当たり外れのある科目 野菜は不要
「ウナギが…ウナギが凄く美味しかったんですよ…肉厚で弾力も凄くて臭みもなくて、噛めば噛むほど脂が出てきて口の中一杯に広がって、皮もパリパリで…今まで美味しい美味しいと食べていたウナギはドジョウか何かだったんですかねぇ…」
「だとしたらそれは凄く美味しいドジョウだね、それにここでしか食べれないとか、もう食べれないって言う事は無いんだし、たまの贅沢くらいに考えてまたいつか食べようってくらいにしておくのが一番よ」
「そこ間違えてんぞ、なんで軍人でも目上でも大事な客でもないのにSirがつくんだよ、こいつらの居るところはただのグラウンドで授業中の一幕としての会話だろ?それも生徒同士の」
「残念ながら課題の回答としてはこれが正解なんですよ、この課題を出している教師は兎に角相手に様とかをつける畏まった会話内容にしないと日常会話として不適切な物、として扱うんですよ」
「そんな会話どこで使うんだよ…軍人かつ上官相手でもこんな会話しねぇよ…」
「だよねぇ?なんかズレてるんだよねあの先生、このくらいは出来ないと現地で日常会話が通じないぞとか言ってるけど、本当に現地へ行った事があるのか、会話した事があるのかっていう」
「少なくとも現地に行っても通じる内容ではないな、まだ片言で単語を並べる方が意図が通じやすいぞ、特に日常会話なんて標準語みたいなのは無いに等しいし、必ず訛りやらスラングが混じってくるから片言でも良いから単語だけを並べる方がが間違いなく通じる、こういう風に変に繋げると間違いなく通じない、というよりお前は普段から同僚や友達に何々様どうかここのお支払いは割り勘にしてくださいませー、お茶を一杯淹れてくださいませどうかお願いしますー、淹れてくださってありがとうございます何々様ー、って言ってるんかと」
「普通は言いませんよねぇ…」
「しかもこれ友達にも目的地に対してもSirが付いてるし、友達様とファミレス様へ行く事になりました、とか分けのわからん事になってんぞ」
「こうして英語の出来ない学生達が量産されていくのでありましたとさ、割と笑い事ではないけど」
「それでいいのかこの国の教育機関」
「国語にしても歴史にしても独自解釈を入れてくる教師ってのは必ず一定数いるからね、そういうのを引いたらもうどうにもならん、かといって英語は教科書通りだと単語以外まず役に立たん」
「まあ、そうだよなぁ、少なくともこの教科書を見るだけでも日常会話を覚えるのはまず無理だなってなるし、そこに教師の独自解釈とかが入るともうどうにもならんわ」
「でもやらなきゃ留年、この通りに回答しないと赤点で留年、理不尽だー!」
「でも去年はまだ割と教科書に忠実だったよね、担当教師変わった?」
「変わりましたね、去年まで英語を担当していた教師が他校へ行ったので今年から新しい教師になりましたし」
「それで特級の外れを引いたってのがまた何とも、まだ教科書通りの方が幾分かましだね、通じはしないけど無難に覚えれるという点で」
「通じない時点で目くそ鼻くそじゃね?取りあえずこれはもうどこでも使えない独自の言語として扱って単語だけ抜き出して覚えて、日常会話はタカムラとハナイから学んどけ」
「ところでお兄さんはさっきから何をやってるんです?」
「ウナギ釣り用の道具作成、こうやって竹に返しのない針をしっかり固定して抜けない様にするだけ、曲げると折れるけどまっすぐ引っ張る分にはかなり強いからこんなに細くても大丈夫」
「あー、なんか昨日店長が言ってた気がしますね、そういう道具もあるって」
「竹に直接固定しない物もあるよー?こっちに置いてあるシノチクっていう細い竹を適度長さに切って、手に刺さらないようにささくれているところは削って…これだけ、これに10号か水糸で結んだ針先を先端に引っ掛けるだけ」
「かなりシンプルですね」
「確実に取るなら前者の仕掛けの方が良いと言えば良いね、後者の仕掛けだと中で糸を巻いて絡まって、たまにウナギ自身が縛られて出られなくなってそのまま死ぬって事もあるからね、店長さんの実家前の川なら石をひっくり返せばとれるから大丈夫だけど」
「2つ目の道具はリールがついてないだけで昨日やったのとほぼ変わらないね」
「手で引っ張るか、竿で引っ張ってリールで巻き取るかの違いしかないけど、今放流してあるのは大きさが大きさだし、竿とリールで釣るのも楽しいといえば楽しいね、石をひっくり返せば巻く前に走って逃げだすし、ウナギもメーターとなると力比べをするのもかなり楽しいでしょ?」
「確かに楽しかったですね、一気に引き抜こうにもそうはさせてくれない力と重量がありましたし」
「花井さん教えて貰っている子供や大人の人もかなり苦労してたよね」
「ま、ちゃんと普通のウナギではあるけど、大きさと太さがオオウナギみたいな物だしね、よし出来た」
「ドが付くほどシンプルですね、切った竹に針をを固定しただけ」
「でもこれがウナギにはいいのよ、狭い所にいるからこれを差し込んで食わせて一気に引き抜く、問題は…」
「今放流してるウナギは大きすぎるからこれで獲れるかどうかといえば謎ってやつだね、真っ直ぐにしてる限り折れるって事は無いけど、まあ夏休みの川遊び体験の一つとしてやるには丁度良いってやつだね、本気で獲るなら昨日もやったようにもうリール付きの竿で10号を使って…ってのが確実、うまく追い込めば手掴みもできるけどね」
「手掴みは手掴みで相当大変な気がしますね、あの太さと大きさでは…」
「さらに滑るからしっかりロックする方法を知らないとお伽話のアレになるね、いつまで経っても捕まえられず、しまいには天に昇って行ったっていう」
「空を飛ぶ事は無いでしょうけど、あの力の強さを考えると同じような事にはなりそうですね、掴んでは滑って上に逃げられて…の繰り返しで」
「ま、学生2人は課題に集中しなさいな、今日も今日とて花井ちゃんは川遊びのガイドでお店にいないし、お客さんが来る時間帯に課題で動けないってなると大問題だからね」
「はーい」
「お兄さんとジュリアさんも普通にここでお昼ご飯を食べるんですね」
「ここならタダで食えるからな、最近はタカムラがうるさいから何かしら持ってきてはいるが」
「そりゃうちは基本的に2人分の食材しかないのに1人分追加してくれー、って言われたら追加で買ってくるか私と花井ちゃんの分を減らすしかないからね、だからうちで食べるなら何かしら持って来いって言う様にもなるよ」
「それでお兄さんとジュリアさんが持ってきたのは…唐揚げとタルタルソース?」
「可もなく不可もなく、沢山あれば皆で摘まめる丁度良いおかずだよね、揚げ立てじゃないからちょっと冷めてるしサクサク感もあまりないけど、甘辛タレに漬けてあるから冷めても変わらぬ美味しさ、タルタルソースはお好みで」
「チキン南蛮…とは違うんですね、あちらは甘酢ですし」
「こっちはすき焼きのタレベース、それにゴマとニンニクと鷹の爪、それとトロミを付けるために増粘剤を加えた物」
「増粘剤…って化学薬品?」
「いやいや、食品添加物で別に危険な物ではないよ、原料はグァー豆っていう豆だし、グァーガムって有るでしょ?ガムっていうからガムの一種か何かだと思いそうだけど、グァー豆から取れる物で作ったのが増粘剤の一種であるグァーガム、冷凍の白身魚フライでも結着材として使われてたりするね」
「あー、なんか原材料で見た事あるかも?」
「まあ、体に悪い物じゃないし、少し粘性を持たせてとろみをつける事で厚めの衣であればちょっとサクッとした感じを保たせる事も出来るのよ?無い場合だと冷めていくにつれてどんどん浸み込んで行って内と外からでベシャベシャにね、衣をがっつり厚めにして長めに揚げればそうでもないけど」
「これは丼にしたら絶対美味しい、さらにお弁当で入ってるとちょっとテンションが上がるやつだ」
「それと私からはこいつだ、ジャイアントソーセージのサルサソース掛け、これもシンプルで美味いぜ?」
「これはお弁当に入っていてもテンションは上がらないなぁ…見た目は綺麗なんだけど…んー…」
「唐揚げと比べるとテンションが今一上がらないのはわからんでもない、弁当に入れるならソースなしの単品の方が美味しく見えるね、店で出てきたら美味しそうに見えるのはこっちだけど」
「私のいたところだと割と定番なんだけどなぁ、大体は挟んでバーガーにしてるが」
「サルサソースを食べるのは初めてですね、聞いた事だけはあるんですけど」
「簡単に言えばオニオンとトマトとピクルスで作った野菜が取れるソースだよ、好みでタバスコなんかを入れたりするけどな」
「あ、これ結構好きな味かも、ソーセージ自体が袋入りの物より美味しいのもあるけど、少々ピリッとして甘酸っぱくしゃきしゃきとしたソースがかなり合う」
「だろー?」
「ジュリアが住んでたところと毎年出ていた大会がある国、そこで食べる物に迷ったらサルサソース付きのバーガーを頼んでおけば問題はないよ、安定して美味しいし野菜も取れるからね、それ以外だと…なんだろうねぇ…色んな外食チェーンもあるし、どこそこの人向けってのも無くはないけどそういうところは基本的に高いし…」
「外食で迷ったらビーフステーキ食っとけ、あっちはこっちの半分以下の値段で倍の量が食える、逆にチキンはこっちの倍以上するけどな」
「そうなんですか?」
「国土的に牛の放牧には向いているが鶏の飼育はこっちに比べるとってやつだな、だからと言って数がいないわけではないんだが…まあ牛肉を食う方が安いのは確かだな」
「このソーセージも牛100%だったり?」
「腸は兎も角中身は牛だな、荒く引いた牛に丁寧に処理した内臓を加えてハーブとスパイスで香り付け、味付け自体は塩のみ」
「作ったのは華ちゃんだけどね」
「はっはっは、作れる人が作れば失敗がなくていいじゃないか、私が問題なく作れるのはステーキとサルサソースくらいだ」
「焼くだけなら私も出来るー」
「あー、ジュリアのステーキは焼くのに1時間とか掛かるやつだからフライパンで焼いて終わり、っていうステーキとは別だよ」
「え?ステーキって1時間も焼くの?」
「厚さによるな、テンポンドステーキを焼くなら大体それくらいは掛かる、それと焼くのは絶対オーブングリル」
「ジュリアの焼くテンポンドステーキはマジで美味しいよ、手間が掛かってるのもあるけどシンプルに美味しい、大衆向けのステーキ専門店で食べるより何倍も、高級品を扱っているだけのところと良い勝負になるくらい、肉は等級が遥かに下の安物でね」
「そんなに違うんですか?」
「焼き方と仕込からして違うからねぇ、中まで火はちゃんと入ってるけど物凄く柔らかいし、肉汁が溢れ出てくるし、扱い慣れている国民なだけはあって全然違うといえるね、大衆向けに出店してるステーキ専門店がその国の肉を使ってるけど、あれはもうただの焼いただけの肉としか形容できないくらい違う」
「1回タカムラに連れて行かれたけど、あれは不味かったな…硬いし水分は抜けてるしその上熱した鉄板でさらに焼き続けてるしで意味が分からん」
「8月まではこっちにいるんでしょ?だったらさーちゃんとちーちゃんがバイトでこっちで来てる間に焼いてあげてよ、肉なら華ちゃんが赤身のテンポンド用意してくれるだろうし、オーブングリルなんかの道具ならお兄さんが持ってるでしょ」
「そうだなぁ…最近焼いてないし、来週くらいに焼くか」
「そんな感じで来週のどこかでお昼がテンポンドステーキになります」
「テンポンド…って4.5キロですよね?」
「そうだね、4.5キロだね、でもテンポンドステーキはパーティー料理だし、恵里香ちゃんとかも来るだろうし、1人で1キロ食えってわけじゃないから安心しときー」
「あーびっくりした、5人くらいでそれだけ食べるのかと…」
「さすがに少人数だと300くらいのを用意するわ、でもテンポンドにしかない美味しさってのもあるんだよな、あのでかい塊の中にどう肉汁を閉じ込めるかで仕上がりと美味さが変わってくるし、それにバーベキューの定番といえば1時間から2時間かけて焼いて切り分けて食うでかい塊肉よ」
「こっちと向こうは全然違うからね、バーベキューといえば肉を焼く物で、ピットマスターになる主催者以外は触っちゃダメ、野菜なんかは一切焼かない、食べたいややつだけ勝手に焼いて食えばいいんじゃね?っていう感じよ」
「野菜なんぞステーキに塗って焼くオニオンとガーリック、それとお好みのトマトくらいで十分よ、私はトマトを使う派だからトマトも焼くけどな」
「そのトマトもオニオンとガーリックみたいに刻んで一緒に焼いて、ステーキの香り付けとかに使うんだよね、こっちだとにんにくで最初から香りを付けておいたり油にちょっと香りを…だけど違うのよ。
まず刻んだオニオンとガーリックをスキレットで炒める、その傍らでスパイスとハーブ、塩で香りと下味をつけた肉の表面を強火で焼く、強火で表面を焼いて焼き色がついたらスキレットで炒めてたオニオンとガーリックを上側になる部分に塗りつけて、肉をスキレットの上にお引越ししたら炭を移動させて弱火から中火くらいにして温度を管理しながら中に火が通るまでじっくり」
「まあ、来週材料が揃ってからのお楽しみだな」
「楽しみに待ってまーす」
ピットマスター
難しく言えば職人でバーベキューの達人、砕いて言えばバーベキューの時に近所の人を集めて仕切る主催者
焼くのは肉のみで野菜は焼かない、野菜は食いたい人だけ勝手に焼いてろ、という感じで肉だけを焼くのが普通、誰に何をどう振り分けるか、目玉である数時間かけて焼く巨大な塊肉の切り分けもピットマスターのお仕事




