96話 ローランの暴走とガルバ=エル
ローランの自我は消滅しつつあった。
ガルバ=エルの語り掛けは、確実にローランの精神を汚染し、深紅に染まった憤怒で埋め尽くしたのだ。
「ああ、主よ。愚かな人間が、この醜い肉体を手放す時、我々は永遠を手にすることができるのですね?」
「憎むべきは、ジューダス。主の代理人を語り、冥府の乗っ取りを企てる傲慢なる重罪人め!」
「おお、大天使ガルバ=エルよ。この卑小なるただの預言者である私にできることはないか?」
「そうか、お前が私を使えばいいのか。構わない。この穢れた肉体でよいのなら、好きに使えばいい!」
「さあ、一つになろう!!」
ローランは、カルアーンの教徒たちを贄に、「世界のヘソ」を熾した。
「ひひひ、ははは、あははははー!! これが地獄か!!! 大天使ガルバ=エル!!! 俺は、俺は、肉体を捨てるぞ!!! あとは頼む。」
夥しい量の血だまりの中心に、底の見えない穴が開いた。
ラグナロクの調停人である大天使ガルバ=エル。
彼女の大きな力のひとつが、これである。
マイ・テンへと通ずる「穴」を開けること。
この「穴」はやがて、門の安定を保つためのシステムを、全面的に更新するバッチプログラムを吐き出すのだ。
この「世界のアップデート」こそが、大天使ガルバ=エルの任務、ラグナロクの勃興である。
ラグナロクののち、門は開かれ、新世界へと進化することになる。
その時、前域はその役目を終え、マイ・テンの胎内へと還ることになるだろう。
ユピテルとクロノスは、ウラノスを産み出し、ウラノスは肉体(器)そのものから発せられる精神を愛した。
この時、マイ・テンの残滓であるエートスは、細分化し、変質し、そして硬化することで聖魔神を発生させることとなったのだ。
終末の天使ともいわれる大天使ガルバ=エルは、マイ・テンに発生したエラーを修正し、根本的なフレームワークまでも書き換えるためのバッチシステムのトリガーなのである。
そしてマイ・テンにおけるアップデートはただ一度のみ、それがどのようなものであれ、この世界は一変する。
「エラーの源泉たる7つの心・・・・マイ・テンのどこにも、そんな片鱗すらないのに・・・・」
ガルバ=エルは、無間空間へと落ちていくローランの肉体に取り憑きながら、来たるべきアップデートに向け独り言ちた。




