手作りだからこそ 泥沼化は確定
「かっ…ら!ボスー…このチキン辛すぎじゃない?」
「だからメニューにホットチキンって書いてるじゃない、本場の物と違うアレンジだから辛さはまだましだけどね、本場はチリパウダーを塗してそれを衣代わりに揚げるから、油自体がかなりの辛さになってさらに辛い、これは中華風ホットチキンということで豆板醤とコチュジャンを塗り込んで衣は天ぷら粉、油は豚の背と鶏の皮からとった脂の混合油にネギとショウガと八角で香り付けをした物。
だから辛いだけじゃなくちゃんと美味しいし色々拘ってるのよー?それに豆板醤も辛さ控えめの物を使ってるから一気に食べなければそれほどよ」
「美味しくて一口食べると止まらないんだよこれ…」
「カプサイシンによる辛みというか痛みは蓄積していくしね、どうしても我慢出来ないという場合はミルクシェイクを追加で注文してねー」
「くぅー…バナナシェイクを1杯追加で!」
「まいどー」
んーむ、今日も今日とて屋台の売り上げは悪くなし、冷たくて甘い物だけじゃなく食べれる物をという要望に応えてホットチキンも追加してみたけど、辛さというか痛みを紛らわせるために1人で2杯も3杯もミルクシェイクを買ってくれるので…
「あー…火事になってる口の中がバナナシェイクで癒されていくー…たこ焼きとか焼き鳥でいいところをなんでホットチキンを選んだし…」
「暑い時こそ辛い物、カプサイシンで発汗させて甘く冷たい物を流し込んで体を冷却、実際にやるとそれほど体にはよろしくないけどねー、後たこ焼きとか焼き鳥は周りの屋台でも出てるし、から揚げとかも売ってるには売ってるしね」
「ボスの屋台と違って向こうの屋台はたこ焼き6個で800Pも取られるから利用しづらいのよ、焼き鳥も1本500はするし、から揚げも大きさはそれほどなのに3個で500だし。
その点ボスの屋台なら常に安い、ドリンクも1杯100Pで食べ物が出た時も周りの倍以上で高くても200P、どこで買うかってなればここになるでしょー、後ボスの真似をしてミルクシェイクを売りに出した屋台は小さいコップ1杯で200Pで高いし薄いし」
「まー、うちは材料を基本的に市場で仕入れず自前で用意した物だし、手間賃とかそういうのは全部省いてるしねぇ、この値段とこの量で売っても十分黒字になるのよー、その分気が向いた時にしか出さないけど」
「昨日は屋台出てなかったしなぁ、周りの屋台は場所取りがあるから場所は変われどほぼ毎日営業だけど」
「一昨日は思い付きでなんとなく、昨日は1号とゲーム実況、今日は何となく屋台」
「さて、そろそろ斡旋所に行って何かいい依頼がないか探すかなー」
「はいはい、お仕事頑張ってねー」
「それと…なんでアロハにサングラスなんすかね?」
「夏っぽいから?」
「どう見ても下っ端のチンピラにしか見えないっす」
ホットチキンの売り上げはぼちぼち、チリパウダーを使った物よりはましだけどちょっと豆板醤を使いすぎたか…まあ売れ残るって事は無いだろうし、客足が止まっている間にちょっとフライヤーのお掃除、衣として天ぷら粉をがっつり真っ白になるまで塗しているのでどうしても油を吸った粉が底に溜まるのよねぇ…
準備中の札を出したらフライヤーのお掃除をしつつポリバケツに砕いた氷を追加、今日は一昨日と違ってホットチキンのおかげでシェイクが単純に倍からの量が出ているし、ポリバケツ5つ分の氷くらいならまあすぐなくなるよねって。
フライヤーを乾かしている間に追加のブロック氷を裏から引っ張ってきまして、氷を割るための道具でガツガツ叩いて程よい大きさにカット、粉砕機に入れて砕いてはポリバケツに移して…時間的にもう2つか3つ分…午後から来る人も居るには居るけど、午前中に比べるとそれほどでも無いので…2つ半くらいにしておくか。
氷を砕き終わったらフライヤーの乾いてない部分を吹いて水気をとりまして、油を注いで再度熱したら商売中の札に変えてのんびりお客さんが来るのを待ちつつ、午後の分のホットチキンを低温で揚げて火を通して準備は完了と。
注文が入り次第油に放り込んで1回で火を通してザックザクにして、肉も少々固めにしても美味しいと言えば美味しいけど、注文を受けてから出すまでの時間を考えるともう表面だけを高温で一気に揚げればすぐ出せる状態にしておくのが基本よねー。
さてさて、準備は完了すれどそうすぐに雪崩れ込んで来たり行列が出来るわけでもなし、今のうちに軽くお昼を食べるとしまして…とは言ってもホットチキンとシェイクくらいしかないので、チキンを二度揚げしている間にシェイク作り。
ミキサーに氷をがさっと入れてミルクもコップ一杯分、ペーストにシロップ練乳と入れたらしっかり混ぜつつ二度揚げをしていたチキンを回収して油切り、ジョッキに混ぜていたシェイクを注いだらお昼の出来上がりと。
んー…この表面がザクザクとしつつも中は柔らかジューシー、屋台料理という事で少々濃いめにした結果若干辛くなりすぎてはいるが…このくらいの方が丁度良いと言えば丁度良いか、冷たいミルクシェイクも売ってるし、シェイクの売り上げを伸ばすには辛い方が都合はいい。
でもお昼として食べるならパンくらいは買ってくる方がよかったか…チキン1つだけだと今一お腹に溜まらないのが何とも…客足が止まっている間に他の屋台で何かを買うのも有りだけど…うぅむ…まあいいか、多めに用意はしてあるからもう1つ2つ揚げて食べればいいや。
というわけで追加で2つフライヤーに放り込んで表面をザクザクにしつつ、ミキサーに氷にシロップにと入れて追加のシェイク作りましてー…よし、お客さんが来るまではチキンを食べつつシェイクをちびちび飲みましょ。
「これ今日の収支報告書、ホットチキンと合わせて一昨日の5倍くらいだね」
「1つ当たりの儲けは少ないので5倍になったところで微々たる物ですね」
「かといって値上げしてまで稼ぐ必要はないしねぇ…魚介類を市場に卸したり輸出するだけで毎月2000万くらいは行くし、斡旋所で高額依頼を受ければ億くらいはポンッと入ってくるし、趣味とか暇潰しでやるような物はどうしてもこうなるよねー、とりあえず元が取れれば十分というか儲けに走る必要がないというか、さすがに養殖場のブランド品を使う場合はそれなりに貰うけど」
「それはそれで屋台で出すような値段にはならないので赤字にしかならないかと」
「屋台の値段に抑えようとすればかさましに次ぐかさましで欠片程度しか入らず、そのまま出すと数千と屋台で出すような値段にはならず売れず、値下げしてもそれはそれでやっぱり赤字でいいところ無しってのがまた何とも。
あ、売れ残ったチキン食べる?ちょっと味付け失敗して予定より少々辛くなってるけど」
「いえ、今は遠慮しておきます、もう少しすれば夕食ですし、夕食のおかずの一品として出せばよいのでは?」
「おかずとして出すほどは残ってないのよね、4枚しか残ってないからおかずとして出す場合は追加で作らないとーって感じ」
「まあ私は必要ありませんので、小腹がすいている娘に上げればいいんじゃないですかね?」
「そうねぇ、とりあえず揚げるだけ揚げておいて小腹がすいた娘は台所に集合って言えばいいか」
「あー、シェイクの材料が余ってたらなにか1杯ください、ずーっと頭を使いっぱなしで甘い物が欲しいので」
「じゃあ余ってる材料で作ってくるね、残り方が微妙だからミックスになるけど」
「それで十分です」
「あー…確かにこれは辛いねぇ…屋台かつシェイクと一緒に販売なら丁度良いくらいだけど」
「ま、たまにはこういう事もあるってやつだぁね、塩辛いというわけではなく味付け自体はばっちりなんだけど、豆板醤がちょっと予想より辛すぎだったというか」
「豆板醤に使う唐辛子も辛さが安定してるわけじゃないしねぇ、市販品は全部混ぜて均一化してるから大して変わんないけど手作りだとねぇ」
「加工する前に確認はしてるけど全部じゃないしねぇ、辛さが上振れするとどうしようもないね、味見せずに使用したのも悪かったんだけども」
「チリパウダーを使った方のホットチキンだと食べれない人が続出しただろうね、あっちは豆板醤の比じゃないくらい辛くなるし、中華風ホットチキンでよかったといえばよかったんじゃない?」
「だねぇ、辛いとは言ってもそれほどというくらいで収まってるし、ミルクシェイクを飲んだらすっきりする程度だし、一気にがっつかなければまあそんなに?」
「でー、代理戦争についての話題はどうだった?ログを漁ればどこで誰が何を言ってるかはすぐわかるけど」
「まだかなーって人が7割くらいであったら面倒だなーって人が1割、まあ関係ないなって人が2割くらいかな?私の屋台に来た人に関してはーだけど」
「勝てば一時的にとはいえ色々安くなるし、敗戦国に対して色々高値で売れたりするからねぇ、単純に戦いを求めているプレイヤーも多いだろうけど、闘技場に出てこないだけで強い人はその辺中に居るし、こういうイベントじゃないと出てこない人もいるしね、最近嫉妬で命を狙われ始めた某エンジョイ忍者とか、掴める物なら何でも武器にするお嬢様とか、あの辺りはこういう大きいイベントじゃないと対人なんてやらないからねぇ」
「今年はどの国が勝つのかねぇ?」
「さぁ?人口が一番多いのは戦勝国であるこの国だけど、傭兵団とかじゃなくて商人とかで税金が多めに取られても稼げるからって移住してきた人達が多いし、戦力でいえばあまり変わってないからねぇ。
自分の稼ぎにしか興味がない商人は物資の供給もしないだろうし、去年と変わらず最初は拮抗状態、傭兵なんかの流れをどれだけ抱え込めるかで少なからず差が出てきて、後は人間を辞めてるのがどれだけ引っ掻き回すかかな?」
「以前に比べたら増えてきてるし、現代兵器ももう何の役にも立たないだろうし、どれだけ戦場を引っ掻き回せる人を抱え込めるかになりそう…な感じかなぁ?」
「ミサイルやロケットくらいなら投げ返されるのが落ちだしねー、出来るのはまだそれほど居ないから一部有効ではあるけど、軍人さんは前回ほどは活躍しなさそうだね、戦車とか戦闘機とか爆撃機とか真っ先に狙われるだろうし」
「それ以前に戦闘機やらなんやらでその辺を飛ぼうものなら翼竜やらなんやらに落とされるから、それをどうにか出来ないと去年と同じ様に使い物にならないね、戦車は道中で変なのに絡まれなければ運用出来るけど。
しかしあれだねぇ…今年はどこまで攻めていいようにしようかなぁ…去年より1つ多く先に進めるようにするかそのままか、あくまで代理であって物資の用意から防衛から何まで全部プレイヤーがやる事だから、範囲を広げすぎても手薄になったところを攻められてで色々大変で楽しむどころじゃないからねぇ。
その辺のバランスと考えると去年と同じにしておくか、成長に期待してちょっと広げるかってのがねー、1回死んだら終わりってわけじゃないし、制限をかけてゾンビアタックは無理にしてるけど時間をおけば何度でも総攻撃が出来るわけだし、そもそも勝利条件が無いし泥沼化は確実だから中々」
「範囲の決められた領土の奪い合いってそんな物よね」
「範囲が決められてるからこそ互いに降伏はあり得ない、砦を取ったからと言って一定時間不可侵になるわけでもない、そう言ったルールを作るならそっちで勝手にやってねって感じだし、去年は最終的に砦に所属する国の旗を立てて、違う国の旗が立ったら何時間は不可侵ってやってたしね。
んー…そのプレイヤールールを前提でやるとするなら広げてもいいっちゃいいけど…そもそもルールを守るやつなんてそれほど居ないしなぁ…最終日近くになって疲労困憊になってれば別だけど、開始してしばらくはそんなの知るかって感じで各地で陣取り合戦が始まるから…
広げる必要は特にないか、広げたところで去年と同じ範囲までしか行けない気もするし、移動時間も増えるしで限界があるしねぇ」
「砦の最寄りの村、または町までは馬車もしくは転送先に登録していれば転送装置ですぐ行けるけど、砦までは徒歩での移動になるし、当然戦争中は敵国へは馬車とか転送装置で移動出来なくなるし、範囲を広げると移動だけでイベントの半分が終わったってなりそうよね」
「そう、だから去年と同じままでいいかなーって、よーし、イベントの範囲を決めたところで…」
「決めたところで?」
「シェイクのお代わりを要求する、ミックスで」
「はいはい、とは言ってももうバナナとマンゴーしか残ってないけどね」
「それで十分よー」
中華風ホットチキン
チリパウダーの代わりに豆板醤を塗りたくって辛みを付けた物、真っ赤になるほど付けなければそれほど辛くはならない
豆板醤を作る前に唐辛子自体の味見はしていたが…味見したものより辛いものの割合が多く上振れ、かつ少々使いすぎた結果思ったより辛くなった、でも屋台料理としては丁度良いくらい




