94話 「世界のヘソ」
カルミラ曰く、ローランはガルバ=エルの導きによって「世界のヘソ」を熾し、受肉を成すためにマイ・テンに潜ったという。
その足跡を辿るのにやや手間取った、とのこと。
どうやら辺りのアンデッドは、次々とガルバ=エルの餌にされたとのことだ。
・・・なんか、アンデッドって便利に使われすぎじゃね?
アンテナ基地局がわりになったり、餌になったり、(地獄の)燃料になったりさ・・・
なーんか厄災だなんだ恐れられてるけど、不憫なもんだね。
まあいいけどさ。
てか、俺の悪い癖だ。
なんの話か、イマイチ、いやほぼ・・・・まあ全く分かっていないのだ。
とにかく、セイ兄さんのお使いは達成目前まできたみたいだし、部下どもの願いも叶えられそうってことか?
いいだろういいだろう。腹くくってやんよ(ローラン君が行けたのなら、俺もダイジョブだろ)。
・・・・・・・・。
ところでまあ、辺り一面砂漠である。
その風景のど真ん中に真っ黒な穴ボコがぱっくりと口を開けている・・・・
これが、「世界のヘソ」か・・・・やっぱり怖いな・・・・
カルミラさんの大事なお仕事なので文句も言えないが、あの乱暴者の軍団(モアブ? ヤボク?だっけ?)を放置できないとのことで、(生死関係なく全部) この穴ボコにぶち込んだらしい・・・・1000人くらいいたぞ? ラクダも?
一応、(なにかの)確認ということらしいが・・・(なんの?)
カルミラ、こえーよー。
よっぽど怒ったのかな?
その矛先が、俺っていうのが、またなんともな・・・
でもま、ゆうてもそれほど馬鹿でかい穴ってわけじゃあない。
直径10mってところか?
周りがやや丘っぽくなっているから、あまり気がつかないかもね。
結構、地味だ・・・
これに気がつかず落ちたら最悪だよね。
ザザザー、ザザザーっと砂が穴に落ちていく・・・
どの辺が穴の縁なのか、どのくらいの穴の深さなのか、まったく分からん(これ・・・落ちていいの? てか、下におっさんとかラクダとかの死骸が溜まってんじゃねーの?)。
「深淵をのぞく時、深淵もまたお前をのぞいているのだ」
とかなんとかいう、怖い文句があるが、ちょっと覗きたい気持ちは確かになるね。
あ、あれだ。
台風とか来た時に川の様子を見にいくおじいちゃん。
いつも必ず何人かはいるよね。
俺もさ、正直こんなものに飛び込みたくない。
でもね、これがどうであれ、どんな感じなのかちょっとは見たいよな。
とりあえず、石ころを一つ穴を投げ込んでみた。ちょっと距離があるが、俺様の右腕を唸らせてヒョーんと投げた。
・・・・・ふむ(わからん)。
もうちょい近付かんと、何も聞こえないな。俺は、にじり寄ってもう一個、石を投げ込んだ。
・・・・・うーん・・・
あ、そうか。下の方が砂だまりになっているなら、音も聞こえないか。考えたくないが、死骸の山でもな。
じゃあ、松明みたいなもんを投げ込んでみるか。
俺は、シモンに指示をして松明を準備させた。
・・・・・・。
なんか、ちょっとシモンがポカンとしてるな。
石とか投げちゃダメなの?
別にいいよな?
カルミラは、なんか色々投げ込んでるみたいだしな?
お、なんだなんだ、随分よさげな松明じゃないのよ。
これなら、多少深くても火は消えなそうだ。
よしよし、これを投げ込んで中をのぞいてやるぜ。
深淵よ、お前の恥ずかしい穴をじっくりのぞいてやるぜ、ひひひ。
俺は、松明を掲げて穴ボコの縁の方に歩み寄った。
ん?
あれあれ??
ちょっとすり鉢状になっている気がするな?
あ!、っと思ったらザブーンっと、流砂が起こり、俺たちは深淵に飲み込まれたのだ。
くそ・・・・色々文句言って、落ちるのやめようと思ったのが、率先して穴に突っ込む形になっちまったぜ。
こうして俺たち(俺、カルミラ、シモン、はぐりん)は、「世界のヘソ」からマイ・テンに潜入することになったのだ。
ま、先客もいるみたいだし、なんとかなるだろ。
あれ?
俺、この感覚、前にもなんかあった気がするな・・・・とにかく砂とかが目に入らないようにギュッとしておこう。
〜シモン〜
カルミラ様が突き止めた「世界のヘソ」・・・・
あのガルバ=エルが関わっているらしい。
誰の導きであったとしても、その先はマイ・テンなのだ。
最古の悪魔にして冥界最強の君主ルシ=ファル様・・・あのお方であっても、中層を覗いたまでなのだ。
上層は我々の故郷、冥界である。
中層は、マイ・テンと冥界を区分けするマージナル・ライン・・・
その世界には、古代神の片鱗が見え隠れするという・・・己という存在そのものを揺るがす、ねじくれた矛盾が渦巻く世界だというのだ。
その証拠が、ルシ=ファル様の現在のお姿である。
(まだイケイケのころのルシ=ファル様は)煉獄の陥落を企て、冥界の最下層のさらに下を目指した。
予言によれば、マイ・テンにはこの世界の秩序を塗り替える力が眠っているという・・・
あのお姿・・・地に伏せたまま、ピクリともお顔を上げることのない、その状況を鑑みれば明らかなこと・・・・
おぞましいまでのご経験を、そこでされたに違いない。
その日以来、ルシ=ファル様は最下層のちょっと下のフロアで、地に伏せられ続けている。
いやしかしだ、そのような状況でありながらも、悪魔界の君主として、今も尚、君臨し続けているのだ。恐ろしいまでのお力とご人徳をお持ちであることが容易に理解されるというものだ(残念ながら、ご尊顔を拝見したことはないが・・・)。
「シモン・・・」
それにしても、このような恐ろしい世界に足を踏み入れる・・・これは、やはり主様でなければできぬこと・・・
「シモン・・・・」
しかし、肉体を持ったまま・・・本当に、可能なのだろうか・・・・そこで問われる力とは・・・・
「なあ! シモン!!」
え?
「あ、は! 主様。」
「ああ。ねえ、松明作って・・・」
「・・・・かしこまりました。」
「うん・・・・」
先ほどから、この深淵に石を投げ入れる作業をされていたが・・・いよいよ終えられたようだ・・・
私は、できるだけしっかりとした松明を組み上げ、点灯させたものを主様に差し出した。
ゴクリ・・・・
この先は、地獄より深い、あのルシ=ファル様でさえ、ああしてしまう完全なる闇なのだ・・・・
私は、主様のご決意を確認するべく、そのお顔を見遣った・・・・
!! ま、まさか・・・
え、笑みすら湛えるのか・・・
主様は、不敵な笑みを湛え、まっすぐと深淵に向かった。
何の不安もないと言わんばかりに、いや! 楽しみだとすら言わんばかりの表情だ。
何やかんやと深淵への潜入を先送りにされていたように感じたが、どうやら違った。
時を待たれていただけだったのだ。そして、その時は遂に来たようだ。
私も、今更だがこの方に全てを預けよう。
そしてもう一度、改めて前に進む覚悟を決めなければならない。
ふ。かつての主人、ルシ=ファル様を思い出すなど、感傷的にすぎるな。いかんいかん・・・
まあ、主様は気にもされまいがな。
主様が、深淵の縁に立ち止まった。
それを合図にするかのように、深淵の周囲が崩れ、流砂となって我々を飲み込んだ。
そうだ、いよいよ始まるのだ。
世界のリセットが。




