たぶん最後 かなり緩い条件
「あー…ここで釣りをするのも今日が最後か、時間はいくらでもあるからいつでも来ようと思えば来れるが」
「俺は休みが明けたらそんな余裕はないからいけて近所か1号湖までだな」
「時間がいくらでもあるとは言っても働いてないわけじゃないんだぞ?むしろ宣伝とかテスターは時間があるからこそ出来る仕事だからなぁ、傍から見たらただ釣りをして遊んでるだけにしか見えねぇけどな」
「娯楽関係は大体そうなるよね、ゲームにしてもテストプレイは立派な仕事なんだけど、外から見るとどうしても遊んでるだけにしか見えないっていう」
「お前らが使っている仕事用具その他道具にせよ設計開発テストとやって製品として売られてるんだから、娯楽向けの品であろうがなんだろうがそこに違いはねぇよってな、釣りは娯楽で遊びだから仕事じゃないっていうやつもボチボチいるが、そういう仕事をしている奴らがいるからこそ今世の中に出回ってる日用品から実用品、娯楽品まで色々と買えるんだぞーってな」
「身も蓋も無い事を言ってしまえば野球にせよサッカーにせよただの遊びだからね、スポーツがどうのこうのとか世界がどうのこうのとかいうけどやってる事自体はお遊びなのよ、今やってるこれもお遊び、でもそのための道具を作る人がいればそれを宣伝するための人も必要、結果として娯楽にもプロにテスターにアドバイザーにといった職業が生まれる、ざっくりいえばだけどね」
「そして私の仕事はテストとちょっと古い型の物を良さを再認識して貰う事、ルアーは毎年新しい物新しい物なって行くわけだけど、逆に言えばどんどん魚が慣れていってるから新しい物になるわけで、そういうところにちょーっと古い型の物、色がどぎつい物だったりなんか形が今より洗練されてない物を使うとよく釣れる、そうやって在庫で倉庫に積まれてる作りすぎた古い物を宣伝して出荷数にブーストをかけるのよー?
まあ今はそういう古いのは全部廃棄処分されてるけどな、ルアーを作るためのマテリアルが自然分解性のキチン製の物になったし、環境がよくなって来る分分解出来る物にして売れーって声がぼちぼちあってなぁ、自然分解のプラだと20年近くかかるし、ちょっと長すぎるぞって事でより早く分解される素材にねー、だから今は古い物を宣伝といったものはお休みだな、その分テスターとしての仕事は山積みだが」
「なるほどねー」
「ただ釣りをして遊んでる様に見えてもただ応募して一時的なテスターになる人と違って、ジュリアさんの場合はここを改善した方が良いだの、ここはこのくらいは有った方が良いんじゃないかとか、実戦で使って色々考えないとダメだから頭も使うしそれに対する知識やら経験やらも必要。
使用した時のタックルやコンディション、どこを狙って何が釣れたかだけじゃないのよー?私とか空いた時間で恵里香さんがやってるテストも大体それ」
「最近は技術も進歩してるから設計とデータ上ではこうなってこうなりますってのは大体出せるんだが場所によってはそうもいかんからな、やっぱり最後は人の手で使って確かめて調整するしかないのよ、世界中の海水と淡水に前日に雨が降ったか雨が何日も降ってないか、風がどうの流れがどうの魚がどうのと全部演算できりゃその必要もないけどな」
「そこまで考えれる経験も頭も俺にはねぇや、ただ遊びでやる程度だしな」
「普通に釣りをするだけのやつはそのくらいでいいんだよ、ちょっと気になったら自分で手直しするくらいだな、簡単な手直しとしてはこういうがっつり塗装されたやつをサンドペーパーで削ってわざと半透明にしてそのまま使う、磨きすぎると塗装以外の部分が削れるから軽くだな」
「それも魚が慣れてるとかどうとかってやつか?」
「そうだね、ルアーの種類の数はあれど色はどうしても似たり寄ったりになるし、皆色んなのを使うからだんだん慣れて警戒してくる、そこでわざと塗装を削ってボロボロにすると他の物とは違う見え方になるから興味を引ける、後は魚の気分次第」
「ナカムラがそうだったんだよなー…オールスターズに出た時の優勝ルアーを見せて貰ったけど塗装をボロボロにしてんの、別に持ち込みは禁止されてないから問題ないんだが…時間の許す限り1回でも多く投げろっていう大会でこのくらいか…いやもうちょっとかなー?ってのんきに削ってたんだとよ、それもちょっと場所を変えるたびに20分とか30分もかけて削って投げるのは10分だけっていう」
「広い湖なんかになると場所がちょっと変わるだけで生態系も微妙に変わってくるからね、それに合わせてカスタムかつ大きいのだけが釣れるように調整してたって感じじゃないかな?ただ釣るだけならノーマルでいいけど、大会で勝つとなれば…だろうね」
「それで実際に無敗なんだからやべぇわ…毎回削るのかといえばそうでもないし、完全にその場その場に合わせて最適解を出してる感じ、簡単に言えばその湖のその場所だけでしか使えないワンオフ品を作る技術もすごいんだよなぁ…逆に言えば商品には絶対にならない物でもあるが」
「釣れるなら作ればいいとは思うが…その場所でしか使えないとなると買いたいとは思わんな」
「当然時間帯や天候に水温といった物にも影響されるから究極のワンオフ品ともいえるな、その日のその場所のその時間帯だけでしか使えないルアー、だから使える時間が異様なまでに短いが効果は言うまでもなし。
まあそれがまた海で通用するかどうかは別なんだけどな、私がテストしてるのは海水淡水両方でいついかなる時でもコンスタントに釣れるルアー、大会でもワンオフ品は使った事ねぇんだよな…というか使えない、そのままでもよく釣れるのが売りだから弄るとちょっと不都合がな、こういう完全プライベートなら有だが」
「でも特に弄ったりはしてねぇよな、頻繁に交換はしてるけど」
「弄ってワンオフにするより別のカラーとか種類に交換する方が早いからな、後海は相当離れた場所、エリア外に行かない限りはどこで何を使おうが同じだからな、変わるのは水深とマングローブがあるエリアかどうかくらい。
そして対象魚は常に回遊しているに等しい状態だから回遊ルートの割り出しから始まる、当然魚探なしでな、遭難対策にマップとGPSなんかはついてるがソナーは付いてないボートで探り探りやっていくんだよ。
まあ、マップがあるからどこにいるかわかればどこに何があるかを記憶してるやつもいるし、ソナーはあってもなくても変わらんのだがね」
「何があるかを記憶していても回ってくるかどうかはまた別問題、今までコツコツ餌を撒いていただけはあってここは一時的に回遊ルートにはなってるけど、手を入れてないところだとふとした拍子で回遊ルートが変わっちゃうからねぇ」
「基本的には餌がいるところを回っているからなぁ、その餌が居なくなれば居るところに行くから回遊する場所が変わる、特に大会期間はボートがかなり出るし色んな魚が釣られるからその回遊ルートが変わっちまうんだよな…でもそんな大会で無敗の私、というより海水なら全世界どこでも負けなしだけどな」
「ならもうちっと現役を続けてもよかったんじゃないか?」
「こういうのは引き際が大事なんだよ、レジェンド扱いされて負けるまでずーっと居座るのもいいが、優勝はもう決まってるような物だから今一盛り上がらないんだよ、それで区切りのいいところでスパッと引退を表明してアンバサダーに専念って感じよ」
「大会に出るのも体力を使うしねぇ」
「そう、年々衰えていってるから世界中飛び回るってなるとさすがになぁ…後5年くらいは行けただろうが…」
「ふとした拍子で腰をやるくらいの年だし無茶は出来んよな」
「あれは飛び起きようとしたからそうなっただけで普通に起きれば問題ねぇよ、それと今は衰えてた体力も戻ってきてるからちょっとくらいの無茶出来るわ、まだまだ続ける事は出来たが辞めたのは後進の問題な、最初から1位を諦めてるやつが多すぎて伸びなくなってんのよ、1位は無理でも4位か5位に入れればいいだろ的なのが年々増えててなぁ…それで引退して1位という王座を空けてしまえば争うようになるんじゃね?って」
「それで効果のほどは?引退して空けたはいいものの盛り上がりませんでしたーってなったら何の意味もなくねぇか?」
「張り合いとか目指すべき目標が消えたというロートルも居るが、まだ30かそこいらのやつは今がチャンスだと大会前のインタビューで大口を叩いてはいたみたいだぞ?張り合いが無くなろうが目標が消えようが今まで培ってきた実力は本物のロートルに返り討ちにされたみたいだけどな」
「負けじと最後まで食らいつこうとしてきた人達とあわよくばーと低い志の人達だとまあそれなりに差は出るよね」
「ま、なんにせよ経験の浅いやつでも努力すれば1位が手に入る様になったんだ、そのうち盛り上がってくるだろ」
「で、レジェンド扱いだなんだって言ってたけど、今までにそういうやつは居なかったのか?」
「歴史はぼちぼち長いから居るには居る、無敗イコールレジェンドじゃないからそこそこ居るぞ、要は生きた伝説と呼ばれるような事をすればいいだけだ、当分破られる事の無いであろう記録を打ち立てるとか連続で優勝するとか、タカムラとハナイみたいな好成績を残してもそう呼ばれるな。
まあ、基本的には盛り上げるためにそういう風に伝説だなんだと付けてるだけだから基準自体はかなり緩いぞ?」
「何とも当てにならない伝説だなぁ…」
「野球やサッカーと違って大勢の観客が入るわけでもなし、ならどうやって注目を集めるかってなると言葉を使って集めるのが手っ取り早い、だからこの人はこれにおけるレジェンドですって言ったりするんだよ、そういうエンターテイメント的な称号とか呼び名ではあるが、たまに勘違いして驕るやつが出てくるっちゃ出てくる。
まぐれで大差をつけて前年度のチャンピオンを下したりすると新たな伝説の誕生か?とか言って持て囃されてな、それで勘違いして努力を怠って次回以降はボロボロになるっていう、でもそれはそれで話題作りになる空回りは基本的に何も言わない、よほど親しいやつがいるならそいつが何かを言うだろうが…スポンサーもほったらかしにする事が多いな、まぐれで驕って努力もしない奴と良好な関係を築くのは難しいし、それで折れるならさっさと切り飛ばし、スポンサーとなるメーカーや企業は次のやつをスカウト、大体そんな感じよ、国によって変わってくるけどな」
「こっちだと余程な事をしなければ切られたりはしないんだけど、国によっては気軽に契約を切る事が出来るからねぇ」
「契約内容によるけどな、あ、もうダメだこいつ使えねぇってなった時にすぐ切れるような契約書だともうその場で、そうじゃない場合は大体1年で契約をして様子見が多いからそれまでにどうにもならなければ更新なしで終了、働かない働けない宣伝にもならないやつに渡す金があったら新しいやつをスカウト、もしくは新製品の開発に回すってな」
「それは割とある事なのか?」
「まあ割とあるな、特に比較的小さいところだと1人契約するだけでもかなり負担になるから、簡単に言えば社運をかけてみたいなところもある、だからリスクマネージメントの1つとしてすぐに切れる契約書だったり、1年のみの契約で様子を見る」
「なるほどねぇ、ジュリアは切られそうになった事あるの?」
「ないぞ、別に何かやらかしたわけでもなし、契約更新の時に契約料をどうするかってくらいだな、今はラハブとJ&Mから年30…まあ大体両方合わせて6000万貰ってるわけだが、最初にスポンサー契約をした時は年間700万だったからなぁ…地道に積み重ねて交渉した結果切られる事もなくってやつだな。
ちなみにその上にアンバサダーとしての報酬も入るから実際には1億を超えてくるんだけどな、どちらかといえばスポンサーがいくら払えば私が残ってくれるのかっていう交渉だし、契約が切れて抜けた場合の損失を考えると…って事でそれだけ貰ってる」
「主様の場合は?」
「今は0円、その代りスポンサーの数が半端じゃなく多いからおねだりすればすぐ貰えるし、うちのチャンネルって麓の商店街の皆さんもスポンサーだったりするのよー?
一番大きいところだとルシフのルシエラカンパニーになるけど、国内だと葵さんと恵里香さんの会社とその子会社、つまりグループ全体がスポンサーで、ロザリアの持ってる国内外の会社もそうだね、だから色々面倒だし収支がどうので1円も貰ってない」
「面倒がらずに貰っておけばいいのに」
「いやー…動画1本上げるだけでもルシエラカンパニーからお小遣いとして100万振り込まれる状態だし、それ以上貰って何をどうしろというのか…無編集と編集した物を10本上げると合計で1100万も振り込まれちゃうのよ?月にいくらとかではなくて」
「それはまた…逆に困るやつだな…」
「ルシエラカンパニー絡みだから税金は免除で抜かれたりする事も無いんだけど、今度は使い切るのが大変っていう、山の整備費用とかフェンスの維持管理費にと回してるけどそれでも余る時は余る」
「動画配信で稼いでるやつらからしたら物凄い羨ましい状態だろうが…なんか変な苦労してんな」
「もう慣れたけどね」
「ぴっぴょー」
「あ、もうお昼の時間か、それじゃあ片付けてレストランに行きましょうかね」
「そうするかー」
「明日はどうするんだ?」
「その時の気分次第」
レジェンド扱い
偉業を成し遂げたりなんやかんやとすると伝説扱いをされる
基本的にはエンターテイメントなので条件は緩いがたまに本物が出てくる、そしてその本物は同じ時代に生まれて活躍していた




