旅行終了 土産話はほぼ無し
「おー、おかえりー、予定よりちょっと早い感じ?」
「早いって事もないだろ、なんだかんだでもう15時だぞ、午前中は兄さんが注文した土産だなんだと受け取りに回ってたし、昼から夕方には戻ってくる予定だったから大体予定通りではあるぞ、とりあえずこれが注文のパインと兄さんからの土産な」
「せんきゅー、あそこのパインの缶詰とか瓶詰美味しいんだけどこっちで買うと1つ2500円とかするんだわ、沖島本島でも1000円くらいするから安く買うなら現地よ」
「ポーク缶もなんかこっちだと高くなるって言ってたな、向こうだと1缶100円からの物がこっちだと500円から600円はするとか」
「こっちの店に並ぶ頃には送料が上乗せになってるからね、どうしても値段は跳ね上がる、特にここは沖島からかなり離れた位置にあるでしょー?その分値段がどんどん上がっていくのよ、逆に北の大地はほどほどに近いからそこの特産品はちょっと安い。
でー、兄さんの土産は…結構手堅い感じか、沖そばセットにソーキセットに車麩とポーク缶、当たりもなければ外れもない」
「置物よりこっちの方がいいっちゃいいだろ、置き場所に困る事がまずねぇし」
「まぁね、ところでなんか面白い物は釣れた?」
「そうだなぁ、船フカセでGTは釣ったぞ、190ちょいで120キロくらいのやつ」
「お前バカだろ?」
「バカじゃねぇよ、釣れたんだから仕方ねぇだろ、現地でやってる大会だとフカセの対象外なのとその場ですぐリリースしたから記録には残ってないが動画には残ってるぞ。
でもそうだなぁ…一番でかいのを釣ったのはヒルダだな、同じ様に船だがタイガーシャークの5メーターオーバーで軽く3トン超えてるのを釣った」
「それ地元メディアが押し寄せてくるやつじゃね?」
「サメを引き上げた翌日漁港の方に押し寄せたみたいだな、剥製にはならんだろうが歯はどっかの博物館にでも寄贈されるんじゃねぇか?後引き上げるのに重機を何台も引っ張り出したり、釣ってすぐエラを切って血を抜いてるのにまだ生きてたりで漁師がビビってた」
「そらビビるわ、大きさもそうだが生命力も規格外となるとなぁ…生きてると暴れるし危ないだろうし」
「それ以外だと面白いのは特にねぇかな?タカムラが言ってたカンムリブダイも60くらいのが2匹くらいしか釣れてねぇし、ホテルの堤防もちょっとしたトラブル場が荒れに荒れて最終日までほぼお通夜状態だったからなぁ」
「サメにでも食われたか?」
「何ぼか食われて何ぼかは散って逃げて行った、自然的な物なら兎も角人為的な物だったらしいからなぁ、ノエルがキレて色んなところに電話を掛けまくってたよ」
「人為的ねぇ」
「兄さんが言うには沖の方から遊漁船が入ってきて、撒き餌として魚の血と内臓を捲きまくってさらにサメを引っ張りながら進入禁止区域であるホテルの敷地内に入ってきて、サメのいる場所からずーっと撒きながら来てたから導線が出来て、翌日には餌が大量にいるホテルのビーチから堤防に至るまで軽く100匹を超えるタイガーシャークがな、それで荒れに荒れてせっかくコツコツ餌を撒いて作ってたポイントが台無しよ。
当然ビーチも危なくて泳げたもんじゃないから完全に封鎖、宿泊客の一部も独自で関係者を洗い出して圧力をかけまくった…らしいぞ?なんかレストランでやたらと電話をかけてるやつらがいたしな」
「なるほどねぇ、不法侵入と密漁者による人災か」
「それで兄さんは200キロクラスのイソマグロを引っ張ってこられたサメに食われたらしい、密猟者も警告は聞かずどんどん投げるもんだから絡まないように誘導してってやってるうち逃げ場がなくなってぱくっととのこと、それでひよこも怒ってた、頭だけは回収出来たみたいだから兜焼きにしてくってたが」
「その時ジュリアはいなかったん?」
「ヒルダと前日から泡盛を飲んで二日酔いで倒れてた、だから現場には居なかったんだよな、ノエルとひよこは現場に居たみたいだが」
「なるほどねぇ、しかし遊漁船やってるなら普通は進入禁止区域とか知ってるだろうに」
「追い出されて他所から流れてきた流れ者だったらしいぞ、利用していたやつも沖島の住民じゃなくて休みを取って釣り旅行にきてたやつとのこと、警告を無視してる時点で相当アレなやつらだったのは確かだろうな、全員海保に密漁の現行犯でしょっ引かれていったってノエルから聞いたし」
「ルシエラカンパニーの敷地内に不法侵入するのは勇気とか無謀を通り越してもうただのバカだよなぁ…さらに密漁とサメの人為的に引っ張ってきてビーチ封鎖で営業妨害、賠償億じゃすまんだろ」
「遊漁船を所有してた会社は情状酌量の余地ありで無罪、その代わりこれから雇う時はしっかり身辺と履歴の調査をしろとのお達し、船長をやっていたやつは密漁でまず3000万、さらにサメを誘導してきた事による営業妨害で封鎖していた機関の被害額に駆除費用、新たなサメ除け設置費用で大体合計で7億くらい、釣りをしていたやつは密漁やらなんやら上乗せされて1人あたり最終1億ちょいらしいぞ、ついでに休暇の邪魔をされた上層階の宿泊客が各所に電話を飛ばしてどうのこうのやってたから、言い訳するまもなく解雇されてるんじゃねぇか?直接関係はなくても間違いなく他の会社にも圧力をかけて簡単に潰せるような感じのやつらだったし」
「利用出来る人が限られていてかつ利用者以外立ち入り禁止には色々と訳があるってやっちゃな」
「知らなかったで済まされる様な物でも無いしな、そうは見えないのばっかだけど」
「その辺にいるただのおっさんにしか見えないのがどこかの財閥の当主だったとかちょこちょこあるからね、恵里香ちゃんの山の麓の商店街の人達とかもろにそれだし」
「パッと見は寂れた商店街で店に居るのもただのおっさんおばさん、服装もなんか草臥れてたりするけど機嫌を損ねたり敵に回すのはダメみたいだな」
「まあそもそも見た目で判断して喧嘩を売る時点で間違えてるんだけどね、取りあえず今日の夕食は沖そばと車麩とソーキを使った煮物だな」
「俺は向こうで揚げ車麩ってやつを食ってきたぞ、生産数の問題で土産に出来なかったらしいが美味かったぞ」
「油麩じゃなく揚げなのか」
「兄さんが言うには物自体は揚げ麩とそれほど変わらんらしいぞ?ただ揚げる時に使ってるのがラードらしい」
「ラードか、沖島らしいといえば沖島らしい新しい物か…?」
「兄さんはそれをさらに唐揚げにしてたな」
「そりゃ美味かろう」
「美味かったよ、欲しければ自分で作るか現地で買う事だな、完全に地域限定の生産量で500本用意するのは無理って言われたみたいだからな」
「500で無理ってなるとかなりの少数生産だな、それに普通にラードで揚げただけだと冷えた時に脂が固まりそうだが…」
「揚げ車麩は固まってはなかったぞ、固まらない様にする工夫がどうのこうの、でも家で食べるだけならそのまま普通にラードで麩の生地を揚げて膨らませばそれっぽくはなるらしいぞ」
「企業秘密とかそういうやつか」
「ところでバイト2人とハナイはガイドか?」
「いや、花井ちゃんは2人を家まで送って行ってるよ、バイトはもう終わったし、今日中に帰らんと明日からまた学校だしね、何か用でもあった?」
「特に何も?ナカムラから何か伝言を預かっているわけでもなし、個人的な土産があるわけでもなし、土産自体は兄さんが2人の家に発送してるし…うん、よく考えても何もないな」
「まーなんにせよ明日から通常営業、強いていえば学生の客が減る分ちょっと楽になる程度だな」
「この店そんなに忙しくなるか?」
「なるよ、世界一とも国内一とも言わんけど、売り上げだけでも大型店舗3つ4つ分は毎月叩き出してるんだぞ?なんだったらハイエンドも年間で大型店舗の5倍以上からは売ってるからな?ゲームだのなんだのと違って行列が出来るのは極稀ってだけで」
「まあ、釣り具を並んで買うって事は早々ないよな、ちょっと不足した物の買い足しが基本だし、そうポンポン買い替えたり新しい物が出るたび買いに行ったりするわけじゃねぇし」
「新しい物が出るたび買い換えてたらお金も場所も足りなくなるしね、中には新しいのが出たら今使ってる物を売ってすぐ買い換えってする人もいるけど」
「その辺はもう人それぞれ、少なくとも私は当分買い替える事は無いだろうな」
「アルマディンを超える物はもうほぼ出ないと言ってもいいんじゃね?あれ以上はもう使う側が耐えられん、大型リールの30とか40キロでも人が吹っ飛ばされるのに軽くそれを超えてるからなぁ、ロッドも当然その100キロフルロックに余裕で耐える設計だし」
「強度性能ともになんにでも使っていける、値段以下の物が多い中あれは値段以上といえるわ」
「ネレイドとワールドとレッドウルフは基本的に値段以上の性能よ、ぽっと出のところと違ってノウハウから資金力からテスト環境まで違いすぎるし、開発にかけれるお金も文字通り桁違い、動画配信者に道具を提供してここの竿はまじでいいとか、強いとか安いだのなんだのと言わせて無理やり販路を広げようとしてるところもあるけど、絶対に超えられない壁という物は確かに存在するからね。
例えば国内だとミッドナイトってところが2万前後で安くていい竿だーって評価になってるけど、性能でいえばネレイドのやっすい5000円くらいで出たエントリー、あっちのほうが上なのよね、それくらい差が酷い、というかもう絶対に埋まらないし越えられない、使ってる素材からして違うからどうにもなんない、レッドウルフ製品になるともうオーバーキル」
「もうどうしようもなくなってる状態で誇大広告みたいな感じで売るのってどうなんだろうな?」
「参入してこようとする気概だけしか買えないのはよくある事ではある、でもまあどんな物にでも固定ファンがつくのもよくある事だし、露骨に他メーカーの物を下げたり超えたとか言って宣伝しなければいいのよ、細々と作ってついてきてくれるファンに向けて今作れる最高の物をお届け、そうすれば別に誰も何も言わない、でもたまに売り上げが伸びないからって動画配信者を使ったりそこの社員が一般人を装ったりして他メーカーのネガティブキャンペーンに走るのもいる」
「それはいかんな、私の国でやったら一発で裁判沙汰になるわ」
「この国はそういうとこ結構緩いからねぇ、それで以前はマーメイディアとかワイバーンのネガキャンやってる配信者がそれなりにいたのよね、まあ動画はチャンネルごと消えたし、そいつが贔屓にしてたメーカーも消し飛んだけど」
「消し飛んだのか」
「そりゃねぇ…お値段以下で当時はまだマキシマか、そのマキシマの5000円のリールと大差無い物をハイエンドとして7万で売ってたでしょー?その上で意図的にマーメイディアはゴミだのワイバーンは高いだけの子供だましだのって動画で言いまくってたでしょー?
それで敵を作りまくってたのと、色々他社からテスト中の物を窃盗したりコピー商品を作ってたりしてたから訴えられて完全に消し飛んだ」
「何とも救い様の無いところだな」
「救い様の無いところだから警告も無視してネガキャンを続けるわコピー商品も作り続けるわってしてたんだよ」
「こういうところに関しては訴訟大国万々歳みたいなところがあるな、そういや大会に出るとか言ってたのはどうなったんだ?」
「そりゃもちろん優勝したに決まってるじゃん、予選も1位本戦もダブルどころかクアドロプルスコア、ありゃもうしばらくどころか記録を抜かれる事は無いな」
「ちっとは加減してやれよ」
「やだよ、天ぷらと刺身が食いたかったし、加減して小さいのを釣る意味がない、予選と本戦で釣ったキスは刺身と天丼で美味しく頂いてやったわ」
「2位との差はどれくらいなんだ?」
「2位が5匹で74センチだから差は270くらいかな?私は10匹で341センチだし、余程の事がない限りまず抜かれないわ」
「ひっでえ差だなぁ…まわりのやつはそんなに下手なのか?」
「道具だけ良くて基本的な釣り方がわかってないからどちらかといえば下手、私の真似をしようとしても竿長すぎリールでかすぎ重り重過ぎ針小さすぎでそもそも勝負にすらならん、でもまあ来年はましになるんじゃね?お手本の様な釣り方を見せたわけだし、場所によっては遠投するのも間違いではないけど、常に遠投するのは間違いだし大型化してる時期になんでわざわざ小さい針で小物を狙うんだってな」
「まあ、そうだよな、でかいやつを狙うのに小さい針を使う意味は分からんな、沖島で釣りをしてた時も小物狙いの時以外は40とか50号のクエ針だったし」
「小さいのでも刺さらん事は無いけど限界はあるからね」
「さて、なんだかんだもう5時が近いし帰るか」
「はいはい、お土産ありがとねー」
「瓶詰はわざわざ現地に行って買ってきたんだから感謝して食えよ?」
「生産者に感謝しながら食べるわ」
見た目で判断しちゃダメな人達
一番身近なところだと麓の商店街の方々、旅行先で出会ったのだと上層階に宿泊している方々
出るところに出る時はちゃんとビシッと決めているので完全オフでもない限りは大体見た目で判断出来る




