75話 砂漠の民と褒めて欲しい飼い猫と悪夢
〜預言者ローラン〜
砂漠の民にとって、大天使ガルバ=エルの預言は命そのものだ。
砂漠という世界では、生きとし生けるもの、すべての生命にとってあり続けること自体が難しい。
いとも容易く命は奪われる。
そうであるが故に、我々は完全に平等である。
そのような土壌の中で、砂漠の民はその精神性を育んできた。
そして、大天使ガルバ=エルはそんな我々にひとつの道筋を示した。
ラグナロクである。
ラグナロクは、目前に迫っている。
人と創造主は、近い将来、対峙することになる。
そして、全てを差し出すことを求められるのだ。
主を形づける全ての偶像を禁ずる
主を語った全ての金品の授受を禁ずる
主の信徒は全て平等である。差別は禁ずる
主への祈りのみが救いの道である。怠惰を禁ずる
己の祈りを妨げるものへの報復はこれを許す
我ら砂漠の民には、特段高い技術や財力などはない。
肉体的な優位性も少ない。
しかし、灼熱の裸の大地に育まれた精神性は類い稀に高潔である。
そして、この教義だ。
ガルバ=エルから直接戴いた生きる原則であり、生の目的である。
我々は、静かに、かつ確実に勢力を拡大している。
〜ヨシュア〜
シモン=アザ・ゼルは、確かにかつてのシモンではない。
いや、いい意味でな。
あんなに怖い顔(でっかい山羊の頭)してたのに、実に細やかな(元)悪魔なのだ。
まずは、山羊の世話が丁寧で正確あり、かつ迅速だ。しかも楽しそう。
前のシモンも頑張っていた。不満など一切なかった。
しかし新シモンは、そのレベルではない。
山羊たちの顔つきが全然違うのだ、まぢで。
素人の俺でも、わかる。乳の出方がダンチである。
おかげで、カルミラの機嫌も調子も、凄くいい。
これは、我々の安全性を高める上で最も重要なことである。
そして、舌を巻くのはその知識量だ。
どうやらカジが得意らしい。
そう家事と鍛治だ。
料理は、助かる。
この世界に来てからというもの、石コロのようなパンに慣れてきたが、それでも元日本人だ。
やっぱり、うまいもんが好きだ。
そして、シモンの作る料理はうまい。
基本は山羊(肉、乳)ベースだが、焼きたてのパン、野菜スープ、なんと麺まで作るのだ。やりよる。
基本的に一日2回の食事だが、楽しみであり、悦びなのだ。
どんなメニューにするのか、きゃっきゃっとシモンと話すときが、俺にとって一番のワクワクタイムなのだ。
まだある。
できる男は、いろいろ重ねてくるね?
もう、カルミラも俺っちもシモンにメロメロなのに、あのサマ・エルですら、シモンに首ったけだ。
そう、鍛治関係だ。
シモンは、金属加工や武具・防具の製造に精通しており、暇を見つけて自分の装備をカスタマイズしている。
あんだけ細々と働いてるのに、本当によく働くよな。
それはいい。
武具? 防具?
俺には関係ない。
カルミラ? 全然関係ない。
サマ・エル? そもそも必要性がない。
じゃあなんで? とくるわない。
鍛治関係は、金属や鉱石の加工が根底にある。そうなると染料にも詳しいということになる。
どうゆうことかって? だからさ、オシャレにも詳しいのよ。
布を染めたり裁縫したりはお手のもん。それどころか、化粧の知識もあるのよ。
あの羊頭で、なんで化粧の知識があるのかしらんが、非常に女子力が高いのだ。
サマ・エルが、これにはまったね。
化粧品って、石とかから作るんだねー。知らんかったわー。まあ、興味ねーからなー
でもさ いやー、女?ってのは変わりますなー。
あの暗いイメージしかなかったサマ・エルさんが、もうデビューよデビュー。
カルミラのような真っ直ぐな美女というより、こう、なんつーか、エロいね。エロデビュー。
なんかいい匂いまでさせてるわけね。
ドーテーに対して、なんつー横暴だよ。
ともかく、俺たちはシモンの取り合いな訳。
まあ、俺とカルミラはほぼ食欲だけだけどもさ。サマ・エルは色欲? 誰に対しての?
まあいい
いや〜、素晴らしいな。
そんな感じで。とても満ち足りた感じで、カルアーンに関わる情報をあちこち探して回っていたのだ。
ボサッ
「ヨシュア様。ザラムの隠密を捉えました。どうやら、ヨシュア様を嗅ぎ回っていたようです」
飼い猫ってさ、たまになんかを狩って持ってくるよね。死にかけた小鳥とか。
そんなの見せられても、困るよね。
でもさ、褒めて欲しいんだよね、あれって。
「カルミラ・・・で、でかした・・・」
褒めますとも・・・
「カルミラよ・・・それは、まだ生きているのか?」
カルミラは、血と泥に塗れたそれをつまみ上げた。
「まだ、息は・・・あるみたいですわ・・・一応、お聞きになることがあればお急ぎになった方がよろしいかと・・・」
時間があまりないのね?
「主様。どうやら虫の息。まずは、治療を優先させますか? このままでは聞き出せることも聞き出せませんね」
シモン君が心配している。
そうだよね。
こうゆうのを虫の息って言うんだよね。
そういえば、シモンは俺のことを主様と呼ぶようになった。
どうやら、俺の名を呼べるのはカルミラだけと言うことになったらしい。
カルミラは「ヨシュア様」、サマ・エルは「ご主人様」、シモンは「主様」と言う感じだ。
なんか、上下関係があるのね。
「シモン。そなたの言う通りだ。治療してやって欲しい。 カルミラは、引き続き警戒してくれ」
「は!」
「ヨシュア様ぁ。もちろん全力で務めますわ」
お、恐ろしい。満面の笑顔のカルミラが恐ろしい。
やっぱり味方とはいえ、平然とあんな笑顔で人間を半殺しにできるカルミラが怖い・・・
でもなぁ〜 カルミラは、俺の、俺たちのために頑張ってくれてるんだから・・・ちゃんと向き合わないとな。
ただ、全然慣れないね、血とかの暴力の匂いにさ。
「ご主人様。」
サマ・エルだね。
「あれは、ザラム教団の四賢者のひとり、エシェットの部下です。」
ふーん・・・ だれ?
「エシェットは、ザラム教団における諜報部隊の責任者ですから・・・ どうやら、本気でご主人様を探りに来てます」
ほーん・・・ どして?
「尋問されるであれば、このサマ・エルにお任せいただけますか?」
・・・え、と・・・きみ、霊体なんだよね? ダイジョブなの?
「・・・サマ・エル。できるか?」
ま、面倒なことは押し付けたい。
「はい! ご主人様のエートスを少々お借りしますが、夢を使うのは得意です」
俺のエートスって、なんかチャリンコみたいな扱いだよな・・・ちゃんと鍵はかけてね・・・
なるほど。悪魔が夢に出てくるのね・・・悪夢だねw
なんかさ・・・俺っちのチーム、みんな凄いよな。
どうやらかなりの手練れスパイをあっさり捕まえて半殺し、適切に治療した上で、夢に現れて尋問・・・・
敵になりたくないわな
・・・そして、俺のすることはまたなくなった・・・。
どっかで、あの役立たずを懐かしく思う、俺っちがいるぜ。




