夏に向けて! ちょっと楽をするために
「店長…もう…無理…っ…です…こ…これ以上…は…っ!」
「泣き言を言わずに動き続ける、翌日足腰が立たなくなる位に動き続ける」
「何も見ずに声だけを聞くと掠れた嬌声を上げてるようにしか聞こえませんわね、ギシギシ音もしてますし」
「この位ハードに追い込まないとお腹回りと腰回りを急激に引き締めるってのは無理よ」
「十分普通の体形だと思いますけど、何かありましたの?」
「ここは気温が上がってもまあ25度位までだけど、そろそろ夏が近いじゃない?」
「そうですわね」
「で、夏といえば海に行って新作の水着、それを着るためにちょっとだらしなくなったお腹回りを引き締めようという涙ぐましい努力を今しているわけだね」
「そう直ぐに引き締まるとは思えませんが、間に合うんですの?」
「毎日続ければね、でもその部分だけってなるとバランスが悪くなるからああやって全身をね」
「しかしなんでまた急に?今まで気にしていなかったと思いますけど?」
「それに関してはこれを見たからだね、夏に向けたファッション雑誌水着特集、これにリオがモデルとして出てるから、それをみてちょっと絶望して、休暇で海に行った時に恥をかかないようにと体形を整えてるわけだね」
「無駄ではなくともする必要のない努力だと思いますわ」
「まあ、その心意気は買って上げようってやつだね、はい、足を止めない、ひたすら漕ぎ続ける」
「ひぃー…無ぅ理ぃー…」
「夏本番まで続きますの?」
「来週にはもう諦めてそう、リオの体型は1ヶ月で作れる様な物じゃないからね、あれは人生の半分以上を費やして出来上がってる身体だし、1ヶ月程度で出来上がったら世界中のモデルさんは身体作りに何の苦労もしないだろうね」
「こちらには無い職業なので職に関しては何とも言えませんが、確かに1ヶ月でリオの様な体形が作れたら苦労はしませんわね」
「あー…もう無理…明日は筋肉痛確定…」
「全身べとべと…お風呂入りたい…」
「リオさんに対抗して体形を作ろうとするのは無駄だと思うよ?」
「タマキやタチバナは余裕だよねー…特に何をするわけでもなく整ってるもん…」
「何もしてないわけじゃないですよ?ちゃんと合間合間に葵さんの家のジムを借りて運動してるんですよ?他には三姉妹の遊び相手をしたりと」
「ゲームで遊んだりマンガを読んで費やす時間の一部をそちらに回しているだけですよ」
「狼三姉妹の遊び相手を務めるのは大変だからねぇ、遊び相手になるだけでも今の運動よりさらにきついし、少なくとも体系を気にするほどお腹が出たりはしなくなるよ」
「あの災害みたいな三姉妹を相手にするだけでそんなダイエット効果が…」
「海に作られたダンジョンで轢き殺される事はあれど、直接遊び相手になった事はありませんでしたが…なるほど…」
「と言う事はタマキもタチバナもあれについて行ける位体力がついてる…?」
「さすがにそこまでは、途中でテレサさんやフローレンスさんに回収されますし、1割もついていけませんよ」
「それでもお腹周りを気にしなくてよくなるのは…今度からついて行ってみようっと」
「ちなみに、狼三姉妹の遊び相手は今やってた運動よりきついからね?」
「だからタマキもタチバナも少し汗を出しただけで涼しい顔をしてるのかー…」
「健康を保ちつつ楽に痩せる方法はないって事だね、お風呂は沸いてるから皆で汗を流して来なさいな、シエルも一足先に汗を流しに行ってるし、このまま冷やし続けるのも良くないしね」
「はーい、それじゃお風呂お借りしまーす」
「サウナってスポーツドリンクか水を少量飲みながらがいいんでしたっけ?」
「スポーツドリンクだね、脱衣所にある冷蔵庫に入れてあるから、少しずつ飲みながら汗を流すといいよー」
「はーい」
ふーむ、特にロストした物はなくて、糸の巻き替えも必要がなくて、歯形が入ったルアーは壊れているわけではないので一旦針を外して再塗装して再利用、使用済みのソフトは細かく刻んで再利用するマテリアル送り。
ボートを牽引するのに使った自動運転機能付きRVは洗車して、ボートも洗って細かいところも確認して、竿とリールもザーッと洗ったら返却して…んむ、今日はちょっと倉庫の方を改造しようかな、竿とリールの洗浄も時間がかかるし、細かい所を実際に見て手で確かめないとダメなメンテナンスは兎も角として、洗浄機能位は付けておきたいところだね。
まあ、追加するにしても先に洗車やら道具の洗浄を終わらせてからだぁね、選り分ける物は全部選り分けたし、洗いましょうかね。
「これは今何を作ってるんです?」
「ガレージの道具を閉まっている倉庫に取り付けるための洗浄装置と、それを動かすためのプログラムを組んでいる様な感じかな?」
「ただガラスを削っている様にしか見えませんが、ここからどう変わるんですかね?」
「ガラスじゃなくてクリスタルだね、よくクリスタルは浄化作用があるとか言われてるじゃない?それの本当に効果がある本物のクリスタルを使ってカビやら水垢やらを防止するわけだね」
「あー、あのカレー小屋の入り口や焼肉屋の出入り口についているアレですか」
「そう、あっちは食中毒の元になる害のある物だけを狙い撃って殺菌殺虫する霧だけど、こっちは錆の元となるカビと水垢、塩、淡水で使用した時に付着するべたつく油等を落とす様に調整をね」
「調整しない場合はどうなるんです?」
「要所要所に差してる潤滑油とかも落ちちゃう、だからこれだけを狙い撃ちって調整するのが大事、それと水量調整だね、そのまま水を出すとガレージが水没するし、それを防ぐためにね、水自体はこちらのアクアマリンから引っ張ってきて…まあ…図で表すと…こうかな?
まずここにある球体が水を生成するアクアマリン、それを収めているところが今作っているやつ、このクリスタルでアクアマリンの中から水を引っ張り出して、引っ張り出す時に刻んである通りの性質の水に変えて、このパイプを通してこの洗濯槽みたいなところに水を流す、この箱自体はまあ何でもいいけど、落とした汚れなんかがつかないようにクリスタル製で。
塩や汚れは比重を無視して浮く様に調整して、この上側のパイプに汚れが流れ込む様にして、このパイプの中で埃も塩も油も完全に分解、またアクアマリンが入っている場所に流れ込んで性質を変えて循環、大量に入れた時は溢れるから一定の水位を超えたらアクアマリンの中に戻して水位を保つ様になってる。
身近な物で言えば洗剤不要で1度溜めた水を永遠に使える洗濯機…かな?洗濯と脱水が分かれた二層式洗濯機になるけど、洗濯槽の水はもう抜く必要なし、脱水層で脱水した水も洗濯槽に戻る、減ったら自動で補充、そんな感じ」
「んー…よくわかりませんけど、一度作ったらもうずーっと使える全自動洗濯機って事ですね」
「そうだね、物凄く簡単に言えばそれ、洗う物が釣具って位、何をどう刻み込んだらそういう風に出来るのか、ってのはまたちょっと難しい話になるから、自分で作ってみたいとならない限りは触れる必要はないね」
「わかるのは指でクリスタルを削っているという部分だけですね」
「まあ、学んで無い言語だから読めないのは当然だね、やってる事はプログラミングと何も変わらないから、読む事が出来れば誰にでも出来ると言えば出来る。
王女様の世界…今引き籠り組が暮らしてる世界だね、そこでは魔石工学って分野があるじゃない?最近は平和になってきて焼肉屋においてある冷蔵庫とかそう言うのが独自に作られて来てるけど、アレもそう言う効果のある魔石、あれに直接だったり、電池式にして回路を作ってそこに命令文とかを書き込んで電池から引っ張ってきて効果を出す、みたいな。
複製も割と簡単に出来るのよー?ちょっと大型化するけど、ガリ版印刷でその命令文を複写して、その時のインクにその物体に干渉する素材、ゴールドライトとかシルバーサイトを使えば良いだけだからね。
だから一般にもちょっとずつ出回り始めてる冷蔵庫、枠を外すと冷媒装置や回路なんかの代わりに命令文の書かれた板、板自体もそれ用の必要があるけどそれが収まっていて、電池の代わりに対応した魔石を下部か上部の収納するところに収めれば稼働する様になってる。
まだ低燃費高性能長持ちってのは出来てないから、大容量の魔石に氷属性を詰め込んで大型冷蔵庫で1週間から2週間、小型であれば1ヶ月から2ヶ月で定期的に補充する必要があるんだけど、魔法のある世界で魔石に力を込めるという職業も存在してるから、発展してくればそのうち扇風機やらエアコンやらも普通に買える様になるんじゃないかな?」
「そのうちこっちの化学みたいに発展するんですかねぇ?」
「電気というエネルギーが必要ない分環境には優しいね、空になった魔石も再利用できるし、小さくても砕いて1つに纏めれば大型化可能、まだ固める技術は確立されてないけどね」
「魔石って宝石の事ですよね?1つに纏めれるんですか?」
「出来るよー?思いっきり圧力をかけて原子から結合させれば可能、もしくは分解して液状に近い状態してから纏めて固めるっていう2つの方法がある。
例えば、今加工してるクリスタルなんだけど、元々はこんな感じの砂山、砂とはいっても全部何かしらの宝石だけど、これを適当に掴んで思いっきり圧力をかけるとこんな感じで一塊に」
「石を握って砂にするという表現は見た事がありますけど…砂を握って一塊の宝石にするのは初めて見ますね…」
「鍛えればやってやれなくはない、もう1つの方法は、物質の構造やらなんやらを全て理解して、その構造に働きかけてこんな感じに属性を抜きつつ捏ねていくとちょっと液状化して、粘土みたいになって、これを固めると無色透明のクリスタルの出来上がり。
で、これを捏ねながら構成している物質の構造に干渉してちょっと変質させるとこんな感じ」
「おおー、透明だったのが黄色くなったり赤くなったり虹色になったり、これ鉱物学者に見せたら卒倒してぶっ倒れますね」
「何がどう結合してるかでこの宝石、この宝石、ってなってるからね、それを弄るとまあ自由自在にってやつ、変質させて別の物質に変えたりもしてるけどね。
で、この何がどう結合してるのかが大事で、水を貯えたい場合はアクアマリンやサファイアにした方が効率が良いのね、火ならルビーとかガーネット、空気ならエメラルドやクリソベリルで得手不得手があるのよ。
1つに纏めて大型化をする場合は用途に合わせて物自体を作り変えて上げないといけない、その技術や方法がまだないってやつだね、取りあえず同属性の魔石だけで纏めておけば間違いはないけど、結合させる方法も中々ねー。
はい、これあげる、今作ってる物には必要ないし、指輪とかネックレスとかを洗浄するのに使うといいよ」
「パパパっと作ってましたけど、今作ってる物を小型化した物ですか?」
「そうだね、物自体は同じ、埃とか水垢とか皮脂とかそう言う物を全部落とすやつ、試しに今着けてるちょっと汚れてるネックレスを漬けてみるといいんじゃない?眼鏡でも大丈夫だけど…眼鏡を着けてる人はいないしねぇ…偏光グラスはガレージに大量にあるけど…」
「んー…おぉぅ…もわっと汚れが浮いてきた…そして水から上げたらピッカピカ、これいいですね」
「良いでしょー?でも洗濯物に使うのはやめてね?布物とかそういうのを洗う様にはしてないから、ハンカチなんかのシミを落とすのには良いけど、そのまま乾かすとパリッパリになるよー?」
「大きさ的に眼鏡位までしか入らない気がします」
「縦10横20の高さ10センチだしね」
「これ水を抜く時はどうすればいいんです?」
「ここにあるスイッチをオフにするだけ、それだけで水が全部このアクアマリンの中に戻る、小物を洗いたい時だけオンにして使い終わったらオフ、水は足さなくて良いけど、間違ってこぼしたり、服のしみ抜きで部分的に漬けて水が減った場合はアクアマリンの色が薄くなるから、そういう時は井戸水でも川の水でも何でもいいからオフにした状態で注いで足してね?そしたらまた色が戻るから」
「限界はあるんですかね?」
「ある、オフにしてる状態でどんどん水を注いでいきまして、水を吸わなくなった今のこの色が上限、大体2リットル位かな?」
「普通のアクアマリンより濃くサファイアに比べて薄い位の色…ですかね?」
「残量がわかるようにしても良いけど、それはそれでまた追加する物が有ったりするからねぇ、この位単純な物でいいのよ、危険な物でもなし、この容器から出した水自体は普通の水と変わらないし、爆発する様な物でもないからね」
「確かに、指を漬けても何の変化もないですね」
「ちょっと垢と余分な皮脂が落ちる位だね、ずーっと漬けておいても今以上には落ちない様には出来てるよ。
よし、制御盤完成、後は設置するだけ…なんだけども…」
「まだ何か問題が?」
「今のガレージで使ってる設備は仕分けして収納、在庫管理まではする様になってるんだけど、その収納の前に洗浄、乾燥、という工程を挟むようにしないとダメだから…今から倉庫の大改装だね、機械のプログラムも弄って、これに漬けて取り出して乾かして、っていう装置も取り付けないとダメだね」
「自動化って大変ですね、人力ならもうこの時点でドポンと漬けて水を切って乾燥、その後返却の一手間済みますけど、自動化だとラインを弄って物を追加してプログラムも追加してとかなり時間がかかりますし」
「人力なら返却前に一手間挟むだけ、でも皆が皆時間があるわけでもなし、そうなるとやっぱり自動化は必須よ、休みでのんびり釣りをしてたとして、急に呼び出しが掛かった時は洗う前に道具を戻して出発になるし、その一手間が惜しい事が多いのよね、ここに住んでる娘達は」
「なるほど、となると今は余計な手間がかかっても自動化する方が後々楽になると」
「そそ、面倒なのはこの作業をしている今だけ、使用回数が多ければ多いほど時間に余裕が出来てくるってやつよ、メンテナンスをしようと思ったら分解洗浄必須だった、なんて事がある状態まで洗ってない物もあったりするしね」
「メンテナンスの自動化はしないんですか?」
「それはそれでどこをどう手入れするかで変わって来るから、自動化はしない方向かな?どうなってたら交換とか、どこにオイルを差すかとか、分解なんかもする必要があったりするから…ね?」
「あー…それは無理ですね…」
「よし、それじゃあ私はガレージでもう一仕事してくるけど、タマキちゃんとタチバナちゃんはどうするの?水着の試着をしつつずーっと水着雑誌をにらめっこしてるけど」
「納得のいく組み合わせが見つかり次第タカミヤ達と合流してちょっと遊んだ後に海の家で夕食ですね、泳ぎはせずとも水着を見せ合う感じです」
「ブレスレットにアンクレット、ネックレス込での組み合わせとなると中々候補が多くて」
「泳ぐなら競泳一択なんですけどねぇ…」
「まあ、雑誌に載ってない試作のまま終わった水着も恵里香さんに言えば出して貰えると思うから、いまいちと思ったら出して貰うと良いよー」
「よい組み合わせがなければ相談してみます」
自動化
一手間で済む事を自動化しようとするだけでもかなりの手間はかかる、でも一度作ってしまえば後々時間の余裕が出来る
現在ガレージの中には洗い終わってない道具が山積み、手で洗っていたら時間がいくらあっても足りず…なので自動化に踏み切った




