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突発的なお祭り 気分では誤魔化し切れない味

 んーむ、今日も今日とて真夏日かな…山の中で30度を超える事は早々に無いのに32度もあるし、この感じだと麓は猛暑かもしれないねぇ…熱波恐るべし…まあ、室内はそんな物関係なく涼しいし、1号湖周辺は27度程度で体感はさらに低く24度と快適、海の方は30度は超えているけど湿度は低くべたつかず、さらには紫外線等の肌が焼ける要因はカットしているので実際の気温よりは気温が低く感じる程度で過ごしやすい、だからこそこういう日は気温の安定している場所でのんびりするのが一番よねー…

 でもこんな日でもお買い物に行かないと…なのがなんとも…お金を使わずとも食料は確保出来るけど、少しでもお金を使わないと経済は回らない、と言う事でお買い物の準備、別に時期というわけではないけどこっちでは夏にウナギを食べるという風習があるので…


「いつものウナギを500…いや、1000かな?それとウナギのパンフレット」

「はいよ、また今年も掴み取りとかやるのかい?」

「そんな感じ、天然物も居なくはないけど、この時期のは痩せていて脂がねぇ…だからイベントとしてやるなら天然物を集めて、ではなく年中安定してる養殖の方がね」

「天然物は取って食べるなら冬だな、それに昨日今日とこの気温だ、川遊びをしつつ美味いウナギを食うってのは最高の贅沢だろうよ」

「お昼前くらいからの予定だから、11時くらいに取りに来るねー」

「おう、極上のウナギをきっちり1000匹用意しといてやるよ」

 よし、これでウナギの注文は完了、そしてウナギだけというのも寂しい物があるので…肉と野菜、お米も必要だよね。

「というわけで野菜をください、玉ねぎが50キロと水ナスが50キロ、ピーマンとトマトが30キロ、11時までに」

「あらまあ、来て早々大量の注文だね、でもお兄さんのために頑張って集めちゃう、市場が抱えてる一番いいやつを持ってこさせるだけだから頑張るのは市場の連中だけどね」

「世間は休日なのに市場の人は大変だなぁ」

「そんな事は気にしなくていいのよぉ、ところでトウモロコシはいらないのかい?」

「そうだねぇ…30キロくらい貰おうかな?」

「まいどー、請求書はお家の方に回しておくわねー?」

「それでよろしくー、次はお米屋さんのー…それからお肉屋さんか」

「あぁそうだ」

「んー?」

「お米屋さんは今外に出ていないから後に回すのがいいわよー?氷屋さんのところに行ってファミレス夏のグルメフェアで使うもち米やウナギのかば焼きに使うお米をどれにするか決めるって言ってたわよー?」

「あらま、それじゃ戻ってくるのはかなり遅くなる感じ?」

「そうねぇ、帰ってくるのは夕方過ぎじゃないかしら?電話で直接連絡を取れば裏から入って好きな物を持っていけーって言うと思うけど」

「じゃあ電話して連絡を取るしかないかぁ、ありがとねー」

「はーい、また何かあったら来てねー?」

 ふーんむ、今お店にいないのなら仕方なし、先にお肉屋さんに行って、用意して貰っている間にお米屋さんに電話を入れて…かな?

 よし、それじゃあぱぱっとお肉屋さんに行って大量のお肉を注文して、それからウナギに合わせるお米を選びましょうかね。


「バーベキュー用の肉が各種50キロずつ、確かに用意したよ」

「さすが華ちゃんのおばあさん、仕事が早い」

「華が今日は昼から川でバーベキューって言ってたからね、いつでも持って来させれるように連絡を入れておいただけさね」

「請求書はお家の方によろしくー、これで後はお米屋さんに電話を入れるだけなんだけど…」

「何か問題でもあるのかい?」

「会議中だったらどうしようかなーって?」

「そんなもん気にしなくていいさね、会議中といってもファミレスで出すデザートやかば焼き丼なんかに使う米の試食をしてるだけだ、気にするこたぁないさね」

「それもそうか、それじゃあ電話を入れたらお米屋さんからお米を拝借していきましょ」

「ウナギは余ったらうちにも回しておくれ、店の中は涼しくていいがこう暑いとなかなかこたえるさね」

「1000匹用意して貰ってはいるけど…余るかなぁ…」

「余りそうにないならかば焼きにしたのと取り置きにしておけばいいのさね、それと肝も5つほど串に打って焼いたのを頼むさね」

「それもそうか、それじゃあ11時くらいに取りに来るから、カットは華ちゃんにお任せーって伝えておいてねー」

「はいよ、量的に間に合うってことはないだろうが、形だけ整えておけば後は現地で切ればいいさね」

「だねぇ」


 えーと、お米屋さんの電話番号を呼び出してぽちっと、後は出るまで待って…

「もしもーし、山の中に住んでる家の者ですけどー」

『あ、はい、お世話になっております、現在会長は会議中ですのでご用件は後でお伝えする事になりますが、それでもよろしいでしょうか?』

「11時までに終わるのであればそれでも」

『11時…までには終わりそうにないですね、お急ぎであれば会議に割って入りますが』

「割と急ぎではあるけど…お店のお米をかば焼き用にブレンドして貰いたいってだけだからねぇ…」

『ブレンド…となると会長に割合を聞いた方が確実ですね、わかりました、会長に変わりますので少々お待ちください』

「はいはい、お願いねー?」

 んーむ、さすがに会議中だと本人は出ないかぁ…まあ仕方ないね、しばらく待てばお米屋さんと変わってくれるみたいだし、のんびり待ちましょ。

 でー、現在の注文漏れはなくて、会場となる川と川辺は現在漁協が封鎖中の、恵里香さん達は一足早く会場入りして炭やコンロをを用意中の、華ちゃんは時間ぎりぎりまでお仕事の…うん、今のところは問題なしかな?

 突発的なお祭りとはいえ今日は休日、飲み食いも自治体に入っている人以外は有料だけど、1000円で食べ放題飲み放題時間はお祭り終了の午後6時までだし、結構な人数で賑わう…はず、多分。

 海水浴場の方でも今年も無事に海開きができました、ということで外から来た人向けにレンタル品なんかを割引したりしてるみたいだけど、そっちにはウナギなんかは持っていかないので関係なし、地元の人向けのお祭りはそういう物だよね。

『はいお電話変わりましたー、ご注文はブレンド米との事ですが』

「あー、はいはい、そうそう、ウナギのかば焼き用のブレンド米を200キロほどね、ウナギは魚屋さんが持ってる一番いいやつだからそれに合うやつをね」

『なるほど、それでしたら2番のお米を2、7番のお米を2、11番のお米を6で混ぜていただければタレでも白焼きでも合うはずです』

「2と7が2で11が6ね、はいはい、でー、お店の中に入るための鍵は…」

『今日は苗のポットの中に隠してあるので、プチトマトの苗を引っこ抜いて取り出して頂ければ、鍵を戻す時は郵便ポストの二重底の下に戻しておいて貰えれば』

「はいはい、会議中だったのにごめんねー」

『いえいえ、ただ試食をしてこれならいくら、それならいくらでってだけなので楽な物ですよ』

「請求書はいつも通りお家の方によろしく、それじゃねー」

『はーい、それではまたー』

 よし、配合の割合と鍵の場所は分かったし、お米のブレンドをしましょうかね。


「暑気払いって感じで突発的なお祭りを始めたわけだけど、さすが実家周辺の人達、フットワークが軽いわぁ」

「ウナギと肉が食べ放題に釣られただけな気がしないでもないですけど」

「田舎の爺婆はそんな物さ、あ、食材にかかった費用は後でうちの自治体に請求しておいてね」

「ならなんで一旦うちに請求書を出す必要があるんですかねぇ…最初からこっちに回せばいいような気がしますけど…」

「なんでだろうねぇ?多分恵里香ちゃんの家を通したらおまけしてくれて安くつくから…なのかなぁ?後急な大量注文でも断られる事がなく休日祭日祝日関係なく用意してくれるから、というのもあると思うけど」

「まあ…麓の商店街とは仲良くやっていますからねぇ、商店街のアイドルともいえる華ちゃんもうちに嫁いできているような物ですし、お米屋さんと八百屋さんとかもお兄さんのファンですからねぇ、多少の無茶なら聞いてくれますね。

一度に購入する量も多く金払いもいい太客、という部分もあると思いますけどね、普段買っている物は安い物が多いですけど、こういう時にポンッと払うのも確かですし」

「少なくともウナギ1000匹とかうちの自治体が注文しても用意して貰えるかどうか怪しいね、それとお兄さんが注文したら極太の長いウナギにして貰えるし、市場への卸値で1匹3000円は付きそうなのが500円くらいで済むし、肉にしても10分の1以下とかに抑えられてるよね」

「そうですねぇ、今回の注文だと極上のやつをよろしくー、という感じだったので本当に極上品を頼んでいるでしょうけど、ちょっと見てきた感じですと専門店で1匹2万とか取られるやつでしたよ、市場への卸しても8000から万じゃないですかね?」

「オーウ…1匹いくらくらいで請求が飛んでくるんだろうか…」

「帰って請求書を見てみない事にはわかりませんね、ただ言える事はかなり安く譲って貰っているはずなので、1匹3000円もはしないんじゃないですかね?」

「それでも300万かー…肉も合わせるとこの突発の納涼祭りは600万くらいいきそうね…」

「自治体の積み立てとか大丈夫ですか?」

「積立金は大丈夫、この辺りの爺婆はうちの実家含めて結構お金を持て余してるし、6000万くらい積立金があるはずだから」

「結構貯め込んでますねー、変な人が自治会長になったら間違いなく持ち逃げコースですよ」

「それは大丈夫かな?引き出そうとした時に銀行から自治会の幹部陣に連絡が飛んでいくし、そこで全員の同意がない場合は引き出せない仕組みになってるし、今まで持ち逃げが発生した事はないね、引き出そうとしたやつは何人かいるけど」

「村八分で追い出し確定ですねそれは…」

「実際叩き出されたね、地域住民の冠婚葬祭、災害時の生活必需品買い付け資金にって感じで積み立ててるお金だからね、横領や持ち逃げは許されないのですよ。

でも自治体に参加してる家庭は結婚をした時に自治体の方からお祝いの品とか祝儀とか出るし、子供が生まれてもお祝いの品とか育児に必要な物が貰えるし、七五三だのなんだのって時も色々やってくれるからお得なのよー?」

「冠婚葬祭に災害時の物資を買う時の資金に…であれば確かにお得ですね、うちは山の中なので自治体も何もないんですけども」

「過去に4000万くらい一気にどーんと使った事もあるんだけどね、地震で割れた私道の整備とかそんなので、皆利用してるからそのままに出来ないし、皆使ってるのに個人から出させるのは…って事で積立金からね」

「私道を通らないと他所へ行けないってのも珍しいですよね、探せば意外と有ったりしますけど、中州に住宅街が有るけど道と架かっている橋は全部私道ってのが」

「あれ市がゴネにゴネて値切りまくって交渉を決裂させてるのが何とも、最初に所有者が提示した適正価格で買っていれば何の問題もなかっただろうに」

「所有者がブチ切れて有料化、住んでいた人は全員引っ越して今は空き家と土地の所有者しか残らず地価も暴落、ですからねぇ」

「まあ、こっちはそれとは違うけどね、逆に国道にするとめんどくさいから私道のままにしてるだけだし、田んぼとか農業用水路とかそこかしこにあるし、国道にしちゃうと手を入れ辛くなるからね」

「うちも麓までの道は私道ですねぇ、山全体が私有地というのもありますけど、そもそもどこにも繋がっていないので国道になるわけもなし」

「ま、場所によるってやつよねー…っと、いい匂いがしてきた、一足先にかば焼き丼を食べに行くかー」

「そうですね、行列が出来る前に確保しておかないと食べるのが難しくなるでしょうね、肉や野菜は各自で焼いて食べる感じですけど、ウナギは捌けてかつ焼ける人じゃないと残念な事になりますからねぇ…」

「絞めるまでは誰でも出来るんだけどね、氷で冷やして仮死状態、そこから目打ちで固定して人間でいう頸椎辺りをさくっと、その後が難しい」

「骨に沿って一気に尾の先まで、かつヒレからずれない様に、失敗するとガッタガタになりますからねぇ、私も初めての頃は何度も失敗した物ですよ、途中まではいいんですけど尾の先に近づくに連れて斜めになっていくんですよね、ウナギ自体が動くので」

「絞めても神経は生きてるからねぇ、ゆっくりやろうとするとグネグネ動き始めるし、そうでなくても縮もうとするからね、アナゴもそうだけど」

「かといって完全に動かなくなった奴は…ですしねぇ…」

「生きているうちに一気に捌いて弾力のある蒲焼にして食べる、単純ではあるけど物凄い贅沢な事よねー…って、さすがにもう行列が出来てるなぁ…これは30分から1時間待ちかねぇ…」

「まあ、ウナギは1000匹用意してますし、食べれないという事はないので整理券だけ貰って待つのが得策ですね、800匹ほどは掴み取りや釣り用に川に放流してますけど」

「その放流したのも1週間持たずいなくなると思うけどね、上流側と下流側に網を張って逃げれないようにしてあるし、以前みたいにいなくなるまでは近所の爺婆が毎日釣りに来ると思うよ、遊びに来てる孫のためにーって」

「あー、早いところはもう夏休みですか、なら美味しい物を沢山食べさせるために釣りに来るでしょうねぇ、お兄さんかば焼き丼2人分の整理券頂戴ー」

「はーい、現在1時間20分待ちー、出来たら運営本部の方から何番ーって呼び出しがかかるからそれまでは待ってねー?」

「一家総出で来ているところが多いからやっぱり結構待つねぇ」

「多いところだと8人で来てるからねぇ、少なくても5人だから1回で8匹とか注文が入るのよね、おかげで200匹捌いたのがもう残り30とかよ、だからそろそろ本部の方からウナギを食べたい人は川で掴み取り、または釣って料理してるところまでーって放送が入ると思う」

「このウナギの値段を知しったら県外から遊びに来てる娘とか息子とかひっくり返るんじゃなかろうか?」

「まだ請求書を見てないので何とも言えませんけどね」

「物自体は一番良いのを降ろして貰ってるよー?それとそのウナギのパンフレットがこれね」

「美山の極上トロうなぎ、このパンフレットだけでは値段はわからないけど調べたら出てきそうだね」

「美山の…取扱店舗は出てきても専門店がこのウナギを使ってますってだけで、一般販売はしてないのでウナギ自体の値段はわかりませんね、1匹丸々使ったうな重が4万とは書かれてますけど」

「たっけぇ…天然物の方がお手頃で安く感じるわ…この時期のウナギは脂が抜けてそんなに美味しくないけど…」

「でもそれだけ払う価値が有るって事なんでしょうね、捌いてあるウナギを見るだけでも凄い肉厚ですし、頭を落としてまだなお1メーターを超える長さ、1匹でも普通のウナギ4匹分くらいの量はありますよ」

「極上トロうなぎっていうだけはあって焼いた時に出る脂の量も凄いけど、焼いてもこんな感じでほぼ縮まないんだよね、それにこれだけ脂が落ちてもまだまだたっぷり身に蓄えているから、噛んだ時に脂と旨味がじゅわーっと口一杯に広がる」

「焼いてる音と匂いだけでご飯が2杯は食べれそう…何も知らない人に食わせるのは勿体無いぜ!だから花井ちゃん早く焼いてー」

「先に注文した人の方が先です、なので店長でも優遇は出来ませんね」

「仕方ない、バーベキュー用の肉をちびちびつまみながら待つか」

「お肉は華ちゃんに注文して受け取ってねー」

「はいよー」

「んー…」

「どしたの?」

「いえ、このお祭りが終わって遊びに来ている娘息子夫婦が自宅に帰って、その後自宅やお店で食べるウナギは今一に感じるんじゃないかなーと思いますと…」

「あー…まあ…うん、そこはどうしようもないね」

突発納涼祭

川遊びで涼を取りつつ美味しい物を食べるだけというお祭り、他所から来た海水浴客も入れる、けど自治体で開く身内の祭なので居心地はそれほど良くない

何も知らずに美味しい美味しいと食べている物は遊びに来ている娘息子夫婦の給料が軽く吹っ飛ぶくらいの物なので…帰った後に食べる焼肉やウナギは少し美味しくないと感じてしまう事であろう…

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