88話 ほのぼのワークショップ、塩と醤油とソース、水銀の器
〜シモンとホムンクルス作り〜
「ホムンクルス?」
俺は、知らないふりをした。
実は知っている。あれだろ? 人造人間だろ?
「主様。ホムンクルスとは、亜生命体のことでございます。」
ふ。
ほぼ正解だよな?
で?
「恐れながら、このシモン=アザ・ゼル。主様を観察をさせていただきましたが・・・」
え?
やだ、みられてたの? あれも?
は、恥ずかしい・・・
「エートスの高さと質について、空前絶後と断言させていただきます。」
はあ・・・
エートスか、まだその正体がよくわかんねーんだよな〜・・・んで、それが空前絶後的に高いとか言われてもなぁ。
正直、ビミョウだぜ?
あ、別に高いとは言ってないか。まあどうでもいいがな。
「ホムンクルスに話を戻しますが、主様であれば完全無欠のものを作ることができるでしょうな。」
そこらへんの関係性がイマイチよく分からんが、とりあえず貶されている訳ではないようだ。
「なるほど・・・相分かった。では、どうするのだ?」
「はい、主様。水銀、硫黄、塩のうち、どれに致しますか?」
へ?
俺は、昔っからソース派ですが?
塩でさえ少数派だっつーのに、水銀? 硫黄?? うまいのそれ?
と、内心でボケつつも、多分目玉焼きのトッピングの話ではないことは薄々気がついてはいる。
でも、何のこと?
「ふむ、ならば水銀・・・だ・・・な」
ふん、確証は何もない。
ないが、初めて訪れたお店では、メニューの一番はじめにあるやつがオススメなのだ。
どっかで誰かがなんかで言っていた、気がする。
つまり、シモンが水銀をはじめに持ってきたんだから、当然、オススメは水銀、なのだろう。
逆に、塩、とか言って、なぜですか? なんて聞かれたら困る。
てゆうか、なぜ目玉焼きにソースなのか、という問いですら困る。
正直、醤油だろうと塩だろうとマヨネーズだろうとケチャップだろうとオイスターソースだろうと美味い。さらに言えば、味噌でも魚醤でもキムチでもグレービーソースでも・・・しつこい?
つまり正直なんでもいい。卵はどうあがいても美味しいのだ。
何が言いたいかというと、水銀だろうが、ケチャップだろうが好きにすればいい。
混ぜてもいいくらいだ。
体には悪そうだが。
「・・・主様。流石でございます。」
ほら、ね。
結局こうゆうことよ。
なに選んだっていいんだよ。
「一番難しい素材をお選びになるとは・・・確かに、水銀のホムンクルスは究極にして完全なる形ですな・・・(しかし理論上であって初めてならば塩あたりで堅実にゴニョゴニョ)」
ん?
あれ? ゴニョゴニョなんか聞こえるぞ?
ひょっとして、おすすめは三番目のメニューだった?
あー確かに、一番上のメニューは結構尖ったやつを載せる傾向もある、か・・・
「主様。すぐに準備いたしましょう。水銀ですとさほどの量はございませんが、水銀ですから、問題も少ないでしょう・・・ふふふ・・楽しみですな」
俺は、どうも悪魔と契約をしちまったらしいw。
てか、俺の連れは今のところ全員悪魔だけどな!
まあいいや、暇だし、なんか作るってワクワクすっぞ!
〜シモン=アザ・ゼル〜
主様の瞑想がひと段落ついたようだ。
このシモン=アザ・ゼル、幾多の大悪魔を見てきたが、ここまで強力なエートスは初めてみる。
エートスとは、「魂の言葉」ともいわれる我々悪魔にとっては最強にして唯一絶対の力であり、存在の全てだ。
大きなエートスはより多くの魂に、そして質の高いエートスは魂のより深いところまで届くのだ。
このエートスがあれば、純粋な魂ですら作り上げることができる(かもしれない)。
しかし、その所業は創造主の禁忌に触れることでもある。
万物の元であるユピテル、クロノス、ウラノスですら、魂を創り上げたことはない。
ただ、私は見たい。
モノを作るエートスであるアザ・ゼルが求めている。それがこの世界の逆鱗に触れるようなことであったとしても。
私は、できるだけ何気なく、ホムンクルス作りを提案してみたが、予想通り、何のことでもないように乗ってこられた。
はは。
無数の悪魔と錬金術師たちが、その生命と存在を賭けてもなお辿り着けない「禁断の科学」を、驚きもしないとはな。
我が主様は、いよいよ底が見えん。
それだけではない。
どうやら既にこの秘術については、ご存知のようだ。
その上で、比較的形になりやすい塩でなく、理論上でしかなし得ていない水銀を選ばれるとは・・・恐れ入る。
私のような小者は、失敗を恐れ塩を素材に選ぶしかないのだが・・・まあ、硫黄を選んで爆死した錬金術師がいたから、まだ水銀の方が安全ではあるのだが。
ふふふ
楽しみだ。
長きに亘り、人にモノを教えてきたが、このように人に下駄を預けることなど初めての経験である。
水銀のホムンクルス・・・
固体であり流体。
そして、賢者の石に魂が宿るとすればどのような知識がそこから溢れ出るというのだろうか。
神を自称するジューダスの真の天敵が誕生するのか?
私は、大瓶一本分の水銀を用意した。
1ℓで13.5kgの不思議な金属。
これに魂が宿るとすれば、天使とも悪魔とも違う、もちろん人間でもない新しい器が顕現することになる・・・
果たして本当に主様は、この禁忌を成功させるのだろうか?
この何気ない思いつきのような作業が、この世界を根本から覆すことになる・・・




