狂っている… 愛も重い…
「梨、梨、お・お・き・な・な・しー」
庭に生えている梨の木から梨を収穫。
もぎ取っていく傍から新しい実をつけているが、これ変換ボックスに突っ込んだらどうなるんだろうなぁ…
普段はもうそのまま食べたりする程度だが…
「…よし、物は試し、1個だけ突っ込んでみよう」
梨を3個ほど収穫し、加工場にまっしぐら。
なんかこう…初めての実験とかそういう事をする時ってわくわくするよね…
…後の事さえ考えなければ。
「………」
加工場に入ると椅子に座ったナディが居るが…ボーっとしているのか、考え事をしているのかよく分からない。
そんなナディの横をすり抜け変換ボックスの前へ。
「ふんふんふーん、さて変換レートはどんなものかなー?」
収穫して来たばかりの採れたての梨をボックスへ投入。
庭の梨をボックスで変換するのは初めてなので、結果次第ではたまに放り込むのも良いだろう。
梨を投入してから1分くらい経過し、何に変換されて、どのくらいの量になるのかが表示された。
「えーと何々…」
梨2キロに対し油揚げ2キロ。
「…んー…?」
梨で油揚げか…特に変換する意味はないなぁ…
ボックスから梨を排出させて変換を取り消し。
変わった物が出るわけでもなく、変換される量も同じ重さまで。
特にこれと言った収穫もなかったなーと、加工場を後にした。
ナディは終始ずっとボーっとしてた、声をかけても反応しないとは珍しい…
加工場から調理場へ移動し、収穫した梨の皮を剥いて圧搾。
瓶詰めして氷水に突っ込めば簡単な梨ジュースの出来上がり。
そのまま飲んでよし、何かのソースに流用するもよし、いっそお酒に入れて割るもよし。
1個はただのジュース用なのでそのまま、氷水で冷やした梨ジュースをお風呂で飲みたくなっただけだが…
今はまだお風呂の時間ではないので冷蔵に仕舞って置くだけ。
んー、実に楽しみ。
残り2個の内1個は角切り、1個は擦り下し。
角切りはそのままお酒に漬けて暗所で暫く寝かせる。
擦り下した梨は、玉ねぎ、にんにく、生姜、醤油、酒、他にも色々と調味料を混ぜ合わせ火にかける。
タレに使う梨が普段とは違う梨を使用しているので大量には用意せず梨1個分だけ。
それでも1個が西瓜と同じ位あるのでそこそこの量にはなるが…
灰汁を取りつつ煮詰め、少しとろみがついてきたら火から下し、あら熱が取れたら瓶などの容器に入れ保存。
出来たばかりは刺々しいので暫く寝かせて熟成させる。
次はシンプルににんにく醤油。
皮を剥いたにんにくを醤油に漬けるだけ…の方ではなく。
醤油に擦り下したばかりのにんにくを混ぜ、軽く火にかけ加熱。
水分は出来るだけ飛ばさず、少し沸いたら火からおろし、瓶に詰めて保存。
出来上がったばかりはにんにくが強烈に来るが、これがまたお肉と合うので一部で人気。
寝かせておくとだんだん丸くなってくるのでそれはそれでまた美味しい。
こちらはストックがほぼ無いので大量に作っておく。
試作のタレと一部のメイドが愛してやまない擦り下しにんにくの醤油タレを保管し。
他に何か無くなりそうなタレなどが無いかの確認。
特に無くなりそうな物もなく、にんにく醤油だけが極端に減っていただけだった。
作る物も作ったので庭を散歩していると、どこかから良い匂いが漂ってくる。
匂いを辿り発生原へ行ってみると、アリシア達がアリサ達と野外料理を作っていた。
匂いから察するに主な味付けはほぼ全てにんにく醤油。
にんにく醤油に焼く前の肉が漬かっており、にんにく醤油を塗りながら焼いている焼き物、焼きおにぎりもにんにく醤油。
にんにく醤油漬けの肉を焼いたと思えばにんにく醤油に漬けて食べる。
…見なかった事にしよう。
臭い消しもちゃんと用意してるみたいだし臭ってくることはないはずだしね…
しかしにんにく醤油だけが極端に減ってたのはこれが原因か…
使用量が使用量だけに匂いがかなり広がっており、何人かが釣られてやってきている。
各々食材や道具を持ってきているあたり、ちょっとした宴会になりそうだ。
ただ何やら肉類が少ない、アリシア達が大量に持ち込んでるから別けて貰うのかな?
昼食も近いので混ぜて貰っても良いが、特に何もない時に昼からにんにくをがっつりと取る気はないので、その場を立ち去った。
昼食も食べ終わり、お菓子に使う生クリームを作りに再び加工場へ。
加工場に入ると午前中と同じくナディはボーっとしており、目の前で手を振ってみても反応は無い。
「ナディー?
おーいナディさーん?」
呼びつつ牛耳を弄ってみるがこちらも反応なし。
「んー…?」
呼んでも反応しない物は仕方なし、ミルクはちゃんと搾ってあるみたいなので、変換ボックスに入れ生クリームに変換。
…しようとしたが出来なかった…
牛乳5リットルに対し油揚げ5リットル。
…油揚げ5リットルってなんだ…そこはせめて豆乳じゃないの…?
変換ボックス何処か壊れたかなぁ…
ボックスから牛乳を取出し、変換ボックスを停止。
動力源を一度取り外してからちょっと解体。
特におかしい所は無く、変換するために仕込んでいる宝石もレートを決める部分も異常なし。
再び組み立て再起動、また牛乳を入れ変換を試みる。
牛乳5リットルに対し豆乳5リットル。
…直ったよう直ってないような…揚げ5リットルじゃないから改善はしたか…?
ただどうやっても生クリームにする事は出来ず、手間はかかるが生クリームを手作り。
少々時間は掛かったがおやつの時間には間に合い、ホイップクリームたっぷりのケーキやプリンを作る事が出来た。
夕食の準備にと、夕食の材料を取りに行っていたヴェスティアが変な顔をして戻ってくる。
「油揚げか豆腐か厚揚げの3つしか選択肢が無いんですが…」
なんなんだろうねぇ…
「まあ今日は豆腐とかメインで行こうか…」
ある物でどうにかするしかなく、揚げ出汁、湯豆腐、豆腐ステーキ、豆腐田楽など。
ひたすらに豆腐尽くし、汁物もお吸い物か味噌汁に豆腐か油揚げ、または両方。
厚揚げを出汁と生姜で炊いた物、ご飯も油揚げの炊き込みご飯。
レタスなどに豆腐を乗せて豆腐サラダ。
ここまで来たらと、もうそのまま冷奴。
見渡す限り豆腐豆腐豆腐、見事に豆腐を使った物ばかり…
肉や魚などの無い脂っ気のない夕食となったが、特に不満は出ていなかった。
…と思う事にした、昼食前にあれだけいい匂いが広がってたらお肉とかほしくなるよね…
実際は不満だらけだったので明日はお肉にしよう。
夕食後、午前中作って置いた梨ジュースを氷水を入れてある桶に入れさらに冷やす。
浮かべるためのお盆も用意していざお風呂。
手早く服を抜いて髪や体を洗った後、湯船にお盆を浮かべ、入浴しながら良く冷やした梨ジュースを飲む。
お風呂で暖まりながら甘酸っぱい梨ジュースで体の内側から少し冷える感じが何とも言えない…
ちびちびと飲んでいると珍しく狐さんが後から入ってきたので一緒に入浴。
グラスは一つしか持ってきていないので、狐さんと代わる代わる飲む。
半分くらい飲んだ頃、心ここに非ずと言った状態のナディも入浴してくる。
目の焦点が合ってない…のはいつも通りとして、風呂椅子に座った後は何をするでもなくそのまま停止。
頭と髪を洗うわけでも体を洗うわけでもなく何もしない。
あまりにも動かないので一旦お風呂から上がり、ナディの体と髪を洗ってしまう。
手早く洗った後は髪を纏め、ナディの手を引いて再び入浴。
やはり呼びかけても反応は無く、つついても反応は無い、ただジュースを出すと飲んだ。
「んー…よくわからん…」
「何がですか?」
「いや、午前中からナディが全く反応しないなーと」
反応が無いだけで昼食や夕食はきっちり食べている。
「今日はそう言う日なのではないですか?」
「そんな日かねぇ…?」
反応のないナディを加え、3人でジュースを飲みながらのんびり。
1人で飲むつもりだったのでそれほど量が無く、すぐに底をついたのでお開き。
お風呂から上がり、狐さんの耳と尻尾を軽く手入れ、ナディも軽く手入れし、着替えさせる。
狐さんは部屋に帰って行ったがナディは動かず、このまま放置するわけにも行かないので、部屋まで連れて行きベッドに寝かせてやる。
横になってすぐに眠り始めたので疲れでも溜まってたのかな…?
そう思いつつ部屋から退室、グラスや桶などを片付けに調理場へ移動した。
グラスなどを洗い片づけた後は遊技場でちょっと暇つぶし。
参加するわけではないのでのんびりと眺める程度。
勝ったり負けたりしているメイドを眺め、今日は何が出ているのかを確認する。
ざっと流し読みしてみるが特に変わった景品は…
いや全部おかしいわ…
油揚げ一年分
油揚げ半年分
稲荷寿司一年分
稲荷寿司半年分
きつねうどん一年分
きつねうどん半年分
この油揚げ押しは一体なんだ…?
変換ボックスと言い今日出ている景品と言い、何がどうなってるんだか…
何かの隠語か…?それとも文字通りにこの景品が…?
何がなんだかさっぱりわからない…
チップの代わりに揚げを積んでいるメイド、稲荷寿司を食べている狐さん、きつねうどんを食べている狐さん。
うーん、目がおかしくなったかな…脱衣所で別れたはずの狐さんが遊技場に複数人いるように見える…
疲れるよるものかもしれないな、早めに寝よう…
寝室に戻り、明日になればきっと疲れも取れて元通りになるはずだ。
そう思い、豆腐で出来たベッド、厚揚げで出来た枕、油揚げで出来た布団に潜り込み、これは幻覚、疲れによる幻覚だと言い聞かせながら眠りについた。
隣に狐さんが座っているのもキットキノセイ、ソウニチガイナイ。
…幻覚ではなく夢なのかもしれない、夢であれば狐さんが増えてもおかしくはないし、このへんてこな寝具で寝るのも普通なのかもしれない。
夢であるならばこの油揚げで出来た布団が食べれるはず、そう思いかぶりつくと食べることができた。
なんだ、やっぱり夢じゃないか…
なら目覚める事が出来ればいつも通りの日常に戻れる、早くこの変な夢から覚めない物だろうか…
目を開けると隣に狐さんはおらず、隣には狐人族のメイドが1人寝ている。
寝具も豆腐などではなくちゃんとしたお布団や枕に戻っている。
何所から何所までかはわからないが夢であったのは間違いない。
ベッドから抜け出し、着替えた後調理場へ。
暗所を確認すると作り足したタレがあり、お酒も減っていない。
ジュースはお風呂で一本飲んだのでその分が減っている…
となると寝たのが何時だ…?
深く考えても分からないので、多分遊技場に向かった時点で夢だったのだろう、そう思う事にした。
朝食の前に朝風呂に入りしっかりと目を覚ます。
お風呂で目を覚ましている内に狐人族メイド達がぞろぞろと入ってくる。
メイド達に髪と尻尾の手入れを頼まれたので、1人1人丁寧に手入れし、皆どこからどう見ても立派な狐さんに変身。
うんうんと頷きつつ狐さんに囲まれ、朝食の時間手前まで幸せな入浴時間となった。
お風呂から出た後は廊下ですれ違う狐さんと挨拶し、引き連れる狐さんを増やしつつ食堂に行き朝食をとる。
今日も朝食は稲荷寿司、がっつり食べる狐さんは朝から稲荷寿司ときつねうどんのセット。
少し体重が気になる狐さんは稲荷寿司を少しだけ、特に気にしていない狐さんは稲荷寿司を2皿。
今日も朝から稲荷が食べられて幸せ、隣と正面にいる狐さんから食べて食べてと差し出されてくる稲荷を食べつつ、お返しに稲荷を食べさせる。
何時もと変わらない日常風景、今日は狐さんと何をして過ごそうか…
とはいえ屋敷から離れてするようなことも無く…
庭に生えている木から油揚げを収穫、その場でかぶりつき味の確認。
今日の揚げは実に稲荷向けの味が付いている、お昼はこれで稲荷を作ろう。
何枚か収穫し、加工場へ行き足りない材料の確保。
加工場に入ると狐さんが椅子に座りボーっとしている。
「狐さーん?
おーい狐さーん?」
「お呼びですか?」
「お昼にこの揚げを使おうと思うんだけど稲荷以外に欲しいものある?」
「いえ特には?
稲荷があればそれで満足ですので、むしろ稲荷こそ至高ですね」
「狐さんは相変わらずだなぁ…」
少し話した後変換ボックスの前に立つが…
「んー…?」
「どうしましたご主人様?」
「いや、足りない材料を取りに来たはずなんだけど。
そもそも足りてない材料が何もなかったなと、具材は農場に行けば採れるし」
「ボケましたか?」
「かもしれないね…」
加工場を後にし、稲荷寿司の具材を取りに農場へと向かった。
農場では狐さん達が忙しなく働いており、おからに豆乳を与え、厚揚げがおからに根を張り、栄養をたっぷりと吸い上げ、立派な油揚げを付けた豆腐の御世話をしている。
稲荷寿司の具材に適した油揚げを選び、いくつか収穫。
お昼なのでさっぱりしたのもいいかなーと、さわやかな香りのする油揚げも収穫。
調理場に戻り昼食の仕込みを始める。
庭で収穫した油揚げを切り、甘辛く煮つける。
その間に農場で収穫してきた油揚げを甘酸っぱく炊き、寿司飯に混ぜる。
他にも爽やかな香りのする油揚げを細かく刻み、甘酸っぱく炊いた油揚げとは別に寿司飯と混ぜて置く。
甘辛く煮つけた油揚げにそれぞれの具材を混ぜたご飯を詰めて閉じれば稲荷寿司の出来上がり。
採れたて新鮮な油揚げをふんだんに使った贅沢な一品、これなら狐さん達も満足するだろう。
昼食の時間になると大きな狐さん、中くらいの狐さん、小さい狐さんが食堂に雪崩込み、並べられた稲荷を我先にと取って行く。
追加で稲荷をどんどん作り並べて行き、材料がなくなる頃にようやく波が収まった。
夕食もお昼と同じ様に稲荷寿司、夜はがっつり食べる狐さんが多いので大きな油揚げを使ったジャンボ稲荷寿司も作っておく。
ジャンボ稲荷の中心には普通の小さい稲荷も仕込んでおくと喜ばれるので、しっかりと仕込んでおく。
稲荷寿司の中に稲荷寿司で狐さんも大満足。
汁物にはきつねうどんかきつねそば、他にも油揚げのショウガ醤油焼き、油揚げの煮物などを作れば準備完了。
雪崩込んで来るであろう大中小の狐さんを待つ。
何時でも来いと思うや否や食堂に狐さんの大群が押し寄せ、作った物は綺麗に食べ尽された。
夕食後は狐さん達とお風呂に入り、1人ずつ丁寧に耳と尻尾の手入れ。
お風呂から上がれば遊技場に行き、狐さん達が油揚げをチップに賭け事をしているのを見守る。
楽しく遊んだのを見守った後は狐さんを連れて寝室へ。
昨日は大きな狐さんだったから今日は小さい狐さん。
お姫様抱っこで抱きかかえ、寝室の扉を横に控えていた狐さんに開けて貰い、油揚げのお布団に横たわらせる。
横になった小さな狐さんにキスを落とし、2人一緒に油揚げのお布団にくるまり、長い夜を過ごした…
翌日目を覚ますと小さな狐さんは朝の挨拶とばかりに布団に潜り込み…
「ご主人様凄いうなされてるけどこれ大丈夫なん…?」
ルシフが心配しているが聞く耳はもたず…
「狐さん最高狐さん最高狐さん最高、狐さん愛してる狐さん愛してる狐さん愛してる。
油揚げ最高油揚げ最高油揚げ最高、稲荷寿司最高稲荷寿司最高稲荷寿司最高」
ご主人様の耳元で念仏を唱えるかのように只管同じことを繰りかえし言っている。
「はぁ…狐も飽きないねぇ…一晩中耳元で呟き続けるとか…」
「飽きるわけが有りません、それに愛を囁いているだけですし」
再び耳元で呟きはじめ、ご主人様がうなされ始める。
「せめて目が覚めた時のご主人様が何も覚えていませんように…」
ルシフはそう願い、ご主人様の寝室を退室。
ご主人様と狐さんの2人だけを残し出て行った…
何もできる事は無いし、途中で止めたら狐が怖いからと…
願いが通じたかどうかは分からないが、目が覚めた後のご主人さまは特に何も変わっておらず。
夕食も魚や肉などはバランス良く使われていた。
…ただ汁物は暫くきつねうどんかきつねそばの二択だった。
目論見が成功したかどうかは狐さんのみぞ知る。
変換ボックスは単に大豆製品押しの日だった
ただリットル表示だけは誤作動、他の変換ボックスも翌日はちゃんと元に戻った
ナディがボーっとしてたのは本当にただそういう日
お風呂場辺りから狐さんが催眠開始、ご主人様は稲荷天国へ・・・
ベッドに寝かされた後は狐さんが一晩中枕もとで愛を囁く
 




