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蟹!ホタテ!鮭! イクラは有りません

「出産するのはいい、するのはいいんだけど…

テントの中がドロドロじゃないか…どうしてくれるのこれ…」

「ぐるるる…」

「唸っても駄目」

 ぺシリと頭を叩いて窘める。

「きゅーん…」

「可愛く鳴いても駄目!

取りあえず子供を連れてテントから出て、綺麗にするから…」

 昨日の素の外やってきた熊が朝起きたら出産していた、ただテントの中が色々と酷い事に…

 匂いはともかくとしてシミになってる部分とかはもうどうにもならないな…

 屋敷に戻ったらまたバラして張替えだなぁこれは…

 出来るだけ綺麗にし、匂いを飛ばしている間に朝食の用意。

 昨日漁港で買った傷物の蟹、の折れた脚と、少し前に買った?お米を用意。

 蟹を茹でて出汁を取り、お米を入れて煮れば蟹雑炊、茹でた身も解して混ぜれば出来上がり。

 んー…この匂いがなかなか…

「あげないよ…」

「きゅーん、きゅーん…」

「だめ、自分で餌を取りなさい、味を覚えさせるといい事は無いからね」

 暫くすると子熊を残し餌を探しに行く親熊、木の実などは結構落ちているので食べるには困らないだろう。

 朝食を取り終え、匂いが少しましになったテントを片付け、帰宅再開。

 今日こそは家に帰るぞ…

 つぶらな瞳でこちらを見ている熊の親子と別れ、険しい山道を進んでいく…


「んー、以前登った山とは違って一望できるな」

 山頂から見下ろし地理の把握、さて、どの辺が居候している家だろうか…

 暫く探してみるが見当たらない、別方向かなぁ…

 でも逆側は山と海しか見えない、これは…帰るべき家は海の向こう側だな…?

 ならばやる事は一つ、まずは下山だな。

 それから海を目指して、また海を渡っていけばいいだろう。

 下山を始めて暫く、車が走っている所に出てきたが…

「ついて来てもダーメ、山にお帰り」

「ぐるるぅ…」

 子を連れたままついて来ている熊、別れたはずなのだが…服に染みついた匂いを辿って追ってきたか…?

 山に戻って貰うため熊と交渉開始、後ろから逃げろとか聞こえてる来るが熊と交渉中なので黙っていて欲しい。

 どうしてもついてきたいという熊と交渉する事暫し、先ほどより騒がしくなってくる。

 危ないだの早く逃げろだのと聞こえてくるが、お座りして放しをしている熊の何所が危ないのか…

 しかしもう少しで交渉はまとまりそうだ、餌付けっぽくなってしまいそうではあるが…

 熊の要望は連れて行ってくれないなら、子熊を安全に育てられる場所が何処かに無いか教えてほしいのと、できれば今朝食べていた美味しい物が欲しい。

 とのこと、もしくは子熊だけでもー、らしい。

 結構な年月を過ごしているらしく、寿命が近いらしい、なので子熊を安全に育てつつ旅立つまで余裕を持って育てれる場所、美味しい物は…死ぬ前の贅沢…かな?

 まあ自然にあまり手を入れるわけにはいかないので、頂上を目指している内に見つけた良さげなところを紹介、後は魚などの海産物を手土産に。

 さて、これでお別れかなと言った所で少し前に何度も聞いた破裂音が響き渡り、親熊に当たったらしい、痛みで暴れはじめた親熊に何度も当たり、親熊は子熊を守りつつ倒れていった。

 振り返ってみると少し前にしつこく付きまとってきたのと同じ白黒の車に、何かをこちらに向けている人。

 何やら大丈夫だったか?と言いながら近づいてきているが…大丈夫と言えばまあ大丈夫だね。

 子熊は動かなくなった親熊を鼻先でつついているが、当然親熊は動かない、もう死んでいる。

 はぁ…どうしたもんかね…

 とりあえず取り出していた魚などの海産物を手向けとして熊の近くに置き、子熊に対して放たれていた物を適当に弾いておく。

 特に約束…をしたわけでもないが、一夜とは言え一緒に過ごした仲だし、子熊は連れていきますかね…

 居候先で飼育の許可が下りるだろうか…

 周りで何かを騒いでる人が居るが、何かをこちらに向けている人達にまた追い掛け回されても面倒なので黙らせておく。

 子熊に親熊との別れを告げさせ、子熊を抱きかかえて下り坂になっている道を下っていく事にした。


「んー、流石に君を連れて海をこえるのはちょっとつらいねぇ…どこかで船でも調達しないと…」

「きゅう、きゅう」

「んんー?お腹が減ったのか…何かあったかなぁ…」

 まだ生まれたてだし、固形物は無理だろうし…まだお乳などが必要な時期だし…

 何かそれに近い物…まあ仕方なしか…

 身体を変化させ、出来るだけ近い母乳などが出るようにし、子熊に与える。

 結構思いっきり吸い付いてくるなこいつ…雌っぽいけど…

 何やら少々広い所に設置された長椅子に座りのんびり授乳しながら考え事。

 手持ちのお金で船が調達できれば一番いいのだが、買えるのかねぇ…

 それに何所に行けば買えるのかもわからんし…

「うん?」

 吸い付く感覚が弱くなったと思ったら咥えたまま寝てやんの…

 このままでは動くに動けないので、少々口を無理やり開けて外し、身体を元に戻して移動再開。

 なんにせよ、まずは海を目指そう、海に行けばひょっとしたら船が出ているかも知れない。


「お嬢様ですか?私です。

今はいった情報によるとあの方は山の中にいたようです。

ええ、はい。

多分現在地からして一番近いのはお嬢様ですね、はい。

配信されていた動画を見るに、今は子熊を連れているようですので非常に目立っていると思われます、はい。

熊を連れた人の目撃証言がかなり集まっていますので、はい、そのまま海の方に向かっているそうです。

ではこちらも目指していると思われる方向にある先に有る港などに移動しますので、はい。

分かりました、現地出会いましょう、では」


 船ー船ー、船はあれど小型の物ばかり、辺りに人はいない。

 操縦する方法も分からないし勝手に乗るわけにもいかないし、どうしようかね。

 海沿いを歩き、船が停泊している港を見つけたが、客船…に見える船は無いなぁ…この小型の船でも渡れなくはなさそうだが…

 さて参ったぞ…

「きゅう、きゅう、きゅう」

「ああ、はいはい、お腹すいたんだね…」

 どこかに座れる所は無い物か…

「きゅう、きゅう」

「はいはい、ちょっと待ってねー」

 くそぅ…ペシペシ叩いてはようはようと催促してきよる…

 設置されている椅子は無かったので椅子を適当なところに設置、再び授乳開始。

「やっぱり思いっきり吸い付くんだね…」

 勢いよく飲み始め、胸をぐいぐい押しながらもっともっとと必死に飲み続けている。

 そしてお腹が一杯になったら咥えたまま寝ると…

 またどうにかこうにか外したら汚れた所を拭いて服を着直す。

「さて、何所に行けば船に乗れるのか…」

「少なくともここは漁港なので客船は有りませんよ」

「おや?葵さんじゃないか、と言う事は家が近い?」

 考え事をしていると葵さんが真後ろに。

「やっと捕まえました…あなたが消えてからほんの数日ですけど、かなり大変だったんですからね?

後此処は家から約1500キロほど離れた全く見当違いの所です」

「ほんと?」

「本当です、暫くすれば使用人たちも合流してきますので、ここから動かないでくださいね」

「はいはい」

 家に近づいたと思ったら全然見当違いの所へやってきていたらしい。


「お待たせしましたお嬢様」

「ご苦労、残りの2人と合流したらすぐに帰るわよ」

「わかりました、では私は連絡を入れてきますので暫しお待ちください」

「ええ、それでいいわ」

 恵里香さんもやってきて恵里香さんも何処かへ連絡中、その間に家にいた2人の使用人さんもやってきて全員集合。

 止まっていた4台の内3台は後からやってきた人が乗って何処かへ走り去っていった。

「じゃあこれに乗って、空港に行くわよ」

「はいはい、空港が何かは知らないけど」

「流石に海路や陸路だと高速を使っても帰るのに2日は掛かるわ…だから空から帰るのよ」

「なるほど?」

「それからずっと気になってたんだけど、その熊は何?」

「んー?ちょっとした縁が有って?」

「流石に熊は育った時に暴れられると怖いですね…」

「だそうよ、元居た所に帰すことはできない?」

「無理だねぇ、親熊は子が育つ前に死んじゃったし、返した所で2日と持たないかと」

「そう、ならちゃんと人を襲わないようにしつける様に」

「はいはい、まあ大丈夫だと思うけど」

「その根拠は?」

「この子の親は一度も山から出たことが無い箱入りみたいなもの、いわばお嬢様だね、争い事とかは嫌いっぽい」

「お嬢様ねぇ…」

 抱きかかえられたまま寝ている熊をじーっと見つめてくる葵さんと使用人さん2人、恵里香さんは現在運転中。

「まあ親熊と交渉してたんだけど、その時に子熊を連れて行ってーってのが有ったので、今はその頼みごとを聞いてる状態かな?

本当なら安全な所に移動するはずだったんだけど、移動する前に死んじゃったから」

「交渉って…この熊と向かい合ってじーっとしてるやつ?」

 んー…?

「あ、そうそう、この時だね。

テントで寝ようとしてる時に潜り込んできてねぇ…まあ一夜を一緒に過ごした仲と言うことで話し合いを少々ね?

テントの中で出産されたからテントが酷い事になったけど…」

「よく平気でしたね…」

「そお?可愛い物じゃない?野兎に比べたら」

「普通なら兎の方が可愛いですけどね、あまり害は無いですし」

「ふーん、まあ…お互い考えている兎は間違いなく違うような気はするけど…」

「ですね、兎は食物連鎖でも下層に位置する動物です」

「随分と可愛らしい兎です事…うちの所はそうだねぇ…まず死んだ親熊くらいには大きくなるね、個体差もあるけど」

「それは…可愛いのかそうでないのか…」

「後は色は真っ白で毛皮はふわふわのもこもこ、結構市場に出回っていて人気だね」

「少し見てみたい気もしますね」

「後肉食」

「肉…まあそう言う事も有るでしょう…」

「ついでに言うと熊くらいなら簡単に狩って食べちゃう、この兎を探す時は血の跡や転がってる骨や頭を追って行けば見つかるかな?」

「骨に頭って…かなり危険じゃありません?」

「特には?子供からお年寄りまで幅広い層が狩っている一般的な狩猟対象だね」

「なら見かけだけでそんなに危険では…」

「まあ少なくとも少し前から響いてた、破裂音を出していた物じゃ毛皮を貫通できないんじゃないかなぁ…」

「防弾素材か何かですか?」

「防弾が何を指しているかはわからないけど、まあ兎からしたら強めのマッサージにしか感じないんじゃないかな?」

「そうですか、毛皮はみてみたいですが、生きている状態で会いたくは有りませんね…」

「毛皮毛皮…有ったかなぁ…」

 ちょっと収納を漁って兎の毛皮を探す。

「んー…切れ端しかないや…とりあえずこれが実物」

「では少しお借りしますね…

これは…確かに真っ白でふわふわのもこもこですね、手触りもかなり良い…

ためしに刃物で刺してみても?」

「いいよー、使い道がない端材だし」

「では失礼して…

…刃が通りませんね」

「そんなに切れ味悪いの?」

「そんなに切れ味は…良くないですね、鋭く研いだ刃物でもないですし、それであっても皮どころか毛すら切れそうにありませんけど」

「んー…白黒の車とかに乗っていた狩りの練習をしていた人達もそうだけど…良くそれで今まで生きてこれたねぇ…」

「あれは練習ではなく確実にあなたを殺そうとしていた人達ですよ…」

「へぇー、そうなんだ」

「どうします?今あなたを襲った人たちは全員病院に閉じ込められていますよ?

皆気が狂っていて言葉が通じない状態になっているようですが」

「別にどうもしないかな…?

ただ狩りの基本を教えただけだし、それで気が狂うって流石に予想外だし…

あ、お気に入りのカップを笑いながら2個も割ったやつは始末しちゃったけど…駄目だった?」

「ああ…あれはやはりあなただったんですね…まあ本来なら駄目ですけど、今回に関しては完全にあちらが悪いですし、誰も咎めたりはしません。

そもそも証拠がないんですよ、数百メートルは離れた位置でしたし、頭部を砕いたと思われる物は見つかっていませんし、一体何をどうやったんですか?」

「いや特別な事は何も?

道端に落ちてた石ころを投げただけ」

「石…」

「この位の大きさのをこう…ぽいっと」

「それであの参事を引き起こせるのですか…あなたの住んでいる所にいる人は皆化け物か何かですか?それともあなたが特別に強いだけですか?」

「流石に暮らしている人は私よりは強くはないかなぁ…あ、でも北に住んでる知り合いの王族は近いかな…」

「王族と知り合いですか…」

「あ、後私は屋敷だと非戦闘のメイド達より弱いよー、最下層だね、ははは」

「はぁ…頭痛くなってきました…」

「いい薬あるよ?飲む?」

「頂けるのであれば…」

「きゅう、きゅう」

「はいはい、お前さんはご飯ね…」

 葵さんに薬を渡して、子熊には母乳を…

「性別を変えれるのは覚えてましたけど、出ますの?」

「今は出るね、やっぱコイツ遠慮なく加減もせずに吸い付くな…」

「まあ、詳しい話は家に戻ってからですね…」

「そろそろ空港につきますが…そのままじゃ無理そうですね、暫く待ちますね…」

 子熊への授乳は空港なる所についてもまだ終わらなかった…沢山飲むなぁ…


「これが飛行機です、離陸する際に揺れますのでこれで固定を、子熊は…抱きかかえておけば良いでしょう」

「本来なら動物は貨物とかそいう扱いになるんですけどね、これは自家用なのでそういうのは有りません」

「個人所有とか有るんだねぇ、後ほんとに飛ぶのこれ?」

「飛びますよ、それもそこそこの速度で」

「お嬢様、そろそろ離陸いたしますので…」

「わかったわ、じゃ、これで体を固定して。

一度飛んでしまえば外して大丈夫よ、次に着けるのは着陸前ね」

 身体を固定した後、乗っていた物が揺れ、少しすると確かに飛んでいた。

 うーん、不思議。


 途中子熊が粗相をしたりもしたけど、約5日ぶりに居候先に帰ってきた。

 あぁ…なんか安心感…

「続きを聞きたい所だけど、夕食を取りながらで良いでしょう。

簡単な物でもいいから用意をお願いできる?」

「少々お待ちください」

「あ、いろいろ買い込んだ食材が有るよ」

「…何を買ったので?」

「いやー、お腹を鳴らしながら港っぽい所を歩いてたら、気の良いおっちゃんに声をかけられてね。

その時蟹を御馳走になったんだけど、傷物で安値で卸すか売り物にならないって言うから蟹を全部買っちゃった。

足が1本2本折れただけで売り物にならないって変だよねぇ。

あ、魚も幾つかあるよ」

「そうですか…ではもう蟹鍋でいいですね、そうしましょう、そう決めました、あなた達も一緒に食べなさい」

「え、マジですか?ラッキー!」

「北直送の蟹…!」

「海産物!」

「焼いたの食べたけどかなり美味しかったよ」

「七輪も用意で…」

「わっかりましたー!」

「じゃあ私は蟹を捌いて来ようかね、後貝とか魚とかも、あ、子熊を見ててね」

「まあそれくらいでしたら」

「じゃあ行ってくる」

 いざ、調理場へ!

 またあの美味しい蟹を食べるのだ…


「まだ生きてますね…」

「ほぼかった時のままの状態だしねー」

「多いですね…」

「全部で6万円くらいかな?」

「かなり安いですね…普通これ1匹で2万円くらいしますよ?」

「そお?40匹くらいいるけど」

「足とかが折れてるだけでここまで安くなるんですねぇ…」

「普通足の1本や2本落ちた程度だとそこまで価値は下がんないけどね、可食部分が1.2本減るだけだもん」

「そうですねぇ、でも見た目の問題も有りますから…そのせいでしょうねえ…」

「ふーん、まあ美味しい物が安く買えるのは良い事だね、はい、蟹はもう後お鍋に入れるか焼くだけ。

貝も殻が割れてるから片側が無事な奴はそのまま焼いて、両面割れてるのはお鍋だね。

お魚はお刺身と鍋物で」

「手際良いですね」

「毎日100人分作ってればまあ誰でもこうなるかと?」

「そんな職場絶対御免こうむりますね」

 真顔で言われた…


「用意できましたよー」

「蟹、蟹はよう!」

「蟹!ホタテ!いくら!」

「少しは落ち着きなさい…」

「はい、蟹はお鍋でも焼いてもしゃぶしゃぶでも、貝はこっちが焼きでこっちがお鍋、お魚もこっちがお鍋で、こっちがお刺身、貝のお刺身もあるよー、しゃぶしゃぶにしても良いね」

「至れり尽くせりですか…」

「くまーくまー、お前はこっち」

 お腹を空かせているだろう熊に授乳を開始。

「あ、流石にいくらは無かったねぇ、がわに傷が入っていても中は大丈夫だからね、取り出されていたよ」

「残念…」

「では頂きます」

「召し上がれ」

 屋敷と比べるとそうでも無いが少し賑やかな夕食開始。

 熊の食事が終わるまでは私は動けないけどね。


「それで、情報を集めたのであらかたは分かっていますが、まず、恵里香の渡した携帯はどうしました?」

「携帯?ああ、大事に仕舞ってあるよ、一度もならなかったから特に心配してないのかなーって」

「今どこに有ります?」

「此処に」

 収納から取り出した携帯を渡す。

「着信履歴は有りませんね…」

「少なくとも100回以上は呼び出しをかけましたね、履歴はこちら」

 ずらーっと同じ物が並んでいる、最初に見せられたものと同じだね。

「携帯を一度閉まって貰えますか?」

「はいはい」

「恵里香、呼び出しを」

「…どうぞ」

「電源は入っていましたし、そもそも電波は入っていますよね…?」

「ですね、ただ仕舞われている所には届いてない様です」

「はぁー…携帯していても電波が届かないのではそれは確かに連絡をどうやっても取れませんよ…

次からはそこに仕舞わずに、ポケットやバッグの中に仕舞って置いてくださいね…」

「んんー?はいはい、便利なんだけどねぇこれ」

「便利でも此方から連絡が取れなければどうにもできませんので…」

 まあそう言う事であれば仕方なし。

「後よくよく見れば日付がおかしいですよお嬢様、時刻も渡した時のままほぼ進んでいません、それにバッテリーも…」

「もういいです…気にしないことにします…時計と日付は直しておきなさい…」

「はい」


「では次に、家を出てから何をしていましたか?」

「そうだねぇ、スーパーに買い物に行こうとして、同じような道と景色ばかりで迷って、別の景色の所に出たはいいけどちょっと疲れたから置いてあった椅子に座って休憩してて…

なんか大きな車が止まって乗れと言わんばかりにドアを開けて待っていたから乗り込んで…」

「この辺りにバス停は有りましたっけ…?」

「少なくともスーパーやその近辺には有りますが…」

「乗った所は建物も無い山奥だね、そこから暫く乗り続けていたら止まってドアが開いたからそこで降りた」

「山奥…と言う事はその時点ですでに隣の県にいたと」

「あー、多分ここですね、集落に住んでいる方が街へ行くときに乗っているバスです、位置的に木や坂の下で隠れて建物が見えなかったのでしょう」

「で、降りたところで何かキャーキャー言いながら話してかけてきた人たちを、言われた通りに無視して、スーパーを探して歩きはじめたはいいけど、お腹もすいてたし、時計が並んでるところを見るとお昼もとっくに過ぎてたし、適当に選んだ店に入ってー」

「最初の目撃者兼ストーカーですね」

「中に入ったらなんか怒鳴ってる店主となんか言ってる男達がいてー、椅子に座って醤油ラーメンを注文したけど何も出てこなくて、取り込み中だって言うから店を出ようとしたら出口を塞がれてー…

その後適当に聞き流してたら服を掴まれて、伸びるからって振り払ったらなんか骨が折れたらしい、それで治療費がどうだの何だのって言ってたから聞き流してー」

「詐欺師たちですね…もうこの世に居ませんので何も起こりませんが…」

「ん?あの人たち死んだの?」

「あなたに絡んだ当日の夜、海から水死体として揚がりましたよ、あなたが何かやったので?」

「何もしてないかなぁ?別れたあと何をしてたかも知らないし」

「なら結構です、どのみち事故死として処理されましたし…」

 お茶を飲み一息。


「次をどうぞ」

「次ねー、ああ…」

「何かありましたか?」

「有ったと言えば有ったし無かったと言えば無かった…?」

「取り敢えず話してみてください、こちらで判断いたしますので」

「そうねぇ…次に入ったお店の海鮮丼とか味噌汁とか、後蛸のから揚げが不味かった。

もう二度と入らないって決めた」

「そですか…」

「あれは酷いよ、丼はやたらと冷えてるし、切り身は薄いし味が変だし、味噌汁は塩辛いし、から揚げも粉っぽくて蛸なんてほぼ無いし、値段は安いか高いかは判断が付かなかったけど…」

「ちなみにいくらほどで?」

「1500円くらいだったかな?何か紙を渡されたから…これだね」

「海鮮丼980円、味噌汁120円、蛸のから揚げ480円のプラス税、ですか。

まあ普通のお値段では?少々高い気もしますが」

「少なくとも人に出していいような味ではないと思う…」

「他には?」

「そうだね…支払いを済ませて店から出た後、体当たりをされて服を掴まれて服が伸びた、仕方ないから振り払って弁償を求めたら喚いてるだけだったからもう放っておいてスーパー探しの再開をしたかな?」

「そう言えば貸した服と違いますね、貸した服は今どこに?」

「…怒らないでね?」

「怒りはしませんけど…」

「じゃあ、はいこれ」

「見事に穴だらけでつぎはぎだらけですね…胴体部分なんか下着を縫い合わせて1着に改造していますし…」

「ただでさえ穴だらけにされた所をさらにボロボロにされたからねぇ…おへそ丸出しだったから隠すために縫い合わせちゃった」

「まあ、構いませんけど、帽子も穴だらけですねぇ…」

「代金の請求は私を的にして遊んでいた人達にしてね?

スーパーを探しているだけなのに車で道を塞いでくるし、何か飛ばしてくるし…

飛ばしてきてたものも途中からゴムっぽい物から金属になるし、おかげで服はボロボロだし…」

「ふーむ…と言う事はこの時間は此処から…最後に映しだされていた場所まで移動と…

どんどん家から遠ざかって行きますねぇ…それもかなりの速さで…

ヘリも常に頭上から追いかけていたのであれですが…大体時速40から60キロですかね?

どういう足をしているんですか…」

「まあちょこちょこ休憩を入れていたし?

的にされてたのは休憩してた時だけど、歩いてる間はあまり的にされなかったなぁ…」

「これだけ早く動けばばら撒かないと当たらないでしょうね、民家に流れ弾が当たったのはこれが原因か…撃った側も撃った側でみんな頭に血が昇ってますねこれ、普通ならこんな市街地で実弾をばら撒きませんよ…何所の戦場ですか…」

「いやー、こうなると逆に笑えてきますねお嬢様、無実の被害者一人相手に市街戦、なんて何所の独裁者だって話ですよね、しかも負けてるし、もうギャグですよね」

「笑いたくても笑えませんけどね、相手が悪かったとはいえ、3桁もの人員を動員して逃げ切られていますし、現場復帰者はゼロ、奇跡的な状態で正気を保っていた人は…」

「ん?発狂でもしたんですか?」

「らしいですよ、銀色の物を見て完全に狂った、と報告が来ましたね、食事の準備中に」

「あちゃー…これでもう現場で何をやっていたかの詳細はこの方しかわからないと…」

「ですね、とはいえこちらはスーパーを求めて移動していただけ、壊滅させた後の行動は本人しかわかりませんね、続きをお願いします」

 恵里香さんは笑っているが葵さんは何とも言えない表情になってんね。


「うーん?そうだねぇ」

 子熊をあやしつつ何が有ったか、続きを話し始める。

「白黒の車や黒い車に付きまとわれて、落ち着こうとお湯を飲んだ時にカップが割られて、まあまだと、何とか落ち着こうとした所でもう一個割られて、その時飛んできたところを見ると建物の上で笑って入る奴がいたからちょっと怒って、割られたカップを同じ目に合わせて、同じ格好をしていた人達にオイタしちゃ駄目って飛ばして、近くにいた人もいい加減にしないと怒るよってやって、その時最後に残した1人に弁償代を請求しようとしたら変な声を上げて気絶した位だねぇ…」

「カップと同じ目に、ですか…」

「たまたま当たって割れたのなら仕方ないけど、2個目を割った時にニヤニヤ笑ってたんだよ?

それであー、わざとにやったんだなーって、それで人を狩りの練習に使う的やかかし扱いだけじゃなく、玩具みたいな扱いをされていると気づいて、それなら獲物なら獲物らしく反撃してやろうと」

「そう言えば生放送で映し出されていた時は急に姿が消えましたよね?あれは一体…」

「うん?相手の視界をごまかすのは狩りの初歩だね、こうやって相手の視界からまず消えるの」

「…消えましたね」

「わー…映画みたいに輪郭が辛うじてわかるような透明じゃなく完全に消えてますね…」

「別に動いてないから椅子に座ったままだけどね、子熊は此処にいるって気づいてるし」

「確かに椅子の周辺を嗅いでますね」

「まあ相手の視界から消えてるだけで匂いはそのままだしね、こんな初歩の所のにも対処できないから逆にビックリ、今まで良く生きてこれたなーって…」

「たとえば姿を消しただけの場合はどうなります?」

「匂いで場所を特定されて獲物に逃げられる」

「匂いも消した場合は?」

「心音を聞かれて襲いかかられる」

「むちゃくちゃですね…」

「まあ心音とか消す道具が流通してるから安全だけど」

「あるんですか…」

「あるよー、便利な世の中になったよね、私は原型だけ作って、そこから改良を重ねたのは狩猟を生業としている人達だけど」

「消せるのは心音だけ?」

「心音と体温、後は音波とか?蝙蝠みたいに音波で認識してくるのもいるから、今じゃ熟練者以外は必須だね」

「熟練者は無くてもできると…」

「野兎は視界に頼ってて聴力はあまりないから初歩さえできれば後は誰にでも?」

「その初歩がまず此方で出来る人が居ません…」

「ふーん」

「それで次、あなたを追っていたヘリが全て墜落しましたが、それについては?」

「ヘリ?」

「人が乗って飛んでいたやつです」

「あー、あれね、暗い中明かりを照らしてくれてるから裁縫したりとかは便利だったけど、寝ようとしても明かりを消してくれなかったから、光を出してた所を壊した、後は知らない」

「はぁ…まあこれに関しても追いかけていた人達が引き上げなかったのが悪いだけですね…

壊したのは光を出していた所だけ?」

「そだね、強い光で照らしていた所だけ」

「残っていた映像を見るにライトを割られたことによりパニック状態になり、操縦を誤って他のヘリとぶつかり、そのまま巻き込んで墜落…」

「そうなんだ?」

「無くなった方に対して残酷ですが、面白がって夜も強いライトで照らしていた方が悪いですね、相手を刺激するとは考えなかったのでしょうか」


 少し一服、その間に何度目かになる母乳を子熊に与えてのんびり…

「それにしてもまだ小さいせいか、可愛いですよねぇ…」

「大きくなってもそんなに変わらないと思うけどね」

 必死に母乳を飲む子熊を観察、このまま育てば…間違いなく親熊を超える立派な熊に育つだろう。

「もう名前は考えましたか?」

「私が付けると後で酷い事になるから付けてない」

「それは酷い飼い主ですねぇ」

「そもそも親熊が子に名前を付ける前に死んじゃったからなぁ…」

「親熊は名前が有ったので?」

「ローザベルって言うらしい」

「何で海外風の名前なんですかね…」

「さぁ…?人の言葉に直すとそれだから私に言われても…」

「まあ近い名前でも付けてあげればいいんじゃないですか?

後その子の性別は?」

「女の子、きっと美人さんに育つね、後親より立派になる」

「それならまあ、ロザリアとか…ローズでもいいんじゃないですか?」

「あまり私が付けるのも良くないんだけどねぇ…どっちが良い?」

 子熊に何方が良いか問いかけてみる。

「きゅう」

「こっちと、じゃあ今日から君はロザリアだ、短い間になるかもしれないけどよろしくね」

「きゅっ」

「ではここまでにしましょうか、これ以降の足取りと何をやっていたかは分かっていますし、後は纏めた物を相手側に叩きつけて逆に賠償を請求すれば終わりですね。

多分明日明後日辺りにテレビできっと面白い物が見れますよ」

「テレビの使い方が…」

「…恵里香に頼んで一緒に見てくださいな、後これは分かるんですね…」

「こういうのが有るし?」

 何時でも何所でも高解像度で再生、便利な録画撮影機能もついているお手製の撮影機材。

「何ですのこの小さな箱?」

「これをこうするとね」

 海を渡っている途中からの映像が映し出される。

「どうなってますのこれ?あなたを後ろから撮っているようですがこれは…」

「これをこうすると」

 映像が私の視点に変わったり、正面に変わったり、これ便利なんだよね。

「何で最初からこれで記録を残さなかったんですか?」

「海を渡っている時に後ろから聞こえてきた撮影って言葉を聞いて、あぁなるほど、記録しておけば来た道を迷わず戻れるなと…」

「はぁ…頭が…痛くはなりませんが、最初からそうして置けば良かったのでは…」

「んー、これは容量がちょっとねぇ…精々10時間程度しか記録できないし…」

「なら家から出た後記録を開始しても途中で切れてますね、切れた時に引き返せばよかった気もしますが」

「まあ過ぎてしまった事なので仕方なし、ロザリアもそう思うよねー?」

「私達はお風呂に行きますがどうします?子熊を連れて一緒に入りますか?」

「あ、そうだね、ここ最近身体は拭いたりしてたけどお風呂に入ってないや、ついでにロザリアも綺麗にしちゃおう」

「ではお風呂に行きましょうか、そしたらもう今日は寝るだけです、明日の事は明日話しましょう、もう何もする気が有りません」

「明日も何かあるの?」

「ロザリアを飼いますのでその申請を、流石に何の保証もなく連れ歩いたら射殺されちゃいますよ」

「それは困るなぁ…」

「なのでそれの手続き、それと今日までに有った事の報告書の提出等々、やる事は山積みです…」

「ご苦労様です」

「あなたのせいなんですけどねぇ…はぁ…こういう時に限って頭が痛くならない…」

「薬良く効くでしょ?」

「もう今後頭痛などが一切起らないと思えるくらいには効いてますね…」

 まあ実際にもう頭痛などに悩まされることはないけどね。


「くっ付いた雌が消えたと思ったら新しい雌とくっ付いた…?」

「どういう事で?」

「何やら別れを告げたような気がしましたが、今度は新しい雌がくっついたような気配?」

「よく分からないね…」

「それも今度はかなり若い雌の気配がしますね…これは望んだ展開が有りえるかもしれません…」

「あー、つまりはそう言う事をしている所に踏み込めると?」

「可能性は高いですね、まだどう転ぶかはわかりませんが」

「で、実際にしていた場合は?」

「この泥棒猫!それにあなたもやっぱり浮気をしていたのね!

といってからわちゃわちゃした後、ご主人様と一緒にお持ち帰りですね」

「増えるのは1人でいいのかなぁ…」

「まあ空き部屋なら幾らでもありますので」

 狐さんのごっこ遊びはまだ終わらない、狐さんのセンサーがまだその時ではないと告げているから…

 後、人ではなく熊に反応しているの意外とポンコツなセンサーかも知れない…

ラーメンと海鮮丼

文字が分からないのになぜ注文できたのか…

単に食品サンプルを見ただけである、蛸のから揚げは他の客が注文してたの出た同じように頼んだだけ

文字は違えど同じ物がある、言葉は通じるのでちゃんと注文できてる


時計

数字は違えどアナログなら針の位置で大体わかる、アナログだと違うのは本当に数字だけ

デジタルはさっぱり


数字

絵柄などでこれが1万これが5千と認識してる

支払いなどは言われた数字より大きい額を渡してお終い


テレビ

似たようなのは有るけど作りが違う、使い方が分かりません!


記録媒体

メイド達もみんな持ってる便利なやつ、その空間で起こったことなどを記録しているのでスカートの中だって後から覗けちゃう

ただ映像なのでスカート捲りなどはできません、でも好きなだけ拡大してみる事は出来る、何所まで拡大しても荒くならない


親熊

人を襲っていると勘違いされ漁師に狩られた

最後に子供を守り、ご主人様に子供を託して死亡

大きかったので剥製にされて見世物にされてる

名前がなぜか外国風、純粋な島国生まれ島国育ちなのになぜ…


子熊

大きく育つためにいっぱい母乳を飲んでる

親熊に近い名前を貰った、既にご主人様以外の言葉も通じているので頭は良い


いくら

イクラは無かったんだよ…外は傷物でも中は大丈夫だったから…

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