本当なら前日にやっておく事 陸地ならそれなりに安全
「おー…昨日空の上とホテルの最上階から眺めたのとはまた全然違う、水も透き通っていて底まで見えるし、ここに観光に来る人が多いというのも納得出来るな」
「濁りの原因になるプランクトンをサンゴが食べてるからここまで透き通る、濁ってるところは濁ってるけどドチャ濁りとかは無くてうっすらって感じ、この近辺は漁が禁止されててサンゴに網やら延縄引っかかる事もないし、釣りもホテルに泊まってる人しか出来ないし、根掛かりとかしてもダイバーが回収するからゴミもない。
1つ問題があるとすれば綺麗ではあるけど釣れた魚は大体食べれないって事だね、大きさにもよるんだけど、サンゴの周辺って渦鞭毛草っていうプランクトンが結構発生するのね?そのプランクトンを小さい魚が食べて、今度は大きい魚が小さい魚を大量に食べて、それの繰り返しでどんどん濃縮、最終的に死に至るほどの猛毒にまでなる」
「サンゴが直接の原因ってわけじゃないんだがな、サンゴのあるような温かい海にはそれが大量に発生、世界一綺麗とされている金持ちのリゾートの定番と言える地域で魚が食えないのはそのせいなんだよな」
「あそこの海はここより暖かいし、発生量も比較にならない量だから小さい魚でも結構危ないからね、海の魚は輸入品を食べるのが一番安全」
「はー…綺麗な海に住んでるのに食えないのか…」
「透明なのはその毒を生成するプランクトンをサンゴが食べているからともいえるね、プランクトンはそいつだけじゃないけど、主にそいつが悪さをしてシガテラ中毒という症状にね。
一応食べたい時は物によるけど大きくても60くらいまで、30センチくらいならほぼ安全といえる、でも最初サンゴが無い場所に住んでいるのはその例外だから80超えてても普通に食べれる、そっちで育って流れてきたやつは有毒だから…まあちょっとした運試しだね」
「命を賭けた運試しはやりたくねぇなぁ…」
「この場所は観光用ともいえる場所で、見ての通りサンゴ礁が堤防の上からでも見えちゃうくらいにはサンゴがびっしり、つまりここで釣った魚は食べるとそこそこ当たる、どうしても食べたい場合はホテル側が同じ魚を用意してくれるからそれで我慢だね」
「普通の奴なら食ったら死ぬぞと脅しをかけておけば食ったりはしないし、あのホテルに泊まってる連中ならそういう忠告は聞くだろう、傲慢なやつは間違いなく締め出されだろうし」
「でー、食えない魚だというのが分かったところでここで何を釣るんだ?」
「ここにいるのはバラハタにバラフエ、カスミにGTの比較的小さいやつ、とはいっても40からはあるからフカセならかなり楽しいよー?アオチビキっていうちょっとレッドフィッシュに似たのもいるし、モンガラにニザダイにヒブダイオビブダイ、さらに店長さんの話ではカンムリブダイがドカンと増えたらしいからそれが入ってきてる可能性もある。
オヤビッチャとかチョウチョウウオとか小さいのもいるから…まあ割となんでも釣れるね、もっと大きいのが釣りたいってなると堤防の内側じゃなくて外側、そっちに向かって投げるとそれなりに大きいのが釣れる」
「水深と潮の流れの問題か」
「そうだね、外側は水深が内側より3メーター深くて流れも強め、内側は流れが止まらずある程度は常に流れるような設計の堤防にはなってるけど、外に比べるとかなり弱くて水深も一番深いところで4メーターしかない」
「しかし、コマセを撒いてもあまりよってこんな、餌と認識してないのかこれ?」
「ほぼ毎日釣り人が入るような場所だとコマセを餌と認識してくれるけど、この近辺はホテル利用者以外は入れないし、釣りをしにここに来るのは私くらいだし、ここばかりでやるわかりじゃないからコマセをあまり餌と認識してないのは確か。
準備をしながらパラパラと撒いていればそのうち餌と認識した小さいのが寄ってきて、それを食いに大きいのも下から出てくるから大きいのを釣るならイワシかキビナゴ、ニザダイとかブダイを狙うならオキアミのボイルか生で、サビキを落としてグルクンとかを釣って泳がせても良いね」
「まあ…まずは魚を寄せない事には何ともだな…」
「主様、コマセを撒くとしてこれの配合はどうすればいいんだ?」
「まずはグレとチヌって書いてあるやつを1袋ずつと解凍してあるオキアミを1袋、ガンガゼ粉末とフレッシュは反応が悪かった時に各自好きに混ぜる感じ、量的に3人で使うには少ない様に見えるけどイワシとかキビナゴもちょろっと持ってきてるからね、後釣った魚を餌として使うから意外と減らないというのもある」
「取りあえず適当にやってもいずれ何かが釣れるか」
「んだね」
んーむ、ここで釣りをするのも約1年ぶりだけど…やっぱり立ち上がりは良くないねぇ…魚は多いけどなかなか餌と認識しないというか、1匹が食い始めたら周りも食べ始めるけど周りからは中々寄ってこない、近くにいるのだけがぱくぱくと…
「足元にいるのだけが食って遠くからは寄ってこないぞ…これ釣れるのか?」
「立ち上がりはこんな物よ、1匹が食い始めたら釣られて周りも食べ始める、だから出来るだけ薄く広く広範囲に少量撒いて、餌と認識して寄ってき始めたらちょっと多めに打ってようやく、ポイント作りから始める感じかな?」
「人が立ち入らないところでやる基本ではあるが…それは前日とかにやる事で今やる事ではないだろ…」
「昨日は着いて早々市内観光行こうぜーってなってそんな暇なかったじゃない、地元の釣具屋巡りにちょっとした観光地で観光とか、そうやって過ごしたからホテルに帰った時にはもう真っ暗だったしねる時間だったし」
「そういやそうだな、城は早々に飽きて移動したが釣具屋巡りはよかったな」
「釣具屋を巡るのにヘリを飛ばすのてジュリアさんくらいだと思う、離島にあるお店も見て回るってなったら船よりヘリの方が良いのは確かなんだけど…」
「俺的にはよくわからんかったけどジュリア的には宝の山だったのは事実だよなぁ」
「そりゃあね、今や廃番で製造されてないルアーが当時のまま未使用で残ってるわけだし、そりゃ買い占めるよなって」
「お店の人もびっくりしてたよね、看板すらない本当に地元の人しか知らないお店で30年以上売れ残ってた物が全部売れたわけだし、リールも何台か買ってたよね」
「リールも廃番のやつだな、箱付きの完品なのは珍しいからコレクション用にな、使用済みの中古は国に帰ればいくらでも出てくるが箱と説明書付きってのはそこそこ珍しい、タカムラの初代ラハブに比べるとその辺の石ころと変わらんが」
「パンフも残ってたし、それを見る限りでは昔のGT用リールだよね」
「ルアーと同じ時期に出たやつだな、当時だとそれを超える物は無かったし、私も当然使っていたといえば使ってはいたんだが…ぶっ壊れるまで使い倒したからなぁ…ちょっと懐かしくなったともいうな」
「コレクションなー…うちは貴族ではあったが儲け自体はそれほどだったから何かを集めるということはしてなかったなぁ…俺自身も何かを集めてたとかもないし、そもそもそういう物を集めていたら換金してギリギリ家は売らずに済んだというか…奴隷落ちもなかった可能性が…」
「ま、急な事故で遺族に手当てを支払って奴隷落ちで済んだのが1人だけで済んだだけで上等でしょ」
「保険が存在しないところは大変だな」
「悪徳貴族であれば知らねーって逃げるんだろうが、うちは善良でもなく普通も普通だったからな、周りが助けてくれるほど好かれていたわけでもなし、婚約相手がいたわけでもなし、事故が起きたものは仕方ないと処分出来る物は処分して支払いを済ませて、国に払える金がなくなったから貴族でもなく最終的には平民に落ちて。
珍しくも無い話でもあるのは確かだな、賭博で身を滅ぼして税金が払えず爵位剥奪、よくて財産処分で平民落ち、立場次第ではあるが悪くて鉱山奴隷だな、自分の所の金を使い切って身を滅ぼす分には平民で済む、一応貴族であれば城の一部には出入りできるからそこで城の調度品なんかに手を出してると一発で鉱山送り」
「でもまあ、そういう遺族に保障が出るの事態は物凄く珍しい事なんだよね、普通なら事故に遭って死のうが前金で出してるから払う必要がないというのもあるし、毎回雇う人が違うというのもよくあるし、所詮は赤の他人って事にもなれば海難事故に遭った時は雇い主も死んでるし」
「まー、うちの場合は船員達と家族みたいな付き合いをしていたからどうしてもなー…普通すぎて距離感がなー…貴族と平民の間柄という感じじゃなくなっていたからこそ旦那を亡くした家族にせめて子供が成人するまでの援助資金をって感じで保証をな…
それもあって平民に落ちた後もお袋と弟は何をされるわけでもなく周りに支えて貰っているみたいだが…親父と船員の死体は誰かが見つけたわけでもなし、船の残骸を見つけたわけでもなし、帰港予定日から2ヶ月経っても帰ってきてないって事で海難事故として処理したって感じだからなぁ…ひょっとしたらどこか未開の島にでも流れ着いて全員生きてるかもしれんね。
帰ってきても元の家は無いし平民だしで色々困惑するだろうけどな」
「まだ生きてると思う?」
「死んでるんじゃねぇか?大型サーペントに襲われたらまず残骸なんて残らねぇし、色んな船が通ってる航路で残骸すら見つかっていない、親父より後に出航したところの船が親父より先に帰ってきてる、かつその船が途中ですれ違った船も親父の船を見てないってことはサーペントに丸呑みされたんだろ」
「サーペントって海蛇だよな?木材の船を丸呑みする物なのか?」
「疑似餌と同じだよ疑似餌と、あちらさんからしたら海面を泳いでるクジラに見えるのさ、昔は50メーターどころかそれより大きなサーペントがいて新造の50メーターはあろうかという人力の軍艦を丸呑みしたっていう話もあるくらいだよ。
魚を釣るために手漕ぎ舟で水面をオールで漕いで移動してたら下からサーペンをが船を丸呑みにしようとしていた、という体験談も多ければ目撃した漁師や航海士もかなりいる」
「んー…何とも言えない話だなぁ…体験談と目撃というだけでは確証にかけるのが何とも…」
「見た事の無い奴は大体そう言うな、だが実際本当にクジラを丸呑みにするし、サーペントの幼体はちょこちょこ港に入ってきて手漕ぎ舟を襲ってるんだよ、噛みつく事はせず大きな口を開けてバクンと」
「なるほどねぇ…でも木材を飲み込んだら普通は吐き出しそうな物なんだが…」
「サーペントの腹の中は大層頑丈みたいでな、昔港に入ってきた幼体を仕留めた時は腹の中から溶けかけの小舟が出てきたよ、多分人も乗っていた可能性はあるが骨すら見つからなかったな」
「木材も栄養に出来るって事か…こえぇな…モンスターパニック映画が作れそうだ…」
「でもサーペントの幼体は美味いんだよな…獲るのは命懸けになるがその価値はある、サーペント用の船を作って海に流してそれを引いて食わせて、食ったところで陸からバリスタを打ち込んで仕留めるんだよ。
当然サーペントは潜るし暴れる空回りの被害は尋常じゃないくらい出るが、港に様態が入って来た時は過ぎ去るのを待たず、多少被害が出ても獲るってのは良くあったな、交易用等の高い船がない時に限るがな」
「原始時代にマンモスを獲っていたとか、手漕ぎの船しかなかった時代にクジラを銛で獲っていたとかそんなのに似てんなぁ、規模が全然違うけど」
「ま、そんな感じで今もどこかで軍艦を飲み込んだサーペントが生きていて、海で度々消える船はそいつが呑み込んでるんじゃないかというのが海の定説だな、たまに年単位の時間をかけて残骸らしき物が漂着する事もあるが…そっちはクラーケンの仕業って言われてるな、あっちは抱き着いて破壊するから残骸が残る、サーペントと違って食べはしないから去った後に運よく他の船が通りかかれば生き残るし、それで生き残ったのも結構いる」
「怖い海だなぁ…海釣りは好きだがそんなところに船で沖に出たくねぇわ…」
「ま、交易に使う様な大型の船を飲み込むようなのは1年に1度遭遇するかどうかだな、出来るだけでない航路を開拓して使っているわけだし、そのうちサーペントなんかが寄り付かない航路が開拓されるんじゃないか?幼体は港にちょこちょこ来るけど」
「兄さん的には軍艦を飲み込んだ話はどう思うんだ?」
「居るんじゃない?位置的には結構離れてるけど違う大陸で見た事あるし、同じ個体か別の個体かはわからないけど体長1.2キロくらいのやつなら東の大陸の開拓中に見たよ、中央大陸と東の大陸を行き来する航路には近づく事はなかったから、同じところを行き来してる感じかな?」
「居るのかー…それも体重じゃなく体長が1.2キロとかシャレにならんな…そりゃ軍艦も丸呑みにするわ…」
「基本的には水生生物だから陸上に上がってくる事はないし、逆に言えば海水の浮力がないと動きにくいって事でもあるから陸地なら意外と安全、頭が届く範囲にいると食われるけどね」
「あー…まあそうか…でかいとそれだけ重力とかそういう影響を受けるもんなぁ…」
「主様が実際に居ると言ったという事は…そうか…親父は食われたっぽいなぁ…」
「しかしそんだけでかいのに何で目撃情報が伝承だけなんだ?」
「目撃した人は大体死んでるからかな?」
「さいですか…しかし釣れねぇなぁ…」
「ぼちぼち餌と認識して寄って来てるし、もうちょっとの辛抱だね」
サーペント
ちょこちょこ港に侵入してくる幼体が蛇っぽいのと伝承にあるのも蛇っぽいからそう呼ばれている
木材も栄養として消化できる海の掃除屋さんだったりもする、クジラも食べるけど船という海に浮いている餌を食べているだけなのでサーペントに悪気はない




