93話 怒るはぐりん
〜ヨシュア〜
俺は最後までグズったが、結局マイ・テンとかいう恐ろしげなダンジョンに潜ることになっちまった。
よくよく聞くと、カルミラ(ベリ・エル時代)の元同僚を救出するためだそうだ(基本的に俺は聞き流してきた)。
其奴らはどうやらバ・アルとかいう、4大悪魔王の直属将軍なんだとさ。
めっちゃ強いやん。救助いらんやん?
と、やだなぁーという雰囲気は出しまくったが、マイ・テンというところはそんなツワモノですら飲み込むほどの怖いダンジョンなんだと。自力での脱出は絶望的なんだと!
でもさ、というか、てか俺ごときが行ってなんとかなるの?
と、まあなるよな?
その辺の正論は一切受け入れられず(まあ発言すらできないわけだけれど・・)、「世界のヘソ」とか呼ばれる穴ボコに向かったわけだ。
準備だなんだで、じ〜〜っくりと時間を費やすつもり(「手遅れ」になることを祈りつつ)だったが、カルミラが焦るもんだから、あっという間にこんなところに来てしまった。
まあ、そもそもローランを探して、彼に取り憑いているガルバ=エルを手篭めるというミッションのため、砂漠地帯を目指していたから、この「世界のヘソ」があるとされる砂漠のど真ん中にはどうせ来る予定だったそうだ(カルミラ談)。
もうこうなると、愚図るにも限界があるぜ。
でもなぁ〜
ちょっと(というか、かなり)ワクワク感が否めないガルバ=エル手篭め計画と、絶望的な穴ぼこに落ちる計画・・・比較になんね〜ぜ。
カルミラとシモンがテキパキとテントのようなものを張りながら、「世界のヘソ」探索拠点を設営した。
探索拠点は、オアシス?のようなちょっとした池と植生があるところだ。
どうやら、カルミラとシモンが手分けをして、「世界のヘソ」を探索するらしい。俺とはぐりんは(当然)留守番だ。
ヤシの木の近くは、日陰になってるし、池の水は冷たくて気持ちがいい。
気温は確かに高いが、空気が乾いているので、日陰だとかなり涼しいのだ。
あ〜あ、暇なのはいいけど、この後のことを考えるとやだなぁ〜〜、などとボヤキながらはぐりんとその辺をぶらぶら散歩したり、池に足をつけたりしていた。
2日ほど経ったか?
ぼーっとリクライニングチェアに座り、池の水を眺めていたらラクダの嗎が聞こえた。
結構な音量である。
うむ、やばそうだな。
俺たちの拠点が見つかったみたいだ。
この一団が誰なのか知らんが、できれば見つかりたくなかった。
てか、誰だよ。こんなところに来るやついるの?
「おい! そこのもの!! 貴様は何者だ!?」
はぁ〜〜あ。
やっぱりな。
はっきり言って、こっちのセリフだよ。
今まで、こうゆうのはカイロンが全部処理してくれてた。
俺は、後ろの方で小さくなっていればそれで全てが済んでいた。
でも、今は俺一人だ。
こんな砂漠のど真ん中だから、隠れる場所もない。
げっ。
しかも、こいつら剣みたいの抜いてるぞ。数も多い。どんだけいるんだ?
てか、この障害者たる俺様に向かって、刃物抜くか?
もちろん俺は完全無抵抗で、あっさりと縛り上げられてしまった。
偉そうなジジイが、俺が座ってたリクライニングチェアに汚い服装のままどかっと座り、芋虫のように縛られ、転がされた俺の頭を踏みつけた。
痛い。
それに苦しい。
砂が口とか目に、そして鼻に入る。
「おい! 貴様!! こんなところで何をしている?」
・・・・・
2つの理由から答えたくない。
1つ目は、俺もよくわからんからだ。「世界のヘソ」とやらはなんなのか? 結構有名なのものなら、あのカルミラが探索するほどでもないはずだ。ということは、世界の謎の一つなのだろう。そんなものを説明できるわけがない、この俺がな!
2つ目が、砂だ。
静かに呼吸してても、砂が入ってくる。喋るなんてとんでもない。
目も開けたくない。
俺は、ぎゅっと目と口を閉じて、死んだふりを決め込んだ。
「ヤボク!! こいつの口を割らせろ!! ローランの居場所を知っているもしれん! この辺りにいることはわかっているのだ!!!」
うるせー。
飛沫を飛ばすなよ、きたねーなー・・・
「モアブ様。このものは、左腕を欠損しております。もう一本、いきますか?」
へ?
大根じゃあるまいし
てか、まじかよ。
やべーな
カルミラが戻るのは夕方以降だろう。アイツ働き者だもんなぁ〜。
シモンは、もうちょっと早く戻って夕飯の準備してくれるけど、まだ昼過ぎだ。
しかも、シモンはあまりケンカ強くないみたいだしなぁ〜
ひょっとすると、この大軍勢をみて、気がついて戻ってきてくれるかもしれないけど、もう一本はいかれちゃうかも・・・とほほ・・・冥府に行くまでもなかったか・・・
「ぐふふ、そうじゃな〜〜 ふん! 余興がてらこやつの右腕をもぎ取ってみせろ!」
もぎ取る?
大根じゃなくて、みかんみたいな位置付けなのね。
ほら、大根だと「引っこ抜く」じゃない? どうでもいいが。
ヤボクと呼ばれる巨漢が俺に近づいてきた。
来んじゃねー、やめてぇ〜。
ペチャペチャっと、俺の近くで質感のあるあの音が聞こえた。
ん? あ! はぐりんか? お前がいたかぁ〜
でも、お前さん、あんまり出番はなさそうだぜ? だって、ちょっと便利なゴミ処理機だもんな。
いいよいいよ。あんまり見つかんなよ。隠れてな〜。
俺は、多分殺されることはないだろうと(それでもどうやら酷い目には合うみたいだが)、せめてはぐりんが見つからないように、隠れろ的な合図を目配せした。
正直、ものすごい痛いだろうけど、あのシモンがいるからな。いい感じで治療してくれるはずだ。と、信じているのだ。
ポコッ ポコポコ
ん?
はぐりんが、ポコポコしてる。
・・・・・・「ん? グッ!!」
「ぐ、ぐあ、・・・!! 目? ・・・グア!! 目が・・・!!」
「あ、あがぁ、・・・!! い、息が、く、るし・・・」
「あ、る、ろ、・・・!! ゲッー、ゴゴゴ、ゲロ〜ッ・・・」
モアブとかいうジジィと、ヤボクとかいう木偶の坊、そして、その取り巻きの様子がおかしい。
盛大にゲロを吐きだした。
あ、やめて、近くで吐かないで、顔にかかるから・・・
「ンゴォォォォォォオオオオオオオオオーーッ!」
どうした? 外がうるさい。
「て、敵襲!!!」
「ぎゃ、アッ!!!!」
「な、だ、・・・グふっ!!!!」
外も騒がしい。
人も、ラクダも叫んでいるようだ。
ペチャ
あ、生暖かいはぐりんが俺をぐるぐる巻きにしているロープを溶かしてくれた。
はぐりんって、生温いのね・・・ありがとね
ぺっぺっと、顔についた砂を払い、あたりを見回すと阿鼻叫喚、身を捩って絶命しかけているおっさん達が転がっていた。
どうやら、呂律がおかしく、ガタガタしている。・・・・・あ・・・・・モアブとかいうおっさん・・・うんこ漏らしている・・・・
態度がでかかったから、多分、偉いおっさんだったのだろう・・・それが、うんこを漏らして絶命するとは・・・(あ、まだ虫の息か・・・)
俺だって、うんこは漏らしたことは(大人になってから)ないぜ。
切ないな。
「ヨ、ヨシュア様!!! ご無事ですかッ!!!!」
鬼の形相のカルミラが飛び込んできた(血まみれ。当然返り血だろうね)。
ここまで切羽詰まった表情は初めて見た。
「主様!!」
あ、シモンも来たか。
よくわからんが、外にいたはずの大軍はカルミラとシモンに一掃されたのだろう。ずいぶん静かだしね。
ヤギちゃん達は大丈夫だろうか?
それだけが心配だ。
「カルミラ、シモン。大事ない。はぐりんが守ってくれたのだ(多分)」
「お、お見せください!! お体に障りが・・・・」
カルミラが俺を抱きかかえ、あちこちを点検しだした。
まあ、気がすむまで撫で回したらいいさ。
カルミラの性格からすれば、今回の一件は許されざることなのだろう。
ふふふ・・・あのカルミラでも、予想外のことがあるんだね。ちょっと可愛いぜ。
あと、おっpが当たって、ちょっと気持ちいいぜ。正直、俺もかなりちびりかけていたがな、ふ。
シモンの方は、はぐりんをマジマジと見ている。
多分、俺の表情を見て、シモンは俺に大事ないことを見抜いたのだろうね。
そんじょそこらの名医より、優れた医学的知識の持ち主なのだ、シモンは。
むしろ、はぐりんが俺を守ったという点に疑問があるようだ。
「こ、これは。 ・・・・水銀蒸気・・・・か?」
なんかブツブツ言ってる。
〜シモン〜
はぐりんが、主様を守った?
あたりに漂う違和感・・・
これは、水銀蒸気・・・・か?
こいつの正体は、水銀である・・・・そうか、水銀・・・・
沸点は、357℃と金属としては最も低い。これが体内に入れば、中枢神経に機能障害を与え、シビレ、震え、言語障害、歩行障害、視野狭窄を起こす。大量であれば、急性障害として消化器系、腎障害を引き起こすだろう、疼痛、嘔吐、下血が考えられる。
人体にとっては、猛毒だ。
しかし、なぜ、主様をはじめ、我々には影響しないのだ。
この瀕死の者どもを見ると、まだ水銀蒸気は漂っているようだが・・・・
ふむ・・・そうか、指向性か・・・・
気化した部分ですら、指向性を保つということは・・・・
「シモン? どした?」
〜ヨシュア〜
カルミラにお姫様抱っこされ、あちこちを点検され、おっpも堪能した。
はぐりんのなんかは、乱暴なおっさんどもには有効に機能したが、俺とかカルミラには影響ないらしい。
ところがシモンが、固まっちまった。
ひょっとすると、シモンには効いちまったのかもしれない。
「シモン? どした?」
俺はやや焦りつつ、声をかけると目を爛々とさせたシモンがこちらを向いた。
やばい、かなりキマってるみたいね。怖い。
「主様。このパラケ・ルシス、いやはぐりんは、自在に体温を上昇させ、気化、あ、水銀の沸点は、357℃と金属としては最も低く、エネルギー発生はおそらく主様がお与えになっている様々な物質を源にしていると思われます、しかし、物質の取り込みが消化なのか貯蔵なのか不明ですし、質量保存の法則に反する部分があますから未解明なところが多くありますが、とにかく水銀蒸気を発生させたのでしょう。水銀蒸気は、ご存知の通り人体にとっては猛毒です。神経系に作用しますし、濃度によってはご覧のようにあっという間に無力化できます、あ、これは消化器系への急性中毒症状ですな、ともかく上手く使えば慢性的に自然死に見せることも可能でしょう。驚くべきは、気化した部分に指向性を持たせているところです。主様や我々が無事なのもこの能力のおかげです。何しろ、水銀毒は、カルミラ様であっても脅威と言えましょうし・・・いやはやはぐりんが、主様のみならず、我々まで味方と認識し、正確に敵を見分け攻撃を仕掛けたことは驚愕的な事実ですぞ。も、もう一つ付け加えさせていただけるならば、気化後の指向性が可能となるということは、分離した状態でも連絡可能ということであり、これははぐりんの無限の増殖性を示唆しており・・・・・・・・」
そうか、シモンが水銀中毒にかかってしまったか。
呂律がおかしくなるそうだが、シモンもそうだね、深刻だ。
何言っているのか、半分も理解できないが、とにかくはぐりんのお手柄らしい。
まあ、元気みたいだから放っておこうか?
大事なのは、カルミラの報告である。
「ヨシュア様。「世界のヘソ」が見つかりました。」
だとさ。
投稿の中断、ご迷惑をおかけいたしました。
引き続き執筆を再開したいと思います。
皆様のご声援をお願い致します。




