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たまにはお外へお出かけしよう 初日の静寂、二日目の喧騒

久しぶりの見切り発車―文字数の差が酷い?気分による物です―

 お外に行きたい、狐さんの創った海での休暇は定期的に行っているが。

 それはそれとして海しか行かないとどうしても飽きがくる。

「というわけで全員で旅行に行こう狐さん」

「正気ですか?」

 すごく久しぶりに正気を疑われた、でも此処で引き下がるわけにはいかない。

「えー、皆と旅行に行くの駄目?」

 口説き落とすため子狐さんに早変わりし、抱きついて上目づかいでおねだりをする。

「――…っ…!駄目です、それにメイド達全員となると宿泊するための場所がまず見つからないかと」

「どうにか…ならない?」

 さらに悲しげに見つめ追い打ちをかける。

「わかりました…何とかしてみましょう」

 落ちた。

「狐さん大好き!」

 ぎゅっと強く抱きしめて止めを刺しておく。

 狐さんの尻尾がすごい勢いでパタパタしているが気にしてはいけない。

 そしてこの後起こるであろう事も気にしてはいけない、狐さんを口説き落とした代償だ、甘んじで受け入れよう。


「今回の議題はメイド達皆を連れての旅行について」

「マジ?」

 ルシフが何言ってんだこの狐という表情で固まる。

「はい、マジもマジ、大マジです」

「私はご主人様と一緒なら何所でも良い」

「私もです、他の皆も同じ意見かと」

 集まった者達はミネルヴァとケレスの意見と同じだと皆頷く。

「ご主人様と一緒であれば何所でも良い、まあこれは聴かずともわかり切った事でしたが。

問題は何所へ行くかという事、メイド達皆が入れる宿泊施設の確保。

そして何よりご主人様の行動を常に監視する必要がある事」

「やっぱそこだよねー、常に誰か付けておけば問題はないだろうけど」

「ご主人様に言い包められて一緒に何処かに行く可能性もある」

「位置だけなら常に把握できますが、何をしているかまでは私ではわかりませんね…」

 どうした物かとルシフ、ミネルヴァ、ケレスが話し始める。

「行動把握に関してはユノーにエリス、監視はミアとミウが適任でしょう。

いざとなれば私とニール、ティアで捕縛、タニアとアナトを全体のサポートに回せばよいかと」

 ディアナが提案する。

「わかりました、監視などはディアナの案で行きましょう。

次は行き先と宿泊施設ですね」

 その後もあーでもないこーでもない、と暫く会議が続いた。


「今回の行先はユースティア達の出身地の隣国になりますが、よろしいですか?ご主人様」

「皆と行けるなら何所へでも、あ、でも温泉があると嬉しいな」

「大丈夫です、そういうと思いまして温泉のある所を選んでおきました」

「狐さん大好き!」

 抱きしめて尻尾をもふってあげる。

「場所は決まりましたが人数が人数ですので、宿泊施設の確保までもう暫く掛かるそうなのでお待ちください」

 狐さんが少し顔を赤くしながら答える。

「皆と行けるならいつまでも待つよー」

「ではその暫しの間に全て済ませてしまいましょうか」

 屋敷を暫く空けることになるので狐さんと一緒に戸締りや雑務などを全て処理していった。


「メイド長、一帯の宿泊地を全て抑えてきました」

「こちらが国王の許可証及び各問題発生時における免状です」

「ベリスにシュリエルご苦労様です、こちらが褒美です、受け取りなさい」

「ありがとうございますメイド長!」

「これを頂いで本当によろしいのですか?」

 ポケットから何やら取出し二人に渡す狐さん。

「あぁ…なんて尊い…」

「これは…危険すぎます…」

 狐さんを口説き落とした代償として払った物が二人の手に渡っていた。


「それでは最終確認を行います、各自渡された物は身に付けましたか?」

 メイド達には首輪、指輪、腕輪、首飾り等、希望する装飾品が渡されていた。

「渡された物には現在値を把握するための物が仕込まれています。

他にも効果を付与してありますが本命の効果はこちら、身体能力を九割五分抑制するようになっています。

無くても加減はできると思いますが、念のためですね」

 身に付けたメイド達が体を動かし効果を確かめている。

「そして注意事項、渡した物は出来るだけ常に身に付けておいてください。

外しても構いませんが外の物は非常に脆いのでちょっとしたことで壊れます、付けた上で加減し、行動するように。

次に、発生した問題は各自で対処するように、許可証と免状は国王より頂いておりますので何をやっても罪に問われることはありません」

 狐さんによる注意事項や説明などが行われていく。

「以上です、質問は?」

 ルシフが質問を投げかける。

「ないとは思うけどさー、ナンパや覗きがいた場合はー?」

「基本的にその場にいた者たちの判断に委ねますが、処分してくださって結構です」

「はいはーい」

「質問は以上ですね?では門を開きますので移動を開始するように」

 温泉旅行が始まった。


 うーん、久しぶりのお外で気分が高揚する、奇異な視線に晒されるが特に気にはならない。

 狐さんが街に入る前に軽く説明をしている。

「まずは街に入りますが、ベリスとシュリエルが話をつけてきますので、二人が戻り次第順次中に入って下さい。

無いとは思いますが、呼び止められた場合無視してくださって結構です」

 荷物の検査などせずにそのまま入っていいらしい、あの長い列に並ばなくてもいいのは助かるなぁ。

「メイド長、ただいま戻りました」

「門番より許可を得てきました」

「それでは入りましょうか、まずは宿泊施設までの案内をお願いします」

「わかりました」

「お任せ下さいメイド長」

 メイド達が次々に門の中へと入っていく、周りは入門時の確認はどうしたとか言ってるが全部無視である。

 メイド達に置いて行かれないようついて行く、途中門番に止められるが無視して入る、何か言っていたようだがベリスがすっ飛んで行き話をしていた。


「こちらが国王より許可を得て貸切にした旅館で御座います。

女将に料理人に仲居などは居ますが料理人も全て女性の所で抑えてあります」

「貸し切りの期間も無期限でいつまでも滞在可能にしてあります。

また滞在中は女将達を除き旅館への立ち入りは禁止になっているので覗きの心配もございません」

「二人ともご苦労様です、旅館の女将達には私から礼をしておきましょう。

では各自好きな部屋に入るように」

 狐さんの合図とともに各自どの部屋にするかを相談しながら散っていった。

「今日の夕食は旅館にお任せ?それとも作る?」

「厨房への立ち入り許可は得ているそうなので一品ほどお願いします、お刺身の盛り合わせ辺りがよろしいかと思われます」

「はいはい、ルシフとちょっと捕ってくるよ」

「行ってらっしゃいませご主人様」

 夕食に一品足すためにルシフと海へ行き魚や海老を各種柵の状態まで処理した後旅館に戻った。


 旅館に戻った後はヴェスティアを伴い厨房へ。

 一角を借りて柵をどんどん刺身に変えて行きヴェスティアに盛り付けを任せる。

 これから暫くお世話になるので料理人さんや仲居さん、女将さん達の分も作って渡しておいた。

「このお刺身の魚なかなか良いですね…こちらの魚を卸して頂くことは?」

 女将をやっているだけあって目は肥えているらしい。

「んー、狐さんかルシフに聞かないと無理かなー」

 そう答えて宴会場へどんどん運び込んでいった。

 宴会場では料理に舌鼓を打ち何人かは既に出来上がっていた。

「ご主人様お刺身とお酒追加ー」

「こちらは茸の釜飯を追加でお願いします」

「天ぷらの盛り合わせと牛のたたき!」

「網焼きの野菜追加で」

 どんどん追加注文が飛んでくる。

 厨房の料理人も大忙しである。

「皆さん良くお食べになりますね」

「それだけここの料理が美味しいという事でしょう、美味しくない者は手をつける事すらない娘達ですから」

 仲居さんたちの手が足りないので駆り出された女将さんと話しつつ出来上がったものをどんどん運び込んだ。


 宴会が終わった後厨房に回っていたヴェスティアと食事を取り、その後温泉に浸かり一日目終了。

 初日は移動と食事位だったが中々に楽しかった。

 明日からは街を観光、楽しみだなぁ…そう思いつつ就寝した。


「では本日の報告会を」

「旅館内でご主人様に近づく人物はゼロ、問題は無いようです」

「入門の際門番にご主人様が呼び止められましたが、すぐにベリスが門番を止めましたのでほぼ問題なし」

「こっちは宴会で出した魚を旅館に卸してって言われたくらいかなー」

「初日は問題ないようですね、魚は不定期であれば可能、ただ此処の厨房の物たちにあれは捌けないかと。

ルシフ、一度実物を持って来て見せてあげてください」

「はいはーい」

「明日からは観光の為に街へ出ますが、護衛と監視は?」

「明日はミアとミウが務めます、それ以外の者達は自由行動ですがある程度は近くにいるようにと伝えてあります」

「わかりました、では本日の報告会はこれにて終了します、お疲れさまでした」


 翌日の朝、宴会場に集まり皆で朝食をとる。

 食休み中、今後の予定を狐さんが説明する。

「本日より街を自由に散策、観光となりますが、昼食は旅館で用意しているのでお昼前には戻ってくること、夕食も同様です。

消灯時間等はありませんので夕食後、夜の街に繰り出すのもいいでしょう。

ただしご主人様を連れていく場合は一報を、以上です」

 狐さんの話が終わり各自まばらに街へ繰り出していく、ただ服装は何時でも何所でもメイド服なのは変わらない。

 そろそろ私も街に出ようかとしていた所。

「ご主人様一緒に行きませんか?」

「ご主人様一緒にいこー」

 ミアとミウから誘いが来たので受ける。

「いいよー、何所から行こうか?」

 ぶらぶらと当てもなく街中を歩いて観光するつもりだったので、何所から行こうかと二人と相談しながら街へ繰り出した。


 まずはお土産などを売っている店を探すことにした、帰る前に探し回らなくて済むようにいい店を探しておく。

「うーん、この店は少し…今一かな、次行こう」

「あちらのお店などは如何ですか?」

「あっちのお店も良さそうー」

 店を梯子していき確認していく、大きな街だけあってお店は多く質も品揃えもピンキリ、なかなかいい店には巡り会わない。

 少し外れたところに老夫婦の営む小さな商店を見つけたので入ってみる。

 品揃えはそんなに良くないが質はかなり良い物だったので三つほど饅頭を買い三人で頂く。

「うん、これは美味しいな」

「確かに美味しいですね」

「もう一個欲しいー」

 ミウにもう一個追加で買い、お土産の饅頭は此処で買おうと決めた。


 お店を決めたので今度は当てもなくぶらぶらする事にした、広い街なので当てもなく歩くだけでも何かあるだろうと。

 温泉街だけあって温泉卵など個そこかしこで売られている、店によって使用している卵で違いをつけているようだ。

「こっちの卵の黄身は濃厚だなぁ」

「こちらは薄いですが少しいい香りがしますね」

「この卵白身がないー?」

 三人で温泉卵の食べ比べ、白身の無い黄身だけの変わり種もあった。

「あらご主人様も食べ比べですか?」

 ニールとティアが温泉卵を食べていた。

「ご主人様、こっちの卵もお勧めだぞ」

 ティアが卵を差し出してくるので食べる、先ほどの物と比べると濃厚さはないがこれはこれで美味しい。

「こっちの卵も美味しいなぁ」

 しばし五人で温泉卵をつつく、ニールとティアは言わずもがな、ミアも美しくミウも大変可愛らしい見た目をしているので注目が集まる。

 しかし気にしても仕方ないので食べ続ける、これも美味しいなぁ。

「そこのお嬢さん、僕達もご一緒してもいいかな?」

 何やら綺麗な服を着た男たちが近づいてくる。

「こちらの席は埋まっているので彼方へどうぞ」

 ニールが他の席へ誘導しようとする。

「つれないことは言わずに、そちらのお嬢さんたちも一緒にどうだい?」

 誘導には従わずティアやミア、ミウも誘い始める、私の事は目に入って無いようだ。

「私達はご主人様との旅行を楽しんでいる最中なのです、お引き取りを」

 ニールが再度警告をするが…

「へぇ…そこの冴えない男がご主人様ねぇ…」

 こちらを見てくるが、気にせず食べ続ける、うーん、この卵はちょっと薄いなぁ…

「君たちを置いて卵ばかり食べてる男は置いておいて僕達の所に来ないかい?

そんな男よりも幸せに、かつ満足させてあげられるよ」

 綺麗な服を着た男達がニール達に近づき連れて行こうとするが…

「私達に触れていいのはご主人様だけです」

「流石にこれ以上は見逃せないな」

「そろそろ不愉快なので排除させていただきます」

「ご主人様を馬鹿にするのは駄目ー」

 触れる前に四人に沈められていた、この卵は当たりだな、買い溜めして夕食に使おう。

「ご主人様、こちらの生ごみを如何致しましょう?」

「害は無いしほっとけばいいんじゃないかなぁ」

 卵を購入しながら答える。

「わかりました、ではそのように。

命拾いしましたね、これに懲りたら二度と声をかけようなどとは思わないように。

では失礼いたします」

 ピクリとも動かない男たちをその場に放置して買い物を済ませた後、昼食を食べるため旅館へ戻っていった。

 それと倒れてる男達は意識が無いから聞こえてないと思う…


 四人を連れ宴会場に入り昼食の配膳を待つ。

 皆何かしらを食べてくることを予想していたらしくお昼はあっさりとした軽い物だった。

 ここの女将さん達の気遣いは中々素晴らしい…また夕食の時一品作ってあげよう。


「午前中何か変ったことはありましたか?」

「メイド達を拐かそうとした者が何人かいたようですが特に問題は無いようです」

「ご主人様を冴えない男と罵った男が一名、その連れ合いの男達もニール達に制圧されました。

現在は意識を取り戻しその場を立ち去ったようです」

「わかりました、午後も引き続きお願いしますね」


 午後の散策、ミアとミウとは別れニールティアと共に午前中とは違う方向へ行く事に。

 温泉卵や饅頭などの食べ物とは違い置物など工芸品を取り扱っている区画に辿り着く。

 湯呑み、茶碗、七輪など実用性のある物から何所で使えばいいのか分からない物まで。

 見ているだけで楽しくなってくる、そんなお土産物屋の一角に骨董品を扱っている店を見つけるので入ってみる。

 何を売っているのか見てみると―

 黄金龍ファフニールの鱗1枚:白金貨1枚

 黒紫龍ティアマトの鱗1枚:白金貨1枚

 水龍蛟の鱗1枚:白金貨1枚

 ・

 ・

 ・

 黒龍ヴリトラの鱗1枚:金貨50枚

 ―なにか…すごく…インチキ臭い店だった…

 ニールとティアもすごく微妙な顔をしている。

「これ偽物…」

「私たちの鱗はこんなに薄汚れてません、コウの鱗も別ものですね…」

 店主にどこで入手したかを聞いてみることにした。

「これは遥か昔この地に住んでいた黄金龍や黒紫龍に水龍が浸かっていたと言われている温泉から見つかった物です。

彼の龍たちは温泉を好みその時に剥がれ落ちたものが此方の鱗だそうです。

今でも時折人の立ち入らぬ山奥の温泉に浸かりに来ているらしく、時たまこの温泉街まで鱗が流れ着いてくるのです」

 店主が言うには昔に住んでいた黄金龍などの鱗、との事だが…

「私達ここに来るの初めてなんだが…」

「ええ…今回の旅行が無ければ訪れることはなかったでしょう…」

 うんうんと頭を捻っている二人。

「こちらが鑑定書になります」

 鑑定書を出してくる、この店主だまされてないか?

「記念に1枚如何ですかな?」

「いや、遠慮しておくよ」

 二人を連れて店を出ることにした。

 店に入り鱗を買っていく身なりのいい人もちらほらいる。

「ご主人様、あの店如何致しましょう?」

「今の所害は無いから放置で、今すぐ偽物だと証明することも出来ないし」

 偽物が本物として浸透しており、本物の鱗はこの世界に存在していないので本物を本物として証明するのは難しい…

「わかりました」

「ただ鱗を持ち込んだ者と鑑定書を書いた者は知りたいねー」

 しかしあんな薄汚れた物を本物として扱われるのは納得がいかないので探し出して説教することにした。

 ニール達の鱗は定期的に手入れしてるから常にツヤツヤでピカピカなのだ。

「仰せの通りに、少し外します」

 そう言い残すとティアはその場を去っていった。

 判明するまでは少し掛かりそうなのでニールを連れ他の店を回る事にした。


「それにしてもニールに声をかける人多いねぇ」

 少し歩くだけでニールに声をかける人の多いこと多いこと。

「物珍しいだけかと」

 黄金色の角と髪、羽に尻尾、くすんだ所は無く全てがツヤツヤで日を反射しピカピカと輝いてる、あまり近くで見続けると目を痛めそうだ…

「それにここまで磨き上げたのはご主人様でしょう?」

「まあ…そうなんだけどね」

 二人で会話をするも遮る様に声をかけてくるのでニールが少しいらだち始め、話しかけてきた者達に敵意を向ける。

 敵意を向けられた者達はその場で腰を抜かして動けなくなっていた。

「次はあちらに行きましょうかご主人様」

 動けなくなった者達をその場に残しニールと共にその場を去っていった。


 当てもなくニールと共にぶらぶらと歩き、午前中食べ歩きをしていた所まで戻ってくる。

 時間も程よいので茶店に入りニールとしばし休憩、団子を摘まんでいるとティアが帰ってきた。

「お待たせしましたご主人様、偽の鱗を持ち込んだ者と鑑定書を書いた者を捕縛してまいりました」

 もう見つけたらしい。

「逃げられない様にこの街の牢をお借りして拘留して置きましたので後程案内いたします」

「はいはいー、お疲れ様ティア」

 帰ってきたティアを撫でてやり労う、ついでに団子を食べさせて上げる。

「休憩終わったらその牢に行こうか?」

「わかりました、ニール、メイド長に連絡を」

「わかった、行ってくる」

 ティアを残しニールは旅館へ戻っていった、説教するだけなのに狐さん必要?


 ニールが狐さんを連れて戻ってきた後牢へと向かった。

「こちらの方々が偽物の鱗の製造、及び鑑定書を書いていた者達です」

 多いなぁ…鱗人の男が一人と鑑定書を書いたと思わしきものが十数人…

 牢の中を眺めていると―

「何を見てやがる、俺達をこんな所に入れてタダで済むと思ってんのか!?」

 鱗人の男が何かを叫んでいる、それに倣うように他の者達も騒ぎ始める。

 とりあえず無視して説教をした。

「ハッ!本物を本物として売って何が悪い!俺様には彼の龍の血が全て流れている、これがその証拠だ!」

 尻尾は色とりどりの鱗で覆われていた。

 ニールとティアを見るが、首を振って否定していた、だよねぇ…子供居ないもん…そもそも種族が違う…

「あー、君は龍人族ではなく鱗人族なわけだけど…それは?」

「何を言ってる?俺様は龍人族の末裔だぞ?」

 自分の種族も分かってないらしい、これは…説教した意味無いかもしれんね…

「ところでそこの金髪の女、今すぐ許しを請えば俺様の元で贅沢をさせてやるぜ?」

 うーん、ニールがいまにも暴れ出しそう。

「そっちの黒髪の女も跪き許しを請うなら一緒に飼ってやってもいいぞ?

彼の龍全ての血を引く俺様に飼われるんだ、同族としてはこれ以上幸せなことはないだろうよ、運がよければ血を引いた子を作れるかもなぁ?」

 そう言った後ニールとティアが切れ、建物は消し飛び鱗人の男は血の海に沈んだ、付けておいてよかった狐さん謹製の装飾品。

 なかったら建物だけじゃすまなかった、後ぎりぎり死なない様に狐さんがフォローも入れてた。

 血の海に沈んでる鱗人の男から鱗を剥いで鑑定、やはりただのカラフルな爬虫類の鱗だった。

「とりあえずこれどうしようか…」

 消し飛んだ建物の中から外を見渡す。

「そこに倒れてる者達の資財を全て徴収して補填すればよいかと」

「そうしようか、お願いできる?」

「お任せを、エリス」

「お呼びですかメイド長」

 エリスが出てきた、近くに潜んでたらしい。

「この場に倒れてる者達の資財を全て徴収し被害にあった建物の修理代に回してください」

「わかりました、では行ってまいります」

 エリスがその場からスッと消えていった。

 まあそれはいいとして…

「この倒れてる男たちどうする?説教は意味無かったけどもう済んだことだから放っておいてもいいんだけど」

「それは私達が困ります」

「だよねぇ…」

 どうしたらいい物か…

「ベリスとシュリエルに任せましょう、あの二人は各国の王に顔が利きますので悪いようにはならないかと」

「じゃあお任せで」

 狐さんにぶん投げることにした。

 なんにせよこれでもう偽物の鱗が出まわる事はない、既に売られてしまった分はどうしようもないが、ニール達の微妙な顔は見なくて済むだろう。


 ベリスとシュリエルが来た後、最低限の治療だけをして何処かへ連れて行った。

 こちらとしてはもう済んだことなのでどうなろうと知った事ではないのだが。

 ニールとティアの機嫌が戻るまでは少し時間がかかった…

 途中午前中にニール達に言い寄ってきた男達が偽物の鱗を購入し、他のメイドに言い寄っていた所に遭遇、またも微妙な顔になり男達を沈め所持していた鱗を消滅させる。

 他にも裕福そうな男が偽物を持ち私の物になればこれをやろうとメイドに言い寄り沈められていた。

 その後ニールとティアの機嫌が直るまで偽物狩りが行われたが止めに入る衛兵は一人もいなかった、途中でコウやヴリトラにシンなど、他の龍人族メイドも全員参加していた。

 あの偽物そんなに売れてたの?まあ本人に対して偽物を差し出して言い寄ればそりゃ機嫌も悪くなるわ…


 偽物狩りが終わった後旅館へ戻り夕食に一品付け足す。

 筋を取り除き少し短く細切りにした大トロを小鉢に入れ温泉卵を乗せるだけのシンプルな物。

 取り除いた筋は細かく刻んで混ぜ込んである。

 後は食べる時にお好みでタレをかけても良いしそのまま食べても良し。

「これはまた…贅沢ですね…」

「女将さん達の分もあるから後で食べてねー」

 話しながらどんどん宴会場へ運び込む、今日も初日と同じくお代わりの嵐で厨房は戦場だった。


 食休みした後は温泉に入るが、龍人族のメイド達全員と一緒に入る。

 お昼の一件で色々あったのでケアは必要、一人づつ手入れをして行き一緒に温泉に浸かる。

 温まった後は皆と一緒の部屋で寝る、皆と寝れば明日には機嫌も治っているはずだ、だから今から頑張ろう…

 そして長い夜が始まった。


「二日目の報告会を開始します」

「午前中ご主人様と行動を共にしたミアとミウが途中ニールとティアに合流、温泉卵を楽しんでいた所男達に言い寄られご主人様を罵られたようですが、その場で撃退、こちらはお昼時に報告した物ですが…

午後、またこの者達がメイド達に言い寄り撃退されています、その時は件の偽物を持っていたようです」

「こちらも件の偽物を持つ者達から言い寄られたと多数報告がありましたが、すべて撃退済みとの事」

「わかりました、件の偽物についてですが、これは明日までには全て無くなりますので大丈夫です、売り捌いていた者、力を笠に着ていた者達も明日処分が下る予定です。

力ずくで飼われていた者は現在治療し国が保護、希望する者は心身共に飼われる前へと戻してあります。

言い寄ってきた者達に関してですが、これは各メイド達の裁量に任せます」

「こっちからもいいー?狐ー」

「どうしましたルシフ?」

「魚の実物みせたらこれはさすがに捌けないってさ、ははは」

「では旅館に卸すのは無しという事で」

「まあ仕方ないよね、バラした後ならともかく鱗だけでもごみの量が凄いし、その鱗を剥がすにもここにある道具じゃ無理だしねー。

またここに来る時に持ち込む位でいいんじゃない?」

「ですね、他に報告はありますか?、無い様でしたら本日の報告会を終わりますが」

「こっちは無いねー」

「こちらも有りません」

「同じく、有りません」

「では解散という事で、お疲れさまでした」

「ところで狐ー」

「どうしました?」

「さっきからニール達の声が響いてずっと気になってるんだけど…」

「午後の一件でニール達の機嫌が悪くなったのでご主人様に癒して貰っています」

「それでかー」

「屋敷と違って防音ではありませんからね…」

「聞いてるこっちが恥ずかしくなってきます」

「ははは、これは他のメイド達も寝るに寝れないだろうねぇ」

「明日からもご主人様には頑張って頂きましょう、まだまだ時間はたっぷりあるのですから、私たちの番はいずれ…」


 朝近くまでニール達の声が響き、寝不足になったメイド達が大勢。

 女将さんや仲居さん達の顔も赤いが、凄いと尊敬の眼差しで見つめてくる。

 でも眠くてしかたないので温泉で汗を軽く流した後朝から寝る事にした。

 結局三日目は誰も出かけることなく旅館内で過ごしていた、寝れなかったメイド達も全員夜に備えて寝ていたらしい。

 その後暫くは夜の間は声が響き渡り、朝の間は寝て午後に少しだけ旅館の外に出るというサイクルになっていた。

 旅館から出る時は出てくるのを待つ者もいたが何時頃からか居なくなり、街をぶらついてる時に言い寄ってくる者もいなくなっていた。

 これなら皆も機嫌よく観光してくれるだろう、そう思いながら午後のちょっとした時間を慣行に費やしていた。


 ベリスとシュリエルは三日目は出かけていたらしく何かを持って帰ってきた。

 不快な思いをさせたお詫びだとかなんとか、使い道は無いので女将さんに上げよう。

 詰所と被害にあった建物の修理代はエリスが持ち帰ってきた資財で全部賄った、ご迷惑をかけたお詫びにとすこし色を付けて。

 豪華にするわけでもなくかといって同じでもなく、ワンランク上の物に変えたくらいだが。

 余った資財は全て旅館に投資した、屋敷に帰るとお金の使い道なんてなくなるからなぁ…

 後なにやら女将さん達が若返っている気がする…皆が寝静まった後温泉に浸かっていたらこうなったらしい。

 あれか、狐さんとかルシフとかミネルヴァとかが毎日温泉に浸かってるからなんか効能が追加されたっぽい…?

 若返りというか不老というか…まあ女将さん達は喜んでるからいいか、後何やら男子禁制の女性限定の旅館に作り替えるとか言っていた。

 一応私は宿泊しても大丈夫なようだけど、次来る時は性別変えておこうかな…


 自分を彼の龍の末裔と騙っていた鱗人がどうなったかは知らない、一応生きてはいるらしいが。

 なんで自分の事を龍人族と思い込んだのかねぇ…角は無いし羽もないのに…

 それに龍人族に男は居ない…最初から全てが間違えてるんだよなぁ…

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