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お菓子の家(合法) 良いから寝ろ

 こつこつと、こつこつと毎日準備を進め作ってきた材料を大広間に並べていく。

 大広間は暫く立ち入り禁止にしてあるので、特に何も無ければ誰も入ってこないので安心して作業ができる。

 まずは家を建てる範囲内を木枠で囲い、ブラックとホワイトを混ぜ灰色にしたチョコを流し込む。

 水平に均し、冷やし固め、その上に飴で出来た筋を張り、またチョコを流し込み固める。

 基礎が出来たら枠を外し、これでもかと硬くした堅パンで作った土台を据え付け、柱を立て、梁、胴差し、桁を渡して骨組みを作る。

 頑丈に作ってはあるが一応軽く叩いて折れないか確認、お菓子とは思えない位硬そうな音がする…

 骨組みが出来たら棟木やら何やら追加していって屋根の部分を作る。

 そこまで出来てしまえばもう後は骨組みに合わせてクッキーで作った壁、飴で作った窓などのガラス、飴を織ってできたカーテンに絨毯、綿飴を詰めた枕に布団。

 他にも椅子や机にベッド、暖炉なども再現していく。

 座ったり寝転がったりもできなくはないが…砂糖塗れになる…

 小物のカップやお皿などは飴細工、暖炉の薪はブッシュドノエル、飴細工で出来た蛇口からは紅茶かコーヒーを選んで出せる。

 ただ飲み物などは全てアイス限定、ホットにすると溶けてしまう…

 同様に固めたチョコが融けると台無しになるので製作している大広間もこれでもかと冷やしている。

 内装が出来たら家から出て行く前に戸の設置、扉にすると壊れる可能性があるので引き戸に。

 外を周り壁や窓の確認、チョコで溶接しているが繋ぎが甘い所は再度チョコを溶かして隙間を埋める。

 仕上げにクッキーで出来た壁にチョコを塗り木目を再現、階段にも木目を着け、基礎部分に砕いたクッキーを混ぜたモルタル風の灰色のチョコを塗り、固まれば完成。


「んー…んー…んんー?」

 改めて中に入り小物類や内装の確認中。

 飴細工のカップの中には紅茶、お皿の上にはショートケーキ、暖炉の中と隣の籠の中にはブッシュドノエルと火を表現するための飴細工…

 実際に火を点けるのは断念、度数の高いお酒に火を点ける手もあったが、熱でランプが融けるからなぁ…

 お菓子と飲み物のみで再現したかったので灯りは無理だった。

 一通り見て回り、ちゃんと完成していることを確認。

 出来上がったお菓子の家を収納して大広間の温度設定を戻す。

「さて…」

 出来上がったお菓子の家をどうしようかと悩む。

 何となく作りたくなったから作ったのはいいが…

 その1、メイド達のおやつとして出す。

 これなら1日もかからずに全て食べ尽してくれるだろう、感想などは余り期待できないが、食べただの食べれなかっただので何か問題が出る可能性。

 その2、温泉街に行って土地をちょっとの間借りて展示する。

 問題は実際に人が入れるくらいには大きい、何より屋外だと日差しで溶ける所も出てくるし、余り日持ちしない物も混じってる、何より湿度と気温に問題あり。

 その3、北にいる知り合いの大家族の所にこっそり置いてくる。

 母娘だけで20人、さらにその父母と使用人を含めれば100は軽く超える、気温と借りれる土地も問題はない。

 その4、無かった事にする。

 一番無難かつ争いも起らない、変換ボックスに入れてしまえばまた使った材料に戻して再利用可能。

「どのプランで行くか…」

 大雑把に4つ考えて実際に実行できそうなのは温泉街を除く3つ、北はちょっと前にお邪魔したし…作った以上無かった事にするのは勿体無い…

 メイド達なら骨組みにしている堅パンも普通のクッキーを食べるのと変わらない感覚で食べれる…

 考えること暫し。

「よし、北にこっそり置いて来よう」

 決行は翌日早朝、まだ誰も起きていない様な時間帯。

 開封次第お早めにお食べ下さいと書いたカードを付けておけば良いだろう。


 決行する前にするべき事をしておく。

 まずはお菓子の家を地面に置くための断熱性のあるプレート、これはウルカンに頼めばすぐ出来るので注文。

 開封するまでの間内部を冷却するための道具と家を覆う化粧箱はこちらで作成。

 作っている間にプレートが届いたのでお菓子の家を乗せる。

「断熱プレートが欲しいって言うから作ったけど、なんてもの作ってるの…」

「1分の1スケールのお菓子の家」

「パッと見はお菓子に見えないね、どう見ても木材建築だし」

「質感にも拘りました」

 家を一旦収納して箱の中に納め、内部を冷却するための道具を設置してラッピングして完了。

「それどうするの?」

「ちょっとしたドッキリ…?」

「普通の一軒家ならいいけどお菓子ってのが最高に酷いね」

「酷いとは失礼な、食べれない所なんて一つもないんだよ」

 ナイフやフォーク、本棚に入ってる本に至るまで全て食べれる。

「食べきるのに何日かかるんでしょうねぇこれ…」

「そこは頑張って貰おう、大家族だからそれほどかからないはず」

 …きっと…


 翌日、狐さんを起こしちょっと出かけてくると伝え、ルシフを叩き起こして計画実行。

 元王女の住む広い庭に目立つようにラッピングされたお菓子の家入りの箱を設置。

 箱に開封後お早めにお食べ下さいと書いたカードを張り付け、中に入れている冷房器具の取扱説明書も付けて置く。

 後はルシフと一緒に屋根に潜みメイド達が起きてくるのを待つ。

 ただまだ時間が少々あるので元王女を警護している隠密と一緒にお茶と朝食。

 ちょっとしたドッキリで大きめのプレゼントを持ってきたとだけ伝えて中身までは伝えていない、後で君も一緒に食べるといい、というか嫌でも食べさせられるだろう。

 今は少しピリッと辛くてしょっぱい朝食を楽しむといい…

 ルシフは辛いのが苦手なのにヒィヒィ言いながら食べてた、無理に食べなくても他にもあるのに。

「そろそろ起きてくるかなー?」

 日が昇り始める少し前、メイド達の一部が早朝の市場へ買い出しに行くためか庭に出てくる。

 メイドは直ぐに庭にある箱に気が付き、屋敷の中に引き替えしメイド達の招集を始めたようだ。


 暫くすると裏口からメイド達や元王女が兵に囲まれた状態で出てくる。

 そのまま屋敷から離れて行き、ある程度離れた所で隠密の一部が箱を調べ始める。

 一緒に食事を取っている隠密は屋根から離れ、さりげなく調査に混ざっている。

 調査している1人が直ぐにカードを見つけ、調査の為に解析班に届けに行く。

 残った調査隊は慎重にラッピングを解いていき、刺激をできるだけ与えないように慎重に箱を少し開け中を覗く。

 すると空けた隙間から甘い匂いが漂いはじめ直ぐに離脱、元王女宛てのカードにはして置いたが…

 怪しまれてるなぁ…

 いっそ燃やしてしまうかと話し合っているが、箱はちゃんと雨風だけじゃなく火にも強い、中身は火に弱いけど。

 膠着状態になり日が完全に登った頃、屋敷の周りを兵が囲み、周辺を封鎖。

 一緒に朝食を取っていた隠密は少し顔色が悪いが、大事になりすぎたために何も話せなくなっている。

 まあ、黙っている限りばれる事は無いだろう、共犯者だという事は…

 解析班はカードの解析中、お早めにお食べ下さいと冷却するための道具の取扱説明を書いてるくらいなのだが、何をそんなに悩んでいるのか…

 現在燃やしてしまうかなんとか解体を試みるかで別れている。

 んーむ、半々で別れてるからまだ暫くは動きそうにないな、お城の方に行ってみよう。


「それで、お姉様の屋敷に届けられた謎の巨大な箱は?」

「現在解析班が箱に張られていたカードの解析中ですが、何の暗号が仕込まれているのかまだわからないとの事です」

「こんな大事にするようなことじゃないと思うんだけどなぁ…」

「お姉様は黙っていてください、一夜にしてあんな巨大な物を設置していくなんてきっとまともな物ではございません。

きっと悪意のある者が何らかの方法を使い危険な物を置いていったに違いありません」

「えぇー…屋敷に常駐してる隠密たちの目を盗んで設置なんて普通無理じゃない?」

「でしたら隠密たちの中に裏切り者がいるかもしれませんね…昨日から監視していた者達を呼び出し尋問しなければ…」

 共犯者がいるのは正解、裏切り者も居ない。

「ご主人様、これ放っておいていいの?

結構大事になってるけど…」

「面白いからいいんじゃない?

疲れた後はきっと甘いものが沁みると思う」

「当分甘いものが見たくなくなると思うけどね…」

 面白いからもっと見ていようと言っている間にも話は進む。

「ねぇ、解析班が解析中のカード?此処に持ってくることはできないの?

なんて書かれてるのか読んでみたいんだけど」

「書かれているのは説明と他愛のない事ですが、何かの暗号や符号が仕込まれているかの解析中で詳しい事は分からないそうです。

箱を少し開けた所甘い匂いが漂ってきて、甘い匂いを嗅いだものが少し良い気分になったとの事なので、何らかの薬剤が充満している可能性もあるそうです」

 女の子って…大体甘い匂い好きだよね、チョコとかバニラとか。

「年の為に屋敷事焼き払ってしまうか、何とか無毒化して解体するかで現場で意見が別れているようですね」

「屋敷焼き払ったら流石に怒るよ?

具体的には城を更地にするくらい」

「現場の判断なので私に言われましても…」

「それに薬剤による匂いが充満してるなら抗毒剤使ってでも無理に解体すればいいんじゃないの?」

「抗毒剤を使い箱を開け匂いを直接嗅いだ者は腰から砕け落ち、蕩けた表情で行動不能に陥ったとの事なので効果は無いようですね」

「新種の薬物か何か?」

「それも含め調査中ですが…進展は無いようですね」

 照明が付いてないが故に箱の中は真っ暗、中は確認できない。

 箱の大きさが大きさだから開けると匂いが一気に広がる、という事もあり一息で開封できないでいるようだ。

 一息で開けてしまえば安全と分かるが…

「ねー、もう家に帰っていい?

朝食もまだ食べてないんだけど…」

「私も食べていないので我慢してください」

「予想だと危険な物じゃないと思うんだけどなぁ…」

「匂いを嗅いだものが行動不能に陥ったと言ったばかりじゃありませんか…」

「直接現場に行ってみないと分からない物は分からないよ」

 こちらもほぼ膠着状態、朝食を取りたい、そして家に帰りたい元王女。

 万が一があってはいけないので朝食も取らず逐一送られてくる情報を確認している現女王。

 しっかり頭を使った後は糖分が欲しくなるもの、中身を知ったらきっと沢山食べるだろう。

 姉妹の会話を聞いていると現場で少し動きが有ったようだ。

「失礼します、匂いを嗅ぎ倒れた者が起き上がった後、あの箱を開けさせてくれと言い、少し暴れましたので拘束しておきました。

如何致しましょうか?」

「暴れた者は今どこに?」

「こちらに護送中です、また取り押さえた時に検査もしましたが…

薬物や毒物の反応はありませんでした」

「どちらにも引っかからず凶暴化させるとは…厄介ですね…」

 倒れた人は甘い物に飢えてたのかなぁ…

「暴れた者が到着したようです、直接話を聞かれますか?」

「ええ、念の為に周囲を警戒するように」

 暴れたらしい人が入ってきて軽い尋問が始まる。

「あなたは匂いを嗅ぎその場に倒れたようですがそれは何故ですか?」

「あの匂いを嗅いだ時に…とてもいい気分になり、立っていられないほどの幸福感に包まれました…」

「では次に、起き上がった後暴れたそうですがそれは何故?」

「はい、もう一度あの匂いを嗅いでみたいと、あわよくば箱の中に入ってしまおうと思いました」

「最後に、どんな匂いでしたか?」

「例えるのであれば、極上のお菓子を部屋一杯に並べたような匂い…ですね。

ただ甘いだけでなく、誘蛾灯の様に誘い込むような…そんな極上の香りです」

「わかりました、もう結構です。

念の為に暫く監視は付けますが、正気に戻るまで部屋で休むように。

少し焦点があっていませんよ?」

 尋問されていた者は連れて行かれ、女王は深くため息をついた。

「どうした物でしょうかね…匂いを嗅いだら幸福感に包まれ、起き上がっても目の焦点があっていない…

やはり新種の薬物か何かでしょうか…」

 そんな危険な物は一切使っていない、バニラとチョコの匂いがするくらいのはず…

「やはり焼き払う方が良いのでしょうか…」

「だから屋敷燃やしたらお城更地にするからね?

うちの嫁さん達も黙ってないだろうし、娘も思いっきり暴れるよ」

「未知の危険を回避するという名目が有りますので。

お城を更地にしたらさすがにお姉様と言えど妻や娘達も皆指名手配ですよ?」

「その時はその時、東にでも亡命して温泉街で暮らすのも有だね。

東の温泉街なら兵を差し向けることは不可能だし、争い事も基本的には禁止。

加えて私は温泉街で何時まででも過ごせる場所の当てがある。

現女王である貴女は更地にされた城などの復興もあるし、外交以外で国を離れる事は出来ない。

指名手配された所で私はほぼ無傷、貴女は復興だ何だと出費が嵩む。

あ、なんでしたら復興が終わらない様に定期的に更地にしましょうか?」

「たかが屋敷一つで何で城を更地にされなくてはならないんですかお姉様…

また建て直せばいいでしょうに」

「ほほう…私達家族がご主人様が時折訪れてくれかつ、思い出の籠った場所を焼き払ってもまた建て直せばいいと?」

「何か間違っていますか?

個人で所有する屋敷一つの犠牲で周辺への被害が防げるのなら安い物でしょう?」

「そうだねぇ、実に合理的かつ統治者としては正しい思考だね。

対象が私の屋敷で無ければ、だけど」

 んー、なんだろう…すごく楽しくなってきた、今すぐ出て行ってドッキリカードを出したい。

 そんな気分にしてくれる…

「今日のご主人様すっごい悪い顔してるね、何かあったの?」

「特に何も…?

強いて言えばナディの無茶振りに答えたくらい」

 結果としてここ3日ほど寝ていない。

 それにすごく気分が良い。

「それかぁ…それが原因かぁ…」

 燃やすだの更地にするだのと話し合っている様子を見守る。

「わかりました、今からお姉様の手配書を作ってきますので更地にするならご自由に」

「ああ、上等だね。

手配した所で今このお城に私達家族を1人でも止めれる兵たちがいるとは思えないけど?」

 妹である現女王は燃やすことを決断、元王女もやるならやってみろ、火を点けた瞬間更地にしてやるとやる気満々。

 周りに控えている者達は大変なことになったと慌てふためいている。

 元国王夫妻は現在国にはおらず、また温泉に浸かりに行っているらしい、最近出立したらしいので帰ってくるのは当分後だろう。

 つまり、元王女とその妻や娘達を超える戦力を持つ人は今この国には居ない。

 屋敷に火を放った途端城はたちまち更地になり、元王女達は兵を蹴散らしつつ堂々と門から出て行き船に乗って温泉街で暮らし始めるだろう。

「誰か女王を止めろー!屋敷に火を付けさせるなー!」

 戦力差の把握が出来ている者が部屋を出て行こうとする女王を取り押さえるように命令を出す。

 慌てふためいていた兵たちは正気に戻り女王に殺到、即座に拘束し、女王はお縄に着いた。


「なぜ私を捕えるのです!捕えるべきはお姉様でしょう!?」

「これが人望の差ってやつかな…?」

「いえ、燃やした後の被害額を考えると燃やさないで被害を広げる方が安く済みますので」

「あ…そう…」

 女王は捕えられ、これが人望の差だと決めたが見当違いだったので少し落ち込む元王女。

「まあ人望は間違いなく女王よりはありますが」

「あ、ならいいや」

 少し持ち直した。

「お姉様より国に尽しているのになぜ!」

「国に尽しているとは言っても、先代様の様に民の前にほぼ出る事は無く。

民を慰労して各地を周っているのは姉君様ですし、外交で国にいない間も…」

「むむむ…でも私の方が上手く回せています」

「確かに女王様の方が上手く回せてはいますね、統治も上手くいっていますし」

「でしたら…」

「統治が上手くいっているのと、国民からの人気や周りからの人望は別、という事ですね」

「ぐぅ…」

「貴女ももう少し民達の慰労に行ったり、周りの人達と付き合うべきですね。

お父様なんて時折ご自分の足で国中を走って各村や町を回っていましたよ」

「私はお父様やお姉様ほど体力も足の速さもないんです!」

「それは鍛えていないのが悪いとしか」

「鍛えることに夢中になりすぎて婚期を逃しかけたお姉様に言われたくはありませんね」

「ほう…」

「屋敷も財産も棚ぼたで手に入った物ですし、ご自分の力で稼いだわけではありませんよね?」

「ほほう…」

「お姉様はただただ運が良かっただけにすぎません、今いる妻や娘達も運で手に入れた屋敷や財産が無ければ居なかったのではないですか?

それにお姉様たちがご主人様と崇める人、本当に信用できるのですか?

確かに以前温泉街に招待はされましたが、あんなに大勢の女性を囲って、ましてや幼い子にまで手を出しているようですし、私は今一信用が出来ません」

「なるほどなるほど…」

 うーん、現女王である妹ちゃんには信用されていない様子、良いお酒出してあげたのになぁ…

 それに少なくとも一番若いエキナセアでもとっくに20は過ぎてる…身長と体型が一切変わらなくなってるだけで…

「貴女の考えはよーくわかりました…」

「総員退避ー!」

 紐で縛られた女王をその場に残し兵達はその場から退避、直後、部屋が吹き飛んだ。

「きゃああぁぁぁーーー……」

 現女王が放物線を描きながら飛んでいった。

 中々綺麗な放物線、芸術的だなぁ…

「誰か説得できる人を連れてこい!後飛んでいった女王の救助!」

 退避して無事だった者達が動き出し、1人は飛んでいった女王の後を、残りは説得できそうな者を探しに行った。

「これ本当に放っておいて大丈夫なの?」

「大丈夫じゃない?」

 根拠はないが、観ていて楽しいし。

 元王女はゆっくりと歩き、吹き飛んだ元会議室から出て行った。

 退室した後は妻や娘達と合流しあらましを説明、一部は落ち付くように言い、また一部の者は元王女と同じ様に笑顔のまま怒っている。

 合流し説明した後は歩いて屋敷まで戻り、途中道を塞いでいた兵士たちを全て蹴散らし、屋敷周辺を封鎖している兵士たちも全て排除。

 堂々と門を通り敷地内へ入って行った…


「解析班、強制退場させられるのと自分の足で帰るのどっちがいい?」

 いまだに存在しない暗号や符号を読み解こうとしている解析班に笑顔で話しかけ、答えを待つ前に強制退場。

 その時に裏口から家を出て行ったために見ていなかった庭にある物を視認。

 カードに書かれているメッセージを読み、元王女は城へ全力で走って行った。

 暫くすると城の一部が倒壊、誰かの悲鳴も聞こえたような気がするが多分気のせいだろう。

 更地にはならなかったようだが被害はそこそこ…大きいかな?

 元王女は今も倒壊しているお城から戻ってくるなり一言。

「少し遅いけど朝食を食べようか」

 そう言って庭にある箱を開けた。


「あぁー…動いた後の上にすきっ腹だったし、甘いものが沁みるねぇ…」

「お母様、蛇口からコーヒーか紅茶が出る用ですがどれに致しますか?」

「私は紅茶で」

「コーヒーで」

 靴を脱ぎ、お菓子の家の中に入った後、お菓子で出来た椅子に座り、お菓子で出来た机を囲み、お菓子で出来た食器で紅茶やコーヒーを飲みながらケーキを食べている。

「これ凄いですねぇ、カーテンも食べれますよ」

「お布団も枕も食べれます、口の中に入れるとふわっと溶けていく感じがたまりません…」

「本も読めるのに食べれるって凄いですねぇ…」

「梁や柱も硬くてしっかりしてるけどこれも食べ物だね、匂いが無かったら普通の一軒家にしか見えないよ」

「ううう…美味しいですぅ…」

 拘束されていた隠密さんも、何とか燃やさない様に押しとどめていた隠密さんの仲間達も家をどんどん食べていく。

 うんうん、美味しそうに食べてくれるのを見ていると中々にいい気分。

 解放されたらしいメイド達も混ざり、家を食べるペースが上昇、騒がせたお詫びにと近所の人達も混ざりちょっとしたパーティーに。

 何だかんだで最終的には数百人ほど集まり、お菓子の家は1日も持たず美味しく頂かれた。

 堅パンで出来た骨組みは苦戦していたようだが…

 倒壊しそうで倒壊しない絶妙なバランスを保った城を背景にお菓子の家パーティーは終了した。


 近所の人たちが解散し、各々の家に帰っていった頃プラカードを持って突撃。

「おはよう諸君、今日もいい天気だね!」

 断熱プレートを回収しつつ持っていたプラカードをを着き立てる。

【お菓子の家跡地】

「ご主人様こっちは大変だった…って大丈夫…?」

「今日も元気いっぱいだね」

「どう見ても元気には見えないんだけど…目の下のくま凄いし焦点があってないよ?」

「ははは、何をそんなバカな」

「ごめんね、ご主人様3日ほど寝てないらしくてさ…ちょっとおかしくなってるの…」

「なるほど…」

「私のどこがおかしいって言うのだねルシフ君?」

「何もかもだよご主人様、取りあえずもう寝なさい」

「まだお昼前じゃないぐふっ!」

「ちょっとベッド借りるね…」

「部屋まで案内します」

 ルシフは力づくで眠らせるとベッドまで運んでいった。


「まあ、今回の事は最初からご主人様がプレゼントって言えば済んでたことなんだよね…」

「カードを見ればプレゼントだってすぐにわかりましたし、ご主人様に落ち度はないかと。

メイドも職務に忠実で退避させただけですし…

あのカードに書かれているメッセージや説明を暗号だとか、何かの符号だとか…」

「あー…あれはみてて面白かったね、書いてる通りの内容なのに何か深読み始めるし。

甘い匂いもただのチョコとかバニラとか、お菓子の匂いだしねー。

倒れた子はどうして倒れたのかは分かんないけど」

「あれはただ匂いに酔ったのと、暴れたのは食欲から…

隠密部隊は薄給ですから…うちで三食食べさせてるくらいです…」

「隠密部隊よく辞めないね…」

「一応うちに来れば毎日三食、それと平和なので監視と言っても定期的に城へ報告を送るくらいで何もしなくていいですからね。

誰でもできる簡単なお仕事、に見えるというわけです。

実際は毎日鍛錬も有りますし、動けばそれだけ飢えますので薄給では満足に…

辞めないのは…隠密部隊全員うちの屋敷で毎日三食食べてますし、食費や家賃が掛からない状態になってますからね。

薄給とは言え基本的に出費が無いので貯まる一方です」

「だから前よりちょっと屋敷が大きくなってるのか」

 以前に比べて屋敷は大きく、土地も広く、昔のままなら1分の1スケールのお菓子の家なんか置くことはできなかっただろう…

「それに今回の事は妹にはいい薬だね、人望の無さを痛感しただろうし、恩人に対して喧嘩を売ったらどうなるか身を持って知っただろうし。

お城の修繕費用も全部妹の私財から支払われるだろうしね。

今までお祝いの品とか受け取っておいてあれは無いわ」

「あー…うん…私だったからよかったけど…狐とかダイヤ、他にご主人様大好きなメイドが居たら命は無かったかなぁ…ははは…

アウラも笑顔で城を水没させるくらいはしてたかも」

「死人が出なければお城はもうどうとでもしてくれればいいさ。

壊すついでに妹の隠してたお酒とか全部破壊して置いたし、めぼしい物はもう無いかな?

流石にグラスだけは勘弁してあげたけど、あれは売るに売れない品物だしね」

「ま…今回は妹さんの不注意とご主人様の体調が奇跡的に噛み合った事故という事で…

一応困った事が有ったら温泉街の女将さんか宝石店の店長代理までお願い。

ちょっと遠いけど直接ここに来るのを待つよりは早く連絡が付くからね」

「何かあればそうさせて頂きます。

お父様とお母様は倒壊したお城を見ると温泉街にトンボ返りするだろうし、その時に言伝があれば頼むかも、ってくらいかなぁ…

お父様もお母様も今回の一件はノータッチを貫くか、妹を叱るくらいかな?

あれはあれで統治者としては全く問題が無いから…人望は無いけど…」

「人望が無いのは致命的な気もするけどねぇ…」

「そこは私や他の妹がフォローしていますので…」

「ふぅ…さて…そろそろ帰るとするよ、ご主人様を屋敷のベッドに寝かせないと」

「泊まっていかれてはいかがです?」

「んー、ご主人様目が覚めても暫くはあの調子になるよ?

具体的には後10日くらいは何かおかしなことをする可能性があるね。

下手したら面白いからって理由だけでお城を純金で建てるまで有る」

「それは…遠慮願いたいですね…」

「でしょ?なので暫くは寝室に閉じ込めて強制的に睡眠をとらせるのさー。

それじゃねー」

「はい、また今度」

 ルシフはご主人様を抱きかかえ屋敷に帰って行った。


 屋敷に戻った後は狐印のお薬を盛り、そう簡単には目が覚めない様に。

 寝室には常に誰かが常駐、起きそうになったらまた薬を盛る、繰り返す事8日くらい。

 一度起こして様子を見て、おかしな部分が無ければ解放、少しでもあれば取り押さえて薬を盛り再び眠らせる。

 今回は8日目で問題なく回復し、通常通りに戻った。

 ただ記憶はおぼろげになっており、何か作ったような、何か面白い事が有ったような、何か崩れたようなと、した事や見た事をほぼ覚えていない。

 いつも通り朝風呂に入り、朝食を取り、昼食をとる頃にはおぼろげな記憶は全て消去される。

 だが…巻き込まれた人達には強烈な記憶は残る、一軒家サイズのお菓子の家、それが原因で始まったお城の倒壊、あらわになった女王の人望の無さ…

 きっと忘れるまでは語り継がれるであろう…お菓子の家は合法であり食べ物、決して違法な薬物でも毒物などでもないと…

女王である妹ちゃんの思考

女性を100人以上囲ってる、中にはどう見ても7.8歳の少女などが混じっている

暫く一緒に温泉街で過ごしている内にどう考えてもその少女にも手を出している

美味しいお酒はくれたけど会ってみたらなんか胡散臭いし怪しすぎて信用できない

あんなのを信用しているお父様とお母様、崇めているお姉様本当に大丈夫か?

ひょっとしたら過去にあった事件も都合よく発覚し、発覚してからの収束がやたらと早かったし、手引きしていたんじゃないか?

と言う感じ

基本的な考え方や行動は統治者向け、怪しいと思ったら信用しないし近づかない、関わっている人が毒されていないかとこっそり調査したりする

ご主人様の事は面識のない頃からお祝いの品などを送ってきていたので、最初から何か怪しいと思っており、表面上は友好的に見せかけてた

今回は本人の姿が見えないので割と言いたい放題に言った、結果ぶっ飛ばされた

隠していた秘蔵のお酒を全て叩き割られ、換金できそうな物は全て何者かにより迷惑料として持ち去られた

お城の修繕費は全て女王の私財で出すように、国費からは銅貨1枚すら出さないと会議中に満場一致で言われ現在借金中、主に迷惑料として換金できそうな持ち去った姉から


城が倒壊した理由

暗号も何もなく、元王女に向けてお早めにお食べ下さい、後これ冷蔵してる道具の説明書ねって書いてるのを最初から元王女に伝えるか、カードを直接渡せば済んでいた事だった

カードを見て読んだ途端、頑なに危険な物だと言い張っていた女王と解けないと言っていた解析班に切れた

自分の事だけならともかく、ご主人様が侮辱されたことにも限界まで我慢していたのでカードを見た途端限界を突破したのもある

そんなバカなことでご主人様から貰った家を燃やそうとしてたので更地にはせずとも7割くらい倒壊させた

更地にしたら撤去代だけで済んでしまい、解体費用も手間もそんなには掛からないのでわざと

今の状態はぱっと見1本抜いたら確実に崩れるんじゃないか?っていう状態のジェンガ

でも実際はかなりの数を抜かないと崩れない、下手に崩すとかなり危険と絶妙なバランス、嫌がらせのセンスが光る


正気を失った隠密さん

大陸で最高戦力を保有する屋敷をただ監視するだけで何もなければ特に報告もしなくていいという簡単なお仕事、に見える

さらに大陸が平和で争いもほぼ無いため薄給、というか給料を削られて削られた分は開発に回されてる

甘いものは普段は我慢しているのでバニラとチョコの匂いの直撃を受けてちょっと理性が飛んだ

給料削った現女王は好きではない、何所かを調査して来いと言われればお仕事なのでちゃんとするが、個人的な頼みは仕事じゃないのでと言い聞かない、元王女やその妻と娘達の頼みは聞く

兵達も同様に給料を削られているので女王の人望が薄い

開発に回した分で女王は成果は出してるが、それはそれ、これはこれ

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