贅沢なやつ そういうイメージ
「普通大きな魚と言えば、ブリやカンパチ、マグロを想像するわけですよ。
それでですよ、マグロを入れたカレーも有りますし、ムニエルや唐揚げも無くはないですし、マグロに違いないと。
そうなればマグロ食べ放題、冷凍すれば多少なりとも持ちますし、2匹じゃ足りない、せめて5匹捕ってきて貰って好きな時に赤身の漬けなり刺身なり、トロの炙りなり刺身なり…
更には普通の鉄火丼に山掛けの鉄火丼、マグロステーキ、ネギトロ、中落ち、手作りのオイル漬けに他にも色々と…
そう計画していた所にですよ、出てきたのが何ですかこれ、サメですよサメ。
誰も想像できませんよこんなの、大きな魚イコールスズキならまだ良しとしましょう、ブリやカンパチならなお良し、スズキもブリもカンパチもお刺身美味しいですし?塩焼きなんかも美味しいですし、ブリやカンパチならカマも含め塩焼だけでなく煮付けでも美味しいですし?
スズキならムニエルにもカルパッチョにも用途は多いですし?
皮なんかも鱗を丁寧に落とせば焼けばパリッと、煮付けについている皮ならとろっと…
なら2匹じゃ絶対に足りない、やはり5匹は必要だろうと…
もう前日から楽しみで楽しみで、うっきうきだったところに、ところにですよ?
何ですかこれ、サメじゃないですか…しかも1匹は頭が有りませんし…
食べる地域があるというのは知っていますよ、輸送が発達していなかった時代から食されている食材ですし?
でもサメって臭いじゃないですか…それもアンモニア臭…確かにカレーやムニエル、から揚げにすれば臭いも多少は誤魔化せるでしょうけど…
なんでサメなんですか…マグロ捕ってきてくださいよ…マグロを…それも立派に育った300キロは有る様な奴を…」
「なんか…ごめんね?」
ここまで言われるとなんだか申し訳ない気分になってくる、マグロの方が良かったのか…
「あまり恵里香の言う事は気にしなくていいですよ、美味しければ手の平が簡単にひっくり返って食べ始めますので」
「あ、そう…」
ならそっとしておこう、隅に座り込んだままずっと壁に話しかけてるし。
「それで、どう調理するのですか?」
「そうだねぇ、まだ仕留めてから30分も立ってないし、臭いも無いからお刺身でも行けるよ」
皮を剥ぎ取り、身を少し切り取り、赤身の部分は外して白身の部分だけでお刺身に。
市販の刺身醤油にわさび、もしくは生姜と刻みネギで。
「はいお刺身の出来上がり、臭いが気になる場合は生姜でどうぞ、まだ臭いは無いけど」
「では頂きます」
お刺身の次は煮付け、味が入るまで時間が有るので弱火でじっくり煮詰めている間に、から揚げの方も塩とニンニクと少しのお酒で漬けて置き、塩コショウで下味をつけた物に小麦粉をまぶし、バターで焼いてムニエルに。
ムニエルはもう一種類、バターで焼くまでは同じ、ただ此方は刻みにんにくで香り付け、仕上げに醤油を入れて軽く焦がしてにんにく醤油に。
「結構おいしいですねこれ、見た目より脂も有りますし包丁が入ってない所はお醤油を弾いてますね」
「うん、いけるいける」
「このまま酢飯と一緒に食べたいかも」
「そこそこ深い所にいるからねぇ、脂ものってるし、身も硬くないでしょ。
見た目はアレだけど、まあ深海魚みたいなものだよ」
お刺身がなくなった所で出来立てのムニエルを2種、ムニエルを食べている間にから揚げ、から揚げを食べている間に煮付けの仕上げと。
恵里香さんを除いた人たちで4種の料理を味わった。
使った分以外は収納してあるから鮮度は落ちないけど、美味しいのに食べないとは勿体無い。
そこまでマグロの方が良かったのか…まあお腹が空いたら食べに来るだろう。
サメの皮を全て剥ぎ取り、骨から身を全て外し、身は全て収納、料理に使う時まで鮮度が落ちないようにしておく。
さて、スーパーでマグロでも買ってくるか。
赤身では多分駄目、中トロ…怪しい感じ、大トロなら確実…
外行き用の服に着替えお出かけ準備、お財布の中身は使ってないので補充の必要は無し。
後はスーパーで売っているかどうかだなぁ…ま、聞いてみればいいか。
「お買い物行ってくるねー」
「はい、お気をつけて、こちらは恵里香を何とか元に戻しておきますので」
いまだに隅から離れず、壁に話し続けている恵里香さんを元に戻そうとする葵さん達。
夕食はマグロだとか、恵里香だけ大トロ食べ放題ですよーとか言っているが、実物が無い成果反応が無い。
一刻も早く実物を買ってこなければなるまい…
…サメも夕食に出すけどね、お試しで少量しか作ってないし。
スーパーに着いたら一直線に鮮魚コーナーへ。
柵や刺身を見るが赤身はあれどトロは無し、やっぱり聞いてみないと駄目だね。
「すみません、大トロ有ります?」
「大トロ…冷凍でよければ有りますが、柵のままですか?それとも刺身にしましょうか?」
「柵のままで10本ほど」
「10…ですか、少々お待ちください」
冷凍でもあるのであれば問題なし、その間にも色々探し、ブリにカンパチに、タイなども1本ずつ籠に入れ待つこと10分、パックを5個抱えて店員さんが戻ってきた。
「寿司ネタ用の柵も混じってますが構いませんかね?
刺身用に比べると形が整っている分少し小さいですが」
「大丈夫です」
「わかりました、ではまた少々お待ちください」
再び奥に引っ込んでいったが今度はすぐ戻ってきた。
「ではこちらになります、有難うございました」
大トロが2本ずつ入ったパックを5個受け取り、他にはもう買う物は無いのでお会計に。
んー、お財布の中が随分軽くなってしまった、また補充しておかないとな。
お買い物を済ませたらササッと帰宅、恵里香さんは復活しているのだろうか…?
「夕食にはちゃんと大トロが出ますから、そろそろ立ち上がって」
ふむ…どうやらまだ立ち直って無かったらしい、家を出た時から全く動いてい無いようだ。
「ただいまー、まだやってたんだ」
「ほら恵里香、大トロが帰ってきましたよ、食べ放題ですよ!」
あ、少し反応した。
もう一押しで立ち直りそうだ、後はもう実物を出せばいけるかな?
1本だけ取り出し、後は冷蔵庫へ入れて夕食に。
刺身用ではなくネタ用なので角を落とし、落とした角は開き、程々の厚さで切りお皿に盛れば大トロの刺身の実物が出来合がり。
醤油にわさびを添えて恵里香さんの元へ。
「はい、おまっとさん」
「恵里香、大トロの刺身が来ましたよ、さ、食べましょうね」
葵さんが恵里香さんの使用人になったように甲斐甲斐しく介護をしている、しかしやっていることは…
「ほら、あーんして」
「あー…」
「ね、美味しいでしょう?」
「ん、んむ…ぶふっ!」
あ、咽た、でも吐き出さず口の中に留めている。
そして手は何かを探し求めていたので水を渡す。
「んっ、んっ、んっ…ぷはぁ!
お嬢様!酷いじゃないですか!大量のわさびを包んで見えないようにして口の中に入れるとか!
鬼ですか!?悪魔ですか!?」
そう、見えないように大トロで添えてあったわさびを表面にチョンと少し乗せ、あたかもそれだけしかつけてないように見せかけ、内側にはこれでもかとわさびを包み込んでいた。
気付けにはなったようだがいささか過激な気もするね、やった事が何度もあるから口に出して言えないけど…
「はぁ…はぁ…あー…鼻水と涙が…」
大量のわさびを口に放り込まれたために涙も鼻水も垂れ流しになっている。
葵さんが拭き取ってあげているけど。
「ところで、食べ放題と言うのは本当ですか?」
「本当ですよ、そのために買ってきてもらいましたし」
「1本は使ったから柵は残り9本だけどね、今冷蔵庫で解凍中、夕食前にはちょうどいい位だよ」
「道理で少し冷たかったんですね、口の中に入れたらすぐ解けて味が口の中一杯に広がりましたし。
直後に地獄を見ましたけど…」
「まだ半分くらい凍ってるからね、口の中に入れたらちょうどよくなるくらいの厚さにしてみた」
復活した恵里香さんはお皿と箸を受け取り、薄めに切ったお刺身を口の中に次々に放り込んでいる。
薄く切ってあるので2枚重ねて食べたりもしている。
「はぁー…やっぱりマグロですよマグロ、わけの判らないサメよりは断然こっちですよ!
あー…おいし…」
すっかり元に戻ったようで何より、夕食まではまだ時間があるし、色々仕込んで来ようかな。
ご飯は少し水分少な目で炊いて、お酢と合わせる。
お刺身用の柵も形を整えて寿司ネタにも使えるように、端材は細かくして海鮮巻きに…
こうなるとイカもタコも鮭も欲しくなるな、ちょっととってくるか。
サメも4匹ほどヴェスティアに渡しておこう、予定より大きいのが捕れたし、こちらは1匹でも足りるだろう。
屋敷に戻り、鮭とイクラ、イカとタコを少し拝借、代わりにサメ4匹分のブロックや柵を置いていく。
種類は少な目ではあるが十分と言えば十分…かな?
大葉とゆずもいくらか収穫してから帰り、夕食の準備の続き。
サメの柵を1本切り、ゆずに漬けて香り付け、他の柵も角を落とし、細かく刻み混ぜ合わせたら刻んだ大葉と一緒に巻いて予定通りに海鮮巻きに。
大トロの方は中巻きで、こちらは恵里香さん用。
他にも唐揚げや天ぷらの準備が出来たら食堂に持ちこみ、その場で料理を作る。
時間は…ちょっと早い位だけどまあいいや。
予め作って置いた巻物を切り分け、海鮮にはイクラを少しだけ散らして葵さん達に渡していく。
大トロの中巻きは恵里香さんだけ、代わりにゆずで少し香りを付けたサメの中巻きを葵さん達に。
「お試しで煮付けにムニエル、から揚げを少量作っていたので火を通した物かと思えば、最初に頂いたお刺身と同じく生できましたか」
「こういうのもたまには悪くないでしょ?」
あまり品数は無いが種類は作れる。
「この中巻きサメとは思えませんね、マグロとはまた違ったうま味も有り、脂ものっているので甘みも有り…」
「日が立つと駄目になるから、こればかりは今日限定だねぇ」
わさび控え目、ゆずに少しだけ漬けて置いたサメの切り身を握りに。
「こちらも臭みが無く仄かなゆずの香りで包み込んでいてこれもまた…」
葵さんの感想を聞き、恵里香さんがチラチラ見ているので中巻きと握りを出してみよう。
「はい、どうぞ」
「あ、どうも…
…あ、結構おいしいですねこれ、サメってアンモニア臭いって聞いてたので嫌厭していましたが、これは臭いが無いですね」
「臭うのは死んでから暫く立ってからだしねー、でもこうやって食べれるのは今だけだね」
「なるほどー」
中巻きと握りのサメを交互に食べつつ味を確かめているようだ。
「サメはサメで美味しいですねぇ、マグロとは違うので比べられませんが」
「そもそも種類が違うしね」
サメはサメ、マグロはマグロ、イカの味比べに対してタコを持ち出すような物…か?
「大トロもまだまだあるけどどうする?」
「それはそれ、これはこれ、お刺身と握りと炙り、ついでに丼で」
「はいはい、ちょっとまってね」
葵さん達の注文もこなしつつ、恵里香さんの注文もこなしていく。
「鮭の握りと親子丼大盛りで」
「ロザリアは鮭が好きだねぇ」
「なぜ何でしょうかね…?自分でもよく分かりません」
「元が熊だからイメージに引きずられている…のかもしれませんね?
木彫りの熊とか大抵鮭を咥えていますし」
「なるほど?」
ただ食べているものの1つにしか過ぎないとは思うのだが…ダイコンなどの野菜などを咥えていたりでは格好がつかないから…かな?
「いやー、満足しました、後はお刺身でお酒と一緒にですねー」
「薄切り?厚切り?」
「少し厚めで半分炙りで」
「はいはい」
大トロを少し厚めに切り、半分は炭火で表面をさっと炙り、氷水に入れて火が入り過ぎないようにする。
柵はまだ残っているので表面に塩を振り、炙りと同じ様に表面を焼いて氷水の中へ。
冷えたら取り出してお刺身のように切り分け、広げて並べ薬味にネギと刻み大葉、下しニンニクを添えて置く。
「大トロのたたきとは贅沢な…」
「塩がわずかだけど入っているから、そのままでも良いし、お刺身みたいに醤油とわさびでも、薬味を付けてポン酢でも」
表面は香ばしく、ほんの少しの塩味で甘みを引き立たせ、醤油でも美味しく、ポン酢でもさっぱりとして美味しく。
にんにくを巻いて食べるのも良い。
「お酒の肴が全部大トロとか、こんな贅沢滅多に出来ませんよー」
お刺身や炙りを食べてはお酒で流し込む、少しだらしない顔になっているが、それだけ幸せを感じているのだろう。
「そのさっきから叩いているのは何ですか?」
「マグロの筋、食べやすいように細かく叩いているだけだよー」
「美味しいとは言いますねー、筋だけで食べる事が無いので何とも言えませんが」
「採れる量が少ないからこれはこれで贅沢な一品だね」
叩き終わった筋を小鉢に入れ、醤油を少しとネギを散らして渡す。
「んー、どれどれ…
うわっ…うま味が凄い…」
すでに柵になっているから、筋を避けて切り、筋は筋で取って置いたんだよねー。
余すところなく味わい、食べ尽し、空き瓶も2本になった所で…
「もう…思い残すことは有りません…」
そう言い残し、突っ伏して眠り始めた。
大トロの柵10本、全部1人で食べきるとは、中々に健啖家なようで。
潰れた恵里香さんを引き取って貰いお片付け。
寿司飯はあれど、切り身やいくらは残っていない、冷蔵庫の中は…明太子が1本…恵里香さんの晩酌用だった奴か…?
…ふむ。
大トロで満足していたので明太子を拝借、皮と卵を分け、皮は叩いて細かく、三分の一はそのまま、もう三分の一はマヨネーズと混ぜ、残る三分の一を刻みネギとごま油と混ぜ、3種の明太子丼の出来上がり。
これだけだと少し寂しいし、まだ切り分けていないサメをから揚げにして食べようかな。
「私の明太子が冷蔵庫から消えているんですけど」
「恵里香さんのかと思ってた…はい買ってきます…」
翌日、冷蔵庫を漁っていた葵さん、明太子は葵さんのだったらしい…
まあそう言う事も有るか。
壁に話しかける
とても辛い事が有った…マグロと思ったらサメだったという辛い事が…
のの字も書いてる
大トロの柵10本
鮮魚から刺身用が6本、寿司から寿司ネタ用が4本
いつも応対してくれる人は休みの日でいなかったのでちょっと時間がかかった
木彫りの熊に鮭
多分ダイコンだと何とも言えない感じになる
野生動物だとえぐい感じになる、イメージ的にはやはり鮭か…
明太子
恵里香さんの晩酌用…では無く葵さんの朝食用
白ご飯に乗せたり、焼いたり、明太子トーストにしたり色々




