度を過ぎなければ許される 平和的解決
お祭り巡りを始めて1ヶ月が経過、最初のお祭りは皆で参加、釣り大会も大会と言うよりは皆で仲良く船釣り、一応大会らしく勝敗は有あったが…
誰が大きいのを釣ったとか一番多く釣ったかではなく、誰の釣った魚が一番美味しいか、調理法は統一せず、刺身や洗いなどでもよければ天ぷらでもフライでも何でも有り。
自分が一番美味しいと思う調理法で審査員と言う名の見物客に食べて貰い、一番票の多かった人が優勝。
料理した物も全員には行き渡らないので、如何に宣伝して他の屋台に流れないようにするか、箸休め的な物で少量を小出しにするか…
釣り大会に見せかけた料理大会、のようでどれだけいい魚が釣れるかと言う運要素に加えて、見物客の好みに合った料理だったかもある。
初日は上位に入れたが、2日目と3日目は鳴かず飛ばず、屋台で出すための魚が釣れず…魚が無ければ料理も作れない、3日間1度も出せなかった所も有ったから1度でも出せただけ良しとしよう。
隣でアウラとサファイアが勝ち誇った顔をしているが触れちゃいけない、優勝の景品で胆まで食べれる無毒のフグが5匹、この辺りのみで極稀に捕れる結構貴重なフグらしく、1匹で家が建つお値段らしい…フグ高いのか建築費用が安いのか…多分後者だろう。
特にきまった形はなく、遊んで食べて飲んで騒ぐ、お祭りらしいともいえるお祭りだった。
決まった形がないぶん釣り大会の優勝者の決め方も毎回違うみたいだけども…
聴いたところによると、去年は一番大きな魚を釣った人が乗っていた船で一番小さい魚を釣った人が優勝とか、喜んでいいのか悲しんでいいのかよく分からなくなる。
一昨年は誰の魚で当たったかと言うとても不名誉な物だったらしい…当てた人は景品は貰えるが、これも喜んでいいのか悲しんでいいのか…当たった人からは二重の意味で恨まれそうではある。
なんにせよ今年はアウラとサファイアのペアが優勝、景品のフグは絞めていないのでまだ生きている、たまたま毒を持っていないだけでフグはフグ、養殖して増やすと普通に毒を持つ。
何かが有って生まれた時から無毒、もしくは何か特別な物を食べて毒が中和、あるいは両方…未だに無毒のままの養殖は成功していない。
卵巣は抱えているようだし、うちでも養殖に挑戦してみようかなぁ…海に丸投げになるけど、毒を持ったらその時はその時か。
2つ目のお祭りは庭で毎日行われているエリス達による奉納の…舞?
騒ぐような物ではなく、少し前に新しく仕立てた刺繍入りの服を着てただ静かに舞い、タニアはフルート、イデアはハープを奏でている。
今この場を見ている限りでは正しく神事を行っているように見える、この場を見ている限りでは…
今の形に落ち着くまで色々あったからなぁ…
楽器がギターだったりドラムだったり、木琴に近いからこれでもいいんじゃないとなぜか木魚を持って来たり、何を思ったのか庭にパイプオルガンを設置したり、爆竹をこれでもかと文字通り山ほど使用したり、これも舞いの一種だからと演武だったり…本当に色々あったのだ…
梨の木が地上にあるのとは違うという事で、あれとは違う新しい事をといろいろ要望していたらしい。
あーでもないこーでもないと迷走しているエリス達を眺めるのは楽しかったが。
梨の木は舞と音楽を要望、エリスはとりあえず適当に踊ってみる、タニアとイデア物置に置いて有った適当な楽器を選択、適当に打ち鳴らしてただの騒音、ただ喧しいだけだったので狐さんに怒られる。
ならば次はとリズムを取って踊り、打ち鳴らす音もそれっぽく、しかし木が求めた物とは違うので最初からやり直し、振り付けを考え新しい踊りに、楽器も一新、拍子木からカスタネットへ、ましにはなったがやはり求める物とは違う。
エリスも少しずつ踊りを修正してはいるが大元は変わらず、タニアとイデアも打楽器から離れず木琴や太鼓を使い、最初に作ったリズムからはあまり大きく離れない。
試行錯誤を繰り返し、途中で庭にパイプオルガンを設置するという暴挙に出たり、木魚を持ち出したりと色々あったが軌道修正は成功、楽器はフルートとハープ、たまに尺八と琴になったりもするけど今の形に落ち着く、踊りも演武を介して円舞、そこから舞になり完成。
いやー、何か新しい物がどんどん形になっていくのを見るのって楽しいよね、裏側を見ている感じがして…
ただ…梨の木も毎日毎日…飽きないんだろうか…エリス達はもう少し飽きていると思う。
葵さんとロザリアも最初の方は熱心に見ていたが、毎日やっているので飽きが来ていし、恵里香さん達はお酒を片手にクラゲを突いている、砂糖に醤油に酒の鉄板の組み合わせに昆布出汁で味をつけた物、ウニと和えた物、ポン酢に漬けただけ物と用意してあるが…消費が速いなぁ…
イクラを漬けてある桶のままだしたら桶が空っぽになって帰ってきそうだ、でも手間と量を考えればイクラの方が一度に作れる量は多いし…ついでに切り身も漬けて紅葉漬けにしておけば後はわさびを添えるだけで暫くは凌げる…よし、クラゲはここら辺りで止めて紅葉漬けでも作ってくるか、ついでに養殖を始めたフグも見て来よう。
1つ目のお祭りが終わってから1ヶ月近くが経過、そろそろ北でお祭りが始まるので早めに現地に移動して観光。
お祭り用とお土産用の特産品が売られているが、お祭り用は直接参加しなければ不要、お土産用は今買っても仕方ない、それに量産品よりは工房で注文して作って貰った方が良いし、記念に自分で作るのも良いかなぁ。
色々と進歩してきて新しい物も出てきたし、自分だけの物を作るほうがお土産にはいいかもしれないね、使用する物も自分の好みに合わせられるし、お祭りの後でまた工房に寄ってみようか。
城下町を軽く回り軽い観光をした後、お祭りの期間お世話になる所に戻りお祭りの詳しい内容を聞き、見物するなら何所が一番良いかを聞き出し、お世話になる元王女一家は全員参加で特等席が空いているのでそこを借りる事に。
素振りしてると思ったら皆参加するのか…使用人さんやら隠密さんやら、皆やる気満々だね。
ハリセンを素振りしている姿を見て葵さんも恵里香さんも目が点になってたけど、ただハリセンで叩きあうだけのお祭りと解釈して納得していた。
まあ、間違いではないし、ハリセンで叩きあうのは有っている、反撃できるのであれば…だけど…しかしそうかぁ…一家全員参加で使用人さんも隠密さんもやる気に溢れているという事はまた何かやったのか…今度は何をやったんだろ、お祭りが終わったら聞いてみようかな?
お世話になっている間は特に何かをする必要もないが、ずーっとやる事が無いのも何なので掃除や食事の用意を手伝う。
洗濯は…洗い場に近づく事すらしない、近寄ってはいけない…
要らないから…何で洗濯前の下着が洗濯籠じゃなくて贈答用の箱に入れてあるの…脱ぎたてです、ご自由にお持ち帰りください、なんて書かれても困る…
近づかずにそのまま放っておけば箱は無くなり、庭で箱に入っていたと思わしき下着が干されている、そして立札に洗い立て、ご自由にお取りください、と書かれている。
一体何をどうしろと言うのだろうか、持ち去ったら持ち去ったで下着の持ち主は何故か喜ぶだろう、そしてそれを持ち去ったとして私はどうすればいいのだ…
此処にいる間は洗濯物には触れず近づかず、これ大事…
国を挙げてのお祭り初日、まずは前哨戦にと闘技場に近衛や各騎士団の団長副団長が勢揃い、観客に向けての紹介が終わると闘技場の隅に移動、お祭り開始の合図とともに乱闘が始まった。
団長副団長共に日頃の鬱憤を晴らさんがためか、それとも私怨によるものか、複数の騎士団が一緒に仲良く特定の人物を集中砲火している。
警備等で不参加の隠密さんから書類を渡されるのでちょっと確認、えーと何々…今集中砲火を受けているのは女王が闇討ちされないように立ち上げた扱いが近衛より上の特設部隊、しかし闇討ちを仕掛けてくる姉君である元王女の襲撃は一度も防げていない、仕事内容も襲撃や闇討ちの際に出動するのみ、基本的に穀潰しではあるが一応一兵卒よりは実力あり、各騎士団団長副団長に比べると遥かに実力は劣る、が、自分の身を守るための特設部隊と言う事でお給金は各騎士団長より多い、まだ特設部隊が立ち上げられて3ヶ月ほどではあるが、3ヶ月ですでに各団長の年休に近い給料が支払われている、集中砲火をしているのは今日なら合法的に潰せるから、この機会に特設部隊の団長副団長に地獄を見せて自主退団させる心算、この後行われる集団戦でも同じ事をする物と思われる、特設部隊所属の一般兵の1ヶ月の給金が隠密部隊隊長の私の2倍とか潰れてしまえばいいのに。
…なるほど、私怨による計画的犯行か…今日から1週間、何時いかなる時に襲撃しようがお咎めは無し、昼間は各騎士団による特訓と言う名の鬱憤晴らし、夜は隠密部隊による夜襲…朝昼夜で持ち回りを決めている騎士団と隠密は安心して寝る事ができるが、特設部隊の方々は常に襲撃され続け、1週間一睡もせず過ごすことになるだろう、所属している人は別に悪くはない、お給金が他の倍以上と言うのが駄目だった、そしてそれを決めた現女王は…
現在王族専用の特別席で磔にされ、元王女一家によるお仕置き中、更にまだ兄弟姉妹も控えている、弁明やら釈明をしているが、何かやる度に襲撃、夜襲してくる姉に耐えかねての事だった、とは言っているが、何かをやるというよりは何かをやらかす度、また滅茶苦茶な予算配分や給料を何割か切り取ったのだろう…
その辺りの詳細な情報はまだ入ってきていないが、特設部隊の給料がやたらと多いのは各部隊から切り取った分を再配分せず、そのまま特設部隊に全部入れたからだろう、第一から第十三騎士団まで、1人辺りお給金1割削られてそれがそのまま全部特設部隊に所属する人の給料に…そんな事をすれば団長より一般兵の方が給料も高くなるよね…
この給料泥棒!と叫びながら追いかけ回してるし、当たらずとも遠からずだろう。
新しい事をやる時に騎士や兵士から給料を切り取る癖は健在か、一応切り取る量は減ってはいるが、振り分け方が…ねぇ…
お祭りを取り仕切る立場の現女王は現在磔にされてお仕置き中、闘技場内では特設部隊が捕まると少しだけ鳥になれる地獄の鬼ごっこに突入、途中で追い立てられるように闘技場内に突入していった部隊があるが、あれは全員特設部隊の人らしい、騎士団長や副団長に追い掛け回されて本気で逃げている、無駄な抵抗だけど…これ誰が収拾付けるの?
特設部隊が全員気絶した頃、現女王も一時的に開放され、闘技場内で大暴れしていた騎士団達は撤収、一般の人達に開放され、本格的にお祭りが開始された。
ここからは各番地の代表対代表や、税に文句のある村や町の長対財務官、今年1年の漁場を決めるために各区域の漁業を取り仕切る組合長対組合長、ハリセンによる叩き合いで決めるのは平和的でいいのかそうでも無いのか、怪我人が出ないのは確かなんだけども。
たまりにたまった近所同士の揉め事もここで全てすっきりさせ、何時までもうじうじと引きずらない、本気の夫婦喧嘩も家でやると騒がしくて迷惑なので1年耐えて此処で発散すべしと、このお祭りは年々大きくなっている、以前は1日だけだったが、今では国中から人が集まり、開催期間も1週間に伸び、現女王に文句があるなら堂々と殴り込みに行ける、流石に騎士団や近衛を突破しないと無理だが…出来なくてもやらかしていた場合元王女が普段から襲撃したり闇討ちしたり、今日のように正面から殴り込みに行っているので特に文句はない様子。
葵さん達は呆気にとられているが、ここのお祭りは基本的にこんな物、最終日辺りはもうなぜか国民対騎士団全員というちょっとした紛争みたいなことになるが、お祭りらしく賭けも行われている、騎士団の勝ちは1.1倍、国民の勝ちは2倍と大雑把に分けた物から、何所の騎士団が生き残るか、国民が勝った場合は何所の村や町が生き残るかなど、こちらはピタリ当てれば騎士団なら50倍から、村や町なら300倍から1000倍まである、当たれば一攫千金、に見えて掛け金の上限は銀貨10枚まで、それでも最大倍率をピタリと当てれば白金貨1枚にはなるし、上限が高いと賭けで身を滅ぼす人が出てきてしまうので掛け金の上限は低く設定されている。
賭けの受け付けは最終日前日、とはいえ例年通りなら騎士団の勝ちで終わるだろうし、狙うならピタリかなぁ…
ま、賭けの受付開始までまだまだ日があるし、今はこの混沌としたお祭りを楽しもうかね。
あ…現女王また磔にされてる…まだお仕置きが足りなかったのか、余罪が出てきたのか…
使っているのがハリセンとは言え一国の王をペシペシ叩くのは此処くらいだろうなぁ…
胆まで食べれる無毒フグ
1匹辺り金貨10枚位、港町の家1件平屋で金貨5枚
何所をどう食べても絶対死なないフグ、技術も何も無く食べれる貴重なやつ
奉納の舞
梨の木が求めた物、それらしい音楽とそれらしい舞
エリス達の最初の答え、大地に響く打楽器と激しい踊り
本当に必要だった物、ふわふわしたイメージでは無くはっきりとしたイメージ
ご自由にお持ち帰り、お取りください
脱ぎ立だったり洗い立てだったり
犯人は末の妹ちゃん
国を挙げてのお祭り
年に1週間だけ合法的に一国の王をハリセンで叩ける
普段から代弁者として姉の元王女が襲撃しているのであまり叩きに行く意味はない




