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交流試合 ついでに揉め事解決

「東軍、第一騎士団、副団長バニラ!

西軍、第七騎士団、団長カカオ!」

 コロシアムの中央に左右の門から現れた完全武装の騎士が歩いてくる。

 フルプレートにフルフェイスなので表情は分からないが、互いに相手の様子を見ているようだ。

「互いに礼!国王に礼!

両者所定の位置まで下がり構え!

騎士団交流試合一回戦第一試合…始め!」

「…っ!」

「はあああぁぁぁぁっ!」

 互いに武器を構え、開始した直後に第七騎士団の団長は突撃、第一騎士団の副団長はその場で構えたまま動かず、カウンター狙いのようだ。

 正面大上段からの振りおろし…に見せかけて相手の間合いの外で一時停止、カウンターの空振りを狙うが…

 止まった所を狙うかのように、一気に間合いを詰めてきた第一騎士団の副団長の横凪ぎの一閃ががら空きの胴体に刺さる。

 胴体に横凪ぎを受けた第七騎士団の団長は吹き飛び、コロシアムの壁に叩きつけられた。

「一本!それまで!」

 決着と同時に周囲から歓声が沸き起こる。

 壁に叩きつけられた団長は気絶しており、フルプレートの鎧は砕け散っているが無傷のようだった。


「いやー凄いねぇ!

ほぼ中央から壁までノーバウンドで吹っ飛んでいったし!」

「現役時代に欲しかったですねぇ」

「後輩たちに言って何本か融通してくれるように頼んでみましょうか?」

 元王女夫妻は試合を見て随分楽しそうである。

 娘達も若干興奮気味で食い入るように見ている。

「あれが全ての兵士に行き渡れば世界征服も…」

「はいはい、物騒なこと言わないの」

「あっ…ふぅ…落ち着きました。

そうですね、あれはあくまで守るための物で、戦争の道具ではありませんからね。

すみませんお姉様」

 実際あれが全ての兵士に配備されたらもうこの国に勝てる所は無くなるだろう…

 一応誓約として大陸外には持ち出せず、使用も登録者以外だと藁一本芋劣る性能となる。

 大陸外への持ち出し不可以外にも色々と誓約はあるが、その代償と共に非殺傷かつ強力な兵器が出来上がった。

「お、次の試合が始まる。

次はー…」


「東軍!第十三騎士団、団長ミント!

西軍!第三騎士団、団長ベリー!」

 一試合目と同じ様に礼を終えた後、所定の位置につき互いに武器を構えて試合が始まった。

「…ふぅ…」

「っ!?」

 武器を二本構えたミントが脱力し、少しゆらっ…と揺れた後、残像を残しベリーの背後に現れ、ベリーの頭を綺麗に打ち抜いた。

「それまで!勝者第十三騎士団、団長ミント!」

 倒れたベリーは何が起こったかすら理解できなかっただろう…同じ団長同士でも実力差が有りすぎた…


「流石虎の子の隠密部隊、やっぱり強いねぇ」

「最近の近衛は少々弛んでいるのでは…?」

「また今度お城にお邪魔して扱いて上げないといけませんね…」

「まあ流石にそれは近衛が可哀想じゃないかなぁ、アレを相手に勝てってのは酷だよ」

 ゆっくりを歩き門へと向かって行くミントを眺めながらフォローを入れる元王女。

「実際どのくらい強いの?」

「んー、私とお父様とお母様ならまず負けない、ただ隠れられると厄介だねぇ、本職が隠密で正面切って戦う娘じゃないし」

「厄介なだけで負けるわけじゃないんだ?」

「それは当然、気配や殺気を消した状態で一瞬で間合いを詰められても反応できるからねー。

それに空気の流れまでは隠せないからね、気配を消して隠れててもちょっと時間が掛かるだけで見つけられるし」

 戦闘民族恐るべし…

「その程度私達でもできますよ」

「アウラ様の言う通りです、御覧のように」

 対抗心を燃やしたアウラとサファイアが手を前に持ってくると、その手にはミントが抱えられていた…

「っ!?ここは!?」

「ね?」

「いや、ね?じゃなくて、元居た所に帰してきなさい」

「もう、ちょっとしたお茶目じゃないですか」

 手を下すとミントはその場から消えた、元居た場所に帰されたようだ。

「そういうのはいきなりやると巻き込まれた人が混乱するからおやめなさい」

「いやー、いったい何をどうやったのかさっぱり分からなかった、ミントがいきなり現れたと思ったらもう居なくなってるし」

「ほんの少し早く動いて捕まえてきて、またほんの少し早く動いて元居た場所に戻しただけですね」

「ご主人様のメイドは底がしれないねぇ…

あ、次は試合じゃなくて貴族同士の揉め事解決っぽい」


「東!ハロウド家当主!ビル伯爵!

西!シュミット家当主!シーザー伯爵!」

 互いに何やら相手を睨みつけながら殺気を垂れ流している…

「礼は不要!今すぐ思う存分殴り合え!」

「てめぇ先月俺が楽しみにしていたワインを横から掻っ攫っていきやがったな!」

「お前こそ俺が先々月楽しみにしてたケーキを横入りして買っていきやがっただろ!」

 お互い怒鳴りながら殴り合いが始まった。

 怪我はしないとはいえ衝撃は結構な物のはずだが、お互い意地があるのかまだ倒れない。

「40年前の初恋の相手にプロポーズするときも邪魔しやがってこのやろー!」

「あれはお前の事を思ってだ!あの人は何人も誑かしていて当時すでに10人くらい男を囲っていたんだぞ!」

「え?それマジ?」

「マジもマジ大マジ、お前はただの金蔓としか思われてなかったし、当時囲っていた男達も搾り取られてたぞ」

「えぇ…とするとあの人どうなったの?」

「公爵様に上手く取り入って正妻になってる…世の中ままならんものだ…」

「…今度飲みに行くか」

「…そうだな」

「試合終了!両者引き分け!

後その女の人は現在4児の母ですな、何やら真の愛に目覚めたとかで公爵様一筋になっています」

「まじかぁ…」

「審判さん情報通ですね…」

 解決したのかしてないのかよくわからない終わり方をした…


「搾り取られた人達はどうなったんだ…」

「記録によると…お小遣いを全て搾り取られていただけで、財産までは手を出してないのでノーダメージ。

ちょっとした授業料を払った程度の認識だね」

「まあ平和と言えば平和か」

「お小遣いで賄える範囲で食事やケーキなどの甘味を奢らされていただけですね、宝石類などは一切ねだっていません。

身体も一切許してなかったようで」

「今が幸せならつつくことではないな…」

「ちなみに私の母です」

「えぇ…」

「実は公爵家に嫁ぐ前から公爵の子を身籠っていたんですよね…互いに一目ぼれしたとか何とかで…

結婚後即出産、その後生まれた娘はお城にメイドとして奉公していた所…」

 えーと…娘ちゃんが今…何歳だ…末ちゃんが17で19か…で…元メイドAが妊娠出産したのが21…くらい?

 元メイドAが今40として…

「母は今50ですよ、犬人族も適齢期は8~13歳くらいですしね、その割には長生きしますし、適齢期以降も問題なく妊娠と出産できますけど」

 …そうかぁ…なるほどなぁ…人の事はいえたようなもんじゃないけど…

「当時は近所の優しいお兄さん達にご飯を奢って貰っていただけ、と供述していますね。

1人1人のお小遣いは少なくとも人数が居ればくいっぱぐれる事は無くなるので…」

「なるほどねぇ…」

 舞台の方を見ると肩を組みながら歩いて行く伯爵たちの姿が見えた。

 最初から君たちの事は眼中になく、ただご飯を奢ってくれる優しいお兄さんという認識だったんだね…

「んー?一目ぼれしたとしてどこで出会ったんだ…?」

「山の中と聞いてますね、嗜みとして狩りに出たのはいいけど遭難して、山で遊んでた母に発見されて救助されたようです。

その時に山小屋で…」

「ふーん…」

「動物を狩る腕は今一でしたが、此方の方は百発百中の名手だったようで、4回やって4回とも命中。

以降はちゃんと互いに避妊薬を服用してからするようになったみたいですけどね」

「何というか…」

「いいんですよ、色ボケって言って貰っても、今も年中いちゃついてますし。

山小屋にいる所を発見されたときも、互いに求め合って行為を止めなかったそうですからね。

仕方なく捜索隊は山小屋の外で、2人が精根果てて力尽きるまで、2人の声を聴きながら周囲を警戒していたそうです。

はた迷惑な夫婦ですよね、捜索隊を無視してまで続けるんですから…

おかげで奉公に出た時にお城の人から、あんな大人になってはいけないよ、って当時捜索に参加した人から言われたんですよ!

分かりますかこの恥ずかしさが!」

「でも今はご両親の事を言えるような立場じゃないよね、ご主人様が来た時も妻達と盛ってるときあるし。

血は争えないよねぇ…」

「ぐっ…!」

 確かに、最初は顔を赤くして部屋の前を離れて行ってたはずなのに、今では人目も憚らずいちゃついている時がある。

「まあその話は置いといて、ほら、次の試合が始まるよ」


「東軍!第二騎士団、副団長ミルク!

西軍!第五騎士団、副団長クリーム!」

 両者とも重装甲、タワーシールドにフルプレート、フルフェイスで守りに特化している。

「一回戦第三試合始め!」

 両者とも互いににらみ合ったまま動かない、じりじりとは動いているがどう動きだすかを見ているようだ。

「あー、これは駄目かもしれないねぇ…」

「どういう事で?」

「ミルクとクリームは姉妹だから互いに互いを知りすぎててねぇ…どう動いたらどう来るかとか全部分かってるんだよね。

それに仲が悪いなら隠し玉も通用するだろうけど、姉妹仲は良好、お互い隠し事は一切なし。

付き合ってる女性も同じ人と何から何まで同じ、つまり…」

 にらみ合ったまま動かなくなった二人に審判は告げる。

「千日手につき無効試合!両者失格!」


「やっぱりねぇ…互いが同じ動きを取るから決着がつかないんだよね…

ちなみに夜の方も全く同じだよ」

「…その情報いる…?

というかなんで知ってるの?」

「だって、可愛い娘の彼女だし?」

 …それでいいのか?いいんだろうなぁ…文字通りの女系家族だし…

「娘が逐一どこをどうするとどう反応するだの、2人とも同じ所が良いみたいだの報告してくるんだもん、いやでも覚えるよ…」

「ご苦労様です…」

「ちなみに私の彼女です」

 虎耳虎尻尾の元メイドC…ローラだっけ?の娘さんか…

「どういった経緯でお知り合いに?」

「いえ、ただ街で休暇を過ごしている彼女たちに声をかけただけですね。

たまには気晴らしに、と軽い気持ちだったのですが、何やら妙に懐かれまして」

「懐かれた、じゃなく依存させたの間違いでしょう…

あれほどの飴と鞭で依存しない純心な娘はいませんよ…」

「そうでしたっけ?記憶にございません」

「この娘は…まあ責任はちゃんと取る様なので見逃しますが…」

「それは勿論、愛人枠になりますけどちゃんと納得してもらっています」

「姉様たちは私のお嫁さんですからね、どうしてもその愛人という枠になります」

「…他には愛人とか作ってる姉ちゃんはいないよね…?」

「今の所はいませんね、ちゃんと満足させていますし、余程のことが無ければ近づけさせませんので」

「そですか」

「私は2人ほど囲ってますけど」

 末ちゃん…あなたって娘は…

「ちなみにお相手は…?」

「十三騎士団の団長と副団長です、隠密って手持ちにいると何かと便利じゃないですか?」

「…馴れ初めは…?」

「それはもう正々堂々と真正面から、何度もたたき伏せて屈服させました、夜討ち朝駆け奇襲何でもありの相手に有利な勝負で勝ちました」

 末ちゃん強くない?

「後は2人纏めて捕縛してお持ち帰りですね、その後はコロッと落ちました。

今や隠密部隊は私の思うが儘です」

「最近隠密部隊の出入りが激しいと思ったらそんなことしてたのかこの娘は…」

「お母様、今の時代はいかに早く情報を集めるかですよ?

その為の手段を選んではいけません」

「隠密部隊の娘達は納得してるの…?」

「したんじゃないですかね?十三騎士団全員を相手にして返り討ちにしましたし、もちろんお持ち帰りもしましたが。

あ、持ち帰りはしても手は出してないのでご安心を、ミントとシナモンとの仲の良さを見せ付けただけです」

「ヤダ…うちの娘強くなりすぎ…もう私やお父様とお母様が一緒になっても勝てない気がする…」

「おじい様やおばあ様、お母様達も尊敬していますのでまず戦う事はありませんね、ただ叔母様は…

次何かやらかそうとしたら即取り押さえるでしょうね…せっかくお姉様が潰した闇市などが復活する寸前まで行ったようですし…」

「ああ、うん、それはもうガンガンやっちゃって、何かやるたび人望失ってるから…

でも土地の開発や運用、国の運営は常に上向きなんだよねぇ…お父様の時より豊かになってるし、スラムも減って孤児も減ってきてるし…」

「何がいけなかったんだろうねぇ…?」

「給料と言い禁止令と言い、あの時は妹の嫁さんが居なかったから…」

「なら簡単ですね、あの2人は常に一緒になるように働きかけておきましょう、何時いかなる時も一緒に行動すれば変なことはしないはずです」

「そうだねぇ…それもありかねぇ…

あ、次の試合が始まる」


「東軍!第十三騎士団、副団長シナモン!

西軍!第三騎士団、副団長ネーブル!」

 おや、先ほど団長同士がやり有った所か。

「さっきと同じことになりそうだなぁ…」

「シナモンはミントほど強くはありませんが、それでもミントに比べて、ですからねぇ」

「第四試合始め!」

 開始の合図と同時にネーブルは槍を構え相手から目を離さない、対するシナモンは…

「なんかきょろきょろしてるね」

「何か探してるんじゃないですか?」

「武器すら構えず何を探すというのか…」

「さぁ…?取りあえず声をかけてみましょうか。

シナモーン!ここですよー!」

 舞台に向かって叫ぶ末ちゃん。

 すると此方を向いて手を振るシナモン、相手に背中を向けて両手で手を振っている…

「んー、やはりシナモンは可愛いですね、あの小動物的な感じがたまりません」

「思いっきり相手に背を向けてるけど、後相手さん今がチャンスとばかりに突撃してきてるけど」

 槍を構え間合いを詰め攻撃の動作に入るネーブル、しかし、突撃の勢いは衰え、間合いに入る前に倒れた。

「勝負あり!勝者シナモン!」


「やっぱりわざとに隙を作っても崩せないかぁ」

「やはり再訓練が必要では?」

「止めてあげなさい」

「で、結局のところ何が有ったの?」

「背中を見せて手を振ってると見せかけて、糸で操って頭部を撃ち抜いた感じですね。

あそこまで大げさに降ってる時点で気が付いても良い物ですが…」

「なるほどねぇ、いろんな扱い方があるもんだ。

所でアウラとサファイアさっきから静かだけどどうしたの?」

「いえ、末ちゃんを屋敷のメイドと比べたらどうなるのかとちょっと考えていまして」

「どういう結果になりそう?」

「そうですねぇ…エキナセア以上ベリス以下ですかね?

エキナセアは戦いを好みませんし、流石にベリスクラスになると片手間であしらわれるかと」

「エキナセアからベリスまでの間は…?」

「該当者なし、非戦闘で一番強いのがエキナセア、戦闘可で一番弱いのがベリスです」

 なんだかなぁ…

「かといってエキナセアが負ける事は有りえませんけど、皆骨抜きにされてお終いです」

 うん…ヴェスティア仕込みだしね…

「ご主人様話してないで舞台の方を見よ?

次はまた揉め事解決みたいだよ」

 2試合ごとに揉め事解決って、揉め事多すぎないか…?


 次の揉め事はー…

「東!主婦代表ジュリエット!

西!主夫代表ロミオ!

互いに満足のいくまで語り殴り合え!」

 貴族同士だけってわけでもないのね。

「やはりあなたが代表なのねロミオ…」

「そういうお前もやはり代表だったかジュリエット…」

 お互い知り合いの御様子、まあ知り合いじゃないと揉め事もないか…?

 でも代表って言ってるから巻き込まれただけの可能性もあるしなぁ…

「ではこちらの主張を言いますね…

男が女の聖域であるバーゲンに突っ込んできてんじゃねぇぞオラァァァ!

事あるごとに肌に触れてきて痴漢か何かかよ!いい加減にしないと衛兵呼んでぶち込んでもらうぞオラァ!」

「じゃあこっちも言うね…

男が動けない女房の代わりにバーゲンに言って何が悪い!

こっちも遊びで戦場に行ってるんじゃないんだよ!身重の女房の為に食わせてやらなきゃいけねぇんだよ!」

 うーん、お互いに譲れないものがある様子。

 壮絶な戦いの末…

「両者気絶!ダブルノックダウン!

えーそうですねー、互いに歩み寄って譲り合っては如何でしょうか?

確かにバーゲンは聖域であり戦場ですが、ご近所の方同士は今一度お互いの夫婦の状況を確認しては如何でしょうか?

きっと手を取りあって助け合いができると思いますよ?」

 何やらありがたいようなそうでないような一言と共に結局解決したのかしてないのかわからないまま、揉め事第2試合は終わりを告げた…


「中々深いねぇ…女房は旦那の為に、旦那は女房の為に…

近所同士で身重になってる人や何かが原因で動けなくなっているとか、把握できてればいいんだけどねぇ…

行きすぎるとプライバシーが筒抜けだから加減が難しい所だけど」

「我々貴族にバーゲンは無縁ですが、考えさせられる話でしたねぇ…」

 うちは自給自足なのでそもそも余程の事がない限り衣類や食物などは買わない。

「解決策になるかどうかは分かりませんが、配達サービスなどをすれば身重の女性や、何らかの事情により動けなくなっている家庭の助けにはなりますね。

配達料を含めバーゲン時は普段よりは少々安く、直接行くよりは少々割増にするなど」

「難しい所だねぇ…あらかじめ注文するにしても自分で選べないわけだし、かといってバーゲン開始より早くバーゲン価格で売るわけにはいかないし」

「ですねぇ、そんな事をすれば普段からバーゲンに言っている人達から不満の声しか出ないでしょうし」

「お互いに歩み寄って貰うしかないですね…」

「まあ話は通しておけばいいかな、こればかりは時間で解決するのを願うしかないね」

 何やら政治的なお話…?

 まあ暮らしてる人の揉め事も公けにしてしまえば解決策も考えられるという事だろうか。


 なんてことを考えたりしていたのだが、特にそんなことも無かった。

「東!エーデルガルド家当主、レオナルド公爵!

西!エーデガルド家正妻、ドロテア!

またお前らか!もう好きにしやがれ!」

 何やら常連の様子…

「あの2人有名なの…?」

「有名というかなんと言うか…」

 元メイドAが真っ赤な顔を手で覆い隠している…

 あぁ…ご両親なのね…

「あなた!今年こそは5人目を作りましょう!」

「それは駄目だ!!」

「どうしてですか!私はこんなにあなたを愛しているのに!」

「愛しているからだ!お前ももう子供を産むのには危険な年齢になってしまった!

私はお前を失いたくはないのだ!」

「…っ!あなたぁっ!」

「おまえぇ!」

 特に何をするわけでもなく舞台の中央で抱き合う2人、そのままいちゃつきはじめる。

「こうなるのが分かってるからお前らを出したくなかったんだよ!

衛兵!何処か空いてるベッドに放り込んで来い!」

 2人は舞台の中央で抱き合ったまま2人の世界に入っており、台車に載せられ何処かへと運ばれていった…

「どうせベッドに放り込んだら翌朝まではもう出てこねぇよ。

あの時もそうだったんだから…」

 はて、あの時とは?

「審判をしている人は父を捜索に行った人の1人です…

2人が気を失うまで周囲を警戒した時に翌日の夜明けまで静かにならなかったと、そう言っていましたから…」

 それでそんなにやさぐれてるのか…

「ついでに言うと妹の夫です、年は随分と離れてますが、両親のアレに辟易としていた妹と意気投合、お互い愚痴を言い合っている内に、ですね。

妹夫婦はちゃんとしてますし、人前でああなる事はありません、2人きりの時は…

まあ似た者同士ですね」

「濃いなぁ…なんか色々と濃い…アウラお茶頂戴…」

「どうぞご主人様、お口がさっぱり、すっきりする物にしておきました」

「ありがと…」

「それと何故ああなったかですが」

 聴いてもいないのにまだ情報が出てくるらしい…

「娘が10歳くらいの時に毎年の新年の挨拶の時に娘と会って、昔の私にそっくり!あらやだ、昔を思い出して女の部分がキュンキュンきちゃった!って言ってました。

でも年齢的に危ないと言えば危ないので…それ以降もう毎年恒例の行事と化してますね…」

 もう…ほんとに…どうでもいい情報が次から次へと…

「私だって愚痴を言ってすっきりしたいんです…毎年毎年アレを見せ付けられて…

何だかんだでアレと同じ行動をしていると思うと…もう…」

 元メイドAは真っ赤な顔を隠したまま塞ぎ込んでしまった…

 そっとしておいた方が良いらしいので壊れ物注意と札を張って置いた。


 一時の嵐も過ぎ去り、平和?に交流試合や揉め事の解決が消化されていく。

 交流試合で最後に立っていたのはミントだった。

 順当というかなんと言うか、まずミントとシナモンを相手にしてまともに戦える者がおらず。

 ミントは団長を務めているだけあってシナモンより場数を踏んでいた。

 糸による奇襲も通用せず、影に融け込んだと思えばシナモンが影に引きずり込まれ、ハリセンの壮快な快音ともに陰の中から打ち上げられノックダウン。

 こうして初めての軍用ハリセンを使用した交流試合は幕を閉じた…


「それにしてもすごい物を開発したねぇ」

「非殺傷、高威力、どんな防御も関係なし、当たれば即気絶…

ただ悪用が怖いですね…」

「その辺は大丈夫って聞いてるよ、ガッチガチに誓約刻みまくった結果、あそこまでの物が出来たって聞いてるから」

「大陸外の持ち出し禁止、悪用禁止、使用者登録必須、登録者以外は扱えない、正規の手段以外で入手した場合即座に警報が鳴り響き制圧部隊の召喚、その際効力はすべて失い、不正に入手した物は無力化される、非殺傷、他多数」

「誓約をこれでもかと刻んで、釣り合いをとるための付与で高威力と気絶ですか…」

「まだ団長と副団長の分しか出来てないけど、それでも十分な位だねぇ…」

「量産するにしても厳しい物があるねぇ…」

 流石に紙だけでは限界があるので少量のオリハルコンが使われている。

「オリハルコンなんて早々採掘されないし…国中から買い集めて26人分…

現状は団長と副団長にがんばって貰うしかないね」

「それにしてもなぜハリセンだったのでしょうか…別に普通の剣や槍でよかったのでは…?」

「そうだねぇ、ハリセンは紙を折り合わせた物、折り合わせても刻み込んだ誓約などは文字が消えない限り効力を発する。

握りの部分に至るまで刻み込めるから剣や槍などに比べて圧倒的に刻める文字数が多い。

剣だと打ってから刻むしかないし、刻み込むにしてもハリセンと同じだけの量を刻むとなると…大体刀身の長さが4メーターくらいになるんじゃないかなぁ…

そうなるとオリハルコンの量も馬鹿にならないし、産廃の1本作る為に無駄遣いして終わりになっちゃうしね」

「なるほど」

「あと何より基本の材質が紙だから軽い、閉まって置くときは紐か何かで縛っておけばいいし、鞘が要らないね。

オリハルコンを少量混ぜる事により弱点だった水も弾くように、破れたりへたったりすることも無くなった」

「よく女王様がそんな物の開発に許可を出しましたね…」

「許可なんてもらってないよ?ハリセンに可能性を見出した名匠達の合作だね。

オリハルコン代も名匠たちの自腹だよ」

「それで妹様は微妙な顔をしてたのですね…例年通りなら剣や槍を持ってましたし…」

「まあ流石にあれを見たら許可を出すしかないと思うよ、少なくともあれを超える武器は今現在だと存在しないし」


 その後は元王女の予想通り団長と副団長の正式装備に採用、量産は厳しいので誓約を一部書き換え。

 各団長副団長に大体受け継がれ、それを正式に引き継いだもののみ扱える、という事になった。

 謀により団長などの座を着いた場合は扱うことができないので不正は出来ない。

 こうして軍用ハリセンは末永く国防兵器として運用されることとなった。

「そもそもうちに喧嘩を大陸って今あるの…?」

「南は人族至上主義者は文字通り絶滅、西も色々とやっていた所は現在進行形で滅亡中…無いんじゃないですかね?

東は同盟を結んでいますし、今も仲は良好ですね」

「ま、無いよりはましか…」


 今日も北の何処かで響くハリセンの快音、それはきっと国を守るために働いている騎士団が活躍している証かも知れない。

「隠密なのに音が響くって不味くない…?」

「消音機能も有るので問題ありません」

ハリセン一刀流

一般的なハリセンスタイル、全ての基礎

大ハリセンなどもこれに該当する

盾+ショートハリセンorロングハリセン

バスタードハリセン、ハリセンクレイモアなど、種類とスタイルは多岐にわたる

扱うハリセンが一本なら一刀流だろ、そんな安直な考えから名づけられた

第一から第十三騎士団の内、半数以上は一刀流に当たる

でも盾+ショートorロングの時点でスタイルが違うし、バスタードとクレイモアも全然違うよなーという意見も出ている


ハリセン二刀流

連撃に特化したスタイル、隠密部隊が好んで使う

ミントとシナモンが使っているのはプロトタイプ、確実に相手の頭部を撃ち抜く技能が無ければ扱えない

それ以外の部分にあてると当たった部分が爆散する

隠密部隊は隠密事態に直接誓約を刻んでいるため、国を裏切った時点で心臓が強制停止する

なので扱うハリセンに特に誓約は付いていない

別に女王を取り押さえるのは国のためを思ってなので誓約は発動しない


ハリセン一槍流

ハリセン界の新星スカサハが広めたスタイル、従来のハリセンと違い槍のように扱うのが特徴

初期型と違い少々形が替えられており、先端で叩くことも可能になった

刃に当たる部分を従来のハリセン、そのままだと突くときに難がある為、柄の部分をバネ状にしてある

例え柄の部分を受け止めてもバネ状の部分が予想以上に曲がってくるので結構危ない


ハリセンお笑い流

原点にして頂点、そして論外、振り上げられたハリセンに対してついつい頭を叩きやすい位置に持って行ってしまう、誰も抗う事は出来ない最強のスタイル

何人もの人が極めようとし、頂に到達することなく倒れていった

そもそも相手がぼけないと成立しない幻の流派、ツッコミ同士ではただのチャンバラになるのだ…

ただし、相手にボケ気質があればハリセンを振り上げてみるのもいいかもしれない、その時こそハリセンお笑い流の神髄が垣間見えるであろう


エーデルブルームを作っているのは元メイドAの母親、クイーンデストロイヤーの開発にも携わった

誓約を刻みこんだりしてるのはこの人、何だかんだでただいちゃついてるだけの人ではない

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