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82話 魔女とマリーと勇者

〜ダヴィド〜

スピエルド、彼は指で地面にそう書いた。

彼の名前だろうか?


驚くべきは、アンデッドが自分の名前を理解し、それを他者に伝えたことだ。

混沌のエートスであるアンデッドが、個人としての存在を認識し、そのことを共有する・・・


私は、()、スピエルドは、教皇ゲラシウスの傀儡だと思っていた。

しかし、そうではなかった。


スピエルドは、個人なのだ。

個人として人格を持つ、アンデッド。


知性とは、ここまで頼もしいものなのか。


スピエルドの名前を認識する前の彼は、正直魔物という禍々しい存在以外の何者でもなかった。たとえ、明らかに他のそれとは違っていたとしても。


しかし、今は違う。

アンデッドという、人間を遥かに超越した能力に、人としての知性。彼が、私を導いてくれると思うと勇気が(みなぎ)ってくる。

私は、これでも“教会”最強の戦士という名声を(ほしいまま)にしてきたが、それでも所詮人間に過ぎない。


ゲラシウスがアンデッドを使役するというなら、東の国の王ティムルも当然できるだろう。

新教が、目覚ましい発展を遂げた背景にも、このような()()たちの暗躍があるのかもしれんな。

これからは、人間だけの力では足りない。

彼らを知り、彼らと手を組まねば・・・


私とスピエルドは、食料と寝床を確保するため、とある小さな街を訪れた。



私たちは、そこで地獄を見た。



****************

「一体これは、どういうことなのだ?」


私は、思わず口に出した。


山積みにされた焼死体が、鼻を突く。

まさに地獄のような光景だ。


何より異様なのは、()()()()()()()()()()()()()()()ように見えることだ。


私も、歴戦の勇者だ。

戦火を幾度も潜り抜けてきた。

人が犠牲になる光景も、嫌なことだが慣れている。


しかし、民間人がそのような状況の中で日常を送るなど、見たことも聞いたこともない。

異常だ。


「おお。 旅の人か。 サバトの町にようこそ。小さな町だが、信仰の厚い祝福された町ですよ。ごゆっくり」


通りすがりの壮年の男性がにこやかに声をかけてきた。

サバト、か。

聞いたことがないほどの小さな町だな。


しかし、この焼死体の山は一体・・・


ともかく、信仰心が厚いというのは、“教会”に対してだろう。

私にとっては都合が良いことだが、今はスピエルドがいる。

あまり詮索もできないだろう。


カーン カーン カーン


突然、教会の鐘が激しく鳴り響く。

・・・なんだ?


「お。また、裁判か。今度はだれだ?」


先ほどの男性が、私に語りかけるともなく、大きめの声で話す。


裁判?

教会が、民衆を交えた公開裁判をするというのはあまり聞いたことがないな。


私は、好奇心に負け、人だかりの出来つつある教会の広場へと足を向けた。


そこには木製の十字架とワラが敷き詰められ、司祭だろうか、奇妙にも覆面を被り、縄で縛られた女性の横で何かを叫んでいる。


「サバトの民よ! 善良なる、そして篤き信仰心をもった神の子らよ!!」


「おおおー!!」


覆面の司祭が呼びかけ、民衆がそれに呼応する。


なんだ、これは?

このようなシュプレヒコールは、教会の重んずる威厳と法とは真反対だ。


「またもや、我々を誑かす忌まわしい魔女を捕まえた!」


「おおおおーーー!!」


ま、魔女?

なんだと?

そ、そんなばかな。

いや、魔女が人間如きに捕まるというのか?


ど、どういうことだ?


私は混乱しながらも、動向を見守った。


「これより、皆の立ち合いのもと、魔女裁判を執り行う!!!」


「おおおおおおおーーー!!!」


まさに広場は熱狂に包まれている。

人々は、口角に泡を飛ばし、喉が割れんばかりに叫ぶ。


覆面の司祭は、縛られた女性の猿轡を外した。あれが、魔女、なのか?


「助けて〜!! 誤解よ! 私は何もしていないわ!! あなたーーー!!」


まだ、二十歳にもなっていないような年頃の娘に見えるが・・・

しかも、誰かに必死で呼びかけている。

どう見ても、ただの人間のようだが・・・


しかし、果たしてどうやって彼女が魔女であるか判断するのだろうか?


「この汚らわしい魔女は、既婚者でありながら私以外の男に色目を使い、混乱と憎しみをもたらしました!!」


傍にいた男、おそらく女性が呼びかけた男のようだ。

夫? なのか?


「嘘よ! そんなことしていないわ!! 浮気していたのはあなたじゃない!! なんでなの!! 誰か! 助けて!!!」


女性の声が聞こえるが、広場の群衆の声がそれをかき消そうとする。


「魔女だ! 嘘だ! 厄災だ!!」


ガーン ガーン ガーン!!

教会の鐘が不吉に鳴り響く。

それを合図に、人々はシュプレヒコールをやめた。


不気味なほど静まり返る広場で、女性の泣き叫ぶ声だけが鳴り響く。


覆面の司祭が静かに告げる。

「・・・では、神の名の下に判決をいただきましょう・・・」


神の名の下? 判決?

ま、まさか信託が下されるのか!?

あれは、教会の最奥の奇跡。

こんな些細なことでなされるはずが・・・・


私が混乱しながらも様子を見ていると、女性が数人の男に担ぎ上げられ、十字架に磔にされた。

そして、その足元に大量のワラが敷き詰められていった。


(なんじ)、潔白であるとするならば恐れることはない! これは魔だけを焼く聖火である。」


覆面の司祭は火のついた松明を掲げた。


聖火だと?

何を言っているのだ?

聖火が()()()()()()()()()()ではないか。


あれはただの火だ。


お、おい。

誰も、指摘しないのか?

あんなもので焼かれれば、人は誰だって燃えてしまうぞ?


「ぎゃっ! ぎゃーーー!!」


これは、まずい。

状況はわからんが、これは裁判でもなんでもない。

ただの死刑だ。


群衆は、まさに固唾を飲んで状況を見守っている。

覆面の司祭は、松明をワラへと引火させようとにじり寄る。


ワラの火力はかなり高い。

一度引火すればあっという間だろう。


とにかく、これは()()()()()()


救出するなら今しかない。

私は、傍にいるスピエルドを一度見やった。

彼も、状況を理解しているらしい。


私は、群衆をかき分けた。

これでも()()である。

()()()()は、3秒といったところだ。


1・2・3 ドン!

私は、松明をまさに引火させようとする司祭に体当たりをした。


しかし松明は手から離れ、ワラに引火してしまった。

まずい。燃え広がるのは一瞬だ。


群衆は、突然のことで固まっているが、火はどんどん燃え広がる。


ガン!

十字架が倒れた。

スピエルドだ。


流石アンデッド。

あそこまで頑丈に建てられた十字架を、ひと押しで倒してしまうとは。

しかも女性をすかさず受け止めている。うむ、頼りになる。


しかし、その素早い動きにより、スピエルドのフードがめくれてしまった。


「ま、魔物だ!!」

「なんということだ! あれはアンデッドだぞ! やはり、マリーは魔女だったんだ!!」


スピエルドをみた群衆が、口々に叫んだ。


予想はされたことだ。

しかし、致し方ないだろう。

私は、松明を手に取り、スピエルドを見やった。


マリーと呼ばれた女性は、気を失ってしまったようだ。

今は、そちらの方が都合が良い。


私は松明を振り回し、群衆を散らした。


「いくぞ!」

スピエルドは、マリーを抱えたまま、()()()()()()で広場を駆け抜けた。

ふ これではどちらが勇者か、わからんな。


「スピエルド、このまま町を脱出する! そのまま行け!!」

私は、先を行くスピエルドに声をかけた。


スピエルドは、さらに加速していった。

これで一安心だ。


私は、松明を投げ捨て、スピエルドを追った。

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