楽な物はないけど比較的楽 消さないと悶絶する
ふんふんふーん、ふっふふっふふーん、ふーわっふーわっふーわっふーわっふー、わっふふー…よし、冷却して圧力を一気に抜いたところでお鍋の蓋を開けまして…
「何やってんですか店長?ステップを踏み始めたかと思ったらすぐ素に戻るとさすがにちょっとビビるんですけど?」
「いやー、圧力鍋って圧力を一気に抜いてる間は基本放置だから暇になるじゃない?だからひよこちゃんにならってちょっとステップをね?」
「傍から見てると急に頭のネジが外れたようにしか見えないです」
「で、圧力鍋で煮込んでいた物を取り出しまして」
「あ、スルーされた」
「この柔らかくなった豚バラ軟骨、これに砂糖醤油酒に照りを出すための味醂、そしてちょっと隠し味に鷹の爪を少々入れてさらに煮込みます」
「無かった事にして淡々と料理を進める店長の頭の中ってどうなってんでしょうね?」
「無かった事にはしていない、ただ何も答えないだけ、そして豚バラ軟骨を煮込む時のポイントというか、脂が浮く筋や軟骨を煮込む時は1回目の煮込みで浮いた脂を出来るだけ除去、煮込む時の水は筋や軟骨がひたひたに浸かる程度までにしておく事、圧力鍋は水分が飛んでいかないからね」
「説明されたところでうちのカレーはビーフカレーですし、そもそも豚を取り扱ってないです」
「浮いた脂は脂でまた別に使うので取っておきまして、調味料を足した時の水分がちょっと少なかったらちょっと水を足す、そしてまた圧力鍋で煮込みます」
「もう店長の考えている事がさっぱりわからないの…これどうすればいいの?」
「好きにやらせておけばいいんじゃないですかね?カレー作りの邪魔をしているわけではありませんし、いつものお昼ご飯じゃないんですか?」
「いやまあ…そうなんだろうけど…隣でいきなりステップを踏み始めたかと思ったら急にスンっと落ち着いて止まるのはびっくりするわ、いきなりステップを踏むのもびっくりするけど」
「軟骨をまた煮込んでいる間に…次がこちら、昨日から寝かせていた生地…で、作った麺」
「大分端折りましたね、5分クッキングもびっくりするレベルで工程を素っ飛ばしましたよ、5分クッキングですらせめて過程は見せるというのに…」
「さすがにここの厨房だと麺打ちは出来ないよ、結構な量の打ち粉を使うし足元とかその周辺とか粉だらけになるから掃除がね?だからもう茹でるだけの状態にしてきた物を持ち込むよねって」
「あー…なら納得、掃除するの私達ですもんね」
「取り出して置いてなんだけど麺はまだ茹でません、軟骨の味付けが終わってないから」
「じゃあ何で出したんですかね?」
「なんとなく?とりあえず今日のお昼はこの麺で何を作るかというのを察して欲しい」
「普通にラーメン…ですかねぇ?スープらしき物は見当たりませんけど」
「近からず遠からず、完全をお待ちください…で、次にご用意させていただきましたのがこちら、キャベツ、もやし、ニンジン、キクラゲ、カマボコの5つ、キャベツは適当にザクザクっと荒く、にんじんは短冊で薄く、きくらげは2ミリ幅くらいで細切りにしてカマボコも薄く切ったら火の通りなんかは気にせず纏めて炒めます」
「ドカ盛りとか家系とかかなぁ?」
「次に豚バラ軟骨出た脂をターっと上から流しかけて絡めて、これまた時間が掛かるから前日から作って冷やし固めておいた濃縮豚骨スープ、これをお玉一杯と水を適量入れて豚骨スープを伸ばします、そして軽く煮込んでいる間に先ほど用意した麺、これを粉を落としつつくっ付かなくなる程度茹でまして、表面に火が入ったら取り出して野菜を煮込んでる鍋で麺を煮込みます。
どろどろのスープがいいなら打ち粉を落とさずに放り込むと打ち粉で粘って麺とか具材によく絡むドロッとしたスープになる、今回はさらっとした感じにする打ち粉を落としてるけど」
「そういえば打ち粉付きの麺をスープの中に放り込んで茹でたらどうなるんですかね?火が通らなくなるとか?」
「ちゃんと火は入るよー?ただちょっと通りにくくなるのと、スープ自体に麺とは違う打ち粉の香りが移る、でも不味くなるって事はないよ?作り方も簡単で麺を別に茹でるかスープ1人分取ってスープで茹でるかってくらい。
で、麺に野菜と豚骨の出汁を吸わせつつ茹でている間に味付けが終わった豚バラ軟骨、の圧力をまた一気に抜く、抜かないで開けると爆発するからねー?炭酸ジュースの炭酸を少しずつ抜くような感覚でやれない事もないけど、冷やして抜いた方が味がより入るからね」
「煮物なんかは冷える時に味が入っていくってやつですね」
「そうそう、そして圧力が抜けたら蓋を開けて、この煮汁、これをお玉に少々掬って麺と野菜を煮込んでいるお鍋に入れて味を付けたら丼の中へ、麺が下野菜が上とか気にしない、麺に野菜が絡んでるのも気にせず丼へ、そしたら豚バラ軟骨を乗せて…
完成したのがこちら、軟骨ソーキちゃんぽん、手が空いた娘からお食べ、刻み葱もあるからお好みでどうぞ」
「アレだねー、ここで店長が作ったお昼ご飯を食べると休みが完全に終わったんだなーっていうのが一気に来るねー…時間よ戻れー!って言ったらまた長期休暇前に戻んないかなぁ…」
「戻らないからしっかり働こうね?」
「ちくしょー…私もリオさんみたいに月1だけの仕事で暮らしていけるようになりたーい…」
「タカミヤには無理でしょ、プロ中のプロだから実働は1日だけどそれ以外の日はトレーニングで体型を崩したらアウトだし、かすり傷1つ付くだけでも仕事が吹っ飛ぶんだよ?」
「ならせめて動画配信で楽して食べていく方向に…」
「この世界にそんな仕事はないよ、全部放棄して葵さんの家に移住を決めるなら可能だろうけど、何の動画を配信して稼ぐ気なの?」
「んー…だらだらとゲーム配信?私達の世界にも居たじゃん、だらだら面白くない話をしながらゲームするだけで1万円がポンポン飛んでくる人が、アレな私でも出来るんじゃないかなーって?」
「アレは稼げてるように見えて意外と稼げないからおすすめはしないかなぁ…?個人でやって当たれば稼げるには稼げるけど、アイドル路線なら毎日生配信でのプレイとか、そうじゃないなら更新頻度高めで編集有の動画を投稿するとかしないとだしでやる事かなり多い、だらだらやって稼げたりはしないのよ?
固定ファン、いわゆる信者を大量に獲得すれば1年で1000万からは稼げるだろうから、稼げるだけ稼いだらスパッと引退コースがいいかな?だらだらと長く続けようとしちゃダメ、1号みたいに登録者数が600万超えてて、その600万全員が必ず1回は動画を見ているというのであればだらだら続けてもいいかもしれないけど、登録者の8割から9割は登録したまま解除するのが面倒で放置、実際に見るのは残ってる1割だけとか新規でちらっと確認がてら見るだけとかそういうので、登録者の割には再生数は増えないし稼げないって状態になる」
「信者と固定ファンだけじゃどうにもならないんですかね?投げ銭で結構いけそうですけど?」
「長ーく付き合いを続けるとトラブルの元になるのよね、ファンと信者は付き合いが長くなればなるほどちょっとした事で反転して攻撃してくるようになるから、そうなる前にスパッと見切りをつけて辞めるってのも大事。
よく言うでしょ?信者と書いて儲け、搾り取るだけ搾り取ったら判定して攻撃してくる前に今までありがとーって感じで綺麗に締めて消えるのが一番安全だし気楽、長く続けるなら1号みたいに図太かったり1人で何でも解決できる無敵の存在になるか、恵里香さんのチャンネルみたいにいろんな企業をスポンサーに付けて攻撃してきたもの皆全て滅ぼす、みたいなスタイルにしないとね」
「うーん…それは無理!」
「でも実際それくらいはやらないとメンドイよ?ブロックすれば解決ってわけじゃないし、敵を作らないってのはほぼ不可能だから必ずどこかで代理人による訴訟なんかも検討に入れないとだし、こうやって裏で働いてる分には何の心配もしなくていい事をやらないとダメになるのよ?」
「ゲームをだらだら配信してるだけで訴訟まで行きますかねー?」
「割と行く、女の子ってだけで攻撃してくる人もいれば楽に稼いでるのが許せないって感じでからんでくるのも居る、なんなら同性からの攻撃の方が多いくらいじゃない?1号に喧嘩を売ってくるのって8割くらいが女性よ?媚を売っててむかつくとか、私はこんなに苦労してるのに許せないとかそういう逆恨みで。
2号も2号で同性からのやっかみがすごいよー?メインはタコ君とベタ君であまり映らないけど、2号事態もかなり人気があるし、1号のチャンネルにもちょこちょこ出てるし、それで同性からブスだのアバズレだの尻軽だの色ボケだのとかなり口汚い攻撃をされてるくらいだし」
「そこまで酷い?」
「想像しているより遥かに酷いよ?いま言ったのはまだかなりましなやつ、そういうのもあるから稼げる稼げない以前にあまりお勧めは出来ないかなぁ?本人の顔出し、バーチャルアイドル、声だけ、そのどれを選んでも攻撃は飛んでくるよー?女性と認識された時点でもうアウト」
「それは…いろいろと面倒ですねー…」
「なんだかんだでカレー小屋が人に接する事もなくトラブルもなく、だらだらする事は出来ないけど気楽に働けるってやつだね、楽な仕事はないというけど間違いなく比較的楽な仕事には入るね、同じことの繰り返しで変化はほぼないからそこはちょっと辛いかもだけど、税金の計算は要らない、トラブルがあっても焼肉屋の事務所で全部処理、苦情もこっちまで入ってこない、責任も大して取らなくていい、それを考えると楽よね」
「んー…確かに、こっちまで苦情が来た事は無いですし、税金も計算した事が無いですね」
「でしょー?やるならまあ止めはしないけど、機材やらなんやらだけで3桁円かかるからそこも覚悟してね?」
「たっけぇ!20万くらいのパソコンを買えばどうにかなるのかと思ってた!」
「2号みたいにただ映像を流すだけなら安いのでもいいんだけど、ゲームで遊ぶとなれば結構なスペックが求められるし、できれば編集用の物も必要で、アイドルの皮をかぶるにしてもそれ用のキャプチャーとか必要だし、その皮のデザイン料とかもあるし、最低100万からは用意しないとダメよ?
1号の場合パソコンだけで数十万、その他配信するための機材も数十万、ゲーム機本体にゲーム多数にでなんだかんだで数百万は出費してるね」
「あー…そうかぁ…」
「ゲーム機とかゲームはうちにほぼ全て揃ってるからそっちはお金がかからないけど、それ用のパソコンはないからお金を出して買わないとダメだね」
「むむぅ…まあそれはそれとしてちゃんぽんおかわりー、軟骨は3つで」
「はいはい、まあ、顔出し無しで録画した物を投稿するだけならパソコン1台で済むんだけどね、無編集か編集有りかで変わってくるけど、稼ぐのが目的なら後者、そうじゃないなら前者って感じかな?稼ぐなら結局やる事は増える」
「んー…ゲームで遊んで稼ぐのも大変って事ですね」
「大変なのよー?」
「ふひー…いっぱい食べた、出汁で茹でた麺って結構美味しいですね」
「冷凍とか安いスープ付きのパックラーメンとか、アルミ鍋に入ってるタイプのやつだと一緒に麺を茹でるから麺自体にも味がちょっと入るんだけど、こういうちゃんとしたやつでやってもしっかり美味しいのよね、問題は先に軽く茹でて打ち粉なんかを落とさないとどろどろになるってだけで」
「あの手のは茹で麺だったりでコシとかそういうのが無いんですよねー…冷凍はそれっぽい感じはありますけどお店の物とは違いますし」
「それっぽいってだけだしね、どこそこのお店が監修ーとは言っててもいろいろ調整してるし、スープはもう味が付いてるからこれみたいに出汁だけを吸った麺に出来ないのよねー」
「小麦を味わえー!ってやつだと出来ない事ではある…のかなぁこれ?」
「そうだね、小麦の香りとかは全部出しで上書きされてほとんど残らないし、麺自体の味は残るけど香りは消えるね、そして出汁を吸ってダイレクトにって感じになる分豚骨なんかの臭いをちゃんと消してないと大変な事になる」
「臭いを消してない豚骨スープとか飲めたもんじゃないですね、美味しいより先に臭いが来て悶絶しますよ」
「煮詰めるから臭いも濃縮されてねー、だから出汁を取る時は臭い消しの食材も大量に使う事になるのよねー、ついでに上書きする食材も」
「まあ、カレーの匂いが充満してて出汁の匂いなんてほぼ分かんないですけどね、口の中に入れてようやくわかる程度ですし」
「場所が場所だしね、それじゃ後は掃除と片づけをしたら今日はもうお仕舞で」
「はーい、それと余った軟骨はおやつに貰って帰りまーす」
「どうぞどうぞ」
意外と楽
楽な仕事は無い…とはいうが比較的楽な物は確実に存在する、まっとうに働いている限りは比較的であって楽ではない
引き籠り組の場合は税金の計算は必要なく、クレーム等も全て弾かれ、人間関係も気にしなくていいので比較的楽な方に入る




