70話 サマ・エルの悩みとお花摘み
〜サマ・エル〜
・・・・一体なんなの? この人間のエートスは?
あのデメテルの力は、ウラノスの血を濃く引くもの・・・・
人はおろか、聖魔神のどの階級にあってもあがらう事は出来ない、はず・・・
もちろん乱用をすれば、ウラノスに重大な影響が出るから、滅多にお目にかかれるものでもないけれど・・・
デメテルは、この男はウラノスに刻まれたといった。
すなわち・・・・まさか・・・ね
しかし、片手で馬車を操りながら、私を擬似的にであれ、受肉状況にしてみせたわ・・・・
このサマ・エルを?
・・・でも、あのベリ・エルを受肉させているのも事実・・・・しかも、カルミラとの転生・・・
つまり、この男がその気になれば、ルシ=ファルやセイ・ゼブルでさえ前門にリスクなく顕現させることができるという事・・・・なの?
なぜ、こんな危険な男を、あの神が放っておくのかしら?
高慢な神のやりたがっていることを、この男はいとも容易くできるというのに・・・・
・・・でも、一体なぜ、そんなことができるのかしら?
話を聞けば、この男はモレ・クの王国に向かっているという・・・・ゲーノスを興すために・・・
そうね、あの魔神はこの男を好むでしょうね・・・・
そして、ラグナロクを画策する・・・
今のウラノスは完全に白紙、新世界の始まり・・・ふふふ、御伽噺ね・・・・
私は、もう一度この得体の知れない人間を見た。
真剣な眼差しで、馬車を操っている。
どうやら、御者の男を心配しているらしい。
私から見れば、完全に手遅れだ。魂が完全に破壊されている。
それもそうだろう。
あのデメテルの本気の威圧だ。カルミラでさえ、破壊されかけたのだ。
ほどなくして、この御者の肉体は解放されるでしょう。
人間がいう魔物というヤツだ。
人間というのは、なんとも可愛らしい。
肉体の素直な欲求を魔と名付け、恐れおののく。そのくせ、純粋な魂である我々を悪魔だと? ふふふ
いい名だ、悪魔。
肉体を持たぬ魔。
それでいい。
・・・・だが、この危険な男は違う。悪魔に肉体を与えてしまう。バ・アル様が渇望したような、純粋な魔を力に変えてしまう。
カルミラが保っているのが、恐ろしい何よりの証・・・・
私は、どうしたらいいの? どうしたいの?
この男に取り入って、受肉する?
この男をどうにか堕落させ、新たな魔の一柱を建てる?
御伽噺の主人公の従者となる??
・・・・こんなにわからないの、初めてよ。
〜カルミラ〜
ヨシュア様は、御者シモンをご心配なされている。
でも、厳しい。
シモンの魂は砕かれ、ヨシュア様のエートスによって人を保っているだけ。
シモンとして生気を取り戻す事はない。
でも、そのことをお知りになったら、ヨシュア様はきっとすごく悲しまれるわ。
山中にポツンと建つ、樵の民家に立ち寄り、部屋をひとつ借り、シモンを寝かせた。
ヨシュア様の名声は、こんな辺鄙なところまでも轟いている。
ヨシュア様を見るなり、拝むように迎えてくれた。
サマ・エルの気配もあるからかしら?
「カルミラ・・・・ シモンは目を覚ますだろうか?」
ヨシュア様がご心配されてる。
ヨシュア様が、見放した瞬間に魔物として暴れ出す事は分かっている。
あるいは、私の従者として回収することもできる。
でも、あれはヨシュア様にお見せできないわ。間違いなく、ヨシュア様の好みではないもの。
そうなるとやはり転生しかないわね・・・
問題は、バイパスをどうするかだけど・・・
今ここに、サマ・エルがいるけど、これはダメ。デメテルが紐づいちゃってるから、使えない。
んーー、なんかいいの、いないかしら?
「ヨシュア様。言いにくいのですが、シモンの昏睡はこのままでは治せません。精神が壊れてしまっているので・・・・」
「・・・・・・」
ヨシュア様が、困惑されている・・・・ああ、申し訳ないわ・・・・
「よ、ヨシュア様。 ヨシュア様にとって、望む形かはわかりませんが、私のような形であれば、起こすことはできますわ。しかも、肉体は無傷ですから、軽いバイパスでも十分だと思います。」
「軽い? バイパス?」
そうね。
言い方が悪いわ。分かりにくいわね。
「格下の悪魔でも十分使えますわ」
「・・・・・ふむ・・・・・て、ことはあいつか・・・・・」
まあ、流石ヨシュア様。
もう、心当たりを見つけられたのね。
「・・・では、それを呼び出して、焔を起こせばいいのだな?」
か、簡単におっしゃられるわね・・・・
あの、秘儀中の秘儀を、その辺でキャンプファイヤーやるみたいに・・・流石です。
「あ、あの。儀式をされる際は、お気をつけください。私はともかく、サマ・エルは浄化されます。」
ギョッとした表情で、サマ・エルが私を見た。
当たり前でしょ?
ヨシュア様のあの転生の儀式よ? あなたなんか塵になるわよ(私だって塵になったんだから)。
「そ、そうか・・・。そのバイパスとやらは、サマ・エルではダメなのか?」
サマ・エルが泣きそうな顔をしてるわ。
そうよね。
怖いわよね。
あんなキョトンとした顔で、私たちの浄化の話するんだもん。でも、そこがゾクゾクするのよぉ
「こ、こほん。 ヨシュア様。 サマ・エルはダメです。 サマ・エルは、デメテルとの契約の最中。使えないばかりか、灰燼に帰します。純粋な消滅です。悪魔界が少し軽くなります。」
「お、おう。 すまんすまん。 知らなかった。 そうかそうか、ダメか。 じゃあ、あいつもダメかな? いや、試すだけ試すか? これくらいしか使えないしな・・・・うん、ダメでもともとだしな・・・ ええっと、エウリ・デウスに居場所を聞き出してぇ・・・・」
ひ… ヒー
あんな温和なヨシュア様が、な、なんて恐ろしい独り言を・・・・
ああ〜ん、ゾクゾクする。
ヨシュア様の左肘が乳房に押し付けられた時に感じた、あの心臓を抉られるような秘められた暴力性。
ああすごい、すごいいいわ。
うふふふ、サマ・エル、あなたドン引きしてるの? まだ、子供ね。
これがいいんじゃない。この無垢で純粋で圧倒的な暴力性・・・・す、すごくいい・・・
ああ、アス・デウスも早く来ればいいのに。最高よ、ヨシュア様は。
ぐー
あ、お腹減ったわ。
「ヨシュア様。 ご思案のところ失礼します。 ちょっとお花摘みに行ってまいりますわ」
え、なに?
なんで、サマ・エルが付いてくんのよ。
あんたお腹空かないでしょ?
てか、何、いきなり任務放り出してんのよ。
あげないわよ。
あーあ。確かにシモンがいないと乳搾りが面倒ね。




