打ち上げと言う名の… お安いけど美味しい魚
「あれ?ちーちゃんとさーちゃん来てたの?」
「あ、お久しぶりですー、大会が終わったのでその打ち上げに寄らせて貰いました、大会自体は昨日終了ですけど」
「いやー、惜しかったねぇ、さーちゃんは3位に入れたんだけど2位とは50差、1位とも80差だから結構せってたんだよね、私は100の差で5位に入れなかったけど」
「セミプロの人達は副業にしているだけあって強いですね、1週間前から休みを取って4日ほどプラに当てましたがそれでもダメでした」
「向こうは長年やってるだけあって国内各地の川や湖のデータを集めてるからね、初めての場所かつ4日で3位と6位なら上等上等」
「でー、今日は平日だけど学校は?」
「遅れを取り戻すために昨日から打ち上げと言う名の授業を受けています、唐揚げやポテトを摘まみながらでも大丈夫なのであまり苦ではないですが」
「そう言うお兄さんは今お帰りですか?」
「そうだね、仕事を済ませて帰ってきた所、そして今からお買物」
「お昼期待してまーす」
「それは魚屋さんに人数分の良い魚が入ってるかどうか次第だね」
「人数が少ない時は2匹か3匹で済みますけど、多い時は10匹からは必要ですからねー、1匹しか仕入れてないような魚は買えないんですよね、足りないから」
「刺身の盛り合わせなんかだと少なくても良いんだけどね、まあちーちゃんとさーちゃんも居るし、盛り合わせで考えようか、と言うわけで行って来るー」
「はーい、行ってらっしゃーい、そしてこっちは授業再開するぞー、学校の評価が何だー、全国大会に参加してる部活だけが評価されてるのがおかしいんじゃー!」
「そう言えばそうですね、手芸なんかの部活も評価されませんし、部活をやっていたと言う内申の部分のみですし」
「卒業までには大会に出てこれだけ稼いでんじゃー!って叩き付けて卒業するためには、ちゃんと勉学にも励みましょうねと言う事で」
「何を言われようが就職先が決まっているので大丈夫では有りますけどね」
「唐揚げ美味ーい」
「さーちゃんはマイペースだねぇ」
今日のお魚は何が入ってるかなー…?刺身盛り合わせと言う事で種類があれば良いんだけど…おおー…これはまたなかなか…
「どうでい?買って行くかい?」
「いいねぇ、お客さんが二人来てるから勉強用に買って行きたい所だね、いくら?」
「キロ150円で仕入れて来たから15000って所だな」
「80キロでそれならかなり安いね」
「美味い魚だが元が安いからな、言っときこれが高級魚になるんじゃないかと言う話も有ったが、そうなる前にマグロの養殖に成功したからな、結局たまに獲れてはキロ150から350円で取り引きされる魚止まりだな」
「こいつは皮も美味いんだけどねぇ、ゼラチン質で揚げたり煮たりするとぷるっぷるになるし」
「ま、こいつは深海の魚だし、養殖しようにも出来ない、狙って取る事も出来ない、身だけならマグロで良い、結果として何も変わらずだな」
「他にはー…こいつも良いね、こいつも全部頂戴」
「背びれはどうする?」
「こっちで処理するから大丈夫、まだ生きてる?」
「生きてるぞ、と言うより死んでるのは水槽に入れん」
「だよねー、んー…魚はこんな物で良いかな?アカマンボウだけでかなりの量が有るし」
「それじゃいつも通り台車に乗せて置くぞ」
「お願いねー、その間に八百屋さんとか見て回って来るー」
「はい、学校のお勉強は中断して次のお勉強はこちら、アカマンボウとオニダルマオコゼ、アカマンボウが15000円でオコゼが1匹3キロで5万円」
「たっか!」
「オコゼは高級魚ですからねー、慣れないと危ないですけど」
「今日のお昼はこいつ等の刺身、それと皮の唐揚げ、それとアラで出汁を取ってドブ汁って言う味噌汁かな?」
「名前だけを聞くと食欲が無くなりそうですが…」
「簡単に言えばアラ汁よ、オコゼのアラと肝、それと胃袋が入った味噌汁、では捌いて行きます、オコゼはまず神経を絞めて大人しくします、大人しくなったら背びれに沿って切れ込みを入れて、奥の方まで切って…ここから断ち切って背びれを除去、これでもう安全。
そして残ってるオコゼでちょっとしたお勉強、ここに一般的なビーチサンダルが有ります、これをオコゼの背に当ててぐっと押すと…こんな感じで、簡単に貫通するので南の島のビーチや岩礁を歩く時は気を付けましょう、歩くならそこが鉄板の磯用の安全靴が良いよー?踏むだけじゃなく滑って手を付いた先にこいつがいるって事も有るからね」
「卒業前の最後の修学旅行の行き先が南の島ですし、気を付けないといけませんねぇ…」
「ちなみにこいつの場合毒で死ぬケースは実は少ないんですよ、毒も原因では有るんですけど直接的な死因は溺死、踏んづけたりして刺さった後動けなくなって、そのまま波に攫われたり潮が満ちて来て…と言うのがほぼほぼです、ショック死する事も無くは無いですけどね」
「でもそんな毒を持っているだけあって美味しいよー?こいつも同じ様に閉めたら背びれを取って、皮と身の間に刃を入れて皮を剥いでいきます、この時どれだけ綺麗に皮を剥がせるかによって皮の美味しさが変わってきます」
「薄く切りすぎて美味しいゼラチン質を身に残さず、綺麗に獲るのは慣れてないと難しいんですよね、触ればわかりますけどこんな感じでぷるぷるでやわやわなんですよ」
「おー…皮が伸びーる、そう言えばこの模様って皮の色なんですか?」
「いや、苔や海藻だねこいつらほとんど動かないから皮の表面がびっしり苔や海藻で覆われる、だから剥いだ皮は綺麗に洗ってある程度汚れを落とします、生えてる海藻とか苔は食べれなくはないから泥なんかを落とす程度でね。
で、腹骨も綺麗に取り除いたら刺身用の身が出来上がり、次に胃袋と肝、胃袋は開いて中を綺麗に洗ったら一旦湯引き、胆は適当に切って炒めて火を通して、その上から味醂、味噌と入れて混ぜたら水を入れて味噌を溶かす、そしてアラを入れてしばらく煮込む、何だけど、後で骨を取り除くのが面倒なので先にアラで出汁を取っておきます、一応臭い消しでネギなんかもポンポンポーンと放り込んでおきましょう。
そして皆さんお待ちかねのアカマンボウ80キロ、こいつ骨がごついんだよね、特にこのお腹の部分、カンカンコンコンなる位には骨の塊、でも鱗はこんな感じで小さい、この鱗をまず全部落としまして、次にヒレを切り落としたら…捌き方は5枚下し、中骨に沿って刃を入れて、尾びれの方まで行ったら後はヒラメと同じ、骨に沿ってスッスッスと刃を入れて行って…こいつの場合は腹回りの骨が凄いからそこも避けて…こんな感じ」
「このお腹の部分が大トロとほぼ変わらないので代用魚として使われてる時期も有りました、今はちゃんと全部マグロなんですけどね、昔は回るお寿司がこれをトロ中トロ大トロだけと表記してマグロともアカマンボウとも表記せず、それでマグロと誤認させて売るって事をしていたんですけど、優良誤認とか詐欺じゃねぇか!って怒られて潰れたって言う経緯が有ります。
スーパーとか大抵の外食産業は内容物とかこれでも可って位厳しくなってたんですけど、なぜか麺類の個人店とか回転寿司とか、特に回転寿司は寿司ネタイコールで表記が無くても大丈夫ってのが有って、一般的な人からすればトロイコールマグロなのでそれでずーっと騙していたって言う」
「ちなみにこちらのアカマンボウは結構安くてキロ150円、高い時でも350円行くかどうかで…はい、大トロがこれだけ取れる、背中の方の身もトロとほぼ変わらない」
「これをクロマグロと変わらない値段、1貫500円で売ってたんですよねー、中トロに近い部分も350円、背中の部分はトロとして250円、ぼろ儲けにも程が有りますよねー」
「んー…食べてみた感じ違いが分からないと言うか…切り身だけで出されたら分からないと言うか…マグロの大トロですって出されたら絶対勘違いしますね」
「店舗の方では捌かず、工場の方で捌いて配送だったので働いていた人も知らなかったって言うね、知ってるのはそれを仕入れている本部と捌いている工場の人だけ」
「うまぁー…何でバレたんですかね?」
「単純にちゃんと原材料名を標記しろってなってもずっとトロや大トロ表記だったからです、他の系列はマグロ赤身とかマグロトロと書いているのにそれが無かった、それで行政の抜き打ち検査が入ってアウトーってなって、立ち入り検査もしてアカマンボウってのがバレて、それを食べていた人はマグロと思って食べていた、売ってる側は最初からアカマンボウで売ってと言っても、誤認させていたのは揺るがない事実ですので…まあ食品偽装やら何やらで倒産まで追い込まれました」
「こんなに美味しいなら最初からアカマンボウって書いて売ればいいのにねぇ」
「さっきも言ったようにアカマンボウはキロ単価が高くても350円、市場でなくてもスーパーでも頼めば50キロ個体が2万するかしないか位で買えるんですよ、なので大トロの部分をクロマグロと誤認させて40皿売るだけでもう後はもう丸々儲けになるんですよ、そして回転ずしのネタは基本的に薄いので…まあ100とか200取れるのでぼろ儲けですよね、大トロに該当する部分もこんな感じでかなり多いですし」
「はい、パパット解体完了、あたまの部分も残さず身を取って残るは骨だけ、皮はざっと洗ったら生姜ニンニク醤油に漬けてオコゼの皮と一緒に唐揚げにします」
「皮結構硬いですけど大丈夫なんですか?」
「揚げたらぷるっぷるのゼラチンになって美味しいよー?まあ、2種類しかないからほぼアカマンボウの刺身大盛りだね、オコゼは2匹だけだったし。
そして、ぐつぐつと煮込んで取っていた出汁、これを漉して骨を取り除いて、炒めて味噌と混ぜていた肝と胃袋の鍋に注いでちょっと火に掛ける、これでちょっと違うけどドブ汁の出来上がり、まあこれは蓋をしておいておきまして、アカマンボウの皮に下味を付けます」
「どうなるか楽しみだねーこれは」
「まあ、柵取りしたの位は刺身にしていきなせぇ、店長さんの所に就職したら割りと何でもかんでも捌く事になるし、慣れておいて損は無いよー?」
「魚が多いですからねぇ、目の前は海、ちょっと離れてますけど裏手には川、釣りをする環境としてはほぼ最高の立地、そして店長さんが魚を釣って持って帰って来るので…」
「割りとみせほっぽり出して釣りに行きますからねぇ、花井ちゃんがガイドに出てる時は居ますけど、200人も来ないなーって時はふらっと居なくなりますからね、日によっては完全に閉める事も無くは無いですけど」
「完全に閉める可能性が有るのは真冬位だね、海が時化てる時とか暴風の日とか、お客さんが極端に減る日は閉める事が多々ある、夏は台風が直撃とかかすめて危ないって時でない限りは…まあ県外から長期休暇の学生さん達が来るから空いてるね」
「そう言えば今年の夏はジュリアさんが襲来する可能性が有りますし、もし来たら色々教えて貰うと良いですよー?
ブランドアンバサダーは続けるそうですけど、大会はもう出ないそうですからね、店長さんの家に居候しに行く可能性が高いです、海のルアーフィッシングに関しては店長さん以上ですので、もし来たら教えて貰うと今後役に立ちますよー?
問題は店の手伝いは全くしない、適当に店の隅っこで管を巻いている時も有る、かと思ったら店長さんの道具をパクッて海とか川とかにふらっと出かける、そんな人なのでまあ店に居つく事はそれ程無いでしょうけど、釣りに行くって時はついて行くと良いと思います、勉強にはなるので店長さんも許してくれるでしょうしね。
それと、多分こっちに来る時はもうこっちに住む気満々の可能性が高いので、その場合は道具なんかも全部現役時代に使っていた物が見れると思いますよー?まあほぼこっちの物とは変わらないですけど、店長さんのお店でも滅多に扱えないルアーが大量に来るかと」
「それは楽しみですねー…主にどういう釣りをするのかを見れるのが…厚さはこんな物で良いですかね?」
「ブロックじゃ無ければ大丈夫よー」
「釣りの学校も無くは無いですけど、そこで365日釣りをするよりよほど勉強になりますよー?と言うより店長さんとかジュリアさんに1日習う方がよほど為になりますし、そう言う専門の学校ですら学べない裏の裏まで教えてくれますからね。
なので、夏休み中にジュリアさんが来たらしっかり教えて貰いましょう、特に海のルアーフィッシングに関しては無敗の女王ですからね、淡水だと店長さんとどっこいですけど、スタイルが違うので良い所取りになる様に学んで行けると良いですね」
「国内で一番上手なのって誰になるんですかね?」
「バス釣りなら中村真智子って言う南の島に住んでる人、店長さんが言うには今は海でフカセの人になってるらしい、まあ、ジュリアさんが海に強くて中村さんが淡水に強い、店長さんがその中間、って覚えておくと良いんじゃないかな?
淡水だと店長さんとジュリアがどっこいで中村さんに勝てない、海だと店長さんと中村さんがどっこいでジュリアさんに勝てない、らしいよ?勝てないとは言ってもお立ち台には立つらしいけど、なので総合で言えば店長さんが一番上、で、花井ちゃんも店長さんと同じオールラウンダー」
「そんな環境で働いたり勉強が出来るなら釣り学校に行く意味は無いですねぇ…」
「受講料も糞高いですからね、それにトーナメンターコース、フリースタイルコース、ビジネスコースって有って、トーナメンターも魚種ごとで馬鹿みたいに別れてるんですよね、なのでぶっちゃけ行く意味は無いです、そんな所に呼ばれたり教えたりしてる暇な現役、または今も現役で国外にも行ってるトッププロになれなかった人達から学ぶ事なんて何もないです、正直ちょっと釣りが美味い人、大会に出て稼いでるセミプロより下手糞の可能性までありますよ?
後進を育成後進を育生とは言いますけど、本当に上手くてプロとしてやっていけてるならそんな所で働かないですからね、スポンサー契約も切られてメーカーのプロスタッフにもなれなかった人の末路と言っても良いかも知れませんね」
「結構ぼろくそ言いますね」
「何百何千途卒業して置いてプロになった数人しか取り上げてない時点で胡散臭いにも程が有るでしょうよ、そして現役プロ9割以上は釣り学校には行っていない人、もうこれが答えですよね」
「主にどういう事を習うんですかね?」
「釣りが好きでよく行っている人が知ってる基本中の基本だけですよ、どこを狙えとか、こういう時は色を変えろとか、トーナメンターなら場所がどうこうとか、基本のみです、ビジネスコースも釣り具店の有り方がどうの、ルアー作成の方法がどうの、全部独学でどうにかなる物だけです、稼ぐ事すら出来ず契約も切られたプロ崩れがやってる情報商材の販売と言った方が良いですね、つまり詐欺です」
「基本だけだと行く意味は無いですねぇ…」
「ジュリアさんや店長さん、花井ちゃんの3人から学ぶ方がプロとしてもテスターとしてもプロスタッフとしても大成しますので、そう言う物には誘われても行かない事ですね、まず選考が3万から、弾かれても3万は取られます、そして入学金が1000万から、さらに受講料が別で年に合計2000万、それが2年、入る意味あると思います?それだけお金が有ったら道具も好き放題買えますし、船と車の免許を取って更に船と車も買ってまだお釣りが来ますよ?
一応船舶の授業も有りますけど、それも有料で免許を取る時の費用は自腹で入学金等には含まれていません、授業で乗る船のレンタルや燃料代に寮での宿泊費用位です、何コースと結構別れてますけど、講義を受ければ受ける程受講料が増えて行くタイプですね、誰の講義が1回何万、講師との実戦形式での講義何十万とかそう言うやつ。
なので関わっちゃダメですよー?講師として来てくれーって言われても断って下さい、スポンサー契約をした場合メーカーから行くな関わるなって言われると思いますけどね、どこからも見放されて切られたプロ崩れが集まる場所ってそんな物です」
「なるほどー…」
「まあ、南の島への修学旅行がどの島か分かった場合は店長さんに連絡を入れると良いですよ、多分中村さんと会わせてくれると思いますので、自由行動の時間に色々教えて貰うと良いですよー?間違いなく卒業後に役に立って来ますので」
「問題は南の島には淡水で釣りが出来る場所は無くは無いけどこっちより少ないって事だね、それでもガーとかいるから楽しいよー?だから自由時間だけでもガイドを頼めば良いね、私は会った事無いけど」
「私も無いんですけどねー、本島からは離れた離島住まいらしいですからね、ひょっとしたら店長さん経由でもダメかもしれません」
「えぇ…」
「なんて話している間にオコゼとアカマンボウの唐揚げも出来上がり、それじゃお昼にしようか」
「おー、美味そう、どちらも丼にして食べたいですねーこれ」
「丼ではなく茶碗で小盛りにしてすると良いですよー?」
アカマンボウ
マグロの代用魚になるんじゃないかと言われていた深海魚、キロ単価も高くて350円と結構お買い得
ご主人様が今居る所では安定して獲れるので過去に食品偽装で使われていた事も有る、結局ばれた上に陸上でのマグロの養殖が成功したので代用として使われる事も無くなった




