旅のお供に持ってきてくれた籠手と“赤魔道具ー罠作成ノ箱”の手入れをする...。
...7年前、私たち姉妹は私たちを拾ってくれたおじいさんがいる村で記憶を失った状態で発見された...。何も身に着けていない状態で衰弱していた私たちは、ここの村に来る前の自分たちの国、生活、言葉を忘れていたが、互いが姉妹であることを理解していた...。
そのためか、最初の2日間は自分たちがいた洞窟から一歩も出ず、互いに抱きしめて、暖をとっていた...。そうすれば、死なないだろうということがなんとなくわかったからだ...。根拠もないが、暖を取っている間、このようなことが前にも一回あったな、という実感があった...。そして、何か自分たちにとって大切なことを忘れてしまっている、という記憶に関する明確な喪失感があることも認識することが出来た...。
そんな中、一筋の明かりが私たちを照らした...。その明かりを持っていたのが、痩身で寡黙なおじいさんだった...。おじいさんは驚きはしたものの、見つけた瞬間に警戒していた私たちに“怪しいものじゃない、信じられないだろうが..."と一言言って距離を取りつつ、カバンの中からパンと肉切れ2つずつ取り出して、私たちに与えてくれた...。
...私たちはそこから、乾燥した肉の切れはしと干されたパンを受け取り、貪るように泣きながら食べた...。
渡されたパンと肉は乾燥し、どちら固かったが、それでも食べる手を止めることは出来ず、涙を流しながら、ただひたすらに黙々(もくもく)と食べ続けた...。
食事が終わった後、おじいさんは私たちに身体を包み込めるような布切れを渡され、一夜を共に過ごしたのちに見知らぬ私たちを自身が住んでいる家に招き入れてくれた...。
...今でもあの暖かな暖炉で初めて眠った夜が忘れられない...。しかし、同時に私たちは違和感を感じていた。本当に私たちはここに居ていいのか、というなぜか浮かんできた不安感ともう一つ、大事なものをどこかに置いてきた、または、何か重大なことを忘れているような言い表すことができない漠然とした不安感があった...。
...それから月日は流れ、私たちはおじいさんから様々なことを学んだ。狩人としての獲物を狩る術や罠士としての知恵に野草に関する知識等々、一人で生きていくには十分過ぎるほどの技術を継承した。
今ではおじいさんの村にいる狩人の中でも上位に食い込むほどの実力が付いた、と狩人仲間から持てはやされることも多くなった...。
そんなある日のことだった...。いつも通り、日課となっていた狩りから帰省したあと、おじいさんが突然、旅の準備物である食料が入ったリュックサックと狩猟銃の弾丸、罠作成グッズが入っている大き目なポーチ等々を手渡され、旅に出ろ、と言ってきたのだ...。
急にそう言われて戸惑いはしたが、この状況がおじいさんの目が冗談で言っているのではない張り詰めた雰囲気を匂わせており、私たちは、いや私はすぐさま、おじいさんの意図を察して、別れを嫌がる自身の妹の手をすぐさま引き、その場から逃げ去るように荷物を抱えて慣れ親しんだ住処を飛び出した...。
数分後、逃げ出した住処のある村から一発の銃声が響いた...。
そのあとのことは私たちは何も知らないし、私はその答えを知りたくなかった...。
「...さてと、これからどう動こうかね...。」
...過去から逃げた狩人は冷ややかな空気を持つ季節であまたの星が見える夜空に向けて溜息を吐く...。
これからの未来の不安に押しつぶされそうになりながら、その後ろから追ってくる逃れらぬ過去の悪意から唯一の身内を守るために....。
「...むにゃみゅ...、もう野菜辞めて...。まず過ぎる...。」
「...。こいつは...。」
姉である狼女はこんな状況にどうでもいい寝言を吐く自慢の妹に苦々しいながらも微笑を浮かべ、幸せそうな寝顔に溜息をまた溜息を吐いた...。
あのときに食べた干し肉の味はとても塩辛く、私たち姉妹が咳き込むような酷い味ではあったが、今思えば懐かしい味で平穏な日々の象徴であった私たちの大切な記憶のかけらである...。
...現状、得ている平穏とも呼べる状況がいつまで続くかなど分からないのに、彼女は満たされた笑顔でだらしがない表情を浮かべながら寝ている...。正直、どうでもいい状況なのにふとした笑みがこぼれる...。
そして、彼女はまだ明るく燃えている焚火を見ながら夜の番を務めて、沸かしたお湯で作ったお茶を飲みながら、一息をついた...。
夜空は数多の星々が生まれ、光り輝いている...。その中にはいつも通りギルドで見た別の仲間との光景も思い出せる...。もう会っても現在会うのが難しい相手ではあるが、それでもこの記憶があるのでこの世界でやっていけた部分はある...。
彼らの思い出も彼女の大切な記憶であり、彼女を形作るものでもある...。
...しかしながら、彼女たちの旅はまだ始まったばかりだ...。その道は数多の苦難があることだろう。彼女たち、まだ若く誇り高き狼狩人たちに祝福が旅の導きになるように....。
"ブッーー"と映画の上映が終わるような音がすると同時に私は意識が現実に浮上する感覚がした...。
気が付いたら、そこは映画館でスクリーンには映画の終了のエンディングロールが流れていた...。そこで私はいつも通り着ているはずの学生服を着ている...。
しかしながら、これを現実とは言えないような違和感があった...。最新のVR映画を見たからだろうか...。それとも...?
「...なにやっているのお姉ちゃん?そろそろ起きてよ...。起きろ~~~~!!!」
愛しき妹の声が頭の中からして私は今度こそ夢から覚めた...。そこには昨日夜見ていた焚火の跡が残っている...。いつの間にか寝ていたようだ...。
私は先ほど見た光景を思い出しながら、それを深く考えないようにした....。
私にとってはどうでもいいことだからだ...。妹さえいれば私はそれでいい...。