80話 馴染む肉体と知性ある屍
〜カルミラ〜
いけないわ。私ったら、またヨシュア様のお心を痛めるような真似をしてしまった。
これだけの血で繋がっているというのに、本当に駄目な子ね、私は。
でも、やっぱり流石、ヨシュア様よ。
あんなクズにまで利用価値を見出すなんて・・・
てっきり、魂でもぶち抜いて草むしりでもやらせるものと思っていたわ。
スピエルドには、すでに命じたから大丈夫でしょうけど、見逃してあげるんだから役に立たなかったらヤギの餌の、そのまた肥やしにでもしてやるわ。
ふふふ
あれ以降、調子がいいのよね。
ベリ・エルが完全に溶けて混じったこの感じ・・・
血との結合にムラがないの。
子供たちにも、どんなに離れていても話しかけれるし、あの子たちの考えも見えるわ。
なんてすごいのかしらヨシュア様は。
転生を無償で、完璧に行うだけもすごいのに、ここまで魂と肉体を馴染ませることができるなんて。
こんな所業は神にもできないわね。
・・・ジューダス・・・もう、敵でもなんでもないわ。
哀れなピエロね。
さて、私の完全なるヨシュア様の願いを実現化しなくちゃね。
ガルバ=エルね。
手籠るって仰っていたけど・・・・うーん・・・
え・・・ま、まさか・・・・大天使までも受肉・・・なの?
ふう もう、なんでもありね。流石です。
〜ダヴィド〜
こいつは、魔物か? いやアンデッドなのか?
しかし妙だぞ。
魔物だとしたら、その眼には知性なぞ宿るはずがない。
人間である私を前にして襲ってこないというのはおかしい。
では、アンデッドなのか?
命あるもの全てにとっての厄災であるアンデッドが、このように人間を見守るだと?
あれは、形のあるものをただ破壊するだけの人の形をした物体。
教皇ゲラシウスに言わせれば、肥大する欲望・・・だったか。
む いやしかし、強大なエートスを持って支配も可能・・・
「き、君は、誰なんだ? 私をどうするつもりなのだ?」
この人の形をした何者かの目には、明らかに知性が宿っている。
かなりの時間、意識を失っていた私の世話をしていた形跡すらあるのだ。
会話を試みる価値はあるだろう。
「・・・・」
返事はない。
しかし、私を見て何か思うところがあるようだ。
「私は、囚われているのか? ここはどこなのだ? 恥ずかしい話だが、記憶が曖昧で・・・」
それは、黙ったまま牢を後にした。
誰かを呼びに行ったのだろうか?
私に対して敵意のある人間がくれば、ただでは済まないだろう。
記憶を失った間に何があったのか、それは推測するしかないが、私に敵意をもつ者は少なくないだろう。
・・・逃げるか?
しかし、どうやって?
ガチャ
牢の扉が開いた。
年貢の納め時か?
入ってきたのは、すっぽりとローブを被った先ほどの何かだった。
彼(?)の手には、私の装備と荷物が持たれていた。
ん?
どうゆうことだ?
私が戸惑っていると、彼(?)は、私を拘束していた鎖の鍵を外し、装備と荷物を側に置いた。
そして、食料と水まで渡してきたのだ。
こ、この者は味方だったのか?
ま、まさか教皇の使い?
! そうか!!
教皇ほどのエートスであれば、アンデッドの使役も可能だったのか!?
そういうことか。
敵の手に落ちた私を目覚めさせ、開放するための使いが、君だったのか。
全てを理解した私は、ふらふらの体を起こし、手渡された水を口に含んだ。
恐らく、一週間は意識を失っていたようだ。
パンなど、喉を通らない。
果たしてこんな状態で、敵地の真っ只中から脱出できるだろうか?
私は、ふと彼の顔を見た。
皮と骨だけの顔、目は落ち込みくぼみだけに見える。
そうだ、彼はアンデッドなのだ。
深くフードをかぶっていれば、パッと見は気づかないだろうが、知性のある厄災。
彼に従えばなんとかなるかもしれない。
私は、時間をかけ装備を装着し、荷支度を終えた。
彼は、それを合図に静かに牢の扉を開けた。
もはや迷うまい。
私は彼に続いて、牢を後にした。




