種類が違います やったらやったで逃げるやつ
「あー…今日も朝から美味しい食事で幸せ…お姉様達は毎日こういう朝食を取ってるんですか?」
「普通の朝食ですし、飽きない様に内容は少し変わってますが毎日と言えば毎日ですね、王城に出向いている時は別ですが」
「んー?エステルの妹の嫁ぎ先の食事ってそれ程美味しくないの?」
「嫁ぎ先は全て王家と関係のある所、王太子でなくとも有望な第二や第三、今現在の継承権はなくとも予備である王弟の公爵家、そういう所ですので余程の事が無い限り不味い物は出てこないと思いますが」
「卵の味からして違うんですよ、ここまで味が濃くないというか、調味料と香草でごまかしているというか…」
「最近は畜産の方もかなり進歩してきていますからね、魔物の侵攻はほぼ無いですし、それと同時に増えすぎた野生動物も間引いているので被害はそれほど、戦時中の様に質より量ではなく、安定した今は質も求める様になってきましたので、それほど高くない卵でも味が濃い物になっている、と言う事ですね」
「それほど高くない、って言っても1個で中銅貨7枚だから結構いいやつだけどねこれ、一番安いのだと1個小銅貨5枚だし」
「え?そんなに安いんですか?私の所だと安くても大銅貨2枚から5枚と安定してないんですけど…」
「それは鳥の種類と言う違いがありますわ、一口に卵とは言ってもここでは飼育するのにそれほど時間がかからないイエロータックと呼ばれる小型種、世間一般でいう鶏ですわね、対してシャルルが嫁いで行ったところではドルドーバードと呼ばれる中型種、中型種とは言っても鶏の5倍位の大きさですが、大型との間にいる中型種はそれだけですからね、その中型種の卵は小型種の約15から20個分、個体によって大きさも少々変わってきますので、小さい物だと2枚、大きい物になると5枚となっているだけですわ。
他にも一度に飼育出来る数、卵を産む頻度、卵を産めるようになるまでどれ位かかるか、飼料などにいくら掛かるか、というのもありますわね、小型のイエロータックであれば1年で産める様になり、そこから2年から3年ほど毎日産むようになりますわ、ストレスや栄養状況によっては産まなくなりますが。
ドルドーバードの場合は卵を産める様になるまで約2年半、卵も半月からひと月に1つ、寿命も長いので10年位は産み続けますわね、そういう鳥の種類と卵の大きさの違いが値段に影響しているのですわ。
こちらでは兎に角生産量、毎日前線へ輸送出来る量を確保するためにイエロータックを採用、食肉としても活用するために数を増やして、結果として卵1個当たりの値段が安い物で小銅貨5枚、と言う事ですわ、その卵が15から20個分、シャルルが普段口にしている物は貴族も口にする物ですしそれなりに良い物は使っているはずですので、1個あたり大銅貨8枚から小銀貨1枚でもこちらの物と値段自体は大差ない、と言う事ですわね、勉強になりましたか?」
「はー…なるほど…卵の大きさと鳥の種類自体が違ったと…」
「種類や大きさは違えど家畜の鳥は一纏めにして鶏と呼んでますからね、食肉に加工したり卵も割ってしまえば見た目での判断はつきませんし、実物を見た事が無いのであればこちらの卵を安いと勘違いするのはよくある事ですわ」
「大きくなると白身がちょっと薄くなって生臭くなったり、黄身が濃くなったりすると言えばするんだけど、こっちの鶏は白身も濃く黄身も濃くなる様にちょっと飼料に拘ったりもしてるからね、卵の味を濃厚に感じて美味しく感じる。
大型種の卵になると白身はサラッサラだったりするのよ?中型も白身は薄目でちょっと水っぽい、それが今一に感じる原因かな?黄身だけを食べ比べると大型種が一番美味しくて、白身と一緒に食べると小型、中型はその中間。
香草がたっぷり入ったりするのはその白身の生臭さを誤魔化すための工夫だね、調味料自体は地域によって濃い薄いが変わる位かな?」
「政務で机仕事をするのも良いですが、たまには農場や牧場なんかの視察もした方が良いですよ?」
「ボクの国は大型種、白身と黄身は分けて白身は香辛料たっぷりのスープに入れたり、黄身は小麦の生地に混ぜたり単体で焼いたりするのが普通かなー?」
「シャルルだけでなくエリーゼもローラもお城や館に籠ってるだけじゃなく、ちゃんと外に出てどういう物をどう育てているのかを自分の目で確かめるんですよ?ただ横に座っているだけが妻としての仕事ではありませんよ?」
「得手不得手はあるので苦手なものを無理にする必要はないですけどね、下手に権力がある分苦手分野に口を出すと碌な事になりませんし、口出しをする場合はちゃんと知識がある人と話して、現実的な範囲で実現可能なところから、ですよ?」
「そうですねぇ…外交は今落ち着いてますし、嗜好品なども多く出回ってきてる段階ですし、食べ物の質を上げるのもいいかもしれませんねぇ…」
「問題はただ上げれば良いというわけではありませんわ、質を上げると値段が上がる、値段が上がると買えなくなる層も出てきますので、値段を上げずに質を上げる方法も考えないといけませんわ、鶏の卵1つ…今食べている物ですとトウモロコシに麦に豆、そこに果物や芋なども砕いて混ぜた物を餌にしていますので、味が良くなっている分値段が上がっていますわ。
果物と芋を抜いて、穀物なども割合を変えれば安く育てる事も出来ますが、そのままでは質はほぼ変わらず、でも逆に言えば飼料を質の良い物にすれば自然と物は良くなりますし、農地の改良から初めて段階を踏んでいくのが近道ですわね」
「農地の改良もタダではないですが、作物によっては肥料を変えるだけでかなり変わってきますし、肥料なども昔からこうしているからこれを使っているから、ではなく、ちゃんと研究して行くと良いですよ?」
「農業は軽く纏めると…まあ出発点はどこでも良いけど、まず畜産動物がいるとして、その動物から肥料が出来る、出来た肥料が畑に使われる、肥料で育った作物で畜産動物が育つ、また肥料が出来るっていう感じで回ってるね?肥料に関しては魚とか貝殻とか入ったりするけど。
だからどこから始めても良いんだけど、強いて言うなら畑から、つまり肥料とか作物の研究だね、そこから初めて野菜や穀物を育てるのに掛かる費用を下げつつ、作物も研究して病気に強く美味しく質の良い物に置き換えていく、そうすれば値段は最終的にはそれほど変わらず、値段ほぼそのままに質の良い物になるって事だね、言うのは簡単でも実現するのは結構難しいけど」
「その研究にかかる費用はかなり莫大なので、税なども考えて少しずつですね」
「そういう研究は農家がやる物だと思っていましたけど、国が研究するという方法も有りなんですね」
「研究費用などは先ほども言った様に税金から、になりますので、国民の負担が増えないように少しずつ、ですよ?それに研究費用を懐に入れている者がいた場合は…」
「それは満場一致で財産差し押さえからの投獄になりますね、血税で私腹を肥やす物には重い罰を、基本ですね」
「それより飲み物のお代わりを頂けるかしら?ライムをシロップ多めの炭酸水で、出来ればそのドリンクサーバーもお城にお持ち帰りで」
「はいはい、でもサーバーのお持ち帰りは無しね」
「あら残念」
「今日もお父様は朝から日雇いの皿洗い、それで良いんでしょうかねぇ…?」
「皿洗いの原因はあなた達の食費がお父様のお小遣いから出ているから、なんですけどね、お昼だけでも1人あたり大銀貨1枚からは食べているという自覚がありますか?」
「お父さんのお小遣いは毎月小銀貨5枚ですからねぇ」
「お父様ってお小遣い制だったんだ…それに小銀貨5枚って…」
「お小遣いも元を辿れば税金ですし、税金で無駄遣いはしないようにという配慮ですね、生活に必要な物は全て揃っていますし、食事は王城で取れば無料、衣服などもそうですし、自由に使えるお金はお小遣い制で良いんですよ」
「お母様達への贈り物などを買うお金はどうするんですかね…?小銀貨5枚では小物1つ買えないと思いますが…」
「あら、贈り物は値段じゃないのよ?シャルルは贈り物の値段で相手の価値を量るのかしら?」
「あー…いえ…そんな事は…」
「送る物より相手の気持ちが一番大事ですわ、贈られた物の価値だけで判断をして相手の気持ちを知ろうとせず、上辺しか見ていないと痛い目にあいますわよ?」
「そういえばシエルお姉様は…」
「傷物にされた上に出戻りですわよ?これも初対面の時の贈り物だけで価値を決めて嫁いで行った末路ですわね、最初からあの男は私の事などは眼中になかったのですわ、欲しかったのは隠れ蓑にするための相手、贈り物や持参金は逃げていく時に全て持ち去られ、それ以前の子供を作る行為も愛なんて物は一欠けらもありませんでしたわ、何も知らずただそれが普通であると勘違いをしていただけ、失った処女とお金と物品は勉強代みたいな物ですわね、今はもう気にしてはいませんが」
「その件の王子は独房に幽閉中で一歩も外に出れず自由もない状態、よく貴族なんかが入るベッドもあって本もあって待遇が良い、みたいな奴じゃなくて、用を足すための場所はあるけど他には寝る為の木の板しかない所に閉じ込められてるね、王族だからって事で処刑されてないだけで大罪人と同じ扱い。
その王子が隠れて…かどうかはわかんないけど、付き合ってた貴族と平民は王子の目の前で首が飛んだね」
「まあ、当然といえば当然ですよね、いつでも捨てれるただの遊び相手として付き合うだけならまだしも、他の国から嫁いできた王族を蔑ろにした挙句財産等を持って逃げたわけですし」
「唆されたわけではなく、王子自らが率先して計画を立てて、という情報は入ってきましたけど、確かなんですかね?」
「確かですわよ?そういう趣旨の文を送ってますし、あの女じゃ反応しない、お前の事を思い浮かべながら出る直前まで、それからさっさと入れて出すだけ、お前の方が良い、早く会ってお前を抱きたい、でも初めて貫通させた時の声だけは良かった、という文も多数見つかっていますわ」
「うわぁ…そいつなんでまだ生きてるんですかね…私の所からも圧力をかけましょうか?」
「別に放っておいてもかまいませんわ、貴族と平民もただ首を刎ねるだけでなく王子の目の前で痛めつけられてますし、その惨状は王子のせいだと散々言い聞かせてから刎ねていますので王子はとっくに狂っていますわ、それでも自殺をしないのは余程自分は悪くないと思っていてかつ我が身が可愛いのでしょうね」
「戻ってきた直後は世間知らずのわがままな貴族その物の振舞でしたけどね、拘束して取り押さえてこんこんと説教をしてわからせて、調べて分かった事を全部見せて現実を見させて、それでようやく夢から覚めた感じですね」
「別にシエルちゃんを甘やかして育てたわけじゃないんだけどねぇ…どうしてああなっちゃったのかしら?」
「昔は昔、今は今ですわ、それに新しい夢も見させて頂いてますし、今が幸せなのでそれで十分ですわ」
「ま、悪いのはその逃げた王子と貴族と平民ではあるけど、貴族は財産と爵位を剥奪されて平民に、足りない分は高く売れる娘を奴隷にしてお金に、平民は賠償にと取れる物がないので全員奴隷にしてお金に換えて、って感じでちゃんとお金は帰ってきてるね」
「奴隷に落ちた貴族と平民の姉妹はバカな姉がすみませんと平謝りしてましたわ、自分だけは許してくれと言うのではなく心から、止められなかった自分を羞じるように、今はどちらも牧場の方で働いでますし、関係は良好ですわよ?」
「普通なら一族全員晒し首でもおかしくはないですが、その辺りはあちらの王も悪いのは王子と一緒に逃げた貴族と平民だけ、と割り切ったんですかね?財産を没収して平民に落としたり奴隷に落としたりはしてますが、それは賠償金のためみたいですし」
「下手に処刑してしまうよりは使い潰せる労働力にしてしまう方が良いですからね、結果として時には処刑されていた方が良かった、とならなくもないですが」
「そこはもう運次第よね、私に買われた奴隷に落とされた貴族と平民は他の奴隷に比べると学もあり少し幸運だった、それだけの話よ」
「この店で狼藉を働いた元貴族の子女は絶縁されて、足りない分の返済のために奴隷商に売られて、最終的には娼館に買われていきましたし、そこで稼いだお金は今も少しずつ返済に充てられていますね。
話を聞く限りかなり好き物の様でしたし、娼館で働くのは天職とも言えるんじゃないですかね?元貴族という事で人気はありますし、休みなんて物はなく1日に10人、複数人もあるので多い時は30人から指名が入っているそうですので、早ければ後4年で返済完了ですね」
「鉱山じゃないだけまし…かな?あそこは男も女も使い捨てって聞くし」
「誇張抜きで使い捨てですよ、重罪を犯した犯罪奴隷の行き着く先ですし、男も女も弱い者は平等に食われ、強くとも鉱山でいつかは野垂れ死ぬ、そういう環境です、そこと比べれば娼館の方が遥かにましと言えますね」
「平和になったらなったで色々問題も出てくるわよねー、お父さんにはもうしばらく頑張って貰わないと田舎に逃げる事も出来ないわ」
「逃げる前にやる事はちゃんと全部終わらせてからにしてくださいね?」
「やる事をやってるから子供が出来たんじゃない」
「それはやらなくてもよかった事です」
「おほほほ、レモンとシロップたっぷりの炭酸をお願いねー」
「はいはい、ただいまー」
「老衰で死ぬまで王を続けさせてやろうか…」
「それは気が付いたら部屋がもぬけの殻になっているやつですわ」
鳥の種類
王女様のところは小型、妹さんの所は中型や大型なので値段も味も違う
小型ほど白身が濃く黄身はそれほど、でも臭いはない、中型になると薄く黄身が濃く、大型になると白身がほぼ水に近い状態で気味がかなり濃い、卵も大型になると小型の100から150個分はあったりする




