ひよこちゃんオンステージ 別名自由落下
昨日ヒルダが釣ったクブシミの残りを細かく切ったらフードプロセッサーでたっぷり空気を含ませたふわふわのすり身にしまして、塩と旨味調味料を少々加えて細切りにしてあるクワイカと人参、ひじきにレンコン、茹でた枝豆を混ぜて形を整えたら低温でじっくり揚げて…イカ天を揚げている間に肉まん用の生地を少々拝借、揚げたてのイカ天を生地で包んだら蒸籠で蒸してイカまんの出来上がりと。
残りだけで作ったイカまんだけだと量が足りないので肉まんの種も貰って、肉と玉ねぎのみというシンプルな物なのでキクラゲと人参を足して食感と旨味を追加、蒸し上がったら部屋まで運んで行って朝食と。
レストランで食べてもいいんだけど…ジュリアさんがベッドから起き上がれないから仕方ないね…お昼くらいには復活すると思うけど、それまではお部屋でのんびりしつつひよこちゃんのファッションショーでも見ましょうかね。
「くそー…腰をやるとか何年振りだ…というより最後にやったのがいつだ…」
「年甲斐もなくはしゃごうとするからそうなるんだよ」
「なんとなくベッドから跳ね上がっておきたい気分だったんだよ、このベッド凄い跳ねるし行けるかなーって思ったんだよ、そしたら腰がコキっといい音を出しやがった…」
「まあ、言うまでもなくぎっくり腰だよね、取りあえずそれなりに食べやすい饅頭にしてきたから、これを食べてから本格的に治療開始だね」
「ぴぴょー」
「ひよこちゃんの分はこっちね、中身ばかり食べて皮を食べないのはダメだよー?」
「ぴっ」
「これ中身はなんだ?」
「昨日のクブシミとクワイカの残りで作ったイカ天と具をちょっと追加した普通の肉まん」
「普通っちゃあ普通だな」
「イカを生で包まずにイカ天にしたくらいだしね、からしと酢醤油はお好みで」
「からしはわかるがなんで酢醤油をつけるんだろうな?住んでる地域の肉まんにはついてこねぇよな?」
「西の方だけで浸透してる文化といえばそうなるのかな?」
「私はふかふかの皮に酢醤油をつけてベチャベチャにする意味が分かんねぇ、美味いのは確かなんだがつけるなら半分に割って中の餡だけにつけるとかだな」
「肉まんに酢醤油も賛否あるからねぇ、西の方に浸透しているとはいってもつける人つけない人が居るし、ジュレみたいに固めてたら皮が水分を吸ってーって事は無いんだけどね」
「ぴぴょー!ぴぴょー!」
「ひよこちゃんはからしをつける量を考えようね、はいお水」
「ひよこもからしでのた打ち回るんだな」
「体の構造が違うとはいえ刺激物には違いないからね、微量ならいいけどちょっと多すぎるとこうなる」
「ぴぴょー…ぴぴょー…ぴぷっ…ぴぴぴぴぴっ!」
「からしの瓶に当たってどうするのよ」
「器用に嘴でスプーンをくわえてからしをつけたと思ったらからしでのた打ち回って、水をがぶ飲みして復活したと思ったらからしの瓶に八つ当たり、よくわからんやつだ」
「わさびでもたまにやる、ひよこちゃんの分は抜きにしてあるんだけど、自分でおろしわさびを追加してのどに来る刺激でね、香りと甘みだけで刺激のないわさびもあるにはあるんだけど、そっちはおろしには向いてないからねぇ、千切りにして丼に乗せたりするのにはいいんだけど」
「頭が良いか悪いかで言ったら間違いなくバカに入るよなそのひよこ」
「どこまで行っても鳥は鳥だからね、知能が全くないとは言わないけど、痛い事とかそういう事は完全に記憶から消去されるまではいかずとも大体忘れる、そしてまた繰り返す、自分がやって楽しい事とかそういうのはしっかり覚えてるんだけどねぇ…帽子作りとかタップダンスとか」
「かき氷刺さって凍死してたりするのはそれが原因か」
「ひよこちゃんサイズのかき氷なら普通に食べれるのよ?ぽっぽちゃんと張り合ってかき氷の大食いをすると食べてる途中で体が冷え切ってそのまま凍死する、端から少しずつゆっくり食べればいいんだけど、ぽっぽちゃんが氷の中に突っ込んで行って内側から食べるからそれに対抗してひよこちゃんもね」
「ぴっぴょー!」
「はいはい、八つ当たりはそこまでにして肉まんとイカまんを食べようね」
「ぴよっ」
「明日になったらからしでのた打ち回った事を忘れてるんだろうなぁこれ」
「明日と言わずお昼にはもう忘れてるよ」
んー…ここでもない…ここでもない…ここに1本…そこから少し離れたここにも1本、腰の方まで指を這わせて確かめて付け根に1本、左右に2本打ってから背中の中心に1本、仕上げに左右の肩甲骨の下の方と中心に打った針と腰の付け根に売った針の間に低温のお灸をポンッと。
「これで1時間くらいすればぎっくり腰は完治だね」
「あー…なんか効いてるって感じがするわ…背中から腰にかけてじんわりあったけぇ…」
「背中と腰に針が刺さってるのを見ると拷問にしか見えんな、なんか燃えてる物をも置いてるし」
「針治療はこんな物だよ、普通の針よりかなり効くけどね、腰で燃やしてるのは低温のお灸、煙は出てるけど45度くらいにしかならないから火傷の心配はないね、あまり長時間やりすぎると低温火傷になるけどそうなる前には消える」
「針は痛くねぇのか?」
「痛みは全くないぞー、それどころか温まってきて気持ちがいいくらい」
「痛かったら針が太すぎるか打つところを間違えてるか刺しすぎだね」
「で、テーブルの上にランウェイみたいなのが出来てるけど何が始まるんだ?」
「ひよこちゃんのファッションショー、昨日作った帽子のお披露目ともいう、それと合間合間にタップダンスかな?」
「ランウェイで歩くモデルを照らすライトもあってタップダンス用の板もあって、地味に豪華なセットだな」
「今はまだ帽子をかぶる順番とかどこでタップダンスを挟むかを考え中だから、お摘みを用意するなら今のうちだね」
「ファッションショーとはいえ見る感覚は大衆映画か」
「そんな物だね、ポテトチップみたいにパリパリ音が出る物は控えた方がいいけど」
「タップダンスもあるならそうだよな、私は揚げ物と焼き鳥をお任せで飲み物はサルサビアを頼む、それとパインとシークヮーサー100%果汁も」
「俺も揚げ物をお任せで飲み物はコーラ、ところで音が出る物をタップダンス中に食べたらどうなるんだ?」
「ひよこちゃんの機嫌をちょっと損ねて突かれるそれじゃあちょいと作ってくるから、ヒルダはジュリアさんのお灸の煙が止まったらお灸を適当に灰皿にでも入れておいてね」
「はいよー」
「しかしあれだなぁ、この場にミキがいたらカメラかビデオを構えてファッションショーが始まるのを待ってるんだろうなぁ」
「今日はお休みでアパートにまだ残ってる家財道具やらなんやらの引き上げと処分に行ってるからねぇ、タイミングが悪かったという事で」
「ランウェイから降りてきて人の焼き鳥を突いていくのは反則だろ」
「ぴぴょ」
「そして何事も無かったかのように戻っていくし…このファッションショーいささか自由すぎないか?」
「お披露目しつつも美味しい物を食べたい、となるとランウェイから降りてきて突いていくよね、でも歩き方とかは崩してないし、帽子もちゃんと見せびらかしてるという拘り」
「遠目に見たら普通に歩いてる様にしか見えないけどな、ターンする時も普通にてちてち歩いてるし」
「そこはまあ鳥の関節だし、色々と限界というものがねぇ…」
「タップダンスも今一リズムが取り切れてないというか、ただてちてちかちかち音がしているだけというか」
「でもひよこちゃんは楽しそうだからそれは違うと突っ込むのもねぇ、鳥の足と間接であそこまでできたら大した物よ」
「人間の足の関節に合わせて作られた物だからなぁ、リズムが取り切れてなくても出来るだけ大した物か」
「今度は俺の唐揚げがやられた…後で皮の部分を食べようと取っておいたのに…」
「唐揚げの皮の部分美味いよなぁ」
「くそー…このひよこ唐揚げにして食ってやろうか…」
「生きてる間は溶鉱炉に投げ込んでもアヒルのおもちゃみたいに浮いて普通に泳ぐから火が通らないよ、ジュリアさんはそろそろ針を抜くよー」
「おーう、もう腰から痛みのいの字も消え去ってるわ、これ結構効くな」
「肩こり腰痛筋肉痛によく効くよー?さらに弱った内臓も元気に出来る、元気に出来るだけで損傷は治らないけど」
「針だけで内蔵の損傷が治ったらびっくりどころか医学がひっくり返るわ」
「はい、全部抜いたからもう好きに動いていいよー」
「ふいー、肩も腰もかなり軽くなったわ、今なら800キロクラスのサメも相手に出来そうだ」
「肩をぐるぐる回してるのはいいけど汗がすごいからシャワーで流してこい」
「そんなに出てるか?」
「タオルで拭いたら絞れるくらいびっしょりだぞ」
「治癒力を高める分代謝もかなり上がって汗が大量に出るのが難点だね、やりすぎたら脱水症状待ったなし」
「ふむ、じゃあちょいと離脱してシャワーを浴びてくるか」
「ひよこちゃんのファッションショーはまだまだ終わらないし、私もお摘みの追加を作ってこようかな」
「鶏皮くれ、鶏皮」
「揚げと焼きどっち?」
「両方」
「はいはい、それじゃちょっとレストランの厨房まで行ってくるねー、ひよこちゃんはギャラリーが一人でもいたら満足だから変な事をしないように見張っててね?」
「変な事って…何かするのか?」
「特に何もしないけど、気分が最高潮になったらバルコニーから飛び降りかねないから、そっちの方に足を向けたら捕まえておいて、それで暴れだしたらフライドポテトとか焼き鳥とか口に突っ込んでおけばそっちに夢中になっておとなしくなるから」
「そのまま大空に羽ばたかせてやった方が平和になっていい気がするわ」
「その場合は迎えに行く手間が増えるから善し悪しだね、後どこに落下するかまで見届けないと探すのも大変」
「だよなぁ…」
「ぴっぴぴっぴぴっぴょーっぴっぴっぴっ!ぴっぴょーぴっぴょーぴっぴっぴー、ぴぴぴょーぴぴぴょーぴっぴっぴょっ!」
「ぴよぴよ鳴いてるリズムはいいんだけどなぁ、足がついていってないのが何ともおまぬけ、それよりヒルダはなんでそんなに疲れてるんだ?」
「そのひよこが俺は飛べるんだといわんばかりに何度も何度もそこのバルコニーから飛び降りようとしたからだよ…小さいしすばしっこいしで捕まえるのにも苦労すれば捕まえたら手の中で嫌々と暴れるし…ポテトと焼き鳥をねじ込んでおとなしくさせてもまたすぐに俺はやれるんだって感じで行こうとするし…」
「羽ばたいてちょっとは飛べるけど、ジャンプ込みで10センチかそこいらだから後は落ちるだけなのよね、落ちても怪我はしないしちょっと跳ねて汚れるだけだからいいんだけど」
「このひよこのファッションショーって毎回こんななのか?」
「毎回ではない、久しぶりに大量に作ったのとひよこちゃん的に大作揃いだからって感じかな?1つ2つ作ったくらいでは特に何もしない、してもタップダンスかなーってくらい、つまり今のひよこちゃんは物凄く上機嫌、だから水を差すと突かれる」
「飛び降りようとしたのと止めた時に突かれたわ、痛くはないけど止める度にツンツンツンツンと…ポテトを突っ込めばすぐに機嫌が戻るからいいんだが…すぐに戻る分まーたすぐに飛び降りようとするし…」
「シャワー浴びてる短時間の間にそんな攻防があったんだな」
「このひよこ人の頭に巣を作ろうとするくせに逃げると滅茶苦茶速いんだよ…小さいからその辺の隙間に入ってちょこちょこ走るし…部屋を縦横無尽に走り回って逃げるし…」
「そもそも戸を閉めておけば出れないんだから放っておけばいいんじゃねぇか?」
「放っておいたらカンカン突いて破ろうとしたから放置も出来なかったんだよなぁ…」
「厄介なひよこだなぁ」
「ぴっぴぴーぴっぴぴーぴっぴょっぴょー、ぴぴぴっぴぴぴっ、ぴっぴょぴょーぴっぴょぴょーぴーぴょーぴょー、ぴよっ!」
「タップダンスが終わったね、はいひよこちゃんダンス後のお水」
「ぴよ」
「どやぁって顔をしてるんだろうけどようわからんわ」
「ひよこだしなぁ、目を瞑って仰け反ってる様にしか見えん」
「表情筋とかそういう物は付いてないしねぇ、羽毛に覆われてるし嘴とつぶらな人しか見えないし、言葉がわからないとどうしてもねー、はい細切りにした塩皮、休憩が終わったらお披露目のステージを片付けようねー」
「ぴぴょ」
「あー…これでやっと落ち着けるのか…地味に疲れたわ…今日はもう部屋からでねぇぞー…コーラと摘みを抱えて大して面白くない映画で時間を潰す…」
「そこは面白い映画にしておけよ」
「ぴょー!」
「あっ…」
「どした?」
「ひよこちゃんが羽ばたいていった…回収してくるね」
「おう、いってらっしゃい」
ひよこちゃん専用ステージ
突貫工事で作られたひよこちゃんサイズのランウェイ、タップダンスをするための板もばっちり
数をこなせばこなすほどひよこちゃんのご機嫌ゲージが上昇していき、最終的に大空へ羽ばたこうとする、とりあえず捕まえて口にお摘みをねじ込めば一時的におとなしくなる




