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十八番目  作者: カタカナ
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プロローグ


 朝5時、いつも俺をたたき起こすアラームとは違う音――スマホの緊急着信のけたたましい音で目を覚ます。

 そういえば今日は当番に入ってたか、と目をこすりながら着信に応答すれば、物静かな、それでいて一字一句がすんなりと耳に入ってくる涼しい声音が耳をうつ。


『おはようございます、六木さん。早朝から申し訳ありませんが、中層を探索中だった探索者から救難信号を受信しました』


「おはようございますー。正直に言うと今寝起きでして、急いで準備しても時間がかかるよ?それだったら本部で待機組の方がいい気がするんですけど……」


『他の当番者は現在別の救難信号に対処中です。かつ、残念ながらこの時間帯、救難信号付近に探索者はいないようです。可能な限り急ぎ準備を行い、救難信号の発信地まで急行してください。状況は移動中に共有します』


 着替えを済ませ、探索者専用の端末とイヤフォンをセット。装備はこんな時のために救難信号用のセットを一式準備しているため、中層用で持ち出す。

 スマホから端末へと接続を切り替える。


『接続の切り替えを確認しました。以降はこちらで。準備の程はいかがですか?』


「今、救難信号用のセットを装備した。中層用で準備したけど……」


『問題ないかと。救難信号を発信した探索者担当のオペレーターから現状を確認しました。どうやらハウンド系の亜種と遭遇し、仲間のうち三人中二人が毒を受け身動きが取れないようです』


「毒の種類は?」


『症状的に麻痺毒のようです。バイタルに影響は出ていませんが、四肢のしびれが強くその場から動けないとのこと。現在は入り口が一つの部屋に立てこもり、入ってこようとするハウンドを牽制しているようです。最寄りの入り口は協会本部となります』


 状況を確認しつつ、アジア区日本区画を走り抜け、島の中央へ。

 すぐに見える巨大な建物――探索者協会の本部へと向かう。


『入場検査は免除申請が通っています。駆け抜け、ダンジョンへ侵入してください』


「俺、救援依頼は好きじゃないんだ」


『その割に、救援担当の当直者申請、それなりに多いようですが』


「ほら、こうして普段走っちゃいけないとこを堂々走れるとこは好きなんだ」


『……報酬として施設内を走れるよう、上に申請します』


「……いや、冗談だからね? それ怒られるの俺だからね? またウチの職員に余計な手間かけさせやがってって! というか、オペちゃんも別に俺に合わせなくていいんだよ? オペちゃんの言う通り、割かし当直多いから大変でしょ」


『特に、つらいと感じたことはありません。むしろ、六木さんから目を離すと以前のように問題が発生する可能性がありますから。上からはもう二度と、あのようなことはさせるなと通達されています』


 つぅ、と冷や汗が頬を流れる。

 これは割かしマジでやらかすと雷が落ちるやつだ、と心にどとどめつつダンジョン内に設置されたポータルを起動する。

 現在俺が使用できるポータルの階層は五十階層まで。

 ポータルは十階層ごとに設置されており、中層にあたる二十階層へと飛ぶ。

 体が浮かぶような感覚とともに光で視界は閉ざされ、次の瞬間には目の前の景色が変わっていた。

 仕組みは依然とわからないが、協会が提供する『秘宝』の一つであり、使用者や効果範囲などは完全に秘匿されている。

 ただ設置条件だけは一部の探索者は知らされているらしい。

 でなければ設置はできないから当然といえば当然だが。

 

「二十階層、『魔獣の原生林』か。ここ視界悪いから嫌いなんだよな。むしむしするし……」


『依頼終了後、シャワーを使用できるように仮眠室の予約は済んでいます』


「さっすが……至れり尽くせりだよホント。となれば俺も頑張りますか。階層は具体的にどこ?」


『現在は二十三階層の東部にいるようです』


「三階層下か。まぁ中層までなら、()()()()はないしな……」

 

 かつて到達した()()()五十階層。

 正確には四十階層から下の下層と呼ばれる領域では、ダンジョンの構造が不定期に変化する。せっかくおこなったマッピングは落書きとなり、下の階層へ移動するための通路はねじれ狂う。

 

≪No1:あれはやばかったよね≫

≪No2:あれはやばかった。流石に泣いた≫

≪No3:三か月の努力が僅か数秒で紙切れに変わる瞬間。何かに目覚めそうだった≫

≪No7:()()()()()主はうらやましいよね≫

≪No2:やめろ、記憶関連でいじるな。主に怒られるだろ!!≫


 キィン、と甲高い音と共に、()()()には聞こえない声が聞こえてくる。。

 分割思考というとある『秘宝』の効果の一つである。それぞれNoがついており、それぞれが独立した自我を確立している。確立してしまった。おかげで冷静、熱血、守銭奴、ドMなど様々である。基本的には俺が意識しなければ表出してこないのだが、気が緩むと馬鹿どもが口を出してくる。


『……? 少しバイタルに変化がありますが、何かありましたか?』


「いや、うん。ちょっと嫌なこと思い出しただけだから大丈夫。取り合えず、二十三階層についたら最短距離でナビゲーターを」


 端末から了承の返事が聞こえてくる。

 俺は心の中で馬鹿どもにため息をつき、全速力で駆け出した。






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