ちょっと古い在庫処分ともいう 誰も何も言わない環境
今日も朝から食べ放題ー、冷めたホットケーキに生クリームを絞り出してー、フルーツバイキングに寄り道してイチゴとバナナとマンゴーをトッピングー、一旦戻ってテーブルに置いたら次は飲み物、ちょっと甘酸っぱい物が欲しい気分なのでフルーツバイキングからイチゴを拝借、ミキサーの中に入れたら牛乳と練乳を少々入れてしっかり混ぜて…仕上げにチョコクリームソフトをちょこっと盛って出来上がり。
「ここが高級リゾートホテル、それも会員限定のというのを忘れそうになる事をやってんなぁ…」
「軽く見渡してみるだけでも朝飯がそれでいいのかっていうやつもちょこちょこいるしな、ポテトチップに駄菓子各種、飲み物もコーラやラムネにポチエチレンの容器に入った飲み物に、本当にそれでいいのか?」
「年に1回か2回くらいはそういう食事をしても許される場だからね、特にここを利用してる年配の人はお小遣い片手に駄菓子屋とかを利用していた人が多いし、昔は怒られて出来なかった、今は立場上中々出来ない、でもここなら何も言われないから当時出来なかった事を心行くまでー…ってね」
「高い金を払って食べる朝食がチップスにコーラとか、そこいらのやつらだったら間違いなく舐めてんのかってなるだろうなぁ、コーラもチップスも食べてみた限りだとその辺の店で買えるやつと変わんねぇし」
「変わらないどころかその辺の店で買える物と同じだね、並んでる駄菓子なんかもホテル内にある駄菓子屋に置いてるのと同じ物よ、これを食事の場で朝食として食べると言う事に意義がある」
「金持ちの考える事はよくわからんな」
「生まれた時からお金持ちだったのなら兎も角、周りにいる年配の人はそうじゃないからね、恵里香さんのお爺さんとかそのお友達も一代で築き上げてっていうタイプ、だから昔出来なかった事を自由に出来る様になった今やるとか、憧れていた事を実行するとか結構あるのよ」
「そういうもんか」
「そういう物だよ、んー…ホットケーキにもチョコソースをかけるべきだったか…」
「見てるだけで口の中が甘くなりそうだけどまだ食事に見えるという点ではましか…」
「甘さは控えめだけどね、ホイップも砂糖ほぼ無し控えめ普通大目の4種あるし、いちごミルクも練乳は微量でチョコソフトはビター、だから見た目ほど甘くはない」
「それは食べてるやつにしかわかんねぇよ」
「でもそういうヒルダも朝から結構な物を食べてるよね、大盛りチャーシューメンに唐揚げ大盛りと」
「食いたい物を食べれるなら気分的にこうなるよ」
「バイキングでラーメンが並んでるってのも凄いよなぁ…も和洋中だけでなく各国の料理がそれなりに並んでるし、厨房は朝から戦場になってそうだ…」
「ま、今日がバイキングの日ってだけだし、明日になればまた普通に注文してーの食事になるよ」
「そういえば特に予告無しのバイキングだったが、週1とかそういう風に決まってるのか?」
「特に決まってない、食材が多く余ってたりこれ以上置いておくと味が落ちるなーってのが増えてくるとドカンっと一気に使ってこうなる、まあ駄菓子とかも並んだりするけど」
「要は在庫処分とかそういうやつね」
「簡単に言えばそうなるね、別に痛んでるわけでもなくロスを減らすためだし、余ったら余ったで大勢いる従業員の胃袋に収まるだけだから無駄になる事はない、それにバイキングなんかを専門としてるお店に比べると種類は多くても量自体はそれほどだしね」
「たしかに、空になったら別の物が出てきても同じ物が補充される事は無いよな、唐揚げが空になったと思ったら次に出てきたのがタイの甘辛餡とか」
「無くなった食材はどうやっても出せないからね、昼から夕方にかけてどーっと大量に食材が搬入されるだろうけど、今ある分を使い切るまではバイキングが続くね」
「ということは今日の昼もバイキングは確定か」
「観光に出なければそうなるね、でもお昼になったらなったで何が出てくるかはわからないから飽きる事は無いと思うけどね」
「観光なぁ…初日に回り切った感が地味にあるのがな…」
「離島の釣具屋巡りは初日に大体やったもんね」
「それは観光というのか?」
「釣り人にとっては観光と言えるね、大体似た様な物ではあるけど個人店って結構特徴が出てくるし、離島は物流の問題と人口の問題もあって結構お宝が眠ってるのよね」
「そういやナカムラの店は行ってねぇな…どこに住んでるかすら知らんけど」
「そこは私も行った事は無い、足りない物があっても近くのお店で済むといえば済むからねぇ、足りない物も大体餌とかリーダーとか針程度だし」
「わざわざ離島まで買い出しに行くって事は無いよなぁ、むしろ離島から物資が潤沢にあるこっちに買出しに来るのが普通なわけだし」
「物資が無いところに買い出しに行くって事は普通しねぇよな、何か特産品があれば別だが…行って買っても大体は元が取れるかどうかくらいにしかならんしなぁ…小島に住む少数部族の民族工芸は珍しいから売れるといえば売れるんだが…基本木材と貝殻を使った物だからなぁ…さらにお金は使えない事が多いから物々交換だし…」
「じゃあ今日はそこに行ってみる?次の釣りの準備をするにしても半日以上は暇になるわけだし」
「まずは店がどこにあるかだよな、初日に回った店の様に看板すら出てない可能性があるし、何なら普通の民家の1階が店だったとかもあるし」
「なんか皆ちょっと大きい家に入っていくなーって思ったら商店だったりとか、皆お椀とか湯呑みを持って行ってるなーと思えば飲食店だったり、離島の店ってかなり緩い気がするな」
「皆近所同士で見知った顔で商店は全て個人店、誰がどのお店を開いてるかってのもわかるし、そもそも近所の人以外利用しないから看板が不要、というより離島外の人が利用する事は考えてない、離島の外から釣りに来る人って基本的に日帰りでお弁当持参だし、泊まり掛けの場合それ用の民宿があるからそこに行くしで商店の利用はねー、行ってもわからないってのがあるけど」
「そもそもナカムラがどこの離島に住んでるかだな、大小多すぎて探すのに時間がかかりそうだ」
「店長さんからは離島住まいとしか聞いてないしねぇ、フェリーで片道9から13時間かかるところに住んでる可能性もある。
まあどこにあるー?って店長さんに聞くなりホテルの人に捜して貰うなりすればすぐ見つかるとは思うけど」
「それは最終手段…といきたいが、そもそもどの島かすらわからんからな、ここはタカムラに電話して聞くか」
「はー…食った食った、出汁が色々と混ざってはいたが中々美味しい塩チャーシューメンだったわ」
「じゃあちょこっと休憩したら離島に向けて出発しようか」
「船と飛行機どっちで行くの?」
「到着時間的にはどっちも変わらないから空の旅がいいか海の旅がいいかだね」
「じゃあ俺は空の旅で、最近は船にカヤックにと乗ったしな」
「私も空で、到着時間が変わらない船とか嫌な予感しかしねぇ」
「ちょーっと速くて数百キロ出るくらいよ、ガレージにあるボートと大して変わらないって」
「あそこはまだそういう物だと理解出来るが…そんな物をこっちで走らせて大丈夫なのか?」
「ガレージのボートとは違うけど大丈夫よ、モーターで進んでるわけじゃないし、ここに来た時に乗ってきた小型のセスナっぽい機体、アレと似た様な感じ、空用か海用かって違いくらい、ちなみに海面から5センチから10センチくらい浮いてて水を切る必要がないから船底はフラットタイプ。
海面に合わせて揺れはするから船酔いする人は船酔いするけどね」
「技術力の無駄使いな気がするなぁ…その唐揚げ食い切れず残してるならくれ」
「これはおやつ用に取っておいてる分でタッパーが来るのを待ってるんだよ」
「普通ならダメだけどお弁当として包んでくれたりするのもいいところよね」
「おう、サンキュー、それじゃちょいとナカムラの店に顔を出してくるわ、お土産?あると思ってんのか?というより何が要るんだよ…缶詰?沖南島パインの缶詰ね、出来れば瓶詰と、ヘイヘイ、見つけたら買っておくよ、それじゃな」
「どこか分かった?」
「端の端にある鳥羽渡島だってよ、人口60人くらいの島で本島からフェリーで近くの島まで11時間、そこから渡し船で3時間のところらしい」
「鳥羽渡鳥羽渡…ここか、遠すぎて誰も釣りに行かないところだね、結構な距離があって渡り鳥もここで羽を休めた後各島に渡って行くから鳥羽渡って付いたとかなんとか、だから時期が時期なら鳥糞だらけになるらしい」
「そんなところで暮らしたくねぇなぁ…」
「台風が直撃する前には居なくなって、台風で洗い流されるから糞だらけなのは6月から7月だけらしい、でも観光するようなところは当然の如く無いらしい」
「だろうな、船で片道14時間って時点で行く気が失せるわ、あ、沖南島パインの缶詰か瓶詰を情報料代わりに寄越せって言われたから、帰りに沖南島に寄ってくれ」
「缶詰と瓶詰ならこっちでも買えるとは思うけど…まあ現地の方が良いか、現地なら缶詰じゃない完熟があるはずだし、ちょこっと完熟パインを食べてからお土産用の缶詰なんかを買うのもいいかもね」
「それじゃあさっさと鳥羽渡島に行くかー、島だけ聞いてどこに店があるかは聞いてないけどな、というよりそこに住んでいて店を出してるって事しかしらんらしい」
「人口60人くらいらしいし、中村さんって人が出してる釣具屋はどこですか?って聞いたらすぐわかりそう」
「それもそうだな」
「ところで昼飯はどうするんだ?」
「ナカムラの店は滞在しても1時間か2時間くらいだろうし、途中でパインも食うだろうから…ちょい昼過ぎくらいには帰ってこれるだろ」
「一応おやつの唐揚げ持っていくか」
「さぁ、やって参りました、港にいた漁師さんに聞いたところここが中村さんのお店との事ですが…見た目は普通にちょっと大きい民家だね」
「でも商い中っていう札が出てるから間違いなく店だろうな、それじゃあ突撃するか」
「これで不在だったら笑うしかないな」
「小さい島とか割と閉鎖されちゃってるのに近い田舎だとよくある事だね、店を開けっぱなしでちょっと出かけたりするっていう」
「話してないでさっさと入るか、タイショーやってるかーい?」
「釣具屋の店主は大将であってるのか?」
「釣具だけでなく小料理も作る時はあるらしいからまあ間違いではない?」
「よくわからん店だな…」
「おー…?んー…?誰?」
「ジュリアが言ってたナカムラじゃねぇの?」
「私の知ってるナカムラとよく似てるが年は私とほぼ変わらないんだぞ?こんなに若いわけないだろ」
「お婆ちゃんの知り合いですか?」
「おう、昔ちょっとな、ユキコは居るか?」
「お婆ちゃんなら今は不在です、そろそろ帰ってくる頃だとは思いますが」
「店を開けたままどこ行ってんだあいつは」
「お婆ちゃんは気ままに漁をしたり釣りをしたり畑を耕して過ごしているので今は実質私のお店ですね」
「なるほど、まあこんな僻地だと客は来ないだろうしなぁ」
「お店を開いたのも普通に買うのに比べるとかなり安くなるからって言ってましたね」
「メーカーとか卸しから買えばまあ安くはなるよね、店頭価格って大体仕入れの倍近い値段になるわけだし」
「離島なので店まで直説輸送すると高く付くからと言って、たまに本島まで行って直接買い付けてきてますね、大目に仕入れてくるので余った物をこうやって並べているわけですが」
「結構変わった売り方をしてるね、大抵コマセはそのまま売るけど、開封して大容量のコンテナボックスに入れてグラム売りしてるのは初めて見た」
「普通はこうじゃないんですか?自分が欲しい量だけバケツに入れて計って買う物だとばかり」
「普通は開封せずに袋入りのまま、そこに畳んである袋に入ったままで売るのよ、でもそうだねぇ…場所を考えるとこれが正しいのかもしれない、開封したからって別に悪くなるような物じゃないし、これはこれで有りな売り方よね、かさまし用の米糠も置いてるし」
「地域密着型といえば地域密着型の店だな、冷凍の餌はタカムラの店と変わらんが…冷凍されたマグロの頭にカツオの頭、グルクンも冷凍されてるな、この頭も餌か?」
「餌にする事もあれば解凍して焼いて食べる事もありますね、買っていきます?マグロもカツオも1つ250円ですよ?」
「やっすいなぁ…本島で買ったら1200円よこれ…でも今日は釣りが目的じゃないから要らないかな?」
「こっちの冷蔵庫に入ってるこれはなんだ?」
「それは昨日取れた魚の漬けですね、ゴマと醤油と茹でたアーサで漬けた…この島で定番の酒の肴ですね、1皿100円になります」
「見た限りいろんな魚が入ってるね、カツオにマグロにタマンにトカジャー、クブシミにヤコウガイと、結構美味しそうね」
「ユキコはまだ帰ってこないし、何か摘まみながら待つか」
「ビールはどうしますサザンの生がありますけど?」
「時間的にいらないかな、ユキコと話すだけ話したら沖南島まで飛んでパイナップルを買わなきゃいかんし」
「まだ午前中だしねぇ」
「この島の人は時間は気にしませんけどね、海に出る時だけは飲むなってだけですし」
「自動車が無いから飲酒運転も何もないし、とやかく言う人はいないだろうね」
「というより漁から帰ってきたら畑仕事以外やる事がないんですよ、どうぞ3人分で300円です」
「産業が漁業と農業だけだとまあそんな物か」
「観光するような場所もないですしね、のんびり暮らしていくには良いですが刺激はないですよ?島から出ていく人はいても入ってくる人はほぼいませんし、父と母は本島に移住してますし」
「で、孫娘は出戻りしてきたと」
「そんなところですね、本島よりここの生活の方があってると言えばあってますし、こうやってのんびり座ってるだけでいい仕事とか最高ですよ」
「そのうち仕入れと開花されるようになるのを覚悟しておかんとな、しかし帰ってこねぇなぁ」
「帰りが遅いという事は今日は大漁だったんじゃないですかね?」
「んー…ま、パイナップルを買いに行く以外の予定があるわけでもなし、摘みを食べながらのびり待つか」
「おやつに持ってきた唐揚げも食べるか」
「私にもくれ」
「やだよ、1人分しかないんだよ」
「ちっ」
「そっちのアーサおにぎりもくれる?」
「1個50円です」
「じゃあこれで3つ」
「まいど」
色々漬け
獲れた魚と軽く湯がいたアーサに煎りゴマ、醤油を軽く混ぜて1日漬けただけの物
獲れた魚次第で中身が変わるので味は安定しない、単純ではあるけど作る人によって何かを足したりするのでさらに安定しない、でも漁師飯や家庭料理はそんなもの




