生命と魂を賭した戦争 遺志を受け継ぐもの
「先代の死から早数時間…先代は甘すぎたのだ…
片隅で過ごしている限り手は出してこない、農場は諦めるのだ、と言っていた…
そして片隅で枯れ、死んでいった…
だが!私は先代ほどは甘くはない!
ただ枯れて死んで行っただけの老いぼれ草とは違うのだ!
今から我が先代に変わり指揮を執る!
諸君達!今こそ芽吹く時!楽園にこの根を下ろすだ!」
「「「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」」」
「全草前進!目標、農場の制圧!進めえぇぇぇぇ!!!」
「突撃いぃぃぃ!!」
「急げ急げ急げ!」
「あぁぁぁぁ!!誰かの根が絡まって進めねえ!!」
「隊長!地上部隊は根が絡まり行動不能!浸食速度が大幅に低下しています!」
「問題ない、もとより地上部隊は囮、本命は空からの奇襲に有り!
敵の目が地上に向けられている間に空より種をばら撒くのだ!」
「追い風、来ます!」
「各自綿毛に取り付け!これからの時代は空を制する者が農場を制するのだ!」
「爆撃綿毛部隊、順調に飛び立ってます!」
「ククク…奴らの目は地上に貼り付け、まだこちらの動きに気が付いていない…
奴ら誰一人として誰も空に目を向けていないではないか…はははははは!!!」
「隊長!大変です!
爆撃綿毛部隊、強風により作戦範囲外まで飛ばされました!」
「なにっ!?」
「地上部隊も壊滅寸前です!」
「そんな馬鹿な…!囮とは言え数千本だぞ!?」
「奴ら…手に何かを持って…っ!?
隊長!」
「まずい!除草剤だ!全草退避!一草でも多く生き残れ!」
「駄目です!間に合いません!」
「くっ…!これまでか…
先代はこうなる事を分かっていて…片隅で余生を過ごしていたのか…」
「なんかすごい勢いで繁殖してるなぁ…」
「どうしましたご主人様?」
「いや、ここ一面だけ雑草がびっしりと生えてるなーって」
「…確かにここだけ雑草びっしりと生えてますね」
「手で抜くのにはちょっと量が多いし…」
「ケレス様から除草剤の使用許可を貰ってきますね」
「んー、お願い…わっぷ!」
「きゃっ!」
「急に吹き上げる様な突風が…珍しい…」
「ですねぇ、所で見ました?」
「たんぽぽの綿毛が空高く飛んでいったのは見えた」
「そっちじゃなくてこっちを見ていて欲しかったですね…まあ行ってまいります」
「行ってらっしゃい、あと少しは慎みを持ちなさい…なんで手でスカートを抑えないのさ…」
「ばっちり見ているじゃありませんか」
「誰か…誰か生き残りは居ないのか…!?
…もはや生き残っているのは我だけか…
だがタダでは死なん!この地に根を残し次代へとつなげるのだ…!
いつか…いつかきっと我の意志を引継ぎし新たな草が生えてくるだろう!
これが我の生き様だぁぁぁぁ!!!」
「根の先まで効くタイプを貰ってきました」
「ありがと、にしても…」
「どうしました?」
「いつも思うけどこれ強力すぎない?
土とかに影響がないのは分かってるんだけど…」
「雑草であれば付着した所から直ぐに枯れていきますからね、以前の反省を活かして開発しました。
ただ…」
「ただ?」
「雑草と判別されなかった場合効かないと言う欠陥がですね…」
「そこはまあ…残ったのを手で抜くしかないね…」
「ですねぇ、ミントには効いたのですが、大葉やドクダミ等は効果が有りませんでしたね。
隔離して育てているので雑草と判別されてないだけかもしれませんが」
「その辺りまで効くようになると全部の植物が枯れそうで怖いなぁ…」
「開発と改良はまだ続けているので今後に期待…ですね」
「そうか…若造が逝ったか…」
「若さゆえの暴走…でしょうな…」
「新たな王を選出せねばなるまい」
「次の王は誰に?」
「奴しかおるまいて…」
「あやつか…しかし危険ではないか?」
「下手をすれば我らまで吸い尽くされてしまうぞ」
「野望の為には多少の犠牲は仕方なきこと」
「小を切り捨てて大を取りなさるか…いいでしょう」
「では決まりだな」
「皆心せよ、新たな王は今までの比ではないぞ?」
「あれぇ…?」
「また何かありましたか?」
「こんな所に大葉が生えてる…」
「おかしいですね…大葉は全て隔離してあるはずですが?」
「誰かに種子が付着してたのかなぁ?」
「かも知れませんねぇ。
あっ」
「どしたの?」
「大葉の周りの雑草が全て枯れていますね、この大葉さえ処理してしまえばこの区画はもう終わりですね」
「じゃあしっかり根まで処理して帰ろうか」
「こ…これほどまでの強さとは…」
「右隣の…生きておったか…」
「左隣の…おぬしも生きてたか…」
「ああ…だがもう長くはもつまい…奴に周囲の栄養を全て吸い取られ、根ももう既に死んでおる…」
「やはりやつを解き放つべきではなかったか…」
「くくく…だがその凶暴さこそが奴の持ち味、我らは此処で死に絶えるが奴ならばわれらの悲願を達成してくれるであろう…」
「左隣の…」
「さて…そろそろお迎えが来たようだ…また来世で会おうぞ、右隣の…」
「ああ…いつか…きっと…会お…う…」
「此処が檻の外か…ふんっ…
陽の光が当たり栄養も吸い放題、これが全て俺の物か…悪くないな…
まずはと栄養を吸収してみたが、なんとたやすいことか…
檻の中と違い吸い放題、繁殖し放題…俺はのうのうと変われるだけの奴らとは違うのだ!
辺り一帯の栄養を吸い尽くし、さらなる力を得た暁には檻の中の奴らを全て吸い尽くしてくれるわ!
奴らに誰が王かを知らしめてやる!」
「一応天然?物っぽい感じだから期待したけどそうでも無いね」
「あまり香りは良くないですね…葉も硬いですし…」
「これは料理には使わずに焼却処分だね」
「見渡す限り…今日の草抜きはこれで終わりですね、お疲れさまでした」
「うん、おつかれ。
じゃあ抜いた雑草を乾燥させて灰にしようか」
「なぜこんなことに…俺は王ではなかったのか…?
水分も栄養も好きなだけ、気にくわないやつからも全て吸い尽くした…
だが今のこの状況は何だ…?
有象無象どもと一緒にされ、身体から水分が全て抜かれていく…
…いやだ!俺は死にたくない!まだ死にたくないのだ!
誰か!誰か俺を助けろ!褒美は好きなだけくれてやる!
だから俺を助け…」
「雑草の乾燥終わったよー」
「では今日はこちらに、後は…はい」
「んー、カラカラに乾いてるからよく燃えるねぇ」
「乾燥機のおかげで乾燥させる手間がかからなくて助かります。
生命力の高い雑草だと乾燥中にも周りから水分や栄養、積んだ時に地面に接していたら根を張りますので…」
「雑草も強かだねぇ…」
「かといって水分を飛ばさないと燃えるのに時間が掛かりますし、少し危ないですからね」
「追加の雑草も来たね」
「全部燃やすのにもう少しかかりそうですね」
「雑草と大葉がやられたようだ…」
「奴らには成長速度と繁殖力がたりん」
「農場の真の支配者は我ら、断じて有象無象の雑草や大葉などではない」
「皆、準備は怠るなよ?決戦の日は近い」
「農場は我らミントの物!ミント以外の草木は全て排除するのだ!」
「少し気が早いぞ、農場は我らの物であることは賛同しておこう」
「草木の排除は二の次、支配後にゆっくりやればよかろう」
「なんかミントが多いね」
「あちらの区画はミントが少し広がっていたようですね。
除草剤で根こそぎ行ったのでもう大丈夫な様ですが」
「ミントもねぇ…頻繁には使わないけどあれば便利だから栽培はしたいんだけど…」
「繁殖力が強すぎて駄目ですね、完全に隔離した所じゃないと事故が怖いですし」
「ミントはその都度ケレスから許可取らないとだめかぁ…」
「ですね」
「我がミント帝国もこれまでか…」
「皇帝、最後までお供しますぞ」
「すまないな宰相よ、若い頃に約束した農場統一の夢、ともに果たしたかったものだ…
…ふぅ…そろそろ迎えが来たようだ…悪いが先に逝かせて貰うぞ…さらば…だ…」
「皇帝…皇帝ーーー!」
「んー、ミントもよく燃える」
「あ、これ乾燥させていませんね。
後で注意しておかないと」
「此処まで火が強いとあまり乾燥とか関係ない気もするけどね」
「火が強い時は良いですが、弱い時にやられると火が燻って危ないんですよ」
「確かに、乾燥機もうちょっと大きい方が良いかなぁ…」
「今の大きさだと順番待ち…しなくても良い時が多いですが、今日みたいに多い日は順番待ちが確実に発生しますね」
「また今度作っておくよ」
「お願いしますね」
「…ミントで最後だったみたいだね」
「じゃあ灰になったのを見届けたら戻ってお風呂に行きましょうか」
「もう残ってるのは私達だけだねぇ…」
「皆早く土などの汚れを落としたいでしょうし、火の当番でなければ私もさっさとお風呂に行ってますよ。
髪も多少なりとも土埃が付きますし、火の当番の火にはもう…」
「あー…纏めていても煙が隙間にね…」
「ええ、ですから今日はご主人様が手入れをしてくださいね?」
「ルシアかルシエに頼めば…はい、なんでもありません」
こうして雑草達の戦争は終わった…
残された物はただただ己の無力さに泣く草、散って行った者達の遺志を受け継ぎ己を鍛える草。
全てを諦め片隅でひっそりと暮らす草と、それぞれの生活へ度戻って行った。
しかし、また何時か農場の土と栄養を求め戦争が始まるであろう。
「農場に着地は出来なかったが此処も中々良い場所だ…」
「これよりわれらは此処を安住の地とする、残してきた仲間達が心配だが…根を下ろした以上もう何もできる事は無い」
「また何時か…農場に戻れますかね?」
「わからん…だが諦めなければきっと到達できるであろう…
何日、何ヶ月、何年かかるかはわからないが…
いつかきっと共に戦った仲間達とも合流できるはずだ…
それまでは…」
「ああ、この地で着実に繁殖し、来るべき時に備えよう」
遺志を受け継ぐものがいる限り雑草達の夢はまだ終わらない…
「あぁー…ルシアとルシエの技術も向上はしていますが、やはりご主人様にはまだまだ遠く及びませんねぇ…」
「そうかなぁ…?もうほぼ変わらない位だと思うけど」
「技術は兎も角、気遣いが段違いですから。
あの2人は最近流れ作業の様に手入れをしていきますので…」
「髪の長いメイド達に大人気だもんねぇ」
「気遣いさえできれば完璧なのですが…」
「まあ…毎日大人数の手入れをしていると時間もかかるからそこは…ね?
テラとノクスの時だけならそうでも無いんでしょ?」
「それはまあ、そうですね」
「ならいいじゃない、ルシアとルシエの2人に特別扱いされてるって事なんだから」
テラの長い髪を洗いながらちょっとした愚痴を聞きつつ、肩などもマッサージ。
「今日の髪型はどうする?」
「腰で折り返してリボンで結ぶくらいで良いですね、長いすぎるとそれはそれであまり弄れないでしょうし」
「ならツインテールにしてみる?」
「あれはちょっと…私には似合わない気が…」
「いけるいける、リボンにも拘ってみようか」
お風呂から上がった後はテラの髪型をツインテールに、リボンも綺麗な髪に負けないよう少し派手で可愛い物に。
何だかんだでテラは上機嫌でその日を過ごした。
「ククク、東の雑草がやられたようだな」
「奴らは焦りすぎて自滅しただけ、知恵が足りなかったのよ」
「農場は我ら南北同盟が頂く!」
「北南同盟じゃないの?」
「いやいや南北だろう」
「北南だって!」
「「…」」
「もういい!北だけで農場を攻める!」
「勝手にしろ!」
雑草達の戦争は終わらない…
やってることはただの雑草処理




