表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/1104

ぶらり食べ歩き 付き合いは長い

「赤いなぁ…浮いてる油も赤ければ入っている具材も全部赤いし麺も赤い…」

 ケチャップやソースでも油は赤くなるが、これはそうではない。

 器の底には粉末が沈殿しているし、沈殿している物と同じ物が麺には練り込まれているし。

 粉末にする前の物がそのまま具材として使われているし、どうせ味覚なんておかしくなるからと思っているのか味付けは適当だし…

 これ…食べ物…?

 作った人ちゃんと全部残さず食べれるの…?

 そんな真っ赤に染まった味の無い、溶けない粉末香辛料でただひたすら粉っぽい、温度だけは何故かなかなか下がらないように石焼の器に入った麺類を食べながら考える。

 水すら飲んじゃ駄目とか、粉とか喉に引っかかってるのが洗い流せないから地味に不快なんだよなぁ…

 不快な感覚から逃れるためにさっさと食べ終え、飲み物を注文。

 喉に引っかかっている粉を落としほっと一息…

「汗の一滴も流さず食べきりましたね…こっちは見ているだけでも顔から汗が出てきていたのに」

「この程度ならまあ別に何とも?」

 完食した特典のアイスを食べつつ答える。

 …このアイスも今一だなぁ…舌が麻痺しているのが前提で作られているせいか、香料だけは大量、砂糖などの分量は適当、味もなんか変だし、形だけはアイスっぽい何か…んー…

「それで、どうでしたか?」

「美味しくはないね、味は無いし、粉っぽいし、アイスはなんか変な味だし。

まだ料理を習い始めた子供の方が美味しい物を作れるんじゃない?」

「結構言いますね、こちらが頼んだ物は可もなく不可もなくでしたが」

「ちゃんと人の食べる物を作るだけ習い始めの子供の方が遥かに上でしょ」

 まだ辛い中にもちゃんとした美味しさなどが有ればいいんだけど、そんな物は全くないし…

 使われている出汁も臭みのとれていないうっすい鶏がら、それを大量の山椒でごまかしてるから酷いの何の…

「激辛のチャレンジメニューなんてのは大体そんな物では?」

「そうなのかねぇ…?」

「兎に角絶対時間以内に完食できそうにない物を作るんですよ、なので味は二の次。

食べる人の体調がその後どうなろうと知ったこっちゃなしです、誓約書を書かせるところも有りますからね、食べた後に死のうが店は責任は一切負いません、的な」

「誓約書が有ろうが死んだら明確な殺人だと思うけどね」

 水を口の中に含み変な味のするアイスの後味を綺麗に洗い流す。

 少なくともここでもう食事をする事は無い、チャレンジメニューとやらに興味が沸いたのが失敗だったか…


「次は何所行きます?」

「口直しがしたいから適当に摘まめるものが欲しいな」

 お口の中は綺麗にしても食べたという微妙な感覚は残る、何か美味しい物を食べたい所。

「適当に摘まめるとなると…甘い物と塩気のある物、どちらが良いですか?」

「甘い物が良いかな?」

 味も無い物の後に変な味のアイスだったからなぁ、ちゃんとした甘い物で口直しをしたい。

「それならアレですね、どちらにします?

形が違うだけで生地も中身も同じですが、餡子など無しで生地だけも作ってくれますよ」

「ふむ、じゃあたい焼きを餡子入りと無しが1つずつで、大判焼きがカスタードとイチゴジャムで」

「はいはい、オッチャンたい焼き餡子入りが2つ無しが1つ、大判焼きのカスタードが2つとジャムが3つで」

 注文を済ませ、焼きあがるまで時間がかかるので少し辺りを散策。

 茶葉を扱っているお店が有ったので中に入り茶葉の香りなどを確かめる。

 甘い物を頼んだし、どれが良いかな。

 麦茶、緑茶、ほうじ茶、ドクダミもあるなぁ…よし、緑茶にしておくか。

 お茶を選んでいる間に恵里香さんが注文していた物を買ってきたので、緑茶を少量買い、お店の中の一角を借りて買ったばかりのお茶を淹れ、たい焼きと大判焼きで一服。

 甘さ控えめの生地に甘い餡子やジャム、カスタード、あぁー…癒される…


 お茶とたい焼きと大判焼きを楽しんだ後は次のお店へ。

「結構いろいろ売ってるねぇ」

「少し離れるだけでガラっと様相が変わりますからねぇ、先ほどまでいたのは地元の方が多く行き交う商店街。

此方は観光者向けの商店が立ち並ぶ場所ですね」

 先程までいた少し寂れた所とは違い、こちらは多くの人が行き交い賑わっている。

 距離にして50メーターも離れていないのだが、彼方が裏とすれば此方は表になるのだろうか?

 日当たりなどはこちらの方が良いし、観光客を呼ぶなら日当たりの悪い所よりは良い所…かな?

「これなんてどうです?から揚げ串、鶏だけでなく豚やタコのから揚げも有りますよ」

「豚を頂こうかな?」

「あんちゃん、豚と鶏1本ずつ」

 揚げたての串を1本受け取りその場で立ち食い、串は近くにあるゴミ箱へ。

 豚はリンゴの果汁などに漬けてあり、香りも良く、肉も柔らかく仕上がっていた。

 周りのお店はたこ焼き、串カツ、串に刺さった出汁巻き卵、ワッフル、クレープなど、そのまま立って食べれる物ばかり。

 立ち止まって食べている人はそれほど多くは無い、ほとんどの人が歩きながら食べている。

 とはいえ場所的にはただの商店街なのだが…はて、なぜこれほどまでに彼方と此方でここまでの差が出ているのか。

「あー、少し前にルシフさん…ルシエラがこの商店街に訪れたからじゃないでしょうかね?

町興しの一環としてルシエラが訪れた場所として銘打っていますしねぇ」

「なるほど?」

「何所にでも追っかけは居ますし、少しでも人が集まるならと、売っている物もルシエラが食べて行った物として売っていますしねぇ。

実際に食べて行ったかどうかは知りませんけど」

「そうだねぇ…」

 実際に食べて行ったかどうかなんて、その時その場にいた人か本人しかわからない。

 訪れた、と言うのは本当なのだろうけど。

 まあ美味しいからいいや。


「んん?あそこで何か催し物をやってますね」

 視線の先には何か舞台が設置されており、人が集まって行っている。

「何処かに何をするかの情報はー…んー…これですかね?」

 店に張り出されている物を見て内容を確認、なになに…

「制限時間1時間で何皿食べれるか、一口皿うどん大食い選手権、我こそはと思う者はこぞって参加すべし、優勝賞品は特にありません。

ミス赤ワイン、予選を勝ち抜いた美女美少女によるブドウ踏みで赤ワイン仕込み、審査に通れば飛び入り参加も可、ワインは翌年販売、要水着、または汚れてもいい服装。

ミスター辛子明太子、熱き漢達による辛子明太子仕込み、飛び散る汗、弾ける筋肉、赤く染まる明太子、飛び入り参加可、仕込んだ明太子はその場で販売します。

なにこれ…」

「さぁ…その通りの物じゃないでしょうかね?

大食いなのに一口皿うどんと言うのが気になりますね、小皿何百枚使用するつもりでしょうか…」

「まあ見てれば分かるんじゃないかな…?」

 観戦も参加も無料みたいだし、ちょっと見て行こう。

 舞台の近くは満員なので離れた位置から見るしかないが、辛子明太子は出来が良さそうなら買って行こうかな?


 まず最初に始まったのは一口皿うどん大食い選手権、パリパリに揚がった麺の上に、麺の食感を殺さないようにしんなりとするまで火が通された白菜やキャベツ、少し細切りにされたイカや少し細かく刻まれたエビなどが入っている。

 一口サイズに合わせて具材を小さくしてあるのであまり食べ応えは無いが、パリパリとした麺にうま味たっぷりの野菜や魚介の餡が掛かっていて美味しい。

 試食会も兼ねているようなので見ている人にも1皿配られていた。

「シャキシャキの白菜も良いですけど、ここまでしんなりしてると麺のパリパリっとした食感がダイレクトにきていいですね、シャキシャキしていると主張が強すぎてパリパリ感が余り味わえませんし」

「一口だとそうだねぇ、量が増えると麺がしんなりしてくるからシャキシャキしてる方が良いだろうけど」

「ですねぇ」

 多分このためだけに作った特別な餡だと思われる、これなら白菜と麺の食感で喧嘩をしない、イカや海老も細く細かく刻まれているので、あまり主張はしていない。

 餡を吸ってしんなりした物もまた皿うどんの醍醐味ではあるので、野菜と麺のどちらの食感に趣を置くかで変わってくるのだが、好み次第よね。

「ステージで食べている人は辛そうですね」

「食べ終えてから麺に餡をかけているから麺は常にパリパリだねぇ、そうなるとつるっといけないし、その分噛まないといけないしであごがつらいんじゃない?」

 常に出来立ての状態で出されているので、常に噛み続けなければならない。

 細い麺ではあるがしっかり噛まなければならないのでかなり負担がかかっているようだ。

 勢いよく食べ始めていた人も今ではすっかりペースが落ち込んでいる、また追い上げようとしていた人も少し動きが鈍くなっている。

「一口サイズとは言え開始20分でここまで参加者を苦しめますか…」

「1位の人は気が楽だろうけどね、下の人が一皿食べたら自分も一皿食べれば絶対に追いつけないわけだし、待っている間に麺も少し柔らかくなるしで」

「細いけど意外と硬いですもんね。

あ、2位の人が勝負に出た」

 あごを酷使してでも一気に食べ進め、1位の人の手が止まらないようにし、あごの耐久力勝負に持ち込んだ。

 一体何が彼、彼女らをそこまで掻き立てるのか…

 きっと1位と2位の人は間違いなく明日から暫くは飲み物位しか取れないであろう…

 3位までの人達はもう自分のペースでゆっくりと咀嚼して食べている、完全にしんなりするまで待ったり、半分くらいしんなりした所で食べたりと色々。

 余裕のない1位2位とは大違いだなぁ…


 大食いは1位が死守して何とか逃げ切り、2位は1皿追いつけず、3位は2位と50皿以上離されていたがまだまだ余裕は有る様子。

 表彰台に上がった1位と2位の人は…あごを冷却していた…

「一口って言うのがかなり効いてましたね、一口で食べれる分餡を吸う時間を待つのが惜しいですし、パリパリしてますからそのまま飲みこむなんてできませんし、麺は砕いても徹底的に砕かないとのどに刺さりますし、その時間結局口の中で噛み砕いた方が早いですし。

一口皿うどん…恐るべしですね…」

「だねぇ、3位までの人は多く食べつつも味わって食べてたから余裕あるけど、1位と2位の人はねぇ…」

「あれは暫くは流動食かゼリー位しか無理ですね、あごが壊れてます」

 インタビューを受けているがまともに受け答えができなくなっている、3位の人は美味しかったと言葉を残したが…

「あ、救急車来ましたね、大食いであご壊して救急車とか、まあ有名にはなれたんじゃないでしょうかね…」

 試合と勝負に勝ったはいいが、2人は救急車に乗り運ばれていった。

 多分真の勝者は余すとこなく味わった3位までの人達だと思う。


「次はブドウ踏みですね、美女美少女に限定したのは…絵面の問題でしょうね。

むさくるしい人たちが踏んだ物で作った場合こんな物飲めるかーってなりますけど、見た目の良い人達であれば逆に値を釣り上げてでも買う人は出るでしょうね。

見た目は仕上がりには何の影響もしませんけど」

「だねぇ、発酵している間に常在菌なんて滅菌されちゃうしね」

 舞台の上には大きな桶、それを取り囲む様にカメラが設置され、大きなモニターに映し出される。

 その後、水着やミニスカート、ロングスカート、汚れてもいいのだろうか、ドレスを着た人たちが次々と舞台に上がってくる。

 自己紹介や何かの宣伝が行われ、桶にブドウが入れられブドウ踏み開始、ただ踏んでいるだけなのにこの盛り上がりはなんなんだろうね?

 踏んでいる人達もキャーキャー言っているけど。


 ブドウ踏みが終わった後は舞台を掃除、そして多量の鱈子や唐辛子、調味料が運ばれてくる。

 そして舞台に上がっていくのは…

「なんでみんなふんどし一丁なんでしょうかね、確かにすごい筋肉ですし、後何か踊ってますし…」

 うーん、見るだけでもう暑苦しい、確かに汗は飛び散っているけどさぁ…

「あ、踊りが終わりましたね、皆一回シャワーを浴びてくるようです、流石に衛生面に問題ないようにするみたいですね」

「まあうん…」

 あんなに汗まみれで弄り回すのは流石に…ね…一部女性はキャーキャー言ってるけど、買う側からしたら遠慮願いたい所である。

 男達が戻ってくると直ぐに辛子明太子の仕込みが開始、これもモニターで映し出されている。

 調味液などの配分は明かせないらしいが、冷凍してしっかり殺虫など、工程はちゃんと説明している。

 流石に10時間ほど漬けねばならないのであらかじめ漬けた物がでてきて、それに唐辛子を豪快にふりかけ完成。

 辛みが染み込むまで少し時間がかかるが、このままでも食べれるのでお好みでと言った所だろう。

 仕込み終わった辛子明太子はその場で販売開始、1キロで5000円か…

「安いですね、普通であればいい物はキロで万はいきますし、3キロ位買っていきましょう」

「ふんふん」

 見た限り普段スーパーなどで見る物より遥かに物は良い、恵里香さんの言う通り安いのだろう。

 あ、そうだ。

「辛子に漬かってないやつもある?あったら1キロ欲しいんだけど」

「はいよ、値段は同じで1キロ5000円ね」

 言って見る物だね。


 ちょっとした食べ歩きとお土産を買い帰宅。

 最初に入ったお店はアレだったが、良い買い物もできたし満足。

「そう言えば辛子に漬かってない鱈子はそのまま?それとも何か手を?」

「そうだねぇ…鱈子スパも良いし、焼き鱈子も良いし、卵焼きに入れたりも出来るね、後サラダでも良いし」

 辛子に漬かっている方も色々と使えるが、漬かっていないほうも使い道は多い。

「何か作った時はぜひ」

「まあ、その時家にいればね?」

 ロザリアと葵さんは割と家にいるが、恵里香さん達は居ない事も有るので、お昼で出すと食べれないことも有る。

 所用で出かけている以上仕方の無い事ではあるけども。

「それに、半分以上は葵さんに持って行かれるんじゃないかなぁ…」

「あぁ…ですねぇ、以前朝食用の明太子が無くてちょっと不機嫌になりましたからねぇ…」

 お詫びも兼ねてなので、まあちょうどいい買い物だったと言えばそうなるかな…

「さぁて、1キロかったけどどれだけ持っていかれる事やら」

「全部に辛子明太子1キロ」

「半分に鱈子200グラム」

 レートは全く釣り合っていないが、些細な賭け事をして家の中に入って行った。


 賭けの結果は恵里香さんの勝ち、全部要求されたので200グラムだけ抜いて恵里香さんに渡し、残りを葵さんに渡しておいた。

 内容量までは聴かれていないのでちゃんと全部である。

 付き合いが長い分葵さんの事を恵里香さんはよく存じていたようだ…

 鱈子を使った料理はまた今度だね、またスーパーに行ったときにでも買ってくるか。

チャレンジメニュー

大抵の場合食べ切れたら無料、食べた後客の体調がどうなろうが店は一切責任を取らない一種の人体実験場

作った人の9割はまず完食できない、食べ物で遊んでいるともいう


たい焼き・大判焼き

餡子、カスタード、ジャム、生地のみなど色々ある

ジャムはリンゴ、イチゴ、モモ、ビワ、レモンなど、他にも多数そろえられている


茶葉を扱っている店

店内の一角に試飲する場所として机や椅子などが置いて有り買ったばかりのお茶を淹れて貰う事も出来る

周辺にあるお店で団子や饅頭を買ってきて此処でお茶を買いその場で飲食する人が多数、形は変われど茶屋として成り立ってる


串物

その場で食べたり食べ歩きするのにぴったり

そこかしこにゴミ箱が設置してある


一口皿うどんの大食い

一口サイズ、それ以上それ以下でもない

パリパリの食感を味わえるように具材である野菜はトロトロ、イカや海老も細かくしてある

常に出来立てで出てくるのでパリパリとした食感と戦わねばならない、麺が餡を吸うのを待ってるとその間に離される、あごの耐久力との戦い


ブドウ踏み

伝統的なワインの作り方

誰が踏もうが仕上がりには影響しない、絵面の問題


辛子明太子仕込み

ふんどし一丁で仕込む、衛生面に配慮してちゃんとシャワーは浴びてきた

普段なら500グラムで6000円はする結構いいやつ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ