説得力の問題 必ずどこかで手が入る
「おはようございます、昨日はすみません、食事の途中で寝てしまって」
「おう、きにすんな、そういう休みのない労働環境にする方が悪い」
「したのはアヤカ自身というか国というか納得のいかない住民なんですけどね」
「どういうこっちゃ?」
「先月に国外の方で死者数百、島国でしたので流されて行方不明になったのを含めれば3000人ほどが地震とそれによる津波の被害を受けてるんですよ、それでこの国はその国より地震は頻繁に発生しますし、震度もさらに上の物が多くまたそれらによる津波高波も同じくらい発生する。
なので心配になった人に今の耐震装置を入れた建物であれば地震は何の問題も無い事、津波も最新の防波堤により届く前にちょっと海が荒れている程度まで抑えれるという事、地滑りに液状化も全て対策されているので震度7強や8以上が12時間続いたところでびくともしない。
まあ人が住んでいるところと地滑り等を起こした時に影響するところだけ、の対策ではあるんですが、耐震装置は補助金も出ますけど家自体を持ち上げてその下に埋め込む、さらに水道管から何から全部柔軟性があり圧力による破裂も破損もしない物に取り換えるのでなんだかんだで100から300万はかかりますし、今までの地震でも倒壊しなかったから問題ないって感じで入れてない人も多いんですよね。
なのでその重要性や地震による被害津波による被害は現状ほぼないと説くために国から呼び出しがかかって、装置の開発者兼国内で一番大きく大体なにかしらの建築に関わっている土建屋のアヤカが国内巡業をして説明会をね?」
「縦揺れ横揺れどちらの揺れにも対応ですし、まずあり得ないであろうといわれている8強や9の地震でも建物内は全く揺れない、20時間以上続いても装置は壊れず誤作動も起こさない、耐用年数も30年とはしていますが、それは毎年震度7の地震が発生した場合であって、それ以下なら50年からは持ちますし、1年に1回のバッテリーチェックと充電をしっかりしていれば大地震が発生しても倒壊は起こらず普通に生活を送れるんですよ。
でも実際に発生するまではわからないって人が大半ですし、信じられないという人も多く先月の地震で本当に大丈夫なんだろうな?という声が多く騒ぎになったので説明会という国内巡業を40日少々で終わらせた感じです」
「そもそもあの国の場合地震とはほぼ無縁で地震の発生自体が140年とか150年振り、かつその時の揺れも1以上2以下みたいなすごい小さい地震が10秒くらいあっただけ、今回の地震もこの国からしたらあー揺れたねぇってくらいの震度4弱なんですよ。
でも意識の違いもあって国民は一時的にパニック、耐震も基礎もないの倒れるまではいかなくてもちょっとビルが傾いたり、あっても4階で縦長じゃなく横長だったのでちょっと傾くくらいで済んだ感じですけど。
で、震源地はかなりの沖で津波も当然3から4メーターほどの物が発生してたんですが…津波って地震が終わって少ししてから来るんですよね、なので落ち着いた時に被害を特に受けなかった人達が海に出まして、その島国はほぼ常夏、時期的に観光客もいればサーフボードで遊ぶ人も多いですし、ビーチはパラソルにチェアにとずらーっと並んでるんですよ。
そしてもう1つ、地震がほぼないということは津波も未経験、それで高い波が来たぞーってサーフボーダーはこぞって海へ、環境客はビーチからそれを見物、地元の人も少し高いだけの場所から波を見物、そして見事にビーチにいた人全員流されました、その数約3000人、うち見つかったのが数百人で助かった人はゼロです」
「この国だと津波は地震のたびに発生するので慣れてますし、対応方法も知ってるのでまずそこまで行方不明者も死者も出ないんですが、それでも地震の多い地域だからこそ不安になって…という感じでうちの耐震装置を補助金を出すから取り付けてねと勧めている国に問い合わせ、うちに持ち合わせが殺到してパンクして業務が滞る状態に、それでずーっと休みなく国内を走り回ってたわけです。
それはもう南の果てから北の果てまで車に船に飛行機にヘリコプターに、移動している間は休めますけど1時間あるかないかの超過密、各市町村1ヶ所に纏めて呼んで説明ができればいいんですけど、人数が多く収容できる場所もないのでそうもいかず…
1時間から2時間ざっと私の方から説明等をしたら後は部下と役所の人に引き継いで耐震装置導入の勧めと補助金がどうなってるかの説明、工事期間がどのくらいでどうのこうの、私は車で隣町に移動して集会所等でまた同じだけ説明、それを朝の6時から21時までずーっと…自動運転の車じゃなかったらどこかで事故を起こしてたんじゃないですかね?
21時に終わったら6時まで休憩時間あると思うかもしれませんけど次の日に回るところの資料はちゃんと用意できているのか、耐震装置の導入を決めた人との話し合いをいつにするか、その他色々やる事があるので寝るのは2時とか3時になるんですよね…」
「飯を食う暇もほとんどなさそうだな」
「食事はもう車で移動の合間に水分補給等も兼ねてカロリーバーや飲料で誤魔化してますよ、夜も次の日の準備をしながらになるのでお店でゆっくり食べるとか出来ませんし、たまにコンビニ弁当を食べるくらいでしたね」
「誰も止めんのか?」
「この国には労働基準法なるものがありますけど、あれは雇用主とか国のお役人は守ってくれないんですよ、それに説明会なんかは一番偉い人がするのとそうでない人では説得力が全然違いますし、よくわからん男より若くて美人のアヤカの方が言う事を聞く人が増えますし、それもあって誰も止められない状態になってる感じですね」
「女性の社員も居るには居るんですけど、基本的にはデザインや事務仕事が多めですし、説明会を任せるとそれはそれで別の業務が滞るんですよね、それに現場に出てない事務やデザインの人よりは現場に出ている人の方がどういうものであるか、工期は大体どのくらいであるかというのも把握してますし、私が説明をした後は実際に現場で監督をしている人に引き継ぎといった感じで各地を回ってました」
「それで、1週間休みということは説明会はもう終わりですか?」
「説明会の方は、休みが明けたら耐震装置の取り付け、または建て直しの申し込みの処理ですね、全部が全部うちでやるわけではないので8割前後は各地域を担当している建設業者に引き継ぐだけですけど」
「はーい、朝ご飯出来ましたよー、今日は朝からがっつりガーリックビーフステーキ、鳥も使わないとだけど華ちゃんが持って帰ってきてくれた牛ブロックも早めに使い切らないとね」
「牛かー、食べない事は無いが久しぶりに食べるな」
「住んでる場所が南印に似たような場所だと宗教上水牛をたまに食べるくらいでしょうし、ステーキなんかまず出てこないでしょうね」
「ないない、水牛は基本的に角切りにしてカレーになるかミンチにしてジャガイモやらパクチーを混ぜたペーストにしてバーガーになるくらいで、こういうステーキみたいにして出す店があったら襲撃されてもおかしくないぞ。
豚も当然の如く取り扱ってる店は存在しないし、豚と牛の加工品なんかも輸入禁止になってるから入ってこないし、大分緩くやってる俺の教団も近所トラブル防止でその辺りは基本食べないようにしてるよ」
「あの辺りの宗教って決まり事を守って過ごしている間は大人しいんですけど、戒律を1つでも破るとびっくりなくらい過激なことをやり始めますよね」
「戒律を破ったやつは人じゃなくなるからな、最悪殺しても無罪だ」
「他の宗教を認めないってわけではないですし、明らかに別宗教だなってわかる場合特に何も言いませんけど、同じ宗教の場合は本当に流血沙汰になりますからねぇ…」
「その分鳥と魚を大量に使うから鳥と魚はかなり美味いぞ、基本的に全部マサラ風味になるけどな」
「あちらでは基本的なミックススパイスですし、そりゃ何にでも入ってきますよね、洋食に使うハーブやコショウと同じ立ち位置ですし、使用量と味付けが違うだけで香りはほぼ同じっていう」
「マサラ自体に味はほぼないんだけどな、だから大陸から入ってきた醤と併せたマサラもあるし、ラー油みたいな感じで作ったマサラオイルもある、味噌を模したマサラ豆ペーストってのも作ってるぞ」
「味噌は確かにペーストですけどあれは発酵食品で基本的には塩味ですし、見た目だけ似てるだけで完全な別物だと思いますが…」
「こっちは蒸して潰した豆にマサラと塩なんかの調味料を混ぜてひまわり油を添加、熱を加えながらよーく練ったら出来上がりみたいなやつだな、缶詰とか袋にパック詰めされて1キロ1ドルくらいで売ってるぞ」
「そういえばそっちだとルピーじゃなくてドルなんですね?」
「あー、そうだな、国外から来るやつも多いし、ルピーも使えるんだが大体はどこの店もドルが使えるようになってるよ、あまり言うとあれだけど隠して持ち込むやつってどこにでもいるじゃん?そういうやつってドルで支払いができる店とか交換できる店を探すから、そこらじゅうの店が申請している以上に金を持ち込んだやつから巻き上げようとドルを使えるように対応してるんだよ」
「あぁー…お金って持ち込み制限とか結構ありますもんね…」
「タバコなんかの密輸だったりに使われる事も多いが、持ち込んだ以上のドルをルピーに変えようとすると疑われだろ?だからそこを逆手にとってルピーに変えずそのままドルを吐き出させて品物を買わせる、密輸しようとしてたら後は税関で止めて没収、そのまま現地でただ使うだけなら気持ちよくおかえりいただく、そうやって稼いでいる間にドルで買い物できる店が増えていって普通にドルが流通し始めたわけだな、だからルピーでもドルでもどっちでも買い物ができる」
「両替をする必要なく観光ができるなら旅行者にとっては楽…なんですかねぇ?」
「あまりいい事ばかりではないけどな、両替せずそのまま入国して過ごすということはどれだけお金が出入りしたかわからないということでもあるし、環境客が持ち込んで支払ったドルを給与の支払いに使ったりもするし、今どれだけドルが入ってきてるかわからない状態になるっていうすんげぇデメリットがある、まあそもそも隠して持ち込んで葉煙草やら紙巻、水煙草の密輸をするなっていう話でもあるんだが」
「よほど発展しないとそういうのは防げないでしょうねぇ…」
「ま、どうにもならんしどうでもいい話は置いといて、マサラ豆ペーストはいいぞー?お湯に溶かせばそのままマサラ豆スープに、炒め物にも使えるし煮込みにも使える、鳥をよく食べるから唐揚げをよく作るんだが、適当に切った鳥に豆ペーストと小麦粉もしくはコーンスターチを混ぜて馴染ませて揚げるだけど使い勝手がいいんだよ。
ドーサなんかにも使うしピザ風ドーサにも使う、さらには餃子の下味にも使ったりと料理には欠かせない存在になってるね」
「味噌風というか固形醤油…出汁やら何やら全部一纏めにした調味料みたいな感じですね」
「そんな感じかな?豆とマサラと塩と油だけで作ってるから全部纏めたっていうやつほど複雑な物ではないが、マサラはメーカーによって香りが変わるし、個人で作って売ってるやつもいるし、店秘伝のペーストもあるし、うちの教団もペースト工場を作って収入源にしてる」
「香りと製法は違えど…まあ味噌とか醤油みたいな物には変わりはないっぽいですね、調味料ってそんなものですけど」
「新しい物がどれだけ入ってこようが根本は変わらんからな、絶対どこかしらで手が入ってその国に合った物にアレンジされて根付く、原形を保ったまま根付くのは極稀だな、ラーメンもこの国と俺の国とじゃ全然違うものだし」
「あー、あっちは麺をぐでぐでになるまで茹でて冷ましたものを使いますからねぇ、こっちは茹でて湯を切った直後の物を使いますし、スープも作り方からして全然違いますし、こっちの人が見たらそんなもんラーメンじゃねぇよ!って突っ込む人が多いんですよね」
「刻んだから揚げに千切りキャベツ、その他野菜を色々入れて炒めてマサラと塩で香りと味付け、その上からスープを注いでラーメンスープの出来上がりってな」
「近い物でいうなればカレーちゃんぽんですかねぇ?具はちゃんぽんより少ないですけど」
「ニャルのところで食わせて貰った事のあるちゃんぽんってやつに作り方が似てるといえば似てるな、あっちは麺も一緒にスープで軽く煮てたが」
「でー…何の話でしたっけ?」
「何の話からこうなったんだっけな…まあいいや、ステーキおかわりくれ、国に戻ったら当分食えなくなるし、ここで食い溜めしておかないとな」
「はいはい」




