果てしなく遠いスタートライン 目を離すのが悪い
「なーなー、1号湖から下っていく川にいるサーモンデカすぎねぇ?キングサーモンならこんな物だろうって持っていったら糸が切られたんだが?」
「あー…どっちの川に行きました?」
「ボートで行く北側の流れがやたらと強い方の近く」
「あそこですかー…あそこは隔離してあるトラウトの住処なんですよね…キングサーモンを釣るなら手前側の歩いて行ける方です、北側のトラウトは普通の装備では絶対に釣れないやつです、クルーザーに乗ってメインPE30リーダー200のトローリングでも釣れませんよ。
バックする速度では絶対追い付けず、ドラグ50キロ位ならフルロックでも余裕で糸を持っていく、高速船の全速でも追いつけず、何ならドラグ100キロでも糸を全部持って行かれますし、まずは最低でも強度が500lbある糸を1000から2000巻けるリールを開発するところから始まりますね、Dスプールを搭載してるクリムゾンウルフ、もしくはまだ未発売ですがアルマディンフェンリルであればキャパは無制限に等しいのでPE30号でも1000メーターというリールの最低ラインはクリア。
次に50キロや100キロのフルロックに耐えれる竿とルアーと針、引きずり込まれず耐えれるパワー、それと2時間以上格闘出来るスタミナ、これらを全てクリアしてようやく挑む権利が貰える、そんな魚です」
「それ本当に魚か?個人用小型潜水艇か何かじゃねぇの?」
「ある意味ストイックな魚なんですよ、お兄さんがチョコット品種改良したのもありますが、とにかく己を日々鍛えているというか、100キロフルロックしたドラグでもずるずるになるというか、その状態で1時間以上全力で泳げて、休憩中でもマグロの全力以上の速度と力で泳いでいく、背びれも発達していて360度どの角度にも急旋回可能、白身と赤身の良い所だけをとった全身筋肉。
一応理論上はこちらでも作れるそうですよ、まったく同じトラウトが、問題は自然界だと生息域があの世界一大きい滝の中になるって事ですかね?
食べる時はマグロと同じ様に1週間は熟成させてから、刺身の場合はフグみたいな薄造りにすれば釣りたてでも食べる事が可能、火を入れる時は圧力鍋で、そうしないとびっくりする位硬いです、薄造りにした刺身は美味しいんですけどね、旨味の塊ですし」
「大きさはどの位あるの?姿らすら見えず糸を切られたし」
「大体今は3メーター位ですかね?重さが最大350キロ位、なんですが、マグロの600キロとかカジキの800キロを釣れって言われる方が遥かに楽ですし、実際にそっちを相手する方が楽です」
「なるほどなぁ…まあ釣る場所を間違えたから早々帰ってくる羽目になったって事だな」
「徒歩で行ける方は水深が深い所でも1メーター位ですけど、そっちは大型のサーモンやトラウトがいますが、まだ常識的な範囲ではありますので、そこであれば普通に釣りが出来るかと」
「じゃあメインラインを巻き直してリーダーも組み直したらもう一回行くかー、下巻含めて全部持っていかれたし」
「糸が切れないよう針が外れないように4分の1ドラグとか6分の1ドラグとかありますけど、フルロックでもずるずるですからね」
「PE2を200巻いてたのが瞬殺はさすがにびっくりするわ」
買い忘れた物は無し、追加も特に無し、お肉と卵も良い物が買えたので今日は…オムレツだね、それも具材を卵に混ぜて焼くスパニッシュ、なのでまずは豚のブロックを細切れにして短時間ではあるけど塩漬けにして、バジルの葉や玉ねぎも刻んで…
お昼に使ったエビの殻が残ってるからそれでビスクも作って、ご飯はパエリアにして…かな?お昼はエビとイカを使った物だったから単純に貝にするとして、ハマグリかホタテか牡蠣の3択、カラス貝は養殖してないからなぁ…煮る時も貝の出汁を使うから…悩む位なら全部入れたら良いか、ハマグリをちょっと蜂蜜を溶かした水に漬けておいて、カキとホタテは殻から身を外してちょっと薄い塩水に。
パエリア用の広い鍋も出さないとなぁ…それと薪も用意して、それ用のコンロも用意して…今日の夕食は外だな、さすがに使用するパエリア鍋の幅を考えると台所で作っても出す事が出来ないし、パエリアは鍋のまま出してこそだし。
それを考えるとー…殻から外してないハマグリなんかも焼いて食べれるように用意しておくか、うん、夕食に何を作るかを決めた所で貝を取りに行くか。
「今日の夕食は何ですか?」
「塩漬けにした豚肉入りのスパニッシュオムレツと貝のパエリア、それと焼きハマグリに焼ホタテに焼牡蠣」
「あー、じゃあ今日は外ですね」
「豚は今から塩漬けだからなんちゃって塩漬けだけどね、塩とハーブでちょろっと、味と香りをつけて、それを茹でてから焼くっていうやつ、今回は加水無しだから味付けは基本豚についてる塩味だけになるね、玉ねぎやらなんやらは大量に入るけど」
「トマトやらなんやらでちょうど良い味にはなりますね、そっちに漬けてあるのは」
「砂抜きじゃなく蜂蜜入りの水で旨味成分マシマシ、焼きとパエリア用にね、しばらく漬けて吸わせ終わったら焼き用とパエリア用で分けて、ハマグリは煮て出汁を取って、カキとホタテは剥いてちょっと薄めの塩水に漬けて、パエリア自体の味はもうハマグリの出汁とちょっとの塩だけだね」
「出汁の味が濃いパエリアになりそうですねー」
「野菜は一切なしの貝のみ、野菜はスパニッシュオムレツで摂取しろ、みたいな?」
「まあ、具材をこれでもかと大量に入れる事が出来るスパニッシュオムレツはほぼ野菜ですよね」
「野菜をだーっと刻んで、豚は塩漬けにしたら夕食時までもうやる事は無いけどね」
「卵は直前に炒めた野菜と肉を混ぜ込んで焼くだけ、パエリア用の出汁もその間にちょっとハマグリを煮て、炒めたご飯を出汁で煮ている間にさらに出汁が出るのでそれほどしっかり取る必要は無し」
「ビスクも作るには作るけど、ディジーが貝の殻剥きやら野菜を刻んでいる間に作ればいいだけだしね」
「ビスクもそれなりに野菜を使いますし、言い換えれば野菜だらけですね」
「なんか頭悪い会話をしている感じがしてるぞ」
「ビールは植物から出来ているから野菜、なんて言ってる酔っ払いみたいなバカな理論ではないですよ?ビスクは大量のトマトを使えば玉ねぎも大量、セロリも入るしアレンジとしてニンジンを入れてもよし。
スパニッシュオムレツも玉ねぎやらキノコやらが色々入って卵や肉より野菜の方が多い、そりゃもうびっくりするくらい」
「食った事があるから知ってるけど、サラダと同列に扱えるかどうかで言えばそれは違うだろ」
「生ではないですからねぇ、ですが、野菜の塊である事には変わりなし、肉も入っていてバランスも良し、ビスクに至っては味付けをしてスープにした野菜ジュースですね」
「野菜ジュースも使い方次第では色々作れるからねぇ、トマトジュースならビスクに転用できるし、野菜ジュースで作るカレーとかもあるし」
「飲みやすいように砂糖やら果汁が大量に入ってない物に限りますけどね、果汁だけで調整している物はカレーにできますけど」
「それはそれとして、何か追加で作って欲しい物でもあるの?」
「シルバーサーモン釣ってきたからこれで何か作ってくれ」
「今日の夕食はビスクとパエリア、それとスパニッシュオムレツに焼貝だし、シルバーサーモンも焼きかねぇ?スモークでも良いけど」
「私的にはスモークですね、焼きも悪くはないですけど」
「私はどっちでも、と言うわけで後は任せた」
「まあ、主食はパエリアだし、スモークにしようか」
「私は飲み物とつまみを持って仕事に戻りますかね」
「あー、久しぶりに帰ってきたら庭でなんか美味しそうなの食べてるー」
「おー、アキラおかえりー、メインのパエリアはまだ出来て無いから適当においてある貝を焼いて食べるといいぞー」
「その前に着替えてこないとなー、スーツで食べるのはとっくに慣れたけど動き辛い事には変わりないし」
「サーモンの皮は今あるだけしかないから食べたいなら急げよー」
「釣ってくればいくらでも食べれるんですけどね」
「個人的には刺身なんかが食べたいですけどねー、会食を組んだ先方の好みなんでしょうけど、毎日肉肉肉の肉だらけでしたからねー…会食なだけあって結構いいお店なんですけど、相手の胃の事情を考えないというか、運送業だから肉選んでおけばまあ無難でしょみたいな」
「相手の好みを調査、把握して組むのが基本なんですけどね」
「最近出来たばかりの所はどうにもそういう事は無いみたいなんですよね、先方との擦り合わせや便宜を図ってくれる用にする事が無いというか、会食をするだけましというか」
「まあ、そういう世代なんでしょうねぇ、昔から続く慣習を嫌うというか、結局潤滑剤のない歯車と変わらないのでそのうち欠けて回らなくなってぶっ壊れるんですけど」
「取りあえず着替えてきまーす、それから適当に刺身用のエビとイカを取ってきます」
「はーい、行ってらっしゃーい」
「刺身ではないけどスモークサーモンもあるから何とかなるでしょう、多分、パエリア後5分位ねー」
「パエリアというよりはもう貝飯ですね、味付けが貝の出汁と塩だけ、和風といえばそれまでですけど」
「油揚げでも足します?今からでも間に合いますよ?」
「塩昆布も入れる?茎わかめでもいいけど」
「それは間違いなく美味しいでしょうねぇ」
「じゃあ入れようか、ディジーは油揚げの用意よろしく、私はちょっと海に行って茎わかめとってくる、なので火の管理よろしく」
「はいはい、お任せをー」
「貝飯ウメー、肉続きだったから魚介の味身体にが染み渡るー…」
「パエリアなんだけどね、和風だけど」
「まあ、作り方を変えた貝飯には変わりないですしね、焼いた油揚げと細切りにして甘辛く炒めたコリコリの茎わかめも追加されてますし、ビスクを除けば和食ですからね、パエリアには混ぜずに単品のままですけど」
「混ぜるのもいいけど気分は単品、これぞ和食って物から本当に遠ざかってたんだよねぇ、会食も料亭とかじゃなく高級フレンチとか高級中華とかそういうところばっかだったし、フレンチはパンなし中華も米に麺類なしで主食もねー…
相手としては滅茶苦茶堅苦しい席にしてマナーがなんやら、育ちがどうのとかを見せたかった可能性が無くはないですけどね、こっちはちょっとずつ範囲を広げている途中の運送業、相手は中小のボンボン、親がどうのこうのでとりあえず会食に付き合ってやっているというかそういう雰囲気がですねー。
まあ、相手がセッティングした会食なのでこっちが費用を持つ事はないんですけど、相手の好みの物ばかりが出てきて来るのと、なんかどうでも良いうんちくを語るのと、結構間違えてるのをスルーしながら適当に相槌を打って、語っている間は食べるわけにはいかないので適当に水を飲んで、終わった頃にさぁどうぞと言わんばかりにジェスチャーをしてくるので冷めた物を食べるという、そんなのが多かったんですよ。
あまり好みではないとはいえ高い所だけはあって美味しかったですけど、食べた物からすると1食で30とか40万はするような所もありましたよ、最高級のフォアグラに最高級の和牛のシャトーブリアン
を挟んだポワレに白トリュフが大量に、という物がありましたし、華ちゃんの所の物と比べると値段だけのシャトーブリアンって感じでしたけど」
「1皿で5万からはしそうですねぇ」
「パンはなくともちょっとしたコースなので、見栄を張るためなのか、それとも普段からそんな物ばかりを食べているのか、安い物でも1皿2万はする様な物が出てきてましたよ。
でも懐石料理とかそう言うのは一切無し、だから和食に飢えているのです、焼きイカ焼きエビ焼きハマグリ焼きホタテ焼き牡蠣、イカにエビにホタテの刺身に生牡蠣ばんざーい、焼き油揚げも生姜醤油でうまーい」
「スパニッシュオムレツは?」
「今日はちょっと気分じゃない、それ位偏ってたから…出汁巻なら食べてたかな?」
「高級志向な場所だとこういう物は出てきませんしね、刺身にしても季節のなんだ、どこのマグロの大トロだ、どこの和牛の、鶏の、豚の…どこのエビの…ってなるので、大量のイカの刺身をがっつく、焼き貝を和風パエリアに乗せて貝類マシマシでご飯をかきこむ、なんて出来ないですしね」
「朝は兎も角昼会食夜会食、それが毎日だから好きな物を食べに行く事が出来ない、結構つらいですよねー…」
「私はそれを中等部1年の頃から高等部卒業までやりましたとも、毎日ではないですけどね、最初は高いご飯をタダで食えるーって感覚で食べれるんですけど、好きな物を頼んで食べれるわけでもなし、面倒くさい相手だと食事もまともに進まず、会食は基本的にコースだから好きな物を頼めないのは仕方ないけど、冷めたり溶けたりする前に出てきた物を食わせてくれよと。
話し合いをするにしても料理が出てくる前とか、最後のデザートの時とか終わった後で良いじゃないかと、なんで出てきた後も冷める前に、溶ける前に先に食べましょうかとならずに、下の者である相手が気持ちよくしゃべり終わるまでまたにゃならんのかと、そんな阿呆だから融資も出資も切られて回収されて会社がぶっ潰れるんだぞと」
「割とどっちが上でどっちが下かを理解してない人が居ますよね、ホストになって会食をセッティングして接待するのは上の顔色をうかがいつつ便宜を図って貰うため、力の差を見せつけるために逆の場合もありますけど、今回の場合はそうじゃないですし、金を出してるからこっちが偉いみたいな感じだったのも中々ポイントが高いですよ?」
「3ヶ月後には会社が潰れてそうですねぇ」
「アジにサバにイワシ、タイにスズキにサーモン、カンパチにマグロの赤身トロ中トロ大トロ、生のたこの刺身にウニにいくらの船盛お待ちー」
「わーい、刺身の盛り合わせだー」
「なんだかんだでこうやって品数が増えていくのが今のうちの食事、って感じですよね」
「それより私が育てていたパリパリの皮食ったの誰だ?」
「あそこで酔っ払ってる春香と透の2人じゃないですか?スモークサーモンも大量に抱えて、さらにお兄さんから一足先に船盛を貰ってますし」
「くそー…ちょっと目を離した隙に持っていくとは…」
「こういう時は目を離さずその場から離れずが基本ですね」
「一応代わりに刺身にしたカンパチとスズキとサーモンとタイの皮置いとくね?」
魚の皮
残す人が多い、が、タイやスズキ、カンパチやらなんやらの皮が厚い魚の皮は煮ても焼いても揚げても美味しい
網の上で炙りつつ塩で味付けをしてパリッと食べるのが鉄板、煮て食べる場合は少し甘めの煮つけのタレで皮がとろりとするまで、揚げる場合は唐揚げと同じ様に




