一気にやるのはダメ 意外と少ないけど限度はある
「昨日の今日ですけどどんな感じです?」
「んー?ネルちゃんとサーヤちゃん?」
「そう、ネルさんとサーヤさん、そうすぐに良くなるわけではないってのはわかってるんですけど、アレを見たらやっぱり気になりますし心配もしますし」
「今のところ順調に回復していってるよ?意識は意図的に奪って昏睡状態にしてあるから起きてくる事はないけど、昨日言ったとおり性病はすべて完治で健康な人より健康な状態、と言いたいところだけど…傷ついた内臓とかはそうすぐに戻せるものでもないし、一気に直そうとしたらそれなりにエネルギーも消費するから昨日の時点では性病を治すのが限界ってところかな?
サーヤちゃんも薬物を抜くために水分を入れて出す物は全部出させつつ狐さんの薬で完全に分解、後遺症も禁断症状も完全に出なくなるまで無害化してボロボロになった内臓を再生中って感じかな?
繋がれて食事も最低限どころか…って状態だったし、体力も相当落ちてるから治療の方も無理は禁物でのんびりよ、その辺は外科とかの体力を消耗する治療方法と同じ、切ったり開いたりして血もそれなりに…って事はないぶん消耗は外科手術より少ないけどね」
「投薬もきつい物だと体調なんかに合わせますし、完治させるほどとなると一般的な薬どころじゃないくらい消耗しそうですし、とりあえず投薬しておけばいいってわけじゃないのも辛いところですね」
「免疫力超向上とか体に良くないものを攻撃させて無害化とかそんな感じだしね、そのための補助剤として栄養剤も点滴で入れてるけど、いくら吸収効率がいいといっても体が一度に吸収出来る量にも限界はあるし、重症でも慌てず騒がず優先度の高くてかつ今治せるところから少しずつね」
「外科手術も時間をかけて体力を回復させつつ何度かに分けてやる事もありますし、焦ったら逆に悪くなりますよね、大体は体力をつけて免疫力も高めて進行を遅らせますし、癌は逆に体力があると一気に進行しますけど」
「それは正常な細胞と誤認させて増えるってのもあるし、正常と認識させているからこそ免疫力があっても意味はないし、栄養もどんどん運び込まれてきて…だからねぇ。
とりあえず洗い物が終わったら体を拭いたり排泄物を溜めるパックを交換しないとね、それから点滴の交換に栄養剤の追加に新しい薬…それと目が覚めて暴れないように昏睡させておくための薬も投薬しないとだねぇ」
「こん睡状態にさせておくのは必須ですか?」
「程度の違いはあれどネルちゃんも薬漬けにはされてるわけだし、禁断症状とかでちゃうから眠るというより昏睡させておく方が体力も使わなくて済むし回復も早まる、禁断症状の中には自傷を始めるタイプの物もあるし、薬も1種類じゃなく複数種類に混合物とかいろいろだし、抜けきるまでは昏睡を維持しないとね」
「こっちの医療だと暴れてもいいように完全に拘束して薬を抜く方法を取る事もありますし、それを考えれば精神的にも肉体的にも負担は少ない…んですかね?投薬して昏睡させつづけるとなると分量を間違えたら永眠しかねないのでこっちではまずやらないでしょうけど、後周りが確実に非人道的だなんだと騒ぎますね」
「人道的かどうかより患者の負担を極限まで減らして治せるかどうかの方が大事だと思うけどね、後遺症もなく禁断症状も完全になくせるなら抜けきるまでは昏睡させておくのがいいのよ、落ちた体力なんかはリハビリで戻せばいいだけだし、半年から1年寝たきりってわけじゃないからそんなに落ちないし」
「こっちにはそこまで短時間で完全に抜いて依存症すらなくす方法はないですし、同じ方法をとったら問題しか出ないでしょうね、よし洗い物終わりー、私は仕事の方に行きますのでまた何かあったら仕事部屋までー」
「はいはい、何かあったら呼ぶねー」
「ただいま戻りました」
「おかえりー、保管庫の方はちゃんと出来た?」
「はい、今後数百年は何の不備もなく後遺症もなく完全に解凍して使う事が出来るかと、それと昨日は戻らずあちらに滞在していたのは主様が引き上げた後に局地的な天変地異が始まりましたので、少し急いで保管庫へ移す玩具の選別をしていたからですね」
「あー、すぐ始めるような事は聞いてたけど、本当にすぐ始めてたんだ」
「私が引き上げる頃には九割方崩壊、火山の噴火に大地震に津波に地割れ、さらには地形を無視した大型のトルネード、原子力発電所も緊急停止するまもなくすべて爆発、その他発電所もすべて倒壊ダムも当然崩壊、たった一晩で国民の98%が死亡と滅多に見る事が出来ない素晴らしい光景でしたよ。
私達の場合は多くても一度に十数人といったところですし、国一つ丸々崩壊させて混乱を招き慌てふためく様を見つつ…という事はしませんからね、かなり新鮮な光景でした」
「インフラから何まで完全に崩壊してるだろうし、生存者が2%だともう放っておいても勝手に死ぬだろうね、少しの間は無人になったスーパーやコンビニで略奪をすれば食料はどうにかなるし、物資もある程度は何とかなるけど…」
「補充される事は絶対にないですし、原発もすべて爆発事故を起こして国内全土ほぼすべてが汚染状態、また着陸するための空港もなくヘリで行ける距離でもなく、海は荒れて津波も断続的に発生して船による接近も不可、海から離れた内地もまだ地震は発生して身動きがとり辛いですし、完全に収まる頃には1%未満まで人口が減少、復興もできなければ支援もまず届かないので緩やかに滅んでいくでしょうね」
「ま、何もしていない人は巻き込まれて不幸だったねの一言で済ますしかないけど、恨むならその原因を作った人達を恨んでねって感じだぁね、そっちの赤い瓶取ってー」
「どうぞ」
「はいありがと、えー…んー…今の状態ならこんな物か、このまま入れると濃すぎるから点滴と混ざってゆっくり体に入っていくように調整して…これでよしと、次はそっちの緑の瓶を頂戴ー」
「どうぞ、それにしても並んでる薬瓶の数が凄いですね」
「薬物を抜いたりするための物だけじゃなく、弱ってるから風邪をひく可能性もあるし、それ用の薬も一応用意してあるからどうしても種類が増えちゃうのよね、だから並んでるうちの半分以上は使わないまま終わる事もある、というより使わないで済む方がいいんだけどね、それらを使うという事は治療中他の病気を発症したって事だし」
「人の体は脆いですからね、もう少し強ければ病気にもならないでしょうに」
「普通の生物である以上はどうにもならない問題だね、さて、今日出来る事はもう無いし…」
「ゲームですか?」
「いや、残ってるカニを使い切るための仕込みかな?」
「あぁ、あのバカが食べたいって言った結果捕ってきたアレですね、邪神として崇められているような存在でも規格外とか常識外れどころじゃない物を出されると完全に停止するというのが分かって面白かったですよ」
「アレでも中くらいなんだけどね、大きいやつはもっと大きくで身もさらに締まっててぶりんぶりんしてて甘いのよー?それに普通のカニより鮮度がちょっと長持ちで1週間くらいは食べる寸前まで生きてたのと変わらない状態で新鮮、ただそれ以降は急激に鮮度が落ちて身がぐずぐずになるのが辛いところ、腐るとか食べれなくなるってわけじゃないんだけどね」
「とりあえずお手伝いします」
「はいはい、それじゃあ台所に行ってばらしにばらしたカニを引っ張り出しましょうかね」
「こーばーらーすいたーよーなんかたーべよー…ってなんかいい匂いするな、何を作ってるんだ?」
「カニ殻のビスク、まだ仕込みの段階で殻を焼いてるところだけどね」
「カニかー…身は美味かったが殻とか食えるのか?」
「食べれるよー?ビスクはザリガニとかエビとかの殻を使うんだけど、カニも殻から出汁を取って味噌汁なんかのスープにしたりするし、ちゃんと美味しい出汁が出るからビスクもちゃんと美味しいのができる。
ただ見ての通りしっかり身と殻を分離、生焼けでもなく水分をほぼ完全に飛んだ状態にかつ焦がさないように焼いて、その後砕いて香味野菜と一緒に煮込んで、トマトにクリームと入れて徹底的に砕く、舌触りが悪くなるといけないから念のために漉して…というのを今からやらないといけない」
「すぐ食えそうな物ではないってのは分かった、他には何かないのか?」
「台所に来ずともゲームセンターの自動販売機を使えばいいでしょうに」
「自動販売機で売ってる食い物も美味いし全部手作りなのはわかってるんだけどさー、つまみ食いって感じがしないじゃん?つまみ食いをしてこそ満たされるものあるんだよ」
「私にはわからない感覚ですね」
「お前も基本働かず台所に忍び込んで碌に調理されてないそのまま食べれる物を摘まむようになればわかるぞ、他には調理中の出来た物を横から掻っ攫っていくとかな」
「それでよく信者が離れていきませんね、崇められている神が夜な夜な冷蔵庫を漁ってつまみ食いをしてるところを見たら幻滅どころじゃないでしょう」
「俺の周りはそんな事じゃ動じないやつしかいないし、勝手にあーだこーだと尾ひれはひれつけてイメージを作ってんのは下っ端も下っ端のやつらだけだ、それと下っ端からぽろっと漏れた情報とかどこかしらで流通してる写本なんかで情報を得ただけのやつとかもあーだこーだと姿形も勝手に作り始めるし、共通してるのは黄色い衣だけってのもあるんだぞ?
それに物によっては黄色の衣の中身がシアエガになってるとか、衣の中身は深淵でお前と混ぜられた者になってることもあるしよー…もう滅茶苦茶だぜ?」
「それはいい気がしませんね、何が悲しくてハスターと混ぜられなければならないのか」
「俺も嫌だよ、かといって本当の姿を晒すと身の回りの世話をしてる司教から大司教じゃないと恐怖で狂っちまうし、写真もダメなら絵もダメ、口頭でもイメージが上手く伝わってしまうとそれだけで発狂ものだな、そうならないよう人前に出ても大丈夫なよう人と同じ姿になって普段は活動してるわけだが…結果として下っ端には教団の教皇でただの一番偉い人って感じでしか伝わってないのがなー…」
「変なところで苦労してるね、はい、生カニといくら丼、ぱっと出せる冷蔵庫の中の余り物はこのくらいだね」
「このいくらってこの国では普通に常備してるものなのか?美味いからいいんだが」
「普通は常備してない、それなりに高級な物に入るし、生ものに入るから長持ちはそんなにしないし、ここと好きな人くらいじゃないかなぁ?」
「そんなに高い?」
「今ハーちゃんがかきこんでるいくらならキロ8万くらいの高級品、とはいっても流通してないここで養殖してるそれ用のトラウトから作ってるやつだし、売るとしたらそのくらいの値段になるよねーって感じ、一般に流通してるのはいいやつでもキロ1万いかないくらいよ。
最近は養殖で安くなってるからキロ2000円ってやつもあるけど、そっちはこれと同じトラウトだね、品種は違うし大きさも違えばプチプチ感もない微妙なやつだけど…まあ常備するってまではいかないかなぁ?」
「安くても常備するまでいかないのか」
「まあ、キロ2000円とはいっても加工前、味付けもしてなければ卵巣そのままだから処理するのが面倒というのもあるし、養殖で育ちきってない若い個体の卵巣だから卵が柔らかすぎて加工しにくいのよね、もっと若くて小さいのはすじこっていう卵巣ごと漬けた1本300円もしないものになるし、それはそれで高くつくのよね。
そして、一番の問題が…」
「食べ過ぎると中毒を起こすとか?」
「いや、痛風になる、言われてるほど多くはないし早々なる事はないんだけど…常食するとどんどん蓄積していくし、醤油に漬けるから塩分もどんどん摂取して糖尿も併発する可能性が高い、だから普通の人の家では常備しない市場食したりするのはよほど好きな人くらいって感じ」
「痛風なー、俺の住んでるところでは聞かないが、国外の末端とか下っ端が住んでる国ではあるみたいだし、かなり痛いとは聞くな」
「プリン体やらなんやらを完全に分解して結晶化させずに排出出来るならなる事は無いんだけどね、この国の人の場合は割と好んで食べるんだけどその能力には乏しい、なので常食したら体から出してしまうより溜まる方が早いから痛風や糖尿にって感じよ」
「ふーん、まあ俺には関係ない話だな、よし、小腹を満たした事だし、ゲームに戻るか、ニャルも兄さんも1号が待ってるから早く来いよー?」
「仕込が終わってからねー」




