ピンキリです 業者の手に掛かれば全て0円
「店長ー」
「はーい、今日は何かねー?」
「お店にちょこちょこ飾ってある非売品の道具って実際どれくらいの価値があるんです?」
「ないやつは全く無い、今展示してあるスチールロッドと両軸なんかは使えるけど状態はそれほど良くないから両方合わせて20ドルくらいで買える」
「円に換算すると…」
「2100円くらい、収集家に見せてもそれくらいしか出して貰えないけど欲しい人は欲しがるそんな道具、未使用未開封でも100ドルはいかないんじゃないかなぁ?」
「オールドタックルは高いってのを見た気がするんですけど、そうでもないんですかね?」
「意外とそうでもない、高い奴は馬鹿みたいに高いけど元値がかなり安いからね、そのスチールロッドも発売当初は98ドルでリールも同じくらいの値段、国外にしかない上に数もそれほどだけど古い品という部分以外に価値はない」
「じゃあこっちのケースに入ってる色違いでずらーっと並んでる同じような形のリールも1台30ドルくらい?」
「そっちのケース入りは未使用だから50ドルかな?全30色で物は全て同じ、その頃の道具って箱が最初から付いてない物も多々あってねぇ、説明書もないからその分コストカットーみたいな感じで安くなってた物もあるのよ?」
「ほえー…コレクション品として集めるのにあまりお金がかからないってなると敷居は意外と低いんですね」
「買うのに掛かるお金はね、でも集めるのは大変よ?今展示してるのって国内じゃ流通してないし、それを作ったメーカーのある所に行かないと見つからないし、売ってるのが釣具屋とは限らないし」
「えぇ…釣具屋に無いならどこで買うんですか?」
「その辺にある家具とか雑貨とかおいてる店、釣り具だからって釣具屋に売っているとは限らないのがらしいよね、個人でやってる店なんてそんな物だけど釣具屋に中古の家具とか本もおいてたりするし、買わないにしても見て回るだけで楽しいよ」
「だから集めるのが難しいんですね」
「そうよー?未使用ともなるとなおさらね、そのケースに入ってる未使用品は現役時代に立ち寄った店でずらーっと並んでたからポンッとね、その時から価値は全く変わってないけど」
「本当にただコレクションするためだけの物って感じですね、価値がある物だとどれくらいするんです?」
「1つで数千万からする物もなくはない、さすがにそんな物は展示出来ないから裏の倉庫で眺める程度だけどね」
「なくはないと言ってその後直ぐ展示出来ないから裏の倉庫ー、って言ってくるという事は持っているという事ですよね?」
「あたぼうよ、花井ちゃんほど数は持ってないけど質なら負けないね、ルアーフィッシングメーカーの老舗どころか創業300年を超えるラハブの初代スピニングとベイトリール、竿は今みたいに種類がなくてスピニングとベイトで1本ずつだけど完品で持ってるぜー?ラハブの本社にも残って無い超貴重品でリールと竿が完全な状態でセットなら2億近いお値段になるね」
「たっけぇ…金か何かで出来てるんですかね…」
「アショーカピラーって知ってる?」
「ノー、聞いた事すらないです」
「まあこれは知ってなくても恥じゃないから良いんだけど、アショーカピラーって手入れをせずとも何百年経っても錆びない、超がつくほどの高純度の鉄で出来た鉄の塔なんだけど、それと同じ様に合金でもなくハンドルノブを除く部品すべてが純粋な高純度の鉄で出来ていて錆びないのよね、重いけど。
製法はもう失われちゃってるのと、100%に近い純粋な鉄の塊って事で戦時中に兵器の材料にされたのもあって、見つかったら見つかったで博物館入りするような道具なのよね所謂ちょっとしたオーパーツで出来たリール、それが完全な状態でうちにあるのですよ!」
「店長はそれをいくらで買ってきたんですか?」
「12ドル、古すぎるのと鉄の塊でリールの割には重すぎるというのもあって価値を知らない人が店に売って、店も価値を知らないからまあアンティークでこんな物だろっておいてたのをね、いやーいい買い物だったぜ、2台目はちょっと削れてたけど25ドルで、3台目はハンドルノブだけが腐食してる状態で20ドル、スピニングもそんな感じで3台購入して50ドルかかってないね」
「そんなに余ってるなら1セットずつうちによこせ、ラハブの本社に飾るから」
「やらねぇよ!集めるのに何年かかったと思ってるんだよ…」
「つまり数千万する物が最低でも6台あると?」
「数千万する値がつくのは完全な状態で購入したやつだけよ、12ドルで買ったベイトと18ドルで買ったスピニングは保存状態がほぼ完ぺきな状態でねぇ、中にクッションがついてる小型アタッシュケースとも言える箱も付いていれば説明書もついてるんよ、だから物凄く価値が高い」
「箱無し説明書無し現物だけでも20万ドルはするけどな、現存が確認されているのはベイトが7台スピニングが6台のみ、その半分がここにあるんだよ」
「はっはっは、何度も博物館から寄贈してくれとかそういう話も来てるけど全部蹴ってるからな、竿も箱付きの完品を買うのにどれだけかかった事か」
「竿は何製なんですか?鉄って事は無いですよね?」
「竿も製法は失われちゃったけど竹製よ、繊維の一本一本までばらして編んでブランクスを作って、物凄くしなやかで折れにくく劣化しにくい、むしろ時間が経てば経つほど味が出てくる、和竿はそのまま乾燥させて形を維持するけど、ラハブは竹細工の要領で竹の繊維を編んでブランクスを作ったわけだね」
「それって強度はどうなんです?竹竿ってカーボンやグラスに比べると強度に難有り、ってイメージがあるんですけど」
「竹は扱い方次第よ、バットからティップまでで編み方が違ってね、強度でいえば今時のミドルと変わらないのよ、でも当時らしくブランクスはグリップエンドまで通ってないし、フロンドグリップまでだから無理をすると力がかかりすぎてちょっとバットがミシッといく可能性がある。
片手で扱うのが前提だからベイトはガングリップ風で、リールシートはアップでもダウンでもなくネジで押さえつけて固定するタイプ、これはスピニングも同じかな?」
「こいつの場合未使用の当時のラインも完全な状態のを持ってるんだよ、だからそれらを全部まとめて売り払ったら軽く500万ドルからの値段がつく」
「500万ドルって…」
「約6億だね、300年前の物が使えるのかよーって思うだろうけど、虫食いもないし日に当たってもいないから意外と使える、巻いて使う気はないけどね。
箱が無い現物のみのやつは昔のテレビ企画でちょっと使った、それでラハブとか博物館に現物の所在がバレたんだよね」
「しかし、高純度な鉄というだけならそれほど…な気がしますけど、なんでそこまで値がついてるんですかね?」
「やっぱり製造された年代の問題かなぁ?300年くらい前に作られた物だし、現存してるだけで凄いってのもあるからね、戦時中に兵器の材料として持っていかれず、戦火に飲まれても消失せず、現存しているのは2桁にも満たないってなるとそりゃ価値は爆上がりよ」
「コレクターとしては喉から手が出るほどの一品、博物館からすれば是が非でも展示したい漁具ってのもあって年々価値が上がってるんだよな、特に博物館からすれば錆びない鉄で出来た300年も前の漁具とか研究に値する物だし」
「値段が上がり始めたのっていつくらいからだったっけ?少なくとも私が見つけて買った時は誰も価値を見出してなかったただの珍しい古い道具だったし、だからこそ安く集める事が出来たんだけど、竿は伝手を辿って持ってる人を探して交渉したりしたから2500ドルとか出したのもあるけど」
「価値が上がり始めたのはラハブが成長して大きくなって、自社が製造したオールドタックルをうちの歴史って感じで展示し始めてからだな、その辺りからオールドタックルブームもちょこっと発生して、記録には残ってるけど製法とかが残ってない幻のオールドタックルって感じで懸賞金をかけたのが始まり、最初は1万ドルスタートだったと思うぞ?
でもはっきりとラハブが製造したという物は中々見つからず、そうこうしているうちにタカムラが現物を使っていたのを発見、現物の形や素材が分かったのでそれをもとにこういうやつーって手配書みたいなのを出して、見つかるには見つかったけどこれを持っていたから一族は300年戦火に巻き込まれずに済んだとかで代々お守りとして持っているとか、コレクターが収集して手放さないとか。
それで現在上がりに上がって現物のみでも20万ドル、状態によっては100万ドル出すぞってなってる、そこまで上がったのは博物館の横やりもあるけどな、古い物って戦火でかなり焼失してるし、そんな状態で300年間錆ず朽ちずの漁具が出てくればねぇ?」
「ま、そんな感じで数は少なくてもコレクションの質では花井ちゃんには負けていないってやつよ、花井ちゃんも集めてるっちゃ集めてるし、年代順に並べてはいるけど国内メーカーの物ばかりだね。
価値は兎も角として意外や意外っていうメーカーのリールと竿があったりするのよー?」
「意外なメーカーですか…今もあるメーカーですか?」
「今もあるよー?それなりに有名ではあるんだけ作って販売していた事を知られていないっていう、うちでもそのメーカーの物は少量ながらも仕入れてるよー?」
「少量…2つとか3つしかないってメーカー品も多いので絞り切れません」
「リバーサイドメモリアルっていうメーカー、34年前にバス用のベイトとスピニングをリールと竿のセットで500ずつ出荷して直ぐ生産終了した」
「売れなかったんですか?」
「売れなかった、性能も微妙なんて物じゃなくて取りあえずブームが始まったから作ってみましたってだけの品でねぇ、売れたら追加生産するつもりだったんだろうけど見事に爆死して今はもうソフトルアーしか作ってない。
というよりその時はもうすでに私はマキシマにいたし、花井ちゃんもワールドにいたしで道具もどんどん性能が良くなっていっていた時期で次から次へと新しい物が出てたからね、それもあって即返品で店に並んでいた事を知る人もほぼいない」
「あの時代もそうだけど今の時代も次から次へと新しい物を出しすぎなんだよこの国のメーカーは」
「今は大分落ち着いてるぞ?今は昔みたいに毎年毎年モデルチェンジって事は無いし、大体2年から3年は掛けるし、代わりに新製品が出たりするけど」
「その代わりにって部分が大問題だろう、このリールにしてもブレーキが電子か遠心か、スプールを変えてフィネスかっていう違いしかねぇじゃねぇか」
「あれが欲しいこれが欲しいっていうユーザーの声に答えた結果としか言い様がないからなんとも…1つに纏めたら纏めたでフィネスモデルの生産止めたの?ないなら買わないってのも出てくるんよ、最初からフィネス専用で作れば1台1万から2万で上等な物が出来るけど、全部纏めちゃうとハイエンドクラスになって値段がねー…
あまり売れなかったのはまあ廃盤になって結局は生産終了になるけど、全くないってなると売り上げが落ちちゃうからミドルクラスあたりはマイナーチェンジでちょこちょこ出してコツコツ稼いでたりするのよー?」
「そういえばワールドから出ているイーグルとファントムって種類がえげつないくらい有りますよね、電子ブレーキに遠心ブレーキの2つを基準に通常スプール軽量スプール、シャローにナローにフィネスにソルト対応に200番スプールに300番スプール、ハイギアにエクストラハイギアに…」
「イーグルとファントムの違いはスプールの製法と使ってるベアリングのランクね、それ以外は全部同じ、技術分散ともいうけど」
「頭がおかしくなりそうなくらい出してんなぁ…それにスプールとベアリングだけとか使って違いとかわかるのか?」
「ほとんどの人はわからん、そもそもトータルで同じくらいの性能になってるからどっちが扱いやすいとかそういうのはない、廉価版のミドルとして売るために分散して売ってるってだけ、ハイエンドになれば劇的に変わるけどな」
「意味わかんねぇ事してんなぁ…」
「ま、ハイエンドに手が伸びない、壊れた時にどうするか…って考えてしまう人には丁度良いっちゃ丁度良いのよ、うちは置いてないけどな。
話は逸れちゃったけどオールドタックルはピンキリ、コレクションをするのは良いけど置き場所と保管方法、処分する時の方法も考えておかないと後が大変よ?」
「知ってる人からしたらとんでもないお宝でもゴミ処理業者からしたらただのゴミだからな、それで今まで何億分の損失が出たんだろうな?」
「あー…祖父や両親の死後業者にコレクションしていた物の処理を任せたら実は数百万の価値があった、とかちょこちょこニュースに出ますね、使わずに箱に保存していた陶器に至っては2500万の価値があったとか」
「どれだけ価値があろうとゴミ処理業者にかかれば0円のゴミに早変わり、その日のうちにただ砕かれた陶器や燃えるゴミ燃えないゴミになるね、だから処分方法を考えておくのは大事。
弁護士は遺言書やらなんやらを預かってくれるし、代理人として働いてくれるから、何かあったらコレクションはどこそこに寄贈って書いておけばその通りにしてくれるよ、私は墓まで持っていくけどな!」
「いやラハブに売れよ、勿体無いにも程があるわ」
オールドタックル
一言でいえば数十年前の古い道具、手入れを使う人もいればコレクションをするだけの人もいる
何にでも言える事だがコレクションした物は処分する時の事を考えないとただのゴミとして捨てられるので気をつけよう、ゴミ処理業者からすれば1つ数十万の陶器もただの燃えないゴミでしかない




