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砂糖たっぷりギシアン 本当の狙い

略すと生薬の材料になる

 うーん、何時食べてのあの夫婦の作った饅頭は美味しい。

 でも何か真似できないんだよなぁ…何か秘訣があるのだろうか…

 お茶請けに饅頭が欲しくなったので狐さんに頼み温泉街の饅頭屋で饅頭を買ってきたが…

 何度食べても何度再現しようとしても上手くいかない、材料が特別なわけではない、作り方も同じ、蒸すのに使う水も温泉街と同じ。

 何が違うんだろうか…と、頭を捻りつつもお茶を飲み饅頭に手を伸ばす。

 また今度行ったとき秘訣を聞いてみよう。


「秘訣ですか?そうですね、たっぷりと愛情を注ぐ事ですかね?

愛情を注げばこの通り、ばあさんも元気な娘を産みましたよ」

「あらいやだわあなったったらもう」

 ハハハ、ホホホと笑いながら若返った老夫婦は娘と一緒に饅頭屋を続けている。

「いやはや、90を過ぎてまだ子宝を授かるとは夢にも思いませんでしたな」

「若返ってからと言う物毎日求めてきたのに何を言っているのですか」

「ばあさんが魅力的なのが悪い」

「あなたったら…」

 随分仲の宜しい事で、初めて来た時からあまり変わってはいないが。

「まあそうですね、饅頭の皮にも具にも妻と同じように愛情を注いで作る。

これ位しかしていませんな」

「うーん、メイド達に喜んでほしいから愛情込めて作ってるんだけどなぁ…」

「少し頂いてみても?」

「どうぞ」

 作った物を食べて貰い感想を聞く。

「うん、これは実に美味しい、これを頂ける妻達はさぞ幸せでしょう。

これならわしが教えるようなことは何も有りませんな」

「でもここで買った饅頭の方が美味しく感じるんだよねぇ…」

「それはアレですね、簡単なことです。

愛情を向けているのがお嫁さん達であって自分ではない、おじいさんの作った物は作ったおじいさん以外に愛情が向けられている。

現にお嫁さん達はここで買った物より旦那様の作った物ばかりを頂くでしょう?

それは旦那様がお嫁さん達に愛情を向けて作っているからで、自分には向けていないため普通に感じてしまう。

ですので多方面に愛情を向けて作っているおじいさんのお饅頭を旦那様は美味しく感じるのでしょう」

 なるほど、確かにメイド達に愛情を向けて作っているのでメイド達は饅頭をよく食べる、しかしおじいさんの作った饅頭にはあまり手を付けない。

「ばあさんの言う通りですな、わしも自分の作った饅頭は美味しいとは思うがやはり少し普通に感じてしまう。

だからと言って自分に愛情を向けて作るのは違う、自分の為ではなく、買っていった人に笑顔になってほしいから愛情を込めて作っているのですよ」

「旦那様は旦那様らしく、今まで通りにお嫁さん達に愛情を向けて作ってあげればよいのです。

そして愛情を向けられたら答えてあげればよいのです、そうすればこのように」

 おばあさんは縁側で一緒に饅頭を食べている娘の頭を撫でる。

 老夫婦に似て優しい、それでいて全てを包み込み癒してくれる…そんな雰囲気を纏った娘さんだった。

 間違いなく良い子に育つだろう、頭を撫でられ饅頭を食べる手は止まったが、目を細め耳と尻尾を動かしながら嬉しそうに撫でられていた。

「旦那様も撫でていかれますか?きっと娘も喜びます」

「では少し失礼して」

 娘さんを預かり膝の上に乗せ優しく撫でる、娘さんは気持ちよさそうに身を任せ、少しすると頭を擦り付けてくる。

 老夫婦はおやおや、あらあらと優しく見守っていた。

 頭を擦り付けてきた後、離れようとしなかったので膝に乗せたままお茶を飲む、娘さんは食べている途中だった饅頭を再び食べ始めた。

 帰る時間まで饅頭屋で過ごし、娘さんをお返しして屋敷に帰る。

 しかし娘さんは離れずにしがみ付いて泣いたが、月に一度は宝石店に来ている事を伝えたら涙目ではあったが頷いて離れてくれた。

 また近いうちに仕事で来るのでその時に立ち寄ればいいだろう。

 老夫婦と娘さんに別れを告げ、狐さんと屋敷へ帰った。


 自分の作った饅頭が饅頭屋さんの饅頭より今一だった原因は分かった、なのでこれと言って材料などを変えたりする必要はないだろう。

 毎回自分の饅頭は比べると今一なのにメイド達はそちらばかりを食べていたのも納得。

 色々と気づかされることも有るもんだなぁ、と、しみじみ思っていた所…

「ご主人様、あの子猫はいつお持ち帰りになるおつもりで?」

 持ち帰りません、懐かれはしましたがその気はないです。

「ご主人様にその気はなくともあの子猫はどうでしょうね?

それに子猫でも十分に受け入れられますよ、ミウも大丈夫だったでしょう?」

 違うんや…ミウに手を出したのは狐さんが薬を盛ったからや…しかもその時の記憶残ってないから罪悪感かなり凄かったし…

「まあご主人様が連れて帰る、と言うのであればあの場で連れ帰っていましたが、こちらは時間の問題ですね。

それと手を出す前に薬はちゃんと飲ませてくださいね?」

 出しません、出せません、あの老夫婦が数十年ぶりに授かった子供を奪い取るなんてできるわけがない。

「どうでしょうかねぇ?あの子猫はご主人様と一緒になる気満々でしたよ」

「あの温泉街男の人がほぼいないから珍しがっただけじゃ?」

「いえ、体は小さくても本能でご主人様と番になるべきだと感じていたようです。

良かったですね、娘が増えますよ?

種族的には…ヴェスティアが第二の母でしょうか?」

 なんて恐ろしい事を言い始めるんだこの狐さんは…

「第二も何もあの老夫婦が両親だからね?子猫の意志云々以前にあの老夫婦から奪っちゃだめでしょ…」

「そうですか?あの老夫婦も多分まんざらではなさそうでしたけどね、若返り寿命は延びていても、何時かは朽ち果てていく。

それならば娘を1人残し朽ち果てる前に娘が愛し、信頼できる人に託したいもの。

ご主人様は子猫に既にマーキングもされていますし、託すに値するべき方だと、そう考えているはずです」

 確かに頭擦り付けてマーキングしてきてたねぇ…

「でもあの老夫婦は事故でもない限り後500年は生きると思うけど…」

「ですね、温泉街にいる限り事故も有りませんので大体600歳くらいで寿命でしょうか?」

 なら子猫は引き取らなくても子猫も後500年ほどは老夫婦と暮らせるわけで…

「まあ寿命が延びた弊害として子供はでき辛いですが、あの様子で有れば後1人位は出来るでしょうね、後継ぎの問題もありますし」

 娘さんに後を継がせればいいんじゃないかなぁ…

「子猫がお店を継いだら間違いなく評判は落ちますよ、子猫の愛情はもうご主人様と両親にしか向けられていません」

 なんてこった…

「まあ引き取る引き取らないはご主人様が決めてください。

子猫が継いだら評判が落ちるだけで、その間にもう1人子供が出来れば解決いたします。

男の子であればご主人様に敬意は払えど、おじいさんの教えを受けて多方面に愛情を注いで作るので、ご主人様だけに愛情を向けるという事は無いでしょう」

 2人目も女の子だったらどうするのさ…

「そこは大丈夫でしょう、愛情をたっぷりと注ぎ、それが結晶となり、実り、生まれてくる子が幸せになりますようにと願われ、生まれてきたのがあの子猫です。

後を継いで欲しいとは微塵も考えていなかったわけですね、ですので次に少しでも男の子が欲しいとか、後を継いでくれる子が欲しいと思えば男の子しか生まれません」

 1人目がそもそも男の子だったかもと言う可能性は無いんだろうか…

「ないですね、あの老夫婦はご主人様に恩義を感じていますし。

心の隅では恩を何とか返したいと思っていたはずです。

そしてあの老夫婦の性格ですね、皆に笑顔になってほしいと、心の底から願うほどの人達です。

そうなるとご主人様も老夫婦達も笑顔になる結果を持った子供、つまり女の子ですね。

ご主人様の元へ来ますと離れ離れにはなりますが、月に1度は温泉街へ行っていますので、割と頻繁に再開できるわけですね、永遠の別れではありませんので誰も損はしません。

この辺りはマキナとユースティアも同じですね、定期的に温泉街と実家を行き来しています」

 つまりあの子猫は女の子として生まれるべくして生まれてきたと。

「そういう事ですね、それと引き取るのであれば早ければ早いほどよろしいかと」

「それは何故?」

「娘がいる間は娘に遠慮して後継ぎが作れないからですね、ご主人様はその辺は気にしていないようですが」

 夜の異種格闘技大会の主催者がぬかしおるわ…マッチングを決めているのは狐さんじゃないか…

「それでですね、早ければ早い程老夫婦も若返ってから2人目の子供ができ、子猫も弟が出来て嬉しい、老夫婦も後継ぎが出来て嬉しい、生まれてくる男の子も愛情をたっぷり注がれ育つので良いお嫁さんにも恵まれてで誰も損をしません」

「…ふぁい」

 狐さんのアイアンクローが痛い…

「私は受け入れの準備をして第二の母になるヴェスティアに話を今から通してきますので。

ご主人様は何時でも出発できるようにして置いてくださいませ」

「来月じゃ駄目…?」

「来月でも良いですが…待たせれば待たせただけ再会した時の思いが強くなりすぎて離れなくなりますよ?

常に子猫を交えた異種格闘技大会をお望みであれば来月でもよろしいかと」

「はい!準備をしてきます!」

 着替えたばかりではあるがまた外行きの服を着て狐さんを待つことにした。

 結局最初から引き取らないって選択肢なんかなかったじゃんか…じゃんか!


 狐さんがヴェスティアに話しを通し、ヴェスティアを連れてくる。

「本当に私に娘のような存在が…うまく接してあげられるでしょうか…」

 緊張して震えていた。

「それでは行きますよご主人様、老夫婦には私から話を通しておくのでヴェスティアと一緒に子猫と一足先に戻っていてください」

 ヴェスティアを連れ数時間ぶりの温泉街、饅頭屋は営業を終え閉まっているが普通に正面から入る。

「夜分遅くにすみません、おじいさんかおばあさんはいらっしゃいますか?」

「おや、こんな時間にどうされました、忘れ物でもありましたか?」

「はい、娘さんを引き取りに来ました」

「そうですか…では少し待っていてください」

 おじいさんは奥へ引っ込みおばあさんと娘を連れてきた。

「それでは旦那様、娘の事をよろしくお願いいたします」

「元気でね、彼方に行ったら旦那様のいう事をよく聞くのよ」

「お父さんとお母さんも元気でね、きっとまた会いに来るから」

「それでは旦那様、ヴェスティア、先に戻っていてください。

私はお話をしてから戻りますので」

 ヴェスティアは子猫を見て少し興奮していたが直ぐに落ち着き、子猫を抱きかかえて屋敷へ戻っていったので後に続いた。

 狐さん何の話をするんだろうなぁ…


「ただいま戻りました、子猫は今どちらに?」

「今はヴェスティアと一緒に遊んでる、ヴェスティアも最初は緊張していたけど今はもう親子みたいになってる」

「やはりヴェスティアと相性が良かったようですね、ヴェスティアもリッカを見て娘が欲しいと思っていたようですしちょうどいい機会でしたね」

 たしかに、夕食の時もリッカを甲斐甲斐しく世話しようとしてたからなぁ…

「それでですねご主人様、あの子猫やはり名前が有りませんでした」

「どういう事で?確かにあの老夫婦も娘としか言って無かったけど」

「ご主人様に付けて欲しかったようですね、ですので今まで名前が無かった事になります。

老夫婦もいずれ来る旦那様に付けて貰うようにと言い聞かせてたそうです。

愛情もしっかり注いでいたようですし、名前などなくても通じ合っていたようです」

「今の今までねぇ…」

「名前はヴェスティアと一緒に決めてあげてくださいね、それでは私はこれで失礼いたします」


 狐さんが去っていったのでヴェスティアと子猫を呼ぶ。

「今からこの子の名前を決めたいと思うのだが…ヴェスティアは何か良い名前ある?」

「そうですね…」

 ヴェスティアは少し考え込み―

「エキナセア…花の名前そのままですが、夫婦の愛情や優しさに包まれ育ってきたこの子には良いのではないでしょうか?」

「エキナセア…それでいいかい?」

 エキナセアと呼ばれた子猫はヴェスティアに抱き着き、頭を擦り付けていた。

「エキナセア…うん…私はエキナセア!

今日からよろしくお願いします、お母さん」

 エキナセアはヴェスティアをお母さんと呼び、ヴェスティアはエキナセアと名付けられた子猫を抱きしめて撫でていた。


 翌日、老夫婦に教わった通り、今まで通りにメイド達に向けて愛情たっぷりの饅頭を作る。

 小豆は砂糖はほぼ使わなくても行けるがたっぷりと、皮が甘さを優しく包み込んでくれる。

 生地を寝かせた後は餡を包み、温泉街で汲んできた水で蒸す。

 他にも生地に抹茶を混ぜた物、コーヒーで生地を練った物、赤大根を練り込んだ物。

 白・緑・茶・赤の4色が出来それぞれ香りも違うので違った味を楽しめる。

 饅頭を割ってみれば中には砂糖をたっぷり使った餡子がぎっしりと詰まっている。

 お皿に4色1個ずつ並べメイド達に渡していく。

 ヴェスティアはエキナセアを連れ一緒に饅頭を持って行った。

 エキナセアは食べ慣れているはずの饅頭を目を輝かせながら美味しそうに食べていた。


「おや、旦那様、娘は元気にしていますか?」

「ええ、元気ですよ、それにそろそろこちらに来るかと」

「お父さんお母さんただいま!」

「お帰りなさい、旦那様の所はどうだい?」

「毎日が楽しい、名前も付けて貰った!」

「そうかい、何て名前だい?」

「エキナセア、意味は優しさと深い愛だって言ってた!」

「そう、良い名前を付けて貰ったね…」

 老夫婦は少し目を赤くしてエキナセアを撫でていた。

「そうだ、エキナセアには教えて置かないとね、今このお腹の中には貴女の妹か弟がいるのよ?」

「本当!?」

「ええ、生まれてくるのはまだ少し先になるけど。

この人ったら多分次は男だって、饅頭作りを教えるんだって張り切っているのよ?」

「まだまだ現役を退くつもりはないが、生まれてくる子が男の子で饅頭作りを望めば、だがな。

饅頭屋以外の道を見つけた場合はわしの代で終わりですな、ハハハ!」

 生まれてくる子が幸せに育ってくれればそれでいいのだろう、もし今の代で潰すことになっても後悔など何もない、子供たちの幸せが一番!そう言い切っていた。

「元気に生まれてくるといいねー」

「そうね、きっとすごく元気な子が生まれてくるわ」

 エキナセアは母親のお腹を優しく撫でていた。


「ご主人様もうお終いですか?」

「まだまだいける…」

「では頑張って下さい、後20人抜きすれば一先ずは終わりですね」

「タッグマッチやセコンドによるタオルは?」

 タッグかタオルを要求しつつもその間にも1人からダウンを奪うも、次のメイドが直ぐ乱入してくる。

「駄目です、手は貸しません、タオルも拭いた物はこちらに入れてください。

それとちゃんと1人1人相手をした上で後19人抜きしてくださいね?」

「はい…」

 タオル投入による試合終了はやはりないようだ…ダウンしたメイドを綺麗にしたら投げ入れられたタオルは籠に入れる。

 狐さん主催の夜の異種格闘技大会、1対30と言う不利なマッチングを組まれ、終わりの見えない戦いに挑むのであった…

 完全勝利まで残り18人…!

 なお敗者復活戦有。


 今日は少し真剣な顔をして元の背丈になっている狐さんが居た。

 普段は威厳が出ないと元の背丈になる事は無いのだが…はて?

 ヴェスティアはエキナセアを連れてカレンやアリサ達が受ける授業に参加、その時見てしまった…

 エキナセアの横をすれ違い、その瞬間ガッツポーズを取った狐さんを…まさかこれが狙いで…?

 そして私は見なかった事にした、後が怖いもん。

大体上から155>148>130(自称)>126>80>80以下

何がとは言うまい…

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