84話 動く皇帝、怪しい賢王、諦めない二酸化炭素
魔女狩り・・・
この騒乱は、帝国全土に瞬く間に広がった。
庶民による訴追の乱発に端を発し、貴族までがお互いの夫人や令嬢を魔女であると糾弾しあったのだ。
教皇ゲラシウスが示した裁判の方法は、聖火による浄化であった。
この論法は正しい。それが真の聖火であれば、だが。
もちろん地方の教会は疎か、大聖堂ですら真の聖火など保持していないのだ。
物理的な火による死者は10万人を超えようとしていた。
わずか数週間で、驚異的な死者数である。
女性は、街を歩くことはもちろん、その存在すらも隠蔽され、山奥や森の中、他国へと避難するようになった。
しかし、この発令から1か月を過ぎること、各地でレジスタンスの動きが起き始めた。
その大きな一角が、新教の生誕地ナザロを急先鋒とするプロテスターである。
彼らは、教会の教義、支配、そして徴税を始めとする様々な弾圧を真っ向から否定し、信教の真の自由を求めた。
当然、魔女狩りについても、魔女の存在は否定しないものの、聖火の取り扱いについて完全否定したのだ。
これに共鳴する人々が、各地に現れ聖者ヨシュアの説く新教をプロテスターとして実践するとして立ち上がったのだ。
彼らは、旧教の支配する街で迫害された女性やその家族を保護し、明確な敵意を持って旧教徒らを遮断した。
以前であれば、そのような街は教会の派遣軍、つまり勇者軍によって制圧されるのだが、今、勇者は行方知らずである。
まさに、破竹の勢いのごとく、新教プロテスターの勢力が広がっているのである。
もうひとつの動きが、"義団スピエルド"である。
覆面と大きなフードのついたローブで身を包む、謎の集団である。
彼らは、神出鬼没に魔女公開裁判を襲撃し、被告をさらうのだ。
立ち去り際に、スピエルド、と呼び合うため、この名がつけられた。
あまりにも人間離れしたスピードと破壊力をもった襲撃のため、その正体どころか、一体何人によるものなのかさえわからないといった状況である。
このように神聖帝国は、教皇ゲラシウスの発令した魔女狩りを契機に、教会に恭順を示す「正統派」と、教会に敵意を示す「プロテスター」に二分し、その小競り合いが各地で頻発することになった。
そして、そのような状況で、終に行動を起こしたのが神聖帝国皇帝である。
〜皇帝〜
「ヴェルナー・フォン・オルセルンよ・・・」
まだ、二十歳そこそこの青年に過ぎないが、この神聖帝国を統べる皇帝が重い口を開いた。
皇帝は、神聖帝国における権威の象徴である。
教皇ゲラシウスは、幼少期の家庭教師であり、彼にとって最大の理解者であった。
そして教皇ゲラシウスは、帝国の治安は教会の仕事であり、武力はそのための背景であることを再三に渡り皇帝に説いていた。
教皇ゲラシウスは、この生まれながら皇帝となった幼子を心底恐れた。
その美貌、聡明さ、狡猾さ、そして残忍なまでの純粋さに。
皇帝の先代は、東の国ザラム王国への遠征中、戦死し、当時懐妊中であった皇后は彼の出産と同時に死亡したのだ。
そのため幼名もつかないまま、生まれながらの皇帝へと就任したのである。
彼の信念は、ザラム王国の征服、いや滅亡の一点であり、その他については全てを教皇ゲラシウスに委任している。
そして、神聖帝国挙兵の条件はひとつ、教会による民の安寧が脅かされた時。
騎士団長ヴェルナー・フォン・オルセルンからの報告で、皇帝は、その時が来たことを悟ったのである。
教皇ゲラシウスは、新教の広がりと、教会権威の失墜に業を煮やし、魔女狩りという奇策に出たが、それは結局教会の分裂を決定的なものとし、神聖帝国を揺るがすトリガーになってしまったのだ。
〜賢王ティルム〜
へへへ〜
ゲラシウスのヤロぉなぁ
あいつ、何がしたかったんだぁ?
わけのわからねー、魔女狩りだあ?
まあ、これであの坊主は動くなぁ
魔人は鳴りを潜めやがったから後回しにするとしてぇだ?
調停人は、どうなってんだぁ??
あれがいなきゃ、始まんねーぞ?
ったく、新教なんてもん放っておいて、初めから東の勇者様にいかせりゃよかったな?
しっかし、エシェットが俺の真のねらいに気づいたら面倒だかんなぁ・・・
あいつは、ヨシュアに釘付けにしときてーぜ?
まあ、あの二人に比べりゃ、モアブもアモンも可愛いらしい部下なんだが、どーにも使えねーぜ?
調停人を確保するまで、モレ・クは出せねーから、騎士団どもをどっかに釘付けにしねーとなぁ・・・
「エシェットを呼べ。勅令を出す。」
ま、西のことはエシェットに丸投げるか、へへへ。
〜ヨシュア〜
人間には限界というものがある。
やっぱり二酸化炭素を目で見るというのは難しい。
なーんもしていないのに、疲れる、というのはやはりおかしい。
やめだやめだ。
俺は、仕事するぜ?
「サマ・エルよ。」
「はい。ご主人様。」
最近のサマ・エルはなんだか明るくなった。
垢抜けたともいうのか。
少し寂しいものだ。
しかし、お父さんは怒っているのだぞ?
「ソドムに取り憑くというのは、どうなった?」
宿題、ちゃんとやってんのか? って話よ!
怒るよ?
「はい。ソドムの精神汚染は成功していますわ。カルミラもゴモラのヴァンピール化を進め、二重スパイとして使えそうですし・・・はい! 万全です」
え?
何?
すげーちゃんと仕事してたの?
俺が、なんか空気読めてない感じ?
え?
「・・・・そうか・・・・期待しているぞ」
俺、勝手に喧嘩売って、知らぬ間に返り討ちにあったわけ?
惨めだよ、惨め。
ああいいよ!
俺、二酸化炭素見るよ!!
諦めないよ!
シモン!!
今日は、ワインだ!! 濃い赤な!!!




